第6章 科学技術イノベーションと社会との関係深化

 未来の社会変革や経済・社会的な課題への対応を図るには、多様なステークホルダー間の対話と協働が必要である。そのため、国、大学、公的研究機関及び科学館等が中心となり共創(きょうそう)の場を設けるとともに、研究の公共性を確保するなどの取組を推進することとしている。

第1節 共創的科学技術イノベーションの推進

1 ステークホルダーによる対話・協働

 国際的なコミュニケーションの場の定着の促進を目指し、国際的に科学技術をリードする産学官の関係者が社会の幅広いステークホルダーの参画を得て、将来に向けての科学技術の在り方を議論する国際集会等の開催を支援する取組として、科学技術振興機構において、国際科学技術協力基盤整備事業「科学技術外交の展開に資する国際政策対話の促進」を実施している。

2 共創に向けた各ステークホルダーの取組

(1)公的機関等の取組

 文部科学省は、平成29年4月17日から23日まで、試験研究機関、地方公共団体など関連機関の協力を得て第58回「科学技術週間」を実施した。同週間中、全国各地の関連機関において、施設の一般公開や実験工作教室、講演会の開催や、科学技術分野の文部科学大臣表彰受賞者等の表彰式などの各種行事が実施されるとともに、「文部科学省情報ひろば」においては、研究等の過程や成果などで発生した美しく感動的な画像を一般の方々に紹介する「科学技術の『美』パネル展」が開催された。
 農林水産省は、生産者・消費者・マスコミ等を対象に、農林水産分野の先端技術の研究開発に関する積極的な情報提供や意見交換を行うとともに、研究者を出前講座等に派遣するアウトリーチ活動を行っている。また、所管する国立研究開発法人は、年間を通して一般公開や市民講座などを実施し、国民との双方向のコミュニケーション等を意識した研究活動の紹介や成果の展示等の普及啓発に努めている。
 宇宙航空研究開発機構は、青少年の人材育成の一環として、「コズミックカレッジ」や連携授業、セミナーなど宇宙を素材とした様々な教育支援活動等を行っている。
 理化学研究所は、一般市民に向けたイベントなどの開催だけでなく、より多くの国民への浸透を図るために最新の研究成果を紹介する冊子の作成や動画などをウェブサイト上で公開している。また、本を通じ科学の面白さ、深さ、広さを紹介する取組として「科学道100冊」「科学道100冊ジュニア」を全国の小中高校、公共図書館や書店等に展開するなど、様々なアウトリーチ活動を行っている。
 物質・材料研究機構は、一般市民及び未来の科学者たる学生・若者に向けたアピールとして、「まてりある’s eye」と題した映像を動画サイトに公開し、研究紹介に積極的に取り組むなど、科学に対する理解と興味を広める活動に特に力を注いでいる。
 産業技術総合研究所は、展示施設を常設し、また、施設の一般公開を全国10拠点で行うとともに、各種イベントへの出展や実験教室・出前講座など、科学技術コミュニケーション事業を積極的に推進している。さらに、最新の研究成果をわかりやすく説明する動画を作成・公開し、研究成果の情報発信に努めている。
 そのほか、各大学や公的研究機関は、研究成果について広く国民に対して情報発信する取組などを行っている。
 なお、総合科学技術・イノベーション会議は、1件当たり年間3,000万円以上の公的研究費の配分を受ける研究者等に対して、研究活動の内容や成果について国民との対話を行う活動を積極的に行うよう促している。

(2)科学館・科学博物館等の活動の充実

 科学技術振興機構は、科学技術イノベーションと社会との問題について、様々なステークホルダーが双方向で対話・協働し、それらを政策形成や知識創造、社会実装等へと結びつける「共創(きょうそう)」を推進している。その活動の一環として、日本最大級のオープンフォーラム「サイエンスアゴラ」を開催している他、地域における共創(きょうそう)活動を推進するため地方公共団体等が行う対話・協働活動を支援している。
 特に日本科学未来館においては、先端の科学技術と社会との関わりを来館者と共に考える活動を展開しており、展示やイベント等を通じて、研究者等と国民の双方向のコミュニケーション活動を推進するとともに、我が国の科学技術コミュニケーション活動の中核拠点として、全国各地域の科学館・学校等との連携を進めている。
 国立科学博物館は、青少年から成人まで幅広い世代に自然や科学の面白さを伝え、共に考える機会を提供する展示や利用者の特性に応じた学習支援活動を実施するとともに、展示を活用し、コミュニケーションを重視した科学リテラシー涵養(かんよう)活動のモデル的事業の普及、学校と博物館が効果的に連携できる学習支援活動の普及、自然科学系博物館の学芸員向け研修等を行っている。

