第5章 イノベーション創出に向けた人材、知、資金の好循環システムの構築

 国内外の知的資源を活用し、新しい価値の創出とその社会実装を迅速に進めるため、企業、大学、公的研究機関の本格的連携とベンチャー企業の創出強化等を通じて、人材、知、資金が、組織やセクター、さらには国境を越えて循環し、各々が持つ力を十分に引き出し、イノベーションが生み出されるシステム構築を進め、我が国全体の国際競争力を強化し、経済成長を加速させることとしている。

第1節 オープンイノベーションを推進する仕組みの強化

 イノベーションを結実させるのは主として企業であるが、よりスピード感ある社会実装を実現していくためには、大学や公的研究機関との協働や、従来以上に柔軟な産産連携が重要となっている。グローバルな次元でオープンイノベーションを推進するため、各主体がそれぞれの強みを生かして相互補完的に連携、共創(きょうそう)できる仕組みの構築や、人材、知、資金の流動性を高めてイノベーションが興りやすい環境を整備していくことが重要である。
 文部科学省では、平成29年1月よりオープンイノベーション共創会議を開催し、大学・国立研究開発法人側、産業界側それぞれから見た阻害要因を整理し、それらを克服するための改革方策を、報告書「オープンイノベーションの本格的駆動に向けて―先進的な知識集約型産業を生み出す大学・国立研究開発法人のプラットフォーム構築加速」として、同年7月に取りまとめた。
 同報告書においては、ベンチャー等に出資できる国立研究開発法人の範囲の拡大をはじめとする法改正事項、国立大学における資金運用可能な原資の拡大や株式の保有期間の緩和をはじめとする制度改正事項やオープンイノベーション機構の整備や起業家人材海外武者修行プログラムの創設などのマネジメント改革支援などが提案されており、これらの改革方策が、実現への道筋をつけた。

1 企業、大学、公的研究機関における推進体制の強化

(1)国内外の産学連携活動の現状

ア 大学等における産学官連携活動の実施状況

 平成16年4月の国立大学法人化以降、総じて大学等における産学官連携活動は着実に実績を上げている。平成28年度は、大学等と民間企業との「共同研究実施件数」は2万3,021件(前年度比10.6%増)、「研究費受入額」は約526億円(前年度12.5%増)と、前年度と比べて増加しており、平成23年度に比べると、「共同研究実施件数」は約1.4倍になっている。また、「特許権実施等件数」は1万3,832件になっている(第2‐5‐1図)。

 第2‐5‐1図 大学等における共同研究等の実績

イ TLO(※1)(技術移転機関)における活動状況

 平成29年8月28日現在で、35のTLOが、「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律」(平成10年法律第52号)に基づき文部科学省及び経済産業省の承認を受けており、平成28年度における特許実施許諾件数は9,120件となっている。


  • ※1 Technology Licensing Organization

(2)大学等の産学官連携体制の整備

 文部科学省は、産学官連携の体制を強化し、企業から大学・国立研究開発法人等への投資を今後10年間で3倍に増やすことを目指す政府目標を踏まえ、経済産業省と共同して開催した「イノベーション促進産学官対話会議」において、産業界から見た、大学・国立研究開発法人が産学官連携機能を強化する上での課題とそれに対する処方箋を取りまとめた「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」を平成28年11月に策定し、その普及に努めている。また、産学官連携活動の活発化に伴うリスクの多様化(例えば、利益相反、技術流出防止等)に適切に対応するため、「産学官連携リスクマネジメントモデル事業」を通じて、全国の大学等における産学官連携リスクマネジメント体制の整備・システムの構築を支援している。さらに、平成29年4月、一般社団法人日本経済団体連合会及び経済産業省と共同で「産学官共同研究におけるマッチング促進のための大学ファクトブック―パイロット版―」を公表し、産学官連携活動に関する大学の取組の「見える化」を進めた。
 農林水産省は、「『知』の集積による産学連携推進事業」により、全国に農林水産・食品産業分野を専門とするコーディネーターを配置し、ニーズの収集・把握、シーズの収集・提供を行うとともに、産学官のマッチング支援や研究開発資金の紹介・取得支援、商品化・事業化支援等を実施している。

