身近な科学技術の成果

 第2部においては、平成29年度に科学技術の振興に関して講じられた施策について報告した。
 本稿では、私たちの暮らしの中で、身近に活かされている科学技術の成果に着目して、「身近な科学技術の成果」と題して紹介する。
 紹介する成果は、国立研究開発法人や大学、政府等と連携した民間企業の研究開発成果から、国民の身近で活用されているもの又は近く活用されることが予想(期待)されるものを各府省庁から募集し選定。
 本年は、以下の10個のテーマを選定した。

  1. 宇宙線・テラヘルツ波を活用した非破壊観測
  2. 介護現場のニーズに応える製品開発
  3. 新たな品種改良技術
  4. 見ながら治すナノ薬剤送達システム
  5. スパコン・AIを用いたインフラ整備
  6. 活(い)き活(い)きと生きるための靴の開発や提案
  7. より安全なセキュリティ技術
  8. 地質情報のいろいろな利活用
  9. 海底地震観測網の鉄道分野での活用
  10. より精密な単位の定義に向けて

 紹介する各成果の背景には過去の数々の科学技術の進歩がある。19、20世紀に生まれた成果まで振り返って具体例を挙げてみると、テーマ1、2、3、4は放射線の電離作用や透過作用を活用したもので、この放射線の特性は19世紀後半に発見されたものである。テーマ5、6、7はAIなどのITを活用したもので、ITに必須の電気に関する科学的進展も19世紀後半に見られた。テーマ8でも19世紀後半に日本初の地質図が作成されており、テーマ9では20世紀後半に研究が進んだ光ファイバーが活用されている。テーマ10では量子力学の考え方が多く活用されており、この学問は20世紀に大きな進展があった。
 以上のように、科学技術の進歩は過去からの積み重ねであり、現在行われている研究が100年、200年先の人類を豊かにする可能性がある。

身近に役立つ研究開発の成果1(宇宙線・テラヘルツ波による非破壊観測技術)

宇宙線やテラヘルツ波を活用した非破壊観測

成果に関わる大学・公的機関等
 名古屋大学、科学技術振興機構(JST)、情報通信研究機構

 内部に未知の巨大空間を発見することができたエジプト・クフ王のピラミッド。観測データを基にして作成した新空間の位置を示す想像図 ジョット作「バディア祭壇画(1300年、イタリアフィレンツェのウフィッツィ美術館所蔵)」。テラヘルツ波を用いた絵画の非破壊観察により観察した結果。断面から中世の技法であることを発見

画像提供:名古屋大学(スキャンピラミッド)、情報通信研究機構

 左図:内部に未知の巨大空間を発見することができたエジプト・クフ王のピラミッド。観測データを基にして作成した新空間の位置を示す想像図
 右図:ジョット作「バディア祭壇画(1300年、イタリアフィレンツェのウフィッツィ美術館所蔵)」。テラヘルツ波を用いた絵画の非破壊観察により観察した結果。断面から中世の技法であることを発見

  • 名古屋大学では、私たちの体を絶えず通過しているミューオン(宇宙線によって大気で生成される)を活用して、原子核乾板を検出器として物体の中を透視するミューオンラジオグラフィ技術1を開発しました。
  • 2017年には、名古屋大学の研究で、この技術によりエジプト・クフ王のピラミッドの中心部に未知の巨大空間が発見されました。この技術は大型社会インフラ点検技術への応用も期待されます。
  • 2009年には情報通信研究機構(NICT)で、テラヘルツ波技術により初期ルネッサンス絵画の技法を世界で初めて解明しています2。X線等の既存の透過撮影では不可能だった石膏下地を含む3次元の内部構造を非破壊で観察できる技術です。
  • これら放射線による非破壊観測技術は人類の文化や歴史を読み解くのに貢献しています。