(3)日本学術会議や学協会における取組

 日本学術会議は、学術の成果を国民に還元するための活動の一環として学術フォーラムを開催しており、平成29年度は、「危機に瀕(ひん)する学術情報の現状とその将来」、「放射性物質の移動の計測と予測―あのとき・いま・これからの安心・安全」、「今後の我が国の大学のあり方を考える」など広範囲なテーマで、計6回開催した。また、平成29年度はサイエンスカフェを計13回開催した。
 大学などの研究者を中心に自主的に組織された学協会は、研究組織を超えた人的交流や研究評価の場として重要な役割を果たしており、最新の研究成果を発信する研究集会などの開催や学会誌の刊行などを通じて、学術研究の発展に大きく寄与している。
 文部科学省は、学協会による国際会議やシンポジウムの開催及び国際情報発信力を強化する取組などに対して、科学研究費助成事業「研究成果公開促進費」による助成を行っている。

(4)リスクコミュニケーションの推進

文部科学省は、「リスクコミュニケーションの推進方策」(平成26年3月27日文部科学省 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 安全・安心科学技術及び社会連携委員会)を踏まえ、平成26年度より「リスクコミュニケーションのモデル形成事業」を実施している。平成28年度に3機関の取組を採択し、合わせて5機関を支援している(平成30年3月現在)。
 食品の安全性に関するリスクコミュニケーションは、消費者庁、食品安全委員会、厚生労働省、農林水産省等の関係府省が連携し、その取組を推進している。本取組は、平成15年に制定された「食品安全基本法」(平成15年法律第48号)に、国の責務として位置付けられており、輸入食品の安全性、食品に残留する農薬等のほか、食品添加物の安全性、食中毒防止対策、食品の安全を守る取組、健康食品の安全性などのテーマについて意見交換会等を開催している。特に、平成23年度以降、東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、食品中の放射性物質対策に関し、消費者との意見交換会を開催する等、積極的にリスクコミュニケーションに取り組んでいる。

3 政策形成への科学的助言

 文部科学省は、客観的根拠(エビデンス)に基づいた合理的なプロセスによる科学技術イノベーション政策の形成の実現を目指し、「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』推進事業」を実施している。本事業では、「科学技術イノベーション政策」を科学的に進めるための「科学」を深化させる研究人材や、「科学技術イノベーション政策」の社会での実装を支える人材の育成を行う拠点(大学)に対して支援を行うとともに、これらの複数の拠点をネットワークで結んで、我が国全体で体系的な人材育成が可能となる仕組みを構築している。
 また、政策研究大学院大学(総合拠点)に設置した「科学技術イノベーション政策研究センター(SciREXセンター)」を中心として、東京大学、一橋大学、大阪大学、京都大学及び九州大学(領域開拓拠点)との連携協力・協働の下に中核的拠点機能を整備し、政府研究開発投資の経済的・社会的波及効果に関する調査研究など、エビデンスに基づく政策の実践のための指標、手法等の開発を行っている。
 科学技術・学術政策研究所は、科学技術イノベーションに関する政策形成及び調査・分析・研究に活用するデータ等を体系的かつ継続的に整備・蓄積していくためのデータ・情報基盤の構築を行っている。当該基盤を活用した調査研究の成果は、内閣府及び文部科学省の各種政策審議会等に提供・活用されている。
 科学技術振興機構 社会技術研究開発センターは、社会における課題とその解決に必要な科学技術の現状と可能性などを、多面的な視点から把握・分析し、それらのエビデンスに基づき、合理的なプロセスにより政策を形成するための手法や指標などの研究開発を公募事業によって支援している(平成28年度より第2期)。平成29年度は、平成28年度までに採択された8件に加え、新たに採択された4件について研究開発と成果の政策実装を推進した。
 また、科学技術振興機構 研究開発戦略センターは、国内外の科学技術イノベーションの動向及びそれらに関する政策動向の把握・俯瞰(ふかん)を行い、科学技術イノベーション政策や研究開発戦略を提言している。

4 倫理的・法制度的・社会的取組

(1)ライフサイエンス研究の体制整備に係る取組

ア 生命倫理に対する取組

 近年のライフサイエンスの急速な発展は、人類の福利向上に大きく貢献する一方、人の尊厳や人権に関わるような生命倫理の課題を生じさせる可能性があり、関係府省において、必要な規制等を行っている。
 クローン技術等を用いる研究については、「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」(平成12年法律第146号)等に基づき、その適正な実施の確保を図っている。平成29年度には、動物の体内でヒトの臓器を作る研究を容認すること等について、文部科学省 科学技術・学術審議会 生命倫理・安全部会 特定胚等研究専門委員会において検討し、「動物性集合胚を用いた研究の取扱いについて」(平成30年3月30日)を取りまとめた。また、人を対象とする医学系研究やヒトES細胞を用いる研究については、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(平成26年文部科学省・厚生労働省告示第3号)、「ヒトES細胞の樹立に関する指針」(平成26年文部科学省・厚生労働省告示第2号)等に基づき、適正な実施の確保を図っている。

イ ライフサイエンスにおける安全性の確保への取組

 遺伝子組換え技術は、自然界に存在しない新しい遺伝子の組合せをもたらす技術であることから、当該技術の利用により得られた生物については、生物の多様性を確保するため、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(平成15年法律第97号)に基づき必要な規制を行っている。

ウ 動物実験等の適切な実施に対する取組

 「動物の愛護及び管理に関する法律」(昭和48年法律第105号)において、動物実験等については、3R(※1)の概念が明記されている。同法に基づき、実験動物については、「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」(平成18年環境省告示第88号)を定めている。文部科学省、厚生労働省、農林水産省は、上記の基準も踏まえ、各省が所管する研究機関等に対して統一的な内容で基本指針(※2)を策定し、本指針に基づき動物実験等が適正に実施されるよう指導を行っている。


  • ※1 代替法の活用:Replacement、使用数の削減:Reduction、苦痛の軽減:Refinement
  • ※2 「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」(平成18年文部科学省告示第71号)、「厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針」(厚生労働省:平成18年厚生科学課長通知)、「農林水産省の所管する研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」(農林水産省:平成18年農林水産技術会議事務局長通知)

(2)人工知能等の研究の体制整備に係る取組

 総務省では、平成28年2月から6月まで開催した「AI(※3)ネットワーク化検討会議」を発展的に改組する形で、同年10月に「AIネットワーク社会推進会議」を立ち上げ、AIネットワーク化の推進に向けた社会的・経済的・倫理的・法的課題を総合的に検討している。平成29年7月に、AIの開発者が留意することが期待される事項について、国際的な議論の用に供するための「国際的な議論のためのAI開発ガイドライン案」等を含む「報告書2017」を取りまとめた。その成果を踏まえ、G7やOECD(※4)等の場において、AIに関する国際的な議論を推進している。


  • ※3 Artifical Intelligence:人口知能
  • ※4 Organisation for Economic Cooperation and Development:経済協力開発機構

第2節 研究の公正性の確保

 研究者が社会の多様なステークホルダーとの信頼関係を構築するためには、研究の公正性の確保が前提であり、研究不正行為に対する不断の対応が科学技術イノベーションへの社会的な信頼や負託に応え、科学技術イノベーションの推進力を向上させるものであることを、研究者及び大学等の研究機関は十分に認識する必要がある。
 研究不正の問題が相次いでいることを踏まえ、文部科学省では、「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(平成26年8月26日文部科学大臣決定)に基づく履行状況調査を実施し、調査結果を踏まえて指導するなど、研究機関における取組の徹底を図るとともに、日本学術振興会、科学技術振興機構及び日本医療研究開発機構と連携し、研究機関による研究倫理教育の実施等を支援するなど、公正な研究活動を推進するための取組を行っている。
 研究費の不正使用については、「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」(平成26年2月18日改正。文部科学大臣決定)等の指針にのっとり履行状況調査を実施し体制整備に努めているほか、関係省庁は、関係機関への取組要請を行っている。
 また、不正行為等に関与した者等に対する競争的資金への応募資格の制限等や不正事案の発生を踏まえ、適宜府省間での情報共有や、同指針の運用について連絡調整を行っている。

お問合せ先

科学技術・学術政策局企画評価課

(科学技術・学術政策局企画評価課)

-- 登録:令和元年09月 --