(3)産学官の共同研究開発の強化

 科学技術振興機構は、大学等の研究成果の実用化促進のため、大学や公的研究機関等における有望なシーズ発掘から事業化に至るまで、切れ目ない支援を実施する「研究成果最適展開支援プログラム(A‐STEP)」、優れた研究成果を基に設定したテーマの下で研究開発を行い、新産業創出の礎となる技術の確立を支援する「戦略的イノベーション創出推進プログラム(S‐イノベ)」、産業界が抱える技術課題の解決に資する大学等の基礎研究を支援する「産学共創(きょうそう)基礎基盤研究プログラム」を推進している。また、国から出資された資金等により、大学等の研究成果を用いて企業が行う開発リスクを伴う大規模な事業化開発を支援する「産学共同実用化開発事業(NexTEP)」を実施している。
 総務省は、情報通信研究機構(NICT(※2))が構築・運営しているNICT総合テストベッドにより、産学官連携によるIoTや新世代ネットワーク等の技術実証・社会実証を推進している。


  • ※2 National Institute of Information and Communications Technology

(4)民間の研究開発投資促進に向けた税制措置

 政府は、民間における研究開発を促進するため、第2‐5‐2図のとおり、研究開発税制(※3)を設けている。

 第2‐5‐2図 研究開発税制


  • ※3 試験研究を行う企業に対し、試験研究の額に応じて法人税を控除する制度

(5)表彰制度の活用

ア 第15回産学官連携功労者表彰(つなげるイノベーション大賞)(平成29年度)

 産学官連携の推進を図るため、産学官連携活動の推進に多大な貢献をした優れた成功事例14件に対し、産学官連携功労者として内閣総理大臣賞をはじめとする各省大臣賞等を授与した(第2‐5‐3表)。

 第2‐5‐3表 産学官連携功労者表彰受賞者(つなげるイノベーション大賞)

 第2‐5‐3表 産学官連携功労者表彰受賞者(つなげるイノベーション大賞)

2 イノベーション創出に向けた人材の好循環の誘導

 イノベーションを生み出すためには、世界トップクラスの研究者等が、大学、公的研究機関、企業等の組織の壁を越えて、流動化することを促進する必要がある。
 文部科学省、経済産業省及び関係府省庁は、研究者等が大学、公的研究機関、企業の中で、二つ以上の機関に雇用されつつ、一定のエフォート管理の下で、それぞれの機関における役割に応じて研究・開発及び教育に従事することを可能にする、クロスアポイントメント制度を推進している(第4章第1節2(3)参照)。
 また、文部科学省では、国立大学等における人事給与システム改革の実施を前提として、研究代表者への人件費支出が可能となるよう、直接経費支出の柔軟化に向けた検討を行っている(第4章第3節3参照)。

3 人材、知、資金が結集する「場」の形成

(1)産学官協働の「場」の構築

 科学技術によるイノベーションを効率的にかつ迅速に進めていくためには、産学官が協働し、取り組むための「場」を構築することが必要である。

ア 世界に誇る地域発研究開発・実証拠点の形成

 文部科学省は、「世界に誇る地域発研究開発・実証拠点(リサーチコンプレックス)推進プログラム」により、地域に結集する産学官金のプレイヤーが国内外の異分野融合による最先端の研究開発や成果の事業化、人材育成を一体的かつ統合的に展開するための複合型イノベーション推進基盤(リサーチコンプレックス)を成長・発展させ、世界に誇るイノベーション創出及び地方創生を実現するために、平成29年度時点で3拠点の支援を実施している(第2‐5‐4図)。

 第2‐5‐4図 世界に誇る地域発研究開発・実証拠点(リサーチコンプレックス)推進プログラム 各拠点の取組

イ 先端融合領域においてイノベーションを創出する拠点の形成

 文部科学省は、イノベーション創出のために特に重要と考えられる先端的な融合領域において、産学の協働により、将来的な実用化を見据えた基礎的段階からの研究開発を行う拠点を形成することを目的とした「先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム」を実施しており、平成29年度時点で3機関を支援している(第2‐5‐5図)。

 第2‐5‐5図 先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム実施課題一覧

ウ 革新的イノベーション創出拠点の形成

 文部科学省では平成25年度から「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」を実施しており、全18拠点で革新的イノベーションを産学連携で実現するための研究開発を推進している(第2‐5‐6図)。

 第2‐5‐6図 COI拠点一覧

 産業技術総合研究所は、産業技術に関する産業界や社会からの多様なニーズを捉えながら、技術シーズの発掘や研究開発プロジェクトの推進を行っている。具体的な取組としては、オープンイノベーションハブとしてのTIAの活動を推進するとともに、共創(きょうそう)の場の形成の一環として、19の技術研究組合に参画している(平成30年1月現在)。

エ オープンイノベーションを加速する産学共創(きょうそう)プラットフォームの形成

 科学技術振興機構は、平成28年度より「産学共創(きょうそう)プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)」を実施しており、民間企業とのマッチングファンドにより、複数企業からなるコンソーシアム型の連携による非競争領域における大型共同研究と博士課程学生等の人材育成、大学の産学連携システム改革等とを一体的に推進することで、「組織」対「組織」による本格的産学連携を実現し、我が国のオープンイノベーションの本格的駆動を図っている。

(2)オープンイノベーション拠点の形成

ア 筑波研究学園都市

 筑波研究学園都市は、我が国における高水準の試験研究・教育の拠点形成と東京の過密緩和への寄与を目的として建設されており、29の国等の試験研究・教育機関を含め300を超える研究機関が立地しており、研究交流の促進や国際的研究交流機能の整備等の諸施策を推進している。
 同都市は、産業技術総合研究所、物質・材料研究機構及び筑波大学の3機関を中核として、世界的なナノテクノロジー研究拠点を形成することを目指し、平成21年6月に産学官集中連携拠点「つくばイノベーションアリーナナノテクノロジー拠点」(TIA‐nano)を発足させた。現在は、高エネルギー加速器研究機構、東京大学が新たに参画して中核5機関となり、研究領域もこれまでのナノテクノロジーを土台としながらも新たな領域―バイオ、計算科学、IoT等―へと拡大し、名称を「TIA」と改めて新たなスタートを切った。これまでの活動の中で、カーボンナノチューブ(CNT)やシリコンカーバイト(SiC)パワーエレクトロニクスにおいて事業化まで至った成果が出ている。
 「TIA連携大学院」事業では、将来の我が国を担う新産業の創出を牽(けん)引(いん)するナノテクノロジーの次世代人材を育成することを目的として、平成29年の夏期にTIA連携棟などを活用して、サマーオープンフェスティバルを開催し、全国の学生・大学院生、企業の若手研究者等411名が参加した。また、ナノテク若手研究人材のキャリアアップと流動性向上を図るために行っている人材育成事業(Nanotech CUPAL(※4))では、研究開発の基盤要素技術の習得を目的に多様な実践トレーニングコース等を設置しており、平成29年度は延べ250名以上が参加した。


  • ※4 Nanotech Career-up Alliance
イ 関西文化学術研究都市

 関西文化学術研究都市は、我が国及び世界の文化・学術・研究の発展並びに国民経済の発展に資するため、その拠点となる都市の建設を推進している。平成29年度現在の立地施設数は130を超え、多様な研究活動等が展開されている。

(3)多様な分野との産学連携を行う「オープンイノベーションの場」の推進

 農林水産省は、様々な分野の革新的な技術を農林水産・食品分野に導入することで、技術革新を進め、市場ニーズを踏まえた商品化・事業化をこれまでにないスピード感を持って実現するため、「知」の集積と活用の場の取組を推進している。
 平成28年4月には「『知』の集積と活用の場 産学官連携協議会」を立ち上げ、平成30年3月時点で2,395の多様な業種の企業等が会員となるとともに、特定の研究課題に取り組む研究開発プラットフォームは、117設立されている。さらに、研究開発プラットフォームから革新的な研究開発を行う研究コンソーシアムが形成されており、マッチングファンド方式の提案公募型事業により17課題を支援している。そのほか、地域の研究開発と技術の普及促進を支援する地域マッチングフォーラムの開催等の取組を進めている。

(4)技術シーズとニーズのマッチングを促進する環境の醸成

 内閣府は、技術シーズとニーズの実効あるマッチングを推進し、産学や産産間のオープンイノベーションの活性化及び研究開発型ベンチャー企業の創造・育成を加速する観点から、関係省庁や産業界等による各種マッチング事業の横断的な連携や交流が自律的、柔軟に行われる環境作りのため、サイエンス&イノベーション・インテグレーション(S&2)協議会を平成29年7月に設立した。その活動の一環として、同年12月に地方におけるイノベーション喚起を目的としたフォーラムを実施したほか、民間事業者も含めた支援策の可視化に向けたヒアリング調査を開始した。
 文部科学省及び経済産業省は、科学技術振興機構や新エネルギー・産業技術総合開発機構と協力し、平成29年8月31日、9月1日に大学、公的研究機関、民間企業等の関係者が一堂に会する国内最大規模の産業界と大学等のマッチングイベント「イノベーション・ジャパン2017~大学見本市&ビジネスマッチング~」を東京ビッグサイトにおいて開催した。
 農林水産省は、農林水産・食品産業分野の研究を行う民間企業、大学、公設試験研究機関(以下「公設試」という。)、独立行政法人等の技術シーズを展示し、技術に対するニーズを有する機関との連携を促すため、各省・各機関と連携し「アグリビジネス創出フェア」を毎年度開催している。平成29年度は、10月に新技術の産業利用を進めている民間企業主体の展示会と同じ会場で本展示会を同時開催し、全国145機関が出展し、約3万8,000人の参画を得た。

第2節 新規事業に挑戦する中小・ベンチャー企業の創出強化

 技術シーズを短期間で新規事業につなげるようなイノベーションの創出は、迅速かつ小回りの利く中小・ベンチャー企業との親和性が高い。中小・ベンチャー企業の企業活動を下支えし、スピード感を損なうことなく市場創出につなげられるよう、産学官が一体となって継続的及び効果的に支援する体制を構築することが重要である。

1 起業家マインドを持つ人材の育成

 文部科学省において、学部学生や大学院生、若手研究者等に対するアントレプレナー育成プログラムの実施により、我が国のベンチャー創出力を強化する「次世代アントレプレナー育成事業(EDGE‐NEXT)」を平成29年度から実施している。

2 大学発ベンチャーの創出促進

 大学発ベンチャーの新規創設数は、一時期減少傾向にあり、平成22年度は1年当たり47件に至ったが、近年は回復基調にあり、平成28年度の実績は127件となった(対前年比33.7%増)。今後は、真に市場ニーズを捉え、強くグローバルに成長することのできる質の高い大学発ベンチャーの創出に向けて、創業後の販路開拓などのビジネス面を含め、持続的な経営に資する環境を整備していく必要がある。
 科学技術振興機構は、「大学発新産業創出プログラム(START)」を実施しており、起業前の段階から、公的資金と民間の事業化ノウハウ等を組み合わせることにより、成長性のある大学等発ベンチャーの創出を目指した支援を行っている。また、平成29年度よりSTARTの中で、成果の社会実装に意欲を持つ人材に対しアントレプレナー教育の提供とビジネスモデル探索活動を支援する取組(SCORE)も実施している。
 さらに、「出資型新事業創出支援プログラム(SUCCESS)」では、科学技術振興機構の研究開発成果を活用するベンチャー企業の設立・増資に際して出資又は人的・技術的援助を実施することにより、当該企業の事業活動を通じて研究開発成果の実用化を促進している。

3 新規事業のための環境創出

(1)研究開発型ベンチャー等に対する支援

 総務省は、「ICTイノベーション創出チャレンジプログラム(I‐Challenge!)」を実施している。本事業では、革新的な技術シーズやアイディアを持つ中小企業等による新事業の創出を実現するため、事業化支援の専門家の目利き機能や経営・事業化ノウハウを活用しつつ、ビジネスモデル実証フェーズの研究開発を支援している。
 経済産業省は、新エネルギー・産業技術総合開発機構を通じて、我が国における技術シーズの発掘から事業化までを一体的に支援する「研究開発型スタートアップ支援事業」を実施している。これに加えて、産業界におけるベンチャー企業をパートナーとする連携の活性化、ベンチャー企業における事業化の加速化を図るべく、事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携プロセスでそれぞれがぶつかる壁とそれに取り組んだ先行企業の事例を整理し、連携促進のため双方に役立つツールの検討・整備のための有識者勉強会を実施した。平成29年5月には、事業会社と研究開発型ベンチャー企業それぞれの課題とベストプラクティスを紐付けし、双方に活用できる参考書として、「連携の手引き」をとりまとめ、公表した。

(2)中小企業技術革新制度(SBIR制度)による支援

 中小企業技術革新制度(SBIR制度)においては、中小企業者及び事業を営んでいない個人(※5)が行う新技術に関する研究開発のための補助金・委託費等(特定補助金等)の支出の機会の増大を図るとともに、特許料等の減免や株式会社日本政策金融公庫による特別貸付等の事業化支援措置を講じている。平成29年度は、関係7省(総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省)で合計96の特定補助金等を指定し、中小企業者・小規模事業者等への支出目標額を約460億円に定めた。


  • ※5 例えば、大学の研究者、新規に開業や会社設立をしようとしている個人などが考えられる。

4 新製品・サービスに対する初期需要の確保と信頼性付与

(1)公共調達の活用等による中小・ベンチャー企業の育成・強化

 政府は、公共調達を活用した中小・ベンチャー企業支援策として、国の機関が有する具体的ニーズに中小・ベンチャー企業が挑戦し、企業の新たな技術や着想を発掘し事業化に資する取組「内閣府オープンイノベーションチャレンジ2017」(中小・ベンチャー企業による公共調達の活用推進プログラム)を開始し、15件の提案を認定した。認定を受けた中小・ベンチャー企業は、今後、内閣府が準備するアドバイザーによる助言を受けながら、実現可能性調査(F/S)を行い、事業会社等とのマッチング等により、事業化を目指していく。
 また、政府は、政府事業のイノベーション化と中小・ベンチャー企業の初期需要確保を目的として、公共調達における中小・ベンチャー企業の活用等を促進するためのガイドラインの検討を開始した。

第3節 国際的な知的財産・標準化の戦略的活用

 知的財産マネジメントの質を一層高めるためには、自らが保有する知的財産等の活用のみならず、その価値を最大化する知的財産戦略が重要である。このため、知的財産・標準化戦略について、事業戦略に組み込むよう浸透させていくとともに、各主体の意識を高め、特許を活用することで新たなオープンイノベーションが創出されるよう促すこととしている。

1 イノベーション創出における知的財産の活用促進

 世界的なイノベーションの環境変化に対応し、国際標準化戦略を策定、実行するとともに、知的財産制度の見直し、知的財産活動に関わる体制整備を進めるため、以下のような取組を進めている。

(1)国の研究開発プロジェクトにおける知的財産(知的財産権・研究開発データ)マネジメント

ア 特許権等の知的財産権に関する取組

 経済産業省は、国の研究開発の成果を最大限事業化に結び付けるため、「委託研究開発における知的財産マネジメントに関する運用ガイドライン」(平成27年5月)に基づき、国の委託による研究開発プロジェクトごとに適切な知的財産マネジメントを実施している。
 農林水産省は、農林水産分野に係る国の研究開発において、「農林水産研究における知的財産に関する方針」(平成28年2月)に基づき、研究の開始段階から研究成果の社会実装を想定した知的財産マネジメントに取り組んでいる。

イ 研究開発データに関する取組

 経済産業省は、第4次産業革命の進展を踏まえ研究開発データの利活用促進を通じた新たなビジネスの創出や競争力の強化を図るため「委託研究開発におけるデータマネジメントに関する運用ガイドライン」(平成29年12月)を策定した。

(2)特許情報等の整備・提供

 特許庁は、特許情報について、高度化、多様化するユーザーニーズに応(こた)えるべく、インターネットを介した新たな特許情報提供サービス「特許情報プラットフォーム(J‐PlatPat(※6))」の提供を行っている。
 また、外国特許文献、特に急増する中国・韓国特許文献を調査できるよう、「中韓文献翻訳・検索システム」や、東南アジア諸国連合(ASEAN(※7))諸国等、諸外国の特許情報を提供する「外国特許情報サービス(FOPISER(※8))」を行っている。
 そのほか、知的財産の円滑な活用を促進するため、工業所有権情報・研修館を通じて、開放特許に関する情報やリサーチツール特許に関する情報をデータベース化して提供している。
 科学技術振興機構は、優れた研究成果の発掘、特許化の支援から、企業化開発に至るまでの一貫した取組を進めている。具体的には、「知財活用支援事業」において、大学等における研究成果の戦略的な海外特許取得の支援、大学等に散在している特許権等の集約・パッケージ化による活用促進、大学等の特許情報のインターネットでの無料提供(J‐STORE(※9))を実施するなど、大学等の知的財産の総合的活用を支援している。


  • ※6 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
  • ※7 Association of South-East Asian Nations
  • ※8 Foreign Patent Information Service https://www.foreignsearch.jpo.go.jp/
  • ※9 https://jstore.jst.go.jp/

(3)早期審査制度の実施

 特許庁は、特許の権利化のタイミングに対する出願人の多様なニーズに応(こた)えるため、一定の要件の下に、早期に審査を行う「早期審査制度」を実施しており、平成23年8月からは、地震により被災した企業等が知的財産を活用し、復興していくことを支援するため、被災者や被災地の事業所等からの特許出願を早期に審査する「震災復興支援早期審査」を実施している。
 また、グローバル企業の研究開発拠点等の我が国への呼び込みを推進するために施行された「特定多国籍企業による研究開発事業等の促進に関する特別措置法(アジア拠点化推進法)」(平成24年法律第55号)に基づく認定を受けた研究開発事業の成果に係る特許出願についても、試行的に早期審査の対象としている。

(4)特許審査体制の整備・強化

 特許庁は、平成29年度においても、任期満了を迎えた任期付審査官の一部を再採用するなど、審査処理能力の維持・向上のため、引き続き審査体制の整備・強化を図った。

(5)事業戦略対応まとめ審査の実施

 近年、企業活動のグローバル化や事業形態の多様化に伴い、企業の知的財産戦略も事業を起点としたものに移りつつある。特許庁は、知的財産戦略に基づいた出願に対応するための審査体制について検討を進め、事業で活用される知的財産の包括的な取得を支援するために、国内外の事業に結び付く複数の知的財産(特許・意匠・商標)を対象として、分野横断的に事業展開の時期に合わせて審査・権利化を行う「事業戦略対応まとめ審査」を実施している。

(6)技術動向調査の実施・公表

 研究開発において、特許情報を活用する等、研究開発戦略と知的財産戦略との連携が求められている。このため、特許庁は、市場を獲得する可能性のある技術分野、国の研究開発プロジェクトに関連する分野を中心に、「市場動向」、「特許出願動向」等を踏まえた我が国の研究開発戦略に資する調査を行い、その結果を公表している。

(7)専門家による事業化や橋渡しの支援

 特許庁は、国際的な競争力を有する産業を創出するため、工業所有権情報・研修館を通じて、知的財産マネジメントに関する専門家である「知的財産プロデューサー」を、公的資金が投入された革新的な成果が期待される大学や研究開発コンソーシアム等へ派遣している。また、大学における知的財産の活用を促進するため、工業所有権情報・研修館を通じて、知的財産マネジメントに関する専門家である「産学連携知的財産アドバイザー」を、事業化を目指す産学連携活動を展開する大学へ派遣している。
 農林水産省は、大学、国立研究開発法人、公設試験場等が連携して実施する研究計画の作成支援を行うため、知的財産の戦略的活用など技術経営(MOT(※10))的視点の導入も含め、全国に約140人の農林水産・食品産業分野を専門とするコーディネーターを配置している。


  • ※10 Management of Technology

(8)安全保障貿易管理への取組

 経済産業省は、平成29年度において、100回程度の安全保障貿易管理に関する説明会等を開催することなどにより、技術情報流出の防止強化のため、大学・公的研究機関等に「外国為替及び外国貿易法」(昭和24年法律第228号)の遵守徹底など、安全保障貿易管理の取組を促進した。

2 戦略的国際標準化の加速及び支援体制の強化

(1)知的財産戦略及び国際標準化戦略の推進

 経済のグローバル化が進展するとともに、経済成長の源泉である様々な知的な活動の重要性が高まる中、我が国の産業競争力強化と国民生活の向上のためには、我が国が高度な技術や豊かな文化を創造し、それをビジネスの創出や拡大に結び付けていくことが重要となっている。その基盤となるのが知的財産戦略である。
 知的財産戦略本部は、知的財産の創造、保護及び活用に関する「知的財産推進計画2017」を平成29年5月に決定した。同計画には、「データ・人工知能の利活用促進による産業競争力強化に向けた知財制度の構築」、「グローバル市場をリードする知財・標準化戦略の一体的推進」、「地方・中小企業による知財活用と産学・産産連携の推進」などを盛り込み、同計画に沿って、知的財産戦略本部の主導の下、関係府省とともに知的財産戦略を推進している。

(2)国際標準化への積極的対応

 グローバル市場における我が国産業の競争力強化のため、平成29年度に産業構造審議会、日本工業標準調査会で「新たな基準認証の在り方について」の検討を行い、10月に答申をまとめた。本答申に基づき、工業標準化法(JIS法)の改正について検討を行い、第196回通常国会に工業標準化法改正の法律案を提出している。
 また、「未来投資戦略2017」(平成29年6月9日閣議決定)で「戦略的な標準化を推進・加速する」と掲げられていることを踏まえ、経済産業省は、第4次産業革命の到来によってあらゆる機器・工場などがつながることを見据えた、業種を超えた標準化体制の強化等、官民の国際標準化体制の強化に取り組んでいる。
 具体的には、「平成29年度省エネルギーに関する国際標準の獲得・普及促進」の一つとして、スマートマニュファクチャリングに関する国際標準化を実施中している。産業技術総合研究所を統括機関として、民間企業数社が参画する体制において推進している。そのほか、戦略的に重要な研究開発テーマや産業横断的なテーマについて、国立研究開発法人や民間企業と連携して国際標準化活動を推進するための体制整備を行っている。また、人材育成施策としては、大学での標準化講義への経済産業省職員派遣や国際標準化をリードする若手人材を育成するための研修を開催するとともに、平成28年度に公表した「標準化人材を育成する3つのアクションプラン」に基づき、標準化教育に関する大学教員等向けのモデルカリキュラムや教材(ファカルティ・ディベロップメント教材)の開発及び一般財団法人日本規格協会による新たな標準化資格制度の創設を行った。
 そのほか、認証取得支援の体制整備としては、日本貿易振興機構(JETRO(※11))による「海外輸出に係る認証取得支援事業」において認証取得に関する相談窓口を開設するとともに、セミナーの開催及びパンフレットの作成・配布を行った。
 海外との協力においては、国際標準化活動におけるアジア諸国との連携や、アジア諸国の積極的な参加を促進することを目的とした技術協力を行っている。平成29年度は、日中韓3か国の標準化機関や関係企業が集まり、標準化協力分野について議論を行った。また、国際標準化機構・国際電気標準会議と連携したアジア地域向けの人材育成セミナーを実施したほか、アジア太平洋経済協力(APEC(※12))基準・適合性小委員会では、国際整合化や規格開発・普及のためのプロジェクトを進めるなど、国際標準化活動におけるアジア地域との連携強化に取り組んでいる。
 総務省は、「新たな情報通信技術戦略の在り方(平成26年諮問第22号)に関する第3次答申」(平成29年7月情報通信審議会)等の提言を踏まえ、ワイヤレス工場、スマートホーム等の重点分野における情報通信技術(ICT)の国際標準の獲得を目指して、国際電気通信連合(ITU(※13))等のデジュール標準化機関や、フォ‐ラム標準化機関等の民間のフォーラム標準化機関における標準化活動を推進している。
 国土交通省及び厚生労働省は、知的財産推進計画において、国際標準化特定戦略分野の一つに水分野が位置付けられたことを踏まえ、上下水道分野で国際展開を目指す我が国企業が、高い競争性を発揮できる国際市場を形成することを目的として、戦略的な国際標準化を推進している。現在、アセットマネジメント分野(ISO/TC224 WG6及びISO/TC251)、クライシスマネジメント分野(ISO/TC224 WG7)等においてISO国際規格の策定に積極的に参画している。


  • ※11 Japan External Trade Organization
  • ※12 Asia Pacific Economic Cooperation
  • ※13 International Telecommunication Union

(3)特許審査の国際的な取組

 経済のグローバル化や、イノベーションのオープン化が進展する中にあって、日本企業が世界中でビジネスを円滑に行うことができるよう、国際的な知財インフラを順次整備していく重要性が高まっている。このため、特許庁は、最初に特許可能と判断された出願に基づいて、他国において早期に審査が受けられる制度である「特許審査ハイウェイ(PPH(※14))」を41か国・地域との間で実施している(平成30年1月時点)。また、国際的な審査協力の新たな取組として、我が国の特許庁と米国特許商標庁は、日米両国に特許出願した発明について、日米の特許審査官がそれぞれ先行技術文献調査を実施し、その調査結果及び見解を共有した後に、それぞれの特許審査官が最初の審査結果を送付する日米協働調査試行プログラムを、平成27年8月1日から開始している。平成29年7月31日に2年間の第1期試行プログラムが終了し、同年11月1日からは新しい運用で3年間の第2期試行プログラムを開始した。


  • ※14 Patent Prosecution Highway

第4節 イノベーション創出に向けた制度の見直しと整備

 イノベーションの源である知識や技術を迅速にビジネスとして社会に実装させるため、また、ICTの飛躍的発展に適応するよう、イノベーションが持つ社会変革のポテンシャルを最大限に引き出すため、政府は、新たな製品・サービスに対応した制度の見直しを進めていくこととしている。

1 新たな製品・サービスやビジネスモデルに対応した制度の見直し

(1)イノベーションの促進に向けた規制・制度の活用

 研究開発活動を取り巻く規制・制度が、本来、研究開発活動の円滑な推進や安全性向上等を目的として設けられているものであるものの、過度に厳格なために、イノベーