第4章 科学技術イノベーションの基盤的な力の強化

第1節 人材力の強化

 科学技術イノベーションを担う「人」について、世界中で高度人材の獲得競争が激化する一方、我が国では若年人口の減少が進んでいる。こうした中、科学技術イノベーション人材の質の向上及び能力の発揮が一層重要になってきている。このため、様々な取組を通じ、我が国において、多様で優秀な人材を持続的に育成・確保し、科学技術イノベーション活動に携わる人材が知的プロフェッショナルとして学界や産業界等の多様な場で活躍できる社会を創り出すこととしている。

1 知的プロフェッショナルとしての人材の育成・確保と活躍促進

(1)若手研究者の育成・活躍促進

 科学技術イノベーションの重要な担い手は若手研究者であり、優れた若手研究者の育成・確保を図ることが必要である。そのためには、優秀な者が博士課程に進学することで、知的プロフェッショナルである博士人材となるとともに、若手研究者として、安定した雇用と流動性の両立を図りながら、自らの研究活動に専念し、成果を上げることができるよう、研究費獲得の機会の増大や環境整備を進めることが重要である。
 しかしながら、我が国では、近年、教員数が増加している中で若手大学本務教員の割合が減少するなど、若手研究者の置かれた厳しい状況が指摘されている(第2‐4‐1図)。

 第2‐4‐1図/大学における40歳未満本務教員比率

 このような状況の中、科学技術・学術審議会人材委員会と中央教育審議会大学分科会大学院部会は平成30年3月に合同部会を設置し、博士人材のキャリアパスや大学の人事システム改革を中心に今後の取組の方向性を検討し、同年7月に「我が国の研究力強化に向けた研究人材の育成・確保に関する論点整理」を取りまとめた。

ア 若手研究者の安定かつ自立した研究の実現

 文部科学省は、新たな研究領域に挑戦するような優秀な若手研究者に対し、安定かつ自立して研究を推進できるような環境を実現するとともに、全国の産学官の研究機関とのマッチングを促進し新たなキャリアパスを提示する「卓越研究員事業」を平成28年度より実施している。平成30年度までに、本事業を通じて創出されたポストにおいて、少なくとも284名(平成31年1月30日現在)の若手研究者が安定かつ自立した研究環境を確保している。
 また、優秀な若手研究者が自らの研究に専念できる環境を整備し、安定的なポストに就けるようにするため、「テニュアトラック制」を導入する大学等を支援する「テニュアトラック普及・定着事業」を実施しており、平成30年度においては19機関を支援している。
 そのほか、平成25年12月に公布された「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を改正する法律」(平成25年法律第99号)により、研究者が契約期間中にまとまった研究業績等を上げ、適切な評価を受けやすくなり、安定的な職を得られることが期待されている。

イ キャリアパスの多様化

文部科学省では、若手研究者等の流動性を高めつつ安定的な雇用を確保することによって、キャリアアップを図るとともに、キャリアパスの多様化を進める仕組みを構築する大学等を支援する「科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業」を実施し、平成30年度においては3拠点を支援している。
 科学技術振興機構は、産学官で連携し、研究者や研究支援人材を対象とした求人・求職情報など、当該人材のキャリア開発に資する情報の提供及び活用支援を行うため、「研究人材のキャリア支援ポータルサイト(JREC‐IN Portal(※1))」を運営している。


  • https://jrecin.jst.go.jp
ウ 研究環境の整備

 科学研究費助成事業(科研費)においては、「科研費若手支援プラン」を策定し、研究者のキャリア形成に応じた支援を強化しつつ、オープンな場での切磋琢磨(せっさたくま)を促すための施策に取り組んでいる。平成30年度には「国際共同研究加速基金」に、若手研究者の参画を必須として国際共同研究を加速する「国際共同研究強化(B)」を創設し、平成30年4月から公募を開始した。平成31年度助成(平成30年9月公募)においては、若手研究者への支援を重点的に強化するため、博士の学位取得後8年未満の研究者を対象とする「若手研究」を抜本的に拡充するとともに、国際競争下で研究の高度化に欠かせない、より規模が大きい「基盤研究(B)」や研究の多様性と裾野の広がりを支える「基盤研究(C)」の充実を図っている。また、研究機関に採用されたばかりの研究者等を対象とする「研究活動スタート支援」を拡充し、新たに基金化した。

(2)科学技術イノベーションを担う多様な人材の育成・活躍促進

ア マネジメント人材等の育成・活躍促進に向けた取組

 研究者のみならず、多様な人材の育成・活躍促進が重要であり、文部科学省では、研究者の研究活動活性化のための環境整備、大学等の研究開発マネジメント強化及び科学技術人材の研究職以外への多様なキャリアパスの確立を図る観点も含め、大学等における研究マネジメント人材(リサーチ・アドミニストレーター)の支援方策について調査研究等を実施している。平成30年度においては、大学等におけるリサーチ・アドミニストレーターの更なる充実を図るため、「リサーチ・アドミニストレータ―活動の強化に関する検討会」において、その知識・能力の向上と実務能力の可視化に資するものとして認定制度の導入に向けた論点整理が取りまとめられた(平成30年9月)。
 また、世界水準の優れた研究大学群を増強するため、定量的な指標(エビデンス)に基づき、大学等における研究マネジメント人材(リサーチ・アドミニストレーターを含む。)群の確実な配置や集中的な研究環境改革を支援・促進することを通じて、我が国全体の研究力強化を図っている。平成30年度は、平成25年度に採択した22機関(大学及び大学共同利用機関法人)を引き続き支援している。
 そのほか、我が国の優秀な人材層に、プログラム・マネージャー(PM)という新たなイノベーション創出人材モデルと資金配分機関等で活躍するキャリアパスを提示・構築するために、PMに必要な知識・スキル・経験を実践的に習得する「プログラム・マネージャーの育成・活躍促進プログラム」を実施している。

イ 技術者の養成及び能力開発

 科学技術イノベーションの推進に当たって、産業界とそれを支える技術者は中核的な役割を果たしている。技術の高度化・統合化に伴い、技術者に求められる資質能力はますます高度化・多様化していく中で、文部科学省や関係機関においては、このような変化に対応した優秀な技術者の養成及び能力開発等を図っている。
 文部科学省は、大学等における実践的な工学教育に向けた取組を推進しており、各大学では、例えば、実際の現場での体験授業やグループ作業での演習、発表やディベート、問題解決型学習などの教育内容や方法の改善に関する取組が進められている。また、高等専門学校では、中学校卒業後の早い年齢から、5年一貫の専門的・実践的な技術者教育を特徴としつつ、他分野との連携強化、地域産業を支える人材の育成、国際的な技術者として活躍する能力の向上等の取組を通じて、実践的・創造的技術者の育成を進めている。そのほか、科学技術に関する高等の専門的応用能力を持って計画や設計等の業務を行う者に対し、「技術士」の資格を付与する「技術士制度」を設けている。技術士試験は、理工系大学卒業程度の専門的学識等を確認する第一次試験(平成30年度合格者数6,302名)と技術士にふさわしい高等の専門的応用能力を確認する第二次試験(同2,355名)から成る。平成30年度第二次試験の部門別合格者は第2‐4‐2表のとおりである。

 第2‐4‐2表/技術士第二次試験の部門別合格者(平成30年度)

 科学技術振興機構は、技術者が科学技術の基礎知識を幅広く習得することを支援するために、科学技術の各分野及び共通領域に関するインターネット自習教材(※2)を提供している。


  • ※2 https://jrecin.jst.go.jp/

(3)大学院教育改革の推進

 文部科学省は、高度な専門的知識と倫理観を基礎に自ら考え行動し、新たな知及びそれに基づく価値を創造し、グローバルに活躍し未来を牽引(けんいん)する「知のプロフェッショナル」を育成するための大学院教育改革を推進している。平成30年度は、「第3次大学院教育振興施策要綱」(平成28年3月31日文部科学大臣決定)を踏まえた大学院教育の充実・強化を引き続き進めるとともに、中央教育審議会大学分科会においては、「2040年を見据えた大学院教育の体質改善~社会や学修者の需要に応える大学院教育の実現~(審議まとめ)」が取りまとめられた。
 特に、博士課程教育については、広く産学官にわたりグローバルに活躍するリーダーを養成するため、産学官の参画を得つつ、専門分野の枠を超えて博士課程前期・後期一貫した学位プログラムを構築・展開する大学院教育の抜本的改革を支援する「博士課程教育リーディングプログラム」を平成23年度から実施し、平成30年度までに62プログラムを支援している。
 平成30年度より、卓越した博士人材を育成するとともに、人材育成・交流及び新たな共同研究が持続的に展開される卓越した拠点を形成するため、各大学が自身の強みを核に、これまでの大学院改革の成果を生かし国内外の大学・研究機関・民間企業等と組織的な連携を行いつつ、世界最高水準の教育力・研究力を結集した5年一貫の博士課程教育プログラムを構築することを支援する「卓越大学院プログラム」を実施し、平成30年度に15プログラムを採択した。
 日本学生支援機構は、意欲と能力があるにもかかわらず、経済的な理由により進学等が困難な学生に対する奨学金事業を実施しており、大学院で無利子奨学金の貸与を受けた者のうち、在学中に特に優れた業績を上げた学生の奨学金について返還免除を行っている。なお、平成30年度入学者より、博士課程の大学院業績優秀者免除制度の拡充を行い、博士後期課程学生の経済的負担を軽減することによって、進学を促進することとしている。
 日本学術振興会は、我が国の学術研究の将来を担う優秀な博士課程(後期)の学生に対して研究奨励金を支給する「特別研究員(DC)事業」を実施している。
 日本学術会議は、文部科学省からの審議依頼に応じて、大学教育の分野別質保証のために、全ての学生が身に付けるべき基本的な素養等を主要な内容とする「教育課程編成上の参照基準」の策定を行っており、平成30年度までに32分野の参照基準を公表した。

(4)次代の科学技術イノベーションを担う人材の育成

 文部科学省は、理科教育における観察・実験や指導の充実に向けた指導体制を整えるための理科観察・実験アシスタントの配置の支援や、「理科教育振興法」(昭和28年法律第186号)に基づき、観察・実験に係る実験用機器をはじめとした理科、算数・数学教育に使用する設備の計画的な整備を進めている。
 また、先進的な理数系教育を実施する高等学校等を「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」に指定し、科学技術振興機構を通じ、生徒の科学的能力を培い、将来、国際的に活躍し得る科学技術人材等の育成を図っている。具体的には、SSH指定校は、大学や研究機関等と連携しながら課題研究の推進、理数系に重点を置いたカリキュラムの開発・実施等を行い、創造性豊かな人材の育成を図っている。平成30年度においては、全国204校のSSH指定校が特色ある取組を進めている。
 科学技術振興機構は、意欲・能力のある高校生を対象とした国際的な科学技術人材を育成するプログラムの開発・実施を行う大学を「グローバルサイエンスキャンパス(GSC)」において選定し、支援している。平成29年度からは、理数分野で特に意欲や突出した能力を有する小中学生を対象に、その能力の更なる伸長を図るため、大学等が特別な教育プログラムを提供する「ジュニアドクター育成塾」を開始した。
 また、全国の自然科学系分野を学ぶ学部学生等が自主研究を発表し、全国レベルで切磋琢磨(せっさたくま)し合うとともに、企業関係者等とも交流を図ることができる機会として、「第8回サイエンス・インカレ」(平成30年3月2日~3日)を東京都において開催し、計224組の応募の中から書類審査を通過した計100組が発表を行った(第2‐4‐3図)。
 さらに、数学、化学、生物学、物理、情報、地学、地理の国際科学オリンピックやインテル国際学生科学技術フェア(Intel ISEF(※3))等の国際科学技術コンテストの国内大会の開催や、国際大会への日本代表選手の派遣、国際大会の日本開催に対する支援等を行っている(第2‐4‐4図)。平成30年度は、全国の高校生等が、学校対抗・チーム制で理科・数学等における筆記・実技の総合力を競う場として、「第8回科学の甲子園」(平成31年3月15日~18日)が埼玉県において開催され、愛知県代表チームが優勝し(第2‐4‐5図)、中学生を対象に茨城県で開催された「第6回科学の甲子園ジュニア」(平成30年12月7日~9日)では愛知県代表チームが優勝した(第2‐4‐6図)。
 文部科学省、特許庁、日本弁理士会及び工業所有権情報・研修館は、国民の知的財産に対する理解と関心を深めるため、高等学校、高等専門学校及び大学等の生徒・学生を対象としたパテントコンテスト及びデザインパテントコンテストを開催している。コンテストに応募された発明・意匠のうち優れたものについて表彰を行うとともに、生徒・学生が行う実際の特許出願・意匠登録出願から権利取得までの過程を支援している。なお、コンテストに応募した生徒・学生が所属する学校のうち、本コンテストに際し積極的な取組を行い、生徒・学生の知的財産マインドの向上を図るとともに知的財産制度の理解を深める努力を行った学校に対しては、文部科学省から表彰を行っている。


  • ※3 Intel International Science and Engineering Fair

 第2‐4‐3図/第8回サイエンス・インカレ開会式

 第2‐4‐4図/平成30年度国際科学技術コンテスト出場選手
 第2‐4‐4図/平成30年度国際科学技術コンテスト出場選手
 第2‐4‐4図/平成30年度国際科学技術コンテスト出場選手

 第2‐4‐5図/第8回科学の甲子園

 第2‐4‐6図/第6回科学の甲子園ジュニア

2 人材の多様性確保と流動化の促進

(1)女性の活躍促進

 女性研究者の活躍を促進し、その能力を発揮させていくことは、我が国の経済社会の再生・活発化や男女共同参画社会の推進に寄与するものである。第5期科学技術基本計画(以下「第5期基本計画」という。)では、第4期科学技術基本計画が掲げた女性研究者の新規採用割合に関する目標値(自然科学系全体で30%、理学系20%、工学系15%、農学系30%、医学・歯学・薬学系合わせて30%)について、第5期基本計画期間中に速やかに達成することを目指すとしている(平成27年28.2%)。我が国では、女性研究者の登用や活躍支援を進めることにより、女性研究者の割合は年々増加傾向にあるものの、平成30年3月現在で16.2%であり、先進諸国と比較すると依然として低い水準にある(第2‐4‐7図)。

 第2‐4‐7図/各国における女性研究者の割合

 内閣府は、ウェブサイト「理工チャレンジ(リコチャレ)(※4)」において、理工系分野での女性の活躍を推進している大学や企業などの「リコチャレ応援団体」の取組やイベント、理工系分野で活躍する女性からのメッセージなどを情報提供している。また、女子生徒等の理工系分野への進路選択を支援するため、平成30年7月~8月にかけて、文部科学省・一般社団法人日本経済団体連合会との共催により、主に女子中高生等を対象とした、理工系の職場見学、仕事体験、施設見学など夏休み期間中に各大学・企業等で実施している多彩なイベントを取りまとめた「夏のリコチャレ2018~理工系のお仕事体感しよう!~」を開催した。
 さらに、女子生徒等の理工系進路選択を社会全体で応援する機運の醸成を目的として、多様なロールモデルとなる「STEM(※5) Girls Ambassadors(理工系女子応援大使)」の取組を開始した。
 文部科学省は、研究と出産・育児等のライフイベントとの両立や女性研究者の研究力向上を通じたリーダーの育成を一体的に推進するダイバーシティの実現に向けた大学等の取組を支援するため、「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ」を実施しており、平成30年度においては64機関を支援している。
 日本学術振興会は、出産・育児により研究を中断した研究者に対して、研究奨励金を支給し、研究復帰を支援する「特別研究員(RPD(※6))事業」を実施している。
 経済産業省は、理系女性の活躍促進のため、理系女性が持っているスキルと産業界が求めるスキルの可視化を行い、女性自身がどのようなスキルを身に付ければよいか把握できるような環境整備等を支援するための「理系女性活躍促進支援事業」を実施しており、平成29年9月に、学生・大学教員・企業人事担当者を対象とした「理系女性活躍促進シンポジウム」を開催するなどの普及広報を行っている。
 産業技術総合研究所は、全国20の大学や研究機関から成る組織(ダイバーシティ・サポート・オフィス)の運営に携わり、参加機関と連携してダイバーシティ推進に関する情報共有や意見交換を行っている。また、大学・企業との連携・協働で女性活躍推進法行動計画を実践し、より広いネットワークの下、相互に研究者等のワーク・ライフ・バランスの実現やキャリア形成を支援し、意識啓発を進めるなどダイバーシティ推進に努めている。
 女性分野が優先アジェンダの一つであった2016年(平成28年)5月のG7伊勢志摩サミットにおいては、G7首脳は「女性の理系キャリア促進のためのイニシアティブ(WINDS(※7))」の立ち上げに合意した。平成28年11月、外務省は3名のWINDS大使を任命し、WINDS大使は理系分野の女性の活躍を推進するための各種会議及びイベントに積極的に参加し、平成30年1月にもWINDS大使を1名再任命した。


  • ※4 http://www.gender.go.jp/c-challenge/
  • ※5 science, Technology, Engineering and Mathematics
  • ※6 研究活動を再開(Restart)する博士取得後の研究者の意味
  • ※7 Women’s Initiative in Developing STEM Career

(2)国際的な研究ネットワーク構築の強化

ア 国際研究ネットワークの充実

(ア)我が国の研究者の国際流動の現状
 平成30年度に公表した「国際研究交流の概況」によれば、我が国の大学や独立行政法人等の外国人研究者の短期受入れ者数は、平成21年度まで増加傾向であったところ、東日本大震災等の影響により平成23年度にかけて減少したが、その後は、回復傾向が見られる。また、中・長期受入れ者数は、平成12年度以降、おおむね1万2,000~1万5,000人の水準で推移している(第2‐4‐8図)。我が国における研究者の短期派遣者数は、調査開始以降、増加傾向が見られる。また、中・長期派遣者数は、平成20年度以降、おおむね4,000~5,000人の水準で推移している(第2‐4‐9図)。

 第2‐4‐8図/海外からの受入れ研究者数(短期/中・長期)の推移

 第2‐4‐9図/海外への派遣研究者数(短期/中・長期)の推移

(イ)研究者の国際交流を促進するための取組
 世界規模で進む頭脳循環の流れの中において、我が国の研究者及び研究グループが国際的研究・人材ネットワークの中心に位置付けられ、またそれを維持していくことができるように、取組を進めている。
 日本学術振興会は、国際舞台で活躍できる我が国の若手研究者の育成を図るため、若手研究者を海外に派遣する諸事業や諸外国の優秀な研究者を招聘(しょうへい)する事業を実施するほか、科学研究費助成事業(科研費)において、平成30年度から「国際共同研究加速基金」を発展的に見直し、若手研究者の参画を必須としつつ、国際共同研究の基盤の構築や更なる強化を図る「国際共同研究強化(B)」を創設した。
 また、国際的な活躍が期待できる研究者の育成に資するよう、海外の研究機関との間の研究者の派遣・受入れを行う大学等研究機関を支援する「国際的な活躍が期待できる研究者の育成事業」を実施している。我が国における学術の将来を担う国際的視野に富む有能な研究者を養成・確保するため、優れた若手研究者が海外の特定の大学等研究機関において長期間研究に専念できるよう支援する「海外特別研究員事業」や博士後期課程学生等の海外渡航支援として、「若手研究者海外挑戦プログラム」等を実施している。
 優れた外国人研究者に対し、我が国の大学等において研究活動に従事する機会を提供するとともに、我が国の大学等の研究環境の国際化に資するため、「外国人研究者招へい事業」により外国人特別研究員等の受入れを実施しているほか、「二国間交流事業」により我が国と諸外国の研究チームの持続的ネットワーク形成を支援している。
 また、アジア太平洋アフリカ地域の人材育成とネットワーク形成のため「HOPEミーティング」を開催し、同地域から選抜された大学院生等とノーベル賞受賞者をはじめとする世界の著名研究者が交流する機会を提供している。
 科学技術振興機構は、海外の優秀な人材の獲得につなげるため、アジアを中心とする41の国・地域から青少年(40歳以下の高校生、大学生、大学院生、研究者等)を短期(1~3週間程度)に招聘(しょうへい)する日本・アジア青少年サイエンス交流事業を平成26年度から実施している。

イ 国際的な研究助成プログラム

 ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)は、1987年(昭和62年)6月のベネチア・サミットにおいて我が国が提唱した国際的な研究助成プログラムで、生体の持つ複雑な機能の解明のための基礎的な国際共同研究などを推進し、またその成果を広く人類全体の利益に供することを目的としている。現在、日本・オーストラリア・カナダ・EU・フランス・ドイツ・インド・イタリア・韓国・ニュージーランド・ノルウェー・シンガポール・スイス・英国・米国の計15か国・極が加盟し、フランス・ストラスブールに置かれた国際ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム機構(HFSPO、会長:長田重・大阪大学教授)により運営されている。我が国は本プログラム創設以来積極的な支援を行い、プログラム運営において重要な役割を担っている。
 本プログラムでは、国際共同研究チームへの研究費助成(研究グラント)、若手研究者が国外で研究を行うための旅費、滞在費等の助成(フェローシップ)及び受賞者会合の開催等が実施されている。1990年度の事業開始から30年が経過し、この間、HFSPOは約1,100件の研究課題、4,000名余りの世界の研究者に対して研究グラントを支援するとともに、約3,200名の若手研究者に対してフェローシップの助成を実施してきた。国際的協力による、独創的・野心的・学際的な研究を支援する本プログラムでは、過去に研究グラントに採択された受賞者の中から、2018年(平成30年)にノーベル生理学・医学賞を受賞された本庶佑・京都大学特別教授はじめ28名のノーベル賞受賞者を輩出するなど、世界的に高く評価されている。

(3)分野、組織、セクター等の壁を越えた流動化の促進

 文部科学省及び経済産業省は、人材の流動性を高める上で、研究者等が複数の機関の間での出向に関する協定等に基づき、各機関に雇用されつつ、一定のエフォート管理の下、各機関における役割に応じて研究・開発及び教育に従事することを可能にする、クロスアポイントメント制度を促進することが重要であるとの認識の下、その実施に当たっての留意点や推奨される実施例等をまとめた「クロスアポイントメント制度の基本的枠組みと留意点」を平成26年12月に公表し、制度の導入を促進してきた。また、平成28年11月に策定された「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」においてもクロスアポイントメントを促進している。
 また、文部科学省は、複数の大学等でコンソーシアムを形成し、企業等とも連携して、研究者の流動性を高めつつ、安定的な雇用を確保しながらキャリアアップを図る「科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業」を実施している。

 第2‐4‐10表/人材力の強化のための主な施策(平成30年度)

第2節 知の基盤の強化

 持続的なイノベーションの創出には、従来の慣習や常識にとらわれない柔軟な思考と斬新な発想が求められている。そうした中、学術研究と基礎研究の改革と強化をはじめ、研究者が腰を据えて研究に取り組むための環境整備など、質的・量的双方の観点から知の基盤の強化を図ることとしている。

1 イノベーションの源泉としての学術研究と基礎研究の推進

(1)学術研究の推進に向けた改革と強化

ア 科学研究費助成事業の改革・強化

 文部科学省及び日本学術振興会は科学研究費助成事業(科研費)を実施している。科研費は、人文学・社会科学から自然科学までの全ての分野にわたり、あらゆる学術研究を対象とする唯一の競争的資金であり、研究の多様性を確保しつつ独創的な研究活動を支援することにより、研究活動の裾野の拡大を図り、持続的な研究の発展と重厚な知的蓄積の形成に資する役割を果たしている。平成30年度は、主な研究種目全体で10万件を超える新たな応募のうち、ピアレビュー(研究者コミュニティから選ばれた研究者による審査)によって約2万6,000件を採択し、数年間継続する研究課題を含めて約7万5,000件を支援している(平成30年度予算額2,286億円)。
 科研費は、これまでも制度を不断に見直し、基金化の導入などの改善を図ってきたが、質の高い学術研究を推進し、卓越した「知」を創出するため、「科研費改革の実施方針」(平成27年9月策定)等を踏まえ、審査システムの見直しをはじめとする抜本的な改革を進めている。
 具体的には、文部科学省 科学技術・学術審議会 学術分科会において取りまとめられた「科学研究費助成事業の審査システム改革について」に基づき、平成30年度の助成から、400程度に細分化されている審査区分を大括(くく)り化した新たな審査区分表に基づいて公募するとともに、合議審査を一層充実させる「総合審査」などの新しい審査方式を導入するなどの取組を進めている。
 今後も、更なる学術研究の振興に向け、科研費の充実を図っていく。

イ 大学・大学共同利用機関における共同利用・共同研究の推進

 我が国の学術研究の発展には、最先端の大型装置や貴重な資料・データ等を、個々の大学の枠を越えて全国の研究者が利用し、共同研究を行う「共同利用・共同研究体制」が大きく貢献しており、主に大学共同利用機関や、文部科学大臣の認定を受けた国公私立大学の共同利用・共同研究拠点(※8)によって担われている。
 特に、学術研究の大型プロジェクトは、研究を進める上で、多くの物的・人的資源が必要であり、個々の大学では実施が困難であるため、主に共同利用・共同研究体制において取り組まれており、文部科学省では「大規模学術フロンティア促進事業」により、これらの取組を支援している。平成30年度は、世界トップレベルの成果の創出が期待される10のプロジェクト(第2‐4‐11図)を推進している。その一つである宇宙素粒子観測装置「スーパーカミオカンデ」における実験研究は、平成27年度の梶田隆章・東京大学宇宙線研究所長のノーベル物理学賞受賞につながる研究成果を上げており、平成30年度には、超新星爆発などから発生するニュートリノの観測の精度向上のため、検出器の改良などが実施され、次のステージに向けた更なる発展を目指している。
 また、高エネルギー加速器研究機構の電子・陽電子衝突型加速器(スーパーBファクトリー)においては、平成22年度から高度化を実施し、平成30年3月から本格的な稼働が開始された。平成30年4月には電子と陽電子の初衝突が観測され、世界26の国・地域から約900人が参加する国際共同実験(Belle2実験)を推進している。

 第2‐4‐11図/大規模学術フロンティア促進事業において実施する大型プロジェクト


  • ※8 平成30年4月現在、54大学107拠点が認定を受けて活動している。

(2)戦略的・要請的な基礎研究の推進に向けた改革と強化

 科学技術振興機構が実施している「戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)」及び日本医療研究開発機構が実施している「革新的先端研究開発支援事業」では、国が戦略的に定めた目標の下、大学等の研究者から提案を募り、組織・分野の枠を超えた時限的な研究体制を構築して、戦略的な基礎研究を推進するとともに、有望な成果について研究を加速・深化している。
 なお、文部科学省は平成30年度目標として、以下の五つを設定した。

ア 戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)
  • トポロジカル材料科学の構築による革新的材料・デバイスの創出
  • ゲノムスケールのDNA合成及びその機能発現技術の確立と物質生産や医療の技術シーズの創出
  • Society 5.0を支える革新的コンピューティング技術の創出
  • 持続可能な社会の実現に資する新たな生産プロセス構築のための革新的反応技術の創出
イ 革新的先端研究開発支援事業
  • 生体組織の適応・修復機構の時空間的理解に基づく生命現象の探求と医療技術シーズの創出

(3)国際共同研究の推進と世界トップレベルの研究拠点の形成

 我が国が世界の研究ネットワークの主要な一角に位置付けられ、世界の中で存在感を発揮していくためには、国際共同研究を戦略的に推進するとともに、国内に国際頭脳循環の中核となる研究拠点を形成することが重要である。

ア 諸外国との国際共同研究

(ア)国際熱核融合実験炉(ITER(※9))計画等
 ITER計画は、核融合エネルギーの実現に向け、世界7極の国際協力により実施されており、2025年(令和7年)の運転開始を目指し、フランス・カダラッシュにおいてITERの建設作業が本格化している。我が国は、ITERの主要な機器である超伝導コイルの製作等を進めている(第3章第1節参照)。また、日欧協力によりITER計画を補完・支援する先進的核融合研究開発である幅広いアプローチ(BA(※10))活動を青森県六ヶ所村及び茨城県那珂市で推進している。

(イ)国際宇宙ステーション(ISS(※11))
 ISS計画において、我が国は、日本実験棟「きぼう」及び宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV(※12))の運用などを行っている。(第3章第4節2(6)参照)。

(ウ)国際深海科学掘削計画(IODP(※13))
 IODPは、地球環境変動、地球内部構造や地殻内生命圏等の解明を目的とした日米欧主導の多国間国際協力プロジェクトを統合国際深海掘削計画[前IODP(2003~2013年(平成15~25年))]を引き継ぐ形で、2013年(平成25年)10月から実施されている。我が国が提供し、科学掘削船としては世界最高レベルの性能を有する地球深部探査船「ちきゅう」及び米国が提供する掘削船を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて世界各地の深海底の掘削を行っている。2018年度(平成30年度)には、地球深部探査船「ちきゅう」による東南海地震の想定震源域である紀伊半島沖熊野灘での掘削を実施した。

(エ)大型ハドロン衝突型加速器(LHC)
 LHC計画(※14)においては、CERN(※15)加盟国と日本、米国等による国際協力の下、世界最高のエネルギー領域において実験研究が行われており、「ヒッグス粒子」発見等の成果が得られた。現在、LHCの高輝度化(HL‐LHC(※16)計画)の検討が進められている。

(オ)国際リニアコライダー(ILC(※17))
 「ヒッグス粒子」の性質をより詳細に解明すること等を目指して、国際的な研究者のグループが線形加速器「ILC」を構想しており、平成25年6月に技術設計報告書が公表された。
 文部科学省は、平成25年9月に出された日本学術会議の回答を受けて、平成26年5月から外部有識者による会議を開催し、ILC計画に係る諸課題の検討を進めてきた。その後、平成29年11月に公表された計画見直しの内容も踏まえ、科学的意義、コスト及び技術的成立性、人材の確保・育成方策、体制及びマネジメント、国際協力等の観点から、平成30年7月に議論の取りまとめを行った。
 この取りまとめを受けて再審議し、平成30年12月に出された日本学術会議の回答を踏まえ、引き続きILC計画の検討が行われている。


  • ※9 International Thermonuclear Experimental Reactor
  • ※10 Breader Approach
  • ※11 International Space Station
  • ※12 H‐2 Transfer Vehicle
  • ※13 International Ocean Discovery Program
  • ※14 Large Hadron Collider:欧州合同原子核研究機関(CERN)の巨大な円形加速器を用いて、宇宙創成時(ビッグバン直後)の状態を再現し、未知の粒子の発見や、物質の究極の内部構造の探索を行う実験計画
  • ※15 Conseil Europeen pour la Recherche Nucleaire:欧州合同原子核研究機関
  • ※16 High Luminosity‐Large Hadron Collider
  • ※17 International Linear Collider
イ 世界トップレベル拠点の形成に向けた取組

 文部科学省は、「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI(※18))」の実施により、高度に国際化された研究環境と世界トップレベルの研究水準を誇る「目に見える国際頭脳循環拠点」の充実・強化を着実に進めている。具体的には、1拠点当たり7億円程度(平成22年度以前の採択拠点においては最大14億円程度)の支援を10年間行っており、平成30年度末現在13拠点が活動している(第2‐4‐12図)。本プログラムでは、「世界トップレベル研究拠点プログラム委員会」(委員長:野依良治・科学技術振興機構 研究開発戦略センター長)を中心に、丁寧かつきめ細やかな進捗管理を毎年実施している。
 また、世界水準の優れた研究大学群を増強するため、研究マネジメント人材の確保・活用と大学改革・集中的な研究環境改革の一体的な推進を支援・促進し、我が国全体の研究力強化を図るため、「研究大学強化促進事業」を実施している。
 内閣府は、科学技術・イノベーションの国際的拠点を目指した沖縄科学技術大学院大学(OIST(※19))の規模拡充に向けた取組を支援している。

 第2‐4‐12図/世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の概要


  • ※18 World Premier International Research Center Initiative
  • ※19 Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University

2 研究開発活動を支える共通基盤技術、施設・設備、情報基盤の戦略的強化

(1)共通基盤技術と研究機器の戦略的開発・利用

 科学技術振興機構は、文部科学省の方針に基づき、世界最先端の研究者やものづくり現場のニーズに応えられる我が国発のオンリーワン、ナンバーワンの先端計測分析技術・機器の開発等を行う「研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)」を実施している(第2‐4‐13図)。開発されたプロトタイプが製品化に至った事例は、平成30年3月の時点で約61件に上る

 第2‐4‐13図/先端計測分析技術・機器開発の主な成果例

(2)産学官が利用する研究施設・設備及び知的基盤の整備・共用、ネットワーク化

ア 研究施設・設備の整備・共用、ネットワーク化の促進

 科学技術の振興のための基盤である研究施設・設備は、整備や効果的な利用を図ることが重要である。また、「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」(平成20年法律第63号)においても、国立大学法人及び研究開発法人等が保有する研究開発施設・設備及び知的基盤の共用の促進を図るため、国が必要な施策を講じる旨が規定されている。
 このため、政府は科学技術に関する広範な研究開発領域や産学官の多様な研究機関に用いられる共通的、基盤的な施設・設備に関し、その有効利用や活用を促進するとともに、施設・設備の相互のネットワーク化を図り、利便性、相互補完性、緊急時対応等を向上するための取組を進めている。

(ア)特定先端大型研究施設
 「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」(平成6年法律第78号)(以下「共用法」という。)においては、特に重要な大規模研究施設は特定先端大型研究施設と位置付けられ、計画的な整備及び運用並びに中立・公正な共用が規定されている。

(1)大型放射光施設(SPring‐8(※20))
 SPring‐8は、光速近くまで加速した電子の進行方向を曲げたときに発生する極めて明るい光である「放射光」を用いて、物質の原子・分子レベルの構造や機能を解析できる世界最高性能の研究基盤施設である。本施設は平成9年の供用開始から20年を迎えてなお、生命科学、環境・エネルギーから新材料開発まで、我が国の経済成長を牽引(けんいん)する様々な分野で革新的な研究開発に貢献している。

 大型放射光施設(SPring‐8)及びX線自由電子レーザー施設(SACLA) 
 大型放射光施設(SPring‐8)及びX線自由電子レーザー施設(SACLA)
 提供:理化学研究所

(2)X線自由電子レーザー施設(SACLA)
 SACLAは、レーザーと放射光の特長を併せ持つ究極の光を発振し、原子レベルの超微細構造や化学反応の超高速動態・変化を瞬時に計測・分析する世界最先端の研究基盤施設である。平成24年3月に供用を開始し、同年に先導的利用研究の推進のため「X線自由電子レーザー重点戦略研究課題」事業が開始された。平成29年度より、世界初となる電子ビームの振り分け運転(※21)による2本の硬X線FEL(※22)ビームラインの同時供用が開始されるなど、更なる高インパクト成果の創出に向けた利用環境の整備が着実に進められている。

(3)スーパーコンピュータ「京(けい)」
 スーパーコンピュータを用いたシミュレーションは、理論、実験と並ぶ、現代の科学技術の第3の手法として最先端の科学技術や産業競争力の強化に不可欠なものとなっている。理化学研究所が、利用者支援を行う登録機関である一般財団法人高度情報科学技術研究機構、ユーザーコミュニティ機関等から構成される一般社団法人HPCI(※23)コンソーシアムと連携しつつ運用しているスーパーコンピュータ「京(けい)」は、医療・創薬の高度化、ものづくりの革新、地震・津波の被害軽減や物質と宇宙の起源の解明など、様々な分野において世界に先駆けた画期的な成果の創出に貢献している。
 文部科学省は、我が国が直面する社会的・科学的課題の解決に貢献するため、2021年(令和3年)から2022年(令和4年)の運用開始を目標に「京(けい)」の後継機であるポスト「京(けい)」を開発するプロジェクトを推進している。システムと課題解決に資するアプリケーションとを協調的に開発することにより、世界最高水準の汎用性のあるスーパーコンピュータの実現を目指している。平成30年度には、総合科学技術・イノベーション会議において中間評価が実施され、「ポスト「京(けい)」製造・設置に向け遅延なく推進していくことが適当」と評価されたことを踏まえ製造に着手した。

 スーパーコンピュータ「京(けい)」
 スーパーコンピュータ「京(けい)」
 提供:理化学研究所

(4)大強度陽子加速器施設(J‐PARC(※24))
 J‐PARCは、世界最高レベルのビーム強度を持つ陽子加速器を利用して生成される中性子、ミュオン、ニュートリノ(※25)等の多彩な二次粒子を利用して、幅広い分野における基礎研究から産業応用まで様々な研究開発に貢献している。物質・生命科学実験施設(特定中性子線施設)では、革新的な材料や新しい薬の開発につながる構造解析等の研究が行われ、多くの成果が創出されている。原子核・素粒子実験施設(ハドロン実験施設)やニュートリノ実験施設は、共用法の対象外の施設であるが、国内外の大学等の研究者との共同利用が進められている。特に、ニュートリノ実験施設では、2015年(平成27年)ノーベル物理学賞を受賞したニュートリノ振動の研究に続き、その更なる詳細解明を目指して、T2K(Tokai to Kamioka)実験が行われている。

 大強度陽子加速器施設(J‐PARC)
 大強度陽子加速器施設(J‐PARC)
 提供:J‐PARCセンター


  • ※20 Super Photon ring‐8 GeV
  • ※21 線型加速器からの電子ビームをパルス毎に複数のビームラインに振り分けることで、複数のビームラインを同時に利用可能
  • ※22 Free‐Electron Laser:波長が0.3nm以下の短い硬X線領域の自由電子レーザー
  • ※23 High Performance Computing Infrastructure
  • ※24 Japan Proton Accelerator Research Complex
  • ※25 素粒子の一つ。電気的に中性で物質を通り抜けるため検出が難しく、質量などその性質は未知の部分が多い。

(イ)次世代放射光施設(軟X線向け高輝度3GeV級放射光源)
 文部科学省は、平成28年11月から科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 量子科学技術委員会 量子ビーム利用推進小委員会において、軟X線に強みを持つ高輝度3GeV級放射光源(次世代放射光施設)に関し、その科学技術イノベーション政策上の意義、求められる性能、整備・運用の基本的考え方と具体的方策等について審議検討を行い、平成30年1月、「新たな軟X線向け高輝度3GeV級放射光源の整備等について(報告)」を取りまとめた。これを踏まえ、文部科学省は、官民地域パートナーシップによる次世代放射光施設の具体化等を進めるため、地域・産業界のパートナーの募集及び調査検討を行い、平成30年7月、光科学イノベーションセンターを代表とする、宮城県、仙台市、国立大学法人東北大学及び一東北経済連合会の5者を地域・産業界のパートナーとして選定した。文部科学省は、引き続き、地域・産業界のパートナーと共に次世代放射光施設を推進していく。

(ウ)研究施設設備間のネットワーク構築

(1)共用プラットフォーム
 文部科学省は、産学官が共用可能な研究施設・設備等における施設間のネットワークを構築する共用プラットフォームを形成することにより、世界最高水準の研究開発基盤の維持・高度化を図っている(第2‐4‐14図)。

 第2‐4‐14図/「先端研究基盤共用促進事業」(共用プラットフォーム形成支援)の採択機関

(2)革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築
 文部科学省は、世界最高水準の計算性能を有するスーパーコンピュータ「京(けい)」を中核とし、国内の大学や研究機関等のスーパーコンピュータやストレージを高速ネットワークでつなぎ、多様な利用者のニーズに対応した計算環境を提供するHPCIの構築を進めている。また、HPCIの効果的・効率的な運営に努めながら、様々な分野での利用を推進している。

 革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築
 資料:文部科学省作成

(3)ナノテクノロジープラットフォーム
 文部科学省は、ナノテクノロジーに関する最先端の研究設備とその活用のノウハウを有する機関が緊密に連携し、全国的な共用体制を構築することで、産学官の利用者に対し、最先端設備の利用機会と高度な技術支援を提供している。

イ 競争的資金改革と連携した新たな共用システムの導入

 文部科学省は、競争的研究費改革と連携し、研究組織のマネジメントと一体となった研究設備・機器の整備運用の早期確立により、研究開発と共用の好循環を実現する新たな共用システムの導入を推進している(第2‐4‐15図)。

 第2‐4‐15図/「先端研究基盤共用促進事業」(新たな共用システム導入支援)の採択機関

ウ 知的基盤の整備・共用、ネットワーク化の促進

 文部科学省は、日本医療研究開発機構を通じ、ライフサイエンス研究の基盤となる研究用動植物等のバイオリソースのうち、国が戦略的に整備することが重要なものについて、体系的に収集、保存、提供等を行うための体制を整備することを目的として、「ナショナルバイオリソースプロジェクト」を実施している。また、老化メカニズムの解明・制御に関する研究開発を包括的に推進するとともに老化研究の核となる拠点形成を目指し、「老化メカニズムの解明・制御プロジェクト」を実施している。
 経済産業省は、計量標準、微生物遺伝資源及び地質情報の3分野の新たな知的基盤整備計画及び具体的な利用促進方策について、平成31年2月にその進捗状況の確認と計画の見直しを行った。
 計量標準については、産業技術総合研究所が高調波電圧電流(校正器物として、パワーアナライザを追加)等の物理標準整備を実施した。これはスマートメータ評価での活用が期待されている。また、化学標準物質については、銀標準液等の無機分析用標準の整備を行ったほか、水道水質基準に対応した亜塩素酸イオン標準液の整備を行い、産業技術総合研究所への計量トレーサビリティが確保された計量法校正事業者登録制度(JCSS(※26))・依頼試験の実施体制を確立した。さらに、産業技術総合研究所は、シリコン球に含まれる原子数を正確に計測する技術を用いた基礎物理定数(プランク定数)の決定を通じ、国際単位系(SI)の基本単位定義改定(キログラムの定義改定)に貢献した。

 プランク定数の決定に用いられた同位体濃縮シリコン球体
 プランク定数の決定に用いられた同位体濃縮シリコン球体
 提供:産業技術総合研究所

 微生物遺伝資源については、製品評価技術基盤機構が、微生物遺伝資源の収集・保存・分譲を行うとともに、これらの資源に関する情報(系統的位置付け、遺伝子に関する情報等)を整備・拡充し、幅広く提供している(平成31年1月末現在の分譲株数は6,283株)。また、微生物資源の保存と持続可能な利用を目指した15か国・地域の27機関のネットワーク活動(アジア・コンソーシアム、平成16年設立)への参加を通じて、アジア各国との協力関係を構築し、生物多様性条約や名古屋議定書を踏まえたアジア諸国の微生物遺伝資源の利用を支援している。これらの取組のほか、アジア諸国との遺伝資源に関する協力として、モンゴルにおいてワークショップを実施した。
 地質情報については、産業技術総合研究所が、5万分の1地質図幅4区画(網走、吾妻山、糸魚川、身延)、海洋地質図1区画(沖縄島南部周辺海域)、海陸シームレス地質情報集(房総半島東部沿岸域)、火山地質図(八丈島火山地質図)を出版した。地震災害発生時の対応として、平成30年9月の北海道胆振東部地震に対して積極的な情報収集を行い、迅速にウェブサイト等で公開した。また、地層を構成する堆積物に含まれる多様な粒子の中から、非常に壊れやすく複雑な形態を持つ「微化石」を、AIを用いて大量に鑑定し、自動的に分取するシステムを世界で初めて開発した(第2‐4‐16図)。これまで膨大な時間と労力をかけて微化石研究者が行ってきた微化石の鑑定・分取作業を、このシステムによって自動的に高速で行うことが可能となった。そのほか、東・東南アジア地球科学計画調整委員会(CCOP(※27))に加盟する地質調査機関と連携し、地質図、地震、火山、地質災害、環境、地球物理、地球化学、地下水、地熱、リモートセンシング、地形図など、全部で570以上のデータを掲載したCCOP地質情報総合共有システムを平成30年9月に一般に向けて正式公開した。さらに、CCOP加盟国の若手地質研究者を対象とした国際研修を平成30年度より開始し、実践的な地質調査技術の向上を支援した。

 第2‐4‐16図/AIを活用した微化石の正確な鑑定・分取システム

  • ※26 Japan Calibration Service System
  • ※27 Coordinating Committee for Geoscience Programmes in East and Southeast Asia

(3)大学等の施設・設備の整備と情報基盤の強化

ア 国立大学等の施設・設備

 国立大学等の施設は、日本の次代を担う人材育成の場であるとともに、地方創生やイノベーション創出の拠点となるなど、Society 5.0の実現に資する知の基盤である。現在、国立大学等の施設は、建築後25年以上を経過した施設が約6割を占めるとともに、キャンパス内の給排水管や電気設備等のライフラインの老朽化が進行している。
 こうした中、文部科学省は、第5期基本計画を踏まえ、平成28年3月に「第4次国立大学法人等施設整備5か年計画(平成28~32年度)」(平成28年3月29日文部科学大臣決定。以下「第4次5か年計画」という。)を策定し、計画的かつ重点的な施設整備を推進している(第2‐4‐17図)。加えて、最近の災害による被害を踏まえ策定された、「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」(平成30年12月14日閣議決定)の中で、国立大学等施設における災害時に落下の危険性のある外壁や天井等の改善整備や研究活動継続や安全確保対策等のためのインフラ設備更新等を行うこととしている。
 第4次5か年計画では、重点整備として、1.安全・安心な教育研究環境の基盤の整備、2.国立大学等の機能強化等変化への対応、3.サステイナブル・キャンパスの形成を推進することとしている。「安全・安心な教育研究環境の基盤の整備」では、耐震対策や防災機能強化、老朽化した基幹設備の更新を推進している。「国立大学等の機能強化等変化への対応」では、機能強化に伴い必要となる新たなスペースの確保や戦略的なリノベーションによるアクティブ・ラーニングスペース等の導入とともに、大学付属病院の再開発整備の着実な実施を推進している。「サステイナブル・キャンパスの形成」では、省エネルギー対策や社会の先導モデルとなる取組を推進している。また、同計画では、長期的な視点に立って、大学の基本理念やアカデミックプラン、経営戦略等を踏まえたキャンパス全体の整備計画(キャンパスマスタープラン)を策定・充実するとともに、同プランに基づいた計画的で、より効果的かつ効率的な施設整備を行うよう国立大学法人等に対して求めている。さらに、戦略的な施設マネジメントの取組や多様な財源を活用した施設整備を一層推進することとしている。施設マネジメントについては、国立大学等施設の老朽化が進む中、適切に施設の長寿命化を図り、教育研究機能の向上と経営基盤の強化を図るため、平成29年11月より「国立大学法人等施設の長寿命化に向けたライフサイクルの最適化に関する検討会」(以下「ライフサイクル検討会」という。)を開催した。ライフサイクル検討会においては、施設の長寿命化に向けた基本的な考え方について検討を行うとともに、施設の各部位ごとの改修・更新実績や劣化状況の整理、施設の長寿命化を図るために有効な取組事例の収集を行い、平成31年3月に報告書「国立大学法人等施設の長寿命化に向けて」を取りまとめた。
 国立大学等の設備は、最先端の研究を推進させるとともに、質の高い教育研究を支える基盤であり、その計画的な維持・管理、整備が必要である。大学が整備する大型の研究設備の整備に対する支援のほか、「30m光学赤外線望遠鏡(TMT(※28))計画」をはじめとした、我が国発の独創的なアイデアによる世界最高水準の研究設備についても「大規模学術フロンティア促進事業」により支援を行っている。

 第2‐4‐17図/老朽改善による機能強化等の整備事例


  • ※28 Thirty Meter Telescope
イ 私立大学の施設・設備

 文部科学省は、私立大学の建学の精神や特色を生かした質の高い教育研究活動等の基盤となる施設・設備等の整備を支援している。

ウ 研究情報基盤の整備

 情報通信研究機構(NICT(※29))は、構築・運営しているNICT総合テストベッドにより、IoTや新世代ネットワーク等の技術実証・社会実証を推進している。
 国立情報学研究所は、大学等の学術研究や教育活動全般を支える基幹的ネットワークとして学術情報ネットワーク(SINET(※30))を運用している。平成30年度末現在で、国内の900以上の大学・研究機関がSINETに接続しており、教育・研究に携わる数多くの人々のための学術情報の流通が確保されている。また、国際的な先端研究プロジェクトで必要とされる国際間の研究情報流通を円滑に進めるため、米国や欧州など多くの海外研究ネットワークと相互に接続している。
 農林水産省は、農林水産関連の研究機関を相互に接続する農林水産省研究ネットワーク(MAFFIN(※31))を構築・運営しており、平成30年度現在で82機関が接続している。MAFFINはフィリピンと接続しており、海外との研究情報流通の一翼を担っている。
 環境省は、科学的情報に基づく自然保護施策の推進に寄与することを目的として、国や地方自治体の自然系調査研究機関が情報交換・情報共有するための自然系調査研究機関連絡会議(NORNAC(※32))を運用しており、現在54の研究機関が参加している。また、地球規模での生物多様性保全に必要な科学的基盤の強化のため、アジア太平洋地域における生物多様性観測・モニタリングデータの収集・統合化などを推進するアジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(AP‐BON(※33))の事務局を務めており、多くの国から参画を得ている。


  • ※29 National Institute of Information and Communications Technology
  • ※30 Science Information NETwork
  • ※31 Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries Research Network
  • ※32 Network of Organizations for Research on Nature Conservation
  • ※33 Asia‐Pacific Biodiversity Observation Network
エ データベースの構築・提供

 国立国会図書館は、収集・保管している資料に加え、全国の図書館、学術研究機関等が提供する資料、デジタルコンテンツ等を統合的に検索可能なデータベース(国立国会図書館サーチ(※34))を提供している。
 国立情報学研究所は、効果的・効率的な研究開発活動の促進に向け、イノベーション創出に必要な学術情報を体系的に収集し、使いやすいように整備した上で、インターネット上で公開している。例えば、全国の大学図書館等が所蔵する学術図書・雑誌の目録所在情報や国内の博士論文を含む学術論文を一元的に検索可能なデータベース(CiNii(※35))を構築して提供しているほか、オープンアクセスリポジトリ推進協会と共同により、大学等が教育研究成果を保存・公開するクラウド型の機関リポジトリ環境提供サービス(JAIRO Cloud(※36))を行っている。
 科学技術振興機構は、国内外の科学技術に関して、文献、特許、研究者や研究開発活動に関わる基本的な情報を体系的にデータベース化し、相互に関連付けた、誰もが使いやすい公的サービス(J‐GLOBAL)と、国内外の科学技術文献に関し、書誌・抄録・キーワード等を、日本語で網羅的に検索可能なデータベースとして整備し、さらに、検索集合を分析・可視化できる付加価値を付けた、専門家を支援する文献情報サービス(JDream37)を行っている。また、我が国の研究者情報を一元的に集積し、研究業績情報の管理と提供、大学の研究者総覧の構築を支援する研究者総覧データベース(researchmap)や、学協会等の刊行する学術誌等の迅速な流通と国際情報発信力の強化を図るため、電子的な学術誌等の刊行と情報流通を支援するシステム(J‐STAGE(※37))を提供している(本節3参照)。
 農林水産省は、国内で発行されている農林水産関係学術誌の論文等の書誌データベース(JASI(※38))など、農林水産関係の文献情報や図書資料類の所在情報を構築・提供している。また、研究開発型の独立行政法人、国公立試験研究機関や大学の農林水産分野の研究報告等をデジタル化した全文情報データベース、試験研究機関で実施中の研究課題データベース等を構築・提供している。
 環境省は、生物多様性情報システム(J‐IBIS(※39))において、全国の自然環境及び生物多様性に関する情報の収集・管理・提供をしている。


  • ※34 https://iss.ndl.go.jp
  • ※35 Citation Information by NII
  • ※36 Japan Institutional Repositories Online Cloud
  • ※37 Japan Science and Technology information Aggregator, Electronic
  • ※38 Japan Agricultural Sciences Index
  • ※39 Japan Integrated Biodiversity Information System

3 オープンサイエンスの推進

(1)我が国の検討状況

オープンサイエンスとは、オープンアクセスと研究データのオープン化(オープンデータ)を含む概念であり、世界的にも急速な広がりを見せており、オープンイノベーションの重要な基盤として注目されている。こうした潮流を踏まえて、適切な国際連携により、資金配分機関、学界や産学官等の関係者による推進を加速することが求められている。統合イノベーション戦略においても、「知の源泉」を構築すべく、「オープンサイエンスのためのデータ基盤の整備」として、リポジトリの整備や研究データ管理・利活用のための方針・計画の策定等の施策を推進している。
 内閣府は、平成27年に国際的動向を踏まえたオープンサイエンスに関する検討会において「我が国におけるオープンサイエンス推進のあり方について」報告書を取りまとめた。同報告書では、公的研究資金における研究成果(論文、研究データ等)の利活用促進を拡大することが、我が国のオープンサイエンス推進の基本姿勢として示されている。これを踏まえて、我が国のオープンサイエンスの実施状況等をフォローアップすべく、「オープンサイエンス推進に関するフォローアップ検討会」を平成27、28年度に開催した。さらに、平成29年度は、「国際的動向を踏まえたオープンサイエンスの推進に関する検討会」を設置し、国際動向を踏まえたオープンサイエンス推進や国際プレゼンスの向上のための方策等について検討を行っている。同検討会では、平成30年6月に「国立研究開発法人におけるデータポリシー策定のためのガイドライン」を取りまとめたほか、現在、データリポジトリの整備・運用のためのガイドラインについても検討を行っている。
 文部科学省では、平成28年2月、科学技術・学術審議会 学術分科会 学術情報委員会において、「学術情報のオープン化の推進について(審議まとめ)」をまとめ、公的研究資金による研究成果のうち論文とそのエビデンスとしての研究データは、原則公開とすべきとの方針を示し、関係機関において取り組むべき事項について提起した。それを基に、平成29年1月、同審議会総合政策特別委員会において、「総合政策特別委員会における第5期科学技術基本計画の実施状況のフォローアップ等に関する審議のとりまとめ」をまとめ、オープンサイエンスをめぐる国際的な動きや国内における状況を踏まえつつ、競争的資金におけるデータ共有・公開の促進、研究分野の特性に応じたデータの公開/非公開の在り方、研究データの保管に係る基盤の整備などを中心に具体的な施策を進める上での方向性や留意すべき点等を示した。

(2)競争的資金における研究成果の共有・公開に係る取組

 科学技術振興機構は、平成29年4月、オープンサイエンス促進に向けた研究環境を整備することを目的として、研究成果の取扱いに関する基本方針を策定した。同方針において、研究プロジェクトの成果に基づく全ての研究成果論文を原則としてオープンアクセス化すること及び研究データの取扱いを定めたデータマネジメントプランを作成することを定めている。また、研究データのうちエビデンスデータは公開を推奨、それ以外の研究データは公開を期待することとしている。
 日本医療研究開発機構は、「疾病克服に向けたゲノム医療実現化プロジェクト」において、データシェアリングポリシーを示し、研究事業に対して、原則としてデータシェアリングを行うことを義務付けた。
 日本学術振興会は、オープンアクセスに係る取組について方針を示し、科研費等による論文のオープンアクセス化を進めている。

(3)研究成果を共有・公開するための取組

 理化学研究所、物質・材料研究機構や防災科学技術研究所は、我が国が強みを生かせるライフサイエンス、ナノテク・材料や防災分野で、膨大・高品質な研究データを利活用しやすい形で集積し、産学官で共有・解析することにより、新たな価値の創出につなげる取組を進めている。
 国立情報学研究所は、大学等が教育研究成果を保存・公開するクラウド型の機関リポジトリ環境提供サービス(JAIRO Cloud)を提供するとともに、JAIRO Cloud等を活用し、クラウド上で大学等が共同利用できる研究データの管理・公開・検索を促進するシステム(NII‐RDC(※40))の開発を進めている。
 科学技術振興機構は、学協会等の刊行する学術誌等の迅速な流通と国際情報発信力の強化を図るため、電子的な学術誌等の刊行と情報流通を支援する共用システム(J‐STAGE)を提供している。科学技術振興機構バイオサイエンスデータベースセンターは、「ライフサイエンスデータベース統合推進事業」を実施し、文部科学省、厚生労働省、農林水産省及び経済産業省の4省が保有する生命科学系データベースを一元的に参照できる合同ポータルサイト(※41)の拡充や日本医療研究開発機構との連携等により、オープンサイエンスを推進している。

 第2‐4‐18表/知の基盤の強化ための主な施策(平成30年度)


  • ※40 National Institute of Informatics‐Research Data Cloud
  • ※41 https://integbio.jp/

第3節 資金改革の強化

 政府が支出する研究資金には、大学等の研究や教育を安定的・継続的に支える基盤的経費と優れた研究や特定の目的に資する研究等を推進する公募型資金がある。
 国は、双方の研究資金についてバランスを考慮しつつ改革を進めるとともに、これら研究資金改革と国立大学の組織改革とを一体的に推進することにより、科学技術イノベーション活動の根幹を強化することとしている。

1 基盤的経費の改革

(1)国立大学について

 我が国社会の活力や持続性を確かなものとする上で、新たな価値を生み出す礎となる知の創出とそれを支える人材育成を担う国立大学の役割への期待は大いに高まっており、「社会変革のエンジン」として「知の創出機能」を最大化していくことが必要である。
 国立大学は、法人化のメリットをこれまで以上に生かし、新たな経済社会を展望した大胆な発想の転換の下、新領域・融合分野など新たな研究領域の開拓、産業構造の変化や雇用ニーズに対応した新しい時代の産業を担う人材育成、地域・日本・世界が直面する経済社会の課題解決などを図っていくことが重要である。あわせて、学問の進展やイノベーション創出などに最大限貢献できる組織への転換等を国立大学自ら推し進めていくことが必要であり、今後更なる改革を進めていく上では、その財政基盤と機能強化に一層取り組んでいかなければならない。
 平成30年度においては、国立大学が我が国の人材養成・学術研究の中核として継続的・安定的に教育研究活動を実施できるよう、基盤的経費である国立大学法人運営費交付金等について、対前年度同額の1兆971億円を確保した。
 また、平成28年度から始まった第3期中期目標期間においては、各大学の強み・特色を踏まえた機能強化の方向性に応じた取組をきめ細かく支援するため、国立大学法人運営費交付金の中の「3つの重点支援の枠組み」において、評価に基づく重点支援を実施することとしており、平成30年度においても本枠組みにより各国立大学の機能強化を推進している。

(2)国立研究開発法人について

 第5期基本計画において、国立研究開発法人は科学技術イノベーション推進の中核機関としての役割が期待されている。国立研究開発法人の運営費交付金に着目すると、一時減少傾向にあったところ、平成27年度以降、国立研究開発法人が担うミッションの重要性に鑑み、その予算の確保に努めたところ、31年度予算案において8,756億円(対前年度比0.9%増)を計上した。
 運営費交付金の確保と併せて、国立研究開発法人は、イノベーションシステムの駆動力として組織改革とその機能強化を求められている。文部科学省においては、法人の機能強化を支援し、各法人の使命・役割に応じた国際的な拠点化や国内外の関係機関との連携、橋渡し機能が効果的に発揮されるよう「イノベーションハブ構築支援事業」を実施している。

2 公募型資金の改革

(1)競争的資金制度の改善及び充実

 競争的資金制度は、競争的な研究環境を形成し、研究者が多様で独創的な研究に継続的、発展的に取り組む上で基幹的な研究資金制度であり、これまでも予算の確保や制度の改善及び充実に努めてきた(平成30年度予算額4,277億円、第2‐4‐19表)。競争的資金制度の特徴である間接経費は、研究者の属する組織間の競争を促し、研究の質を高めることなどを目的として、競争的資金を獲得した研究者の属する機関に対して研究費(直接経費)の一定比率を配分するものである。
 競争的資金の公募情報の公開や応募の受付など研究開発管理業務については、「府省共通研究開発管理システム(e‐Rad(※42))」を活用しており、研究者・研究機関及び配分機関双方において、研究費の申請・管理等に関わる業務が一層効率化されている。
 また、各制度では、公正かつ透明で質の高い審査及び評価を行うため、審査員の年齢や性別及び所属等の多様性の確保、利害関係者の排除、審査員の評価システムの整備、審査及び採択の方法や基準の明確化並びに審査結果の開示を行っている。
 例えば、科研費では、7,000人以上の研究者によるピアレビューにより審査が実施されている。日本学術振興会は、審査委員候補者データベース(平成30年度現在、登録者数約10万3,000人)を活用し、研究機関のバランスや若手研究者、女性研究者の積極的な登用等に配慮しながら、審査委員を選考している。また、応募者本人に対する審査結果の開示については、内容を順次充実してきており、例えば、不採択課題全体の中でのおよその順位や評定要素ごとの平均点等の数値情報のほか、応募者により詳しく評価内容を伝えるために、審査委員が不十分であると評価した評定要素ごとの具体的な項目についても、「科研費電子申請システム」により開示している。
 競争的資金をはじめとする公的研究費の不正使用の防止に向けた取組については、「公的研究費の不正使用等の防止に関する取組について(共通的な指針)」(平成18年8月31日総合科学技術会議)や「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」(平成26年2月18日改正、文部科学大臣決定)等の指針を策定してきた。また、研究機関における不正防止に向けた体制整備の状況を調査するなどモニタリングを徹底するとともに、必要に応じ、改善に向けた指導・措置を講じることで、研究機関における適切な管理・監査体制の整備を促すなど、公的研究費の不正使用の防止に取り組んでいる。


  • ※42 Research And Development(=科学技術のための研究開発)の頭文字から成る「Rad」に、Electronic(電子)の頭文字を冠している。

 第2‐4‐19表/競争的資金総括表

(2)研究成果の持続的創出に向けた競争的研究費改革について

 文部科学省は、競争的研究費改革に関する検討会にて提言された「研究成果の持続的創出に向けた競争的研究費改革について(中間取りまとめ)」(平成27年6月24日)を踏まえ、競争的資金以外の競争的研究費についても、平成28年度以降の新規採択分から順次、間接経費を30%措置するなど、競争的研究費の制度改善を進めている。また、関係府省においては、競争的資金以外の研究資金についても、間接経費の導入、使い勝手の改善等の実施について、大学改革の進展等を視野に入れつつ検討を進めている。

3 国立大学改革と研究資金改革との一体的推進

 文部科学省は、我が国がイノベーションに最も適した国となるための基盤を構築するため、大学改革と研究資金を一体的に推進している。具体的には、文部科学省の競争的資金(※43)については、従来30%の間接経費を措置していたが、競争的資金以外の競争的研究費(※44)についても、平成28年度以降の新規採択から、順次、間接経費30%を措置している。
また、他省庁の間接経費等の措置については、内閣府に「研究資金に関する関係府省連絡会」が設置され検討が行われており、現在対象となる事業を整理している。文部科学省においても、間接経費等の適切な措置の必要性について分析を行い、その結果を同連絡会に対して説明している。
 さらに、国立大学等における人事給与マネジメント改革の実施を前提として、研究代表者への人件費支出が可能となるよう、直接経費支出の柔軟化に向けた検討を行っている。文部科学省は、これらの取組を通じて、競争的研究費による研究成果の持続的創出を図るとともに、大学改革の鍵となる大学のガバナンス及びマネジメントの強化を後押しすることとしている。


  • ※43 資源配分主体が広く研究開発課題等を募り、提案された課題の中から、専門家を含む複数の者による科学的、技術的な観点を中心とした評価に基づいて実施すべき課題を採択し、研究者等に配分する研究開発資金。実務的には、同定義に基づき各省が内閣府に登録した制度を指す。
  • ※44 研究機関において公募により競争的に獲得される経費のうち、「研究」に係るもの。

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-- 登録:令和元年07月 --