成果についての詳しい情報

  1. ミューオンラジオグラフィ技術…名古屋大学がJST先端計測分析技術・機器開発プログラムの一環として平成23年~平成27年に開発。透視したい構造物を貫通したミューオンの数分布を把握することにより、構造物内部の密度分布が分かる。ミューオンは私たちの手のひらでは1秒に一つは通過している。
  2. 初期ルネッサンス絵画…テラヘルツ波とは概ね0.1テラHz~10テラHzの周波数帯の電磁波。今回調査された絵画は、石膏下地が2層ある中世の技法(絵が祭壇の装飾という扱いだった時代の技法)を用いながら、表現としてはルネッサンスの特徴である自然で人間的な作品であることから、ルネッサンスの夜明けを示す作品であることが分かった。

身近に役立つ研究開発の成果2(現場のニーズに応える産学連携研究)

介護現場のニーズに応える製品開発

成果に関わる大学・公的機関等
鳥取大学、大王製紙株式会社、株式会社ニシウラ 

 拡散ポケットを設けたダブルブロックタイプのおむつ製品 すっぽりポケット&吸収引き込みゾーンを設けたおむつ製品

画像提供:大王製紙株式会社

 左図:拡散ポケットを設けたダブルブロックタイプのおむつ製品
 右図:すっぽりポケット&吸収引き込みゾーンを設けたおむつ製品

  • 介護現場では、特に男性の紙おむつ利用者において、尿の横・前漏れが頻繁に起こるという問題や夜間の寝返りなどの男性局部特有の動きによる尿漏れの問題がありました。これらは介護される側、する側どちらにとっても困る問題となっていました。
  • 鳥取大学、大王製紙株式会社と株式会社ニシウラは平成22年から、この現場の問題を解決するために、共同で紙おむつの開発に取り組み、男性の局部がダムのように尿の拡散を妨げ、尿漏れにつながっていることを発見し、X線CTスキャンでも実証をしました。そして、平成26年に尿をスピーディーに拡散させる紙おむつを製品化しています1。
  • また、鳥取大学、大王製紙株式会社と株式会社ニシウラの共同研究により、内側のギャザーとポケットで局部をきちんと収める構造のおむつの開発を行い、平成28年に製品化しています2。
  • このように現場のニーズに応える研究開発が、変化する社会課題解決に貢献しています。

成果についての詳しい情報

  1. 拡散ポケットを用いたダブルブロックタイプの紙おむつ…鳥取大学と大王製紙株式会社や介護の専門知識を持つ看護師や介護用品を販売する株式会社ニシウラが共同で、平成22年から現場のニーズを基に開発に取り組んだ。この成果は定量的にも検証が行われた、また世界初X線CTスキャンを用いた尿の拡散の検証を行った。
  2. すっぽりポケット&吸収引き込みゾーンを設けた紙おむつ…鳥取大学、大王製紙株式会社と株式会社ニシウラによる共同開発で、平成28年に製品化されている。

身近に役立つ研究開発の成果3(新たな品種改良技術)

新たな品種改良技術

成果に関わる大学・公的機関等
 農業・食品産業技術総合研究機構、量子科学技術研究開発機構、東京理科大学、愛知県、サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社

 •二つの導入遺伝子により構造を改変したアントシアニンと元々キクに存在する無色の物質(フラボン)が相互作用して青くなる。(左図) •愛知県と量研が共同で開発した珍しい花びらを持つ輪ぎく。(右写真)(プレス発表資料より、愛知県農業総合試験場、量子科学技術研究開発機構、平成29年11月24日)突然変異を人工的に起こせるイオンビームを用いた。

  • 二つの導入遺伝子により構造を改変したアントシアニンと元々キクに存在する無色の物質(フラボン)が相互作用して青くなる。(左図)(画像提供:農研機構)
  • 愛知県と量研が共同で開発した珍しい花びらを持つ輪ぎく。(右写真)(プレス発表資料より、愛知県農業総合試験場、量子科学技術研究開発機構、平成29年11月24日)突然変異を人工的に起こせるイオンビームを用いた。(右図)
  • 19世紀のメンデルの法則の発見以降、品種改良は、より優れた形質をもつ個体や種間での交配や、有利な形質をもつ突然変異個体を育てることにより行われてきました。
  • 平成29年に農研機構はサントリーグローバルイノベーションセンター株式会社と共同で、遺伝子組換え技術を用いて色素の生合成に関わる遺伝子を導入することにより、従来の品種改良法では困難であった青いキクの開発に成功しました1。
  • また、量研ではイオンビームを照射して人工的に突然変異を起こし、品種改良を加速する育種技術2を開発しました。この技術を用い、突然変異を起こしてできたキクの中から愛知県農業総合試験場が選抜した3品種を、平成29年に品種登録出願しました。
  • これらは祝い事で活用が期待できる華やかな雰囲気の新たな品種の開発に成功したことに加え、生物の進化を実験的に再現したと考えることができ、進化のメカニズム解明に貢献する2と言えます。

成果についての詳しい情報

  1. キクに青い花色を付与する技術…カンパニュラ由来のフラボノイド3′,5′-水酸化酵素とチョウマメ由来のアントシアニン3′,5′-グルコシル基転移酵素の遺伝子を導入して青色化に成功。既に、花形の異なる様々なタイプ(デコラ咲き、ポンポン咲きなど)の青いキクを作出。実用化に向けてキク野生種と交雑しない青いキクの開発を実施中。
  2. イオンビームが遺伝子をがらりと変えることを実証…平成29年に量研と東京理科大学は、モデル植物であるシロイヌナズナに炭素イオンビームを照射することで、染色体構造が劇的に変化し、正常に成長して種子もできるが、元の植物とは交配しにくくなり、別の種のような性質を持つことを初めて実証した。

身近に役立つ研究開発の成果4(見ながら治すナノ薬剤送達システム)

見ながら治すナノ薬剤送達システム

成果に関わる大学・公的機関等
 量子科学技術研究開発機構、大阪府立大学

 「みる」と「治す」など五つの機能を持つナノ粒子(左上)。加温するとがん内部で薬を放出、その様子をMRIで観察できます。お風呂の温度である42.5℃で10分加温すると、薬剤ががん患部に広がり、その信号が見えます(右)。

画像提供:量研

 「みる」と「治す」など五つの機能を持つナノ粒子(左上)。加温するとがん内部で薬を放出、その様子をMRIで観察できます。お風呂の温度である42.5℃で10分加温すると、薬剤ががん患部に広がり、その信号が見えます(右)。

  • 日本人の死亡原因の1位である「がん」の治療方法として、手術による摘出や化学療法(抗がん剤)、放射線による治療などがあります。他の方法と併用することも含め多くの場合で活用される化学療法は、副作用ががん患者の大きな負担になっています。
  • 量研と大阪府大では平成29年、に多機能ナノ粒子1を用い、「みる」と「治す」を同時に行う「ナノ薬剤送達治療システム」を開発しました。腫瘍部分に薬剤が集まり放出される様子をMRIによって高精度に可視化できるため、副作用を軽減し治癒効果を向上させることができます。
  • しかしこの技術では、大きくなったがんに対しては深部に到達できず、効果が小さい場合があります。そこで、同研究チームは大腸がん移植モデルマウスに重粒子線治療と併用2することで高い治療効果を確認しました。
  • 本成果は患者さんの負担を軽減し、より効果的ながん治療の実現を目指す一歩です。

成果についての詳しい情報

  1. 多機能ナノ粒子…平成29年に量研と大阪府大が共同開発した多機能ナノ粒子(リポソーム)。次の機能がある。
    • 「集積」:薬剤をがんに集積させることで、副作用は小さくする。
    • 「可視化」:一部のがんは薬が届かなくなるバリヤーを持つ。MRIでがんと薬を見ることで、がんの特徴を確認できる。
    • 「トリガー放出」:薬を放出させたい場所だけを加温することで、副作用を下げられます。
    • 「センサー」:薬剤が出るとMRI信号が増大する。
    • 「がん治療効果」:局所で高濃度放出し低分子が浸透することで効果増大。
  2. 重粒子線治療との併用…各がん治療法には、得意分野と苦手分野がある。このナノ粒子は、大きくなりすぎたがんを不得意とし、重粒子線治療は転移がんを不得意とする。これらの場合ナノ粒子による治療と重粒子線治療の併用が効果的となる。現在はMRIとナノ技術を融合し、多様なセンサーや治療技術の開発が進められている。

身近に役立つ研究開発の成果5(スパコンやAIを用いたインフラ整備)

スパコン・AIを用いたインフラ整備

成果に関わる大学・公的機関等
 神戸大学、東北大学、理化学研究所、阪神高速道路株式会社、内閣府、国土交通省

 左図:内閣府・東北大で開発した球殻ドローン 右図:スーパーコンピュータ「京」を用いた高速道路の長大橋の阪神・淡路大震災による損傷状況のシミュレーション

画像提供:東北大学画像提供:阪神高速道路株式会社

 左図:内閣府・東北大で開発した球殻ドローン
 右図:スーパーコンピュータ「京」を用いた高速道路の長大橋の阪神・淡路大震災による損傷状況のシミュレーション

  • 老朽化しつつあるインフラの安全性の確保・減災対策の強化が現在課題となっています。
  • 理化学研究所革新知能統合研究センターでは、インフラの中でも特に複雑な構造体である「橋梁(きょうりょう)」の点検に、昨今注目されている人工知能技術を適応しています。同センターは内閣府や東北大などと連携し、人工知能技術を活用した球殻ドローンを開発しています。深層学習を適用し、ドローンに搭載したカメラの画像から橋梁の損傷検出の自動化、機体位置推定による操縦の自動化を試みています1。
  • また、神戸大学と阪神高速道路株式会社はスパコン「京」を活用し、複雑な構造を持つ長大橋の挙動をシミュレーション2し、阪神・淡路大震災での損傷状況を再現。橋の部品の強度やねばりを適切かつ合理的に設定することが可能となりました。
  • これらの技術により、全国に多くある橋梁(きょうりょう)の安全性がより明確になり、私たちの暮らしに欠かせないインフラの維持管理、今後も起こりうる巨大地震への備えに貢献できます。

成果についての詳しい情報

  1. 内閣府・東北大及び理化学研究所革新知能統合研究センター(AIPセンター)の共同研究…内閣府・東北大と連携しながら、AIPセンターの人工知能技術を適用。球殻ドローンの操縦と点検を自動化し、コスト削減・高精度の点検の実現を目指す。
  2. 巨大地震時における阪神高速長大橋の大規模モデルの高精度化…平成28年に阪神高速道路株式会社が「京」の産業利用課題としてシミュレーションを実施。本課題の成果をもとに神戸大学等と連携し、阪神高速道路株式会社の全路線を対象として、大規模な地震が発生した際の影響を広域的にシミュレーションする試みが始まっている。

身近に役立つ研究開発の成果6(活き活きと生きるための靴の開発や提案)

活き活きと生きるための靴の開発や提案

成果に関わる大学・公的機関等
 岡山大学、千葉大学,岡本製甲株式会社,株式会社フリックフィット

 左図:足袋型ウォーキングシューズ「ラフィート」 右図:足とシューズの3D計測データをAIを活用してマッチングさせる。

画像提供:左:株式会社岡本製甲、右:株式会社フリックフィット

 左図:足袋型ウォーキングシューズ「ラフィート」 
 右図:足とシューズの3D計測データをAIを活用してマッチングさせる。

  • 日本において西洋靴が履かれるようになったのは、江戸末期から明治時代初期頃と言われており、今では私たちの日常生活の中で欠かせないものとなっています。
  • この普段履いている靴。足に合わない靴で生活や運動をしていると、動きにくかったり、外反母趾になるなど、足の形を変形させたり、また、思わぬケガに繋がったりします。
  • 岡山大学と岡本製甲株式会社は平成18年から歩行分析装置を用い、足袋型シューズのスポーツ医学的評価を実施。翌年には野球用シューズ「バルタン-X」が完成しました1。その後も履き心地や靴底の厚さの改良が行われ、より軽くて安定した歩行が可能なウォーキングシューズ「ラフィート」が誕生しました2。外反母趾抑成効果が期待されるとともに、その安定性から高齢者のウォーキングシューズとしても最適です。
  • 株式会社フリックフィットと千葉大学は平成27年から共同研究を行い、足と靴の三次元画像計測及びデータ処理手法を検討し、平成29年には独自のアルゴリズムを開発3。高精度の3Dスキャナーによる足とシューズの計測データをマッチングさせることで、一瞬で一人一人の足にぴったりの靴を提案できるようになりました。

成果についての詳しい情報

  1. 足袋型シューズ…歩行特性の実験を行ったところ、通常のウォーキングシューズよりも素足に近い感覚で歩け、安定性や地面を蹴る力、瞬発力が強化されることが分かった。
  2. 外反母趾抑制正効果…親指を単独で靴先に収容でき、足の指の付け根の関節が自由に動かせるため、母趾の外反が抑制されるとともに、足先に負荷がかからないため、外反母趾の予防及び進行の抑制効果が期待される。
  3. 3DスキャンとAIの活用技術…株式会社フリックフィットが平成27年から3D研究の先駆者である千葉大学融合科学研究科の眞鍋佳嗣教授と共同研究を行い開発。足にぴったりの靴を提案する上で重要である靴の内寸を計測することは実現されていなかったが、特殊技術を開発することで問題を解決した。

身近に役立つ研究開発の成果7(セキュリティ技術)

より安全なセキュリティ技術

成果に関わる大学・公的機関等
 総務省、情報通信研究機構

 図:NICTERで観測される不正な通信

画像提供:情報通信研究機構

 図:NICTERで観測される不正な通信

  • 私たちの情報や資産は、様々なセキュリティ技術によって守られています。Society 5.0の実現に向けて、より安全なデータ利活用を進めるためにセキュリティ技術を向上させることや、巧妙化・複合化するサイバー攻撃の傾向を把握することは重要です。
  • 情報通信研究機構(NICT)は、医療等の分野において、プライバシーを保護した状態でのデータマイニング1に応用することが可能な、暗号化した状態で演算処理等を行うことができる準同型暗号方式2を平成27年に開発しました。この技術等を活用することにより、例えば、多くの被験者から収集したデータを、プライバシーを保護したまま解析することができ、新たな診療方法や治療法の早期かつ効率的な発見に繋がることが期待されます。
  • また、情報通信研究機構はインターネット上で発生しているサイバー攻撃の大局的な傾向把握を行うため、平成17年からNICTER3での観測を行っており、近年、サイバー攻撃に関する通信が増加傾向であることが分かっています(図参照)。NICTERが地方公共団体のネットワークからの不審な通信を検知した場合、希望する地方公共団体には、NICTERの観測網に基づいたアラートシステム(DAEDALUS)によるアラートを無償提供しています。
  • これらの成果は、より安全性の高いセキュリティを実現し、私たちの重要な情報やプライバシー等を守ることに貢献しています。なお、近年、生体情報等を用いたセキュアな認証方式の実現に向けた様々な企業等による取組等も進んでいます。

成果についての詳しい情報

  1. データマイニング…Web上のショッピングサイトでの閲覧・購入履歴、交通システムにおける乗降データ、遺伝子情報と疾患の関係等、人が処理できないほど膨大なデータからコンピュータを用いて有用な情報を引き出すこと(※1)。
  2. 準同型暗号方式…暗号化されたデータに対して加算と乗算を行うことができる技術。加算・乗算を組み合わせることで、さまざまな計算を暗号化したまま行えるため、プライバシーを保護したままのデータマイニングへの応用が期待されている。従来は暗号の鍵長を変更する際には、一度復号してから再び暗号化するか、暗号文を分割してさらに暗号化するかであったが、前者はデータ漏えいの可能性、後者はデータ処理が不可能になるという課題があった(※1)。
  3. NICTER…未使用のIPアドレスに到達する不正な通信をリアルタイムに可視化し観測するシステム。2017 年1月1日から12月31日までの1年間の観測結果によれば、サイバー攻撃に関連する通信が前年に比べて約17%増加し、そのうち54%以上の通信がIoT機器を狙った攻撃となっている(※2)。
    • (※1)出典:NICTプレスリリース「暗号化状態でセキュリティレベルの更新と演算の両方ができる準同型暗号方式を開発」(平成27年1月19日)
    • (※2)出典:NICTプレスリリース「NICTER観測レポート2017の公開」(平成30年2月27日)

身近に役立つ研究開発の成果8(地質情報の活用)

地質情報のいろいろな利活用

成果に関わる大学・公的機関等
 産業技術総合研究所、株式会社ジオネット・オンライン

 画像:地質図Navi1

画像提供:産業技術総合研究所

 画像:地質図Navi1

  • 私たちが普段暮らしている地面の下はどうなっているでしょうか。地面の下の様々な地質情報が、産業技術総合研究所 地質調査総合センターによって整備され、紙やウェブ上で公開されています。
  • 地質情報とは、地下に分布する地層・岩石の特徴、地質時代・分布などの地質構造を表現したもので、「土木・建設」、「防災」、「資源開発」、「地球環境対策」などにとって欠くことのできない基礎資料で、様々な分野で利用されています。
  • 公的機関では、地理情報等のベースマップ、防災に関わるハザードマップや地震動予測、放射性廃棄物の地層処分選定地を検討する上での基礎情報として活用されています2。
  • 民間では、活断層データベースや地質図等から得られる情報を基に、企業の施設立地計画や不動産評価等に利用されています3。
  • また、平成21年から25年に実施した香川県観音寺地域の現地調査と岩石の年代測定の結果をまとめた地質図(平成29年刊行)によって、香川県が小麦栽培に適した土地であったことが分かり、うどん文化が発展した背景を推測することできました4。

成果についての詳しい情報

  1. 地質情報の発信「地質図Navi」…産業技術総合研究所 地質調査総合センターから配信される数多くの地質図データを表示するとともに、活断層や第四紀火山等の地質情報を地質図と合わせて表示可能な地質情報閲覧システム。
  2. 公的機関の利活用「科学的特性マップ」…平成29年に経済産業省資源エネルギー庁が公表。地層処分に関する地域の科学的特性を、既存のデータに基づき一定の要件・基準に従って客観的に整理し、全国地図の形で示したもの。
  3. 民間の利活用「不動産基本情報レポート」など…株式会社ジオネット・オンラインが提供するサービスで、産業技術総合研究所の地質情報等を基に、任意の住所を指定するだけでその地点の地質や地震等のジオ情報の報告書を作成。
  4. 香川をつくった1億年の歴史…平成29年に香川県初となる5万分の1地質図幅「観音寺」を刊行。吉野川の流路の変更や、讃岐山脈の形成の歴史などが分かった。防災・減災計画を立てる際などに利活用されることが期待される。

身近に役立つ研究開発の成果9(地震観測網の活用)

海底地震観測網の鉄道分野での活用

成果に関わる大学・公的機関等
 防災科学技術研究所

 防災科学技術研究所は2つの海底地震津波観測網(左図)1を運用しています。海底地震観測網データの地震時における新幹線運行制御への活用(右図)2が開始されました。

画像提供:防災科学技術研究所

 防災科学技術研究所は2つの海底地震津波観測網(左図)1を運用しています。
 海底地震観測網データの地震時における新幹線運行制御への活用(右図)2が開始されました。

  • 海域で発生する巨大地震は我が国に甚大な被害をもたらしており、平成23年東北地方太平洋沖地震に引き続き危(き)惧(ぐ)される東日本太平洋沖の地震や南海トラフ巨大地震への対策は、我が国にとって重要課題の一つです。防災科学技術研究所では、これらの海域に海底地震津波観測網1を整備して運用しています。
  • 鉄道事業者は新幹線の安全確保のために、鉄道沿線のほか海岸や内陸部等の陸域に地震計を配置し、地震を早期検知し緊急停止する地震防災システムを導入して、大きな揺れが到達する前に緊急のブレーキ動作を行います。
  • 海底地震津波観測網の地震計によって震源域直上でいち早く捉えた観測データを鉄道事業者が活用2することにより、これまでより最大10~30秒早く地震発生を検知して列車の緊急停止が可能となり、より一層の安全性向上への取組が進んでいます。

成果についての詳しい情報

  1. 海底地震津波観測網…防災科学技術研究所は、海域で発生する地震・津波を広域かつ多点でリアルタイムに観測するため、平成29年度から東日本太平洋沖を中心とする日本海溝沿いの日本海溝海底地震津波観測網(S-net)と南海トラフ巨大地震の想定震源域の地震・津波観測監視システム(DONET)の本格運用を開始しました。
  2. 観測データの活用…房総沖のS-net(S1)データの実配信が開始し、東日本旅客鉄道株式会社が平成29年11月よりS-net(S1)データの活用を開始しており、今後データ配信する海域を順次拡大予定です。DONETデータは平成30年度に試験配信開始予定で、東海旅客鉄道株式会社と西日本旅客鉄道株式会社が平成31年度からの活用を目指しています。

身近に役立つ研究開発の成果10(精密な物理量の基準)

より精密な単位の定義に向けて

成果に関わる大学・公的機関等
 産業技術総合研究所東京大学、科学技術振興機構、理化学研究所

 身近な物理量の単位

 画像:身近な物理量の単位

  • 重さ「キログラム」、時間「秒」、長さ「メートル」などの物理量の単位は、それぞれ基準となるものが決められ定義されています。例えば昔から人類は月の満ち欠けなどで暦を作り、細分化して時・分・秒を定義していました。
  • 「キログラム」は現在世界共通で「国際キログラム原器」で定義されていますが、2019年より「プランク定数」を用いた定義となる予定です。平成29年に産業技術総合研究所は、プランク定数を世界最高レベルの精度で測定1することに成功し、「キログラム」のおよそ130年ぶりとなる定義改定の実現に向けた国際活動に大きく貢献しました。
  • また、東京大学の香取教授が発明したのは、「秒」の基準となり得る光格子時計2です。現在世界基準となっているセシウム原子時計の性能を100倍近く凌駕(りょうが)する精度を達成しています。
  • 「メートル」は昭和58年から光速度によって定義されています3。平成21年に、産業技術総合研究所は光周波数コム装置4を用いて、定義に忠実な測定方法による長さの標準を確立しました。この方法の精度は従来のおよそ300倍も高いものです。
  • 単位の定義の精度を上げるための研究開発は、「キログラム」であれば医薬品開発等に、「メートル」であれば立体形状や距離の測定に、「秒」であればわずかな標高の違いによる時間のずれを測定可能になることで、測地学への貢献が期待されます。

成果についての詳しい情報

  1. 世界最高レベルでのプランク定数測定…シリコン単結晶球体の形状などから高精度にアボガドロ定数を測定し、国際キログラム原器の質量の長期安定性を凌ぐ世界最高レベルの精度でプランク定数を導出することに成功。
  2. 光格子時計…平成13年に香取教授が理論を発表。複数の原子をレーザー光によって真空空間中に作り出した格子状のポケットにそれぞれ閉じ込め、絶対零度近くまで冷却する。冷却した複数の原子が吸収する光の振動を同時にカウントすることで「秒」を高精度で定義することが可能。キーワードは魔法波長やレーザー冷却。
  3. 光速度によるメートルの定義…1「メートル」は1秒の299 792 458分の1の時間に光が真空中を伝わる行程の長さと定義されている。
  4. 光周波数コム…モード同期レーザーと呼ばれる超短パルスレーザーから出力される、広帯域かつ櫛状のスペクトルを持つ光のこと。光周波数の絶対計測に利用する方法が考案され、2005年のノーベル物理学賞に輝いている。

お問合せ先

科学技術・学術政策局企画評価課

(科学技術・学術政策局企画評価課)

-- 登録:令和元年09月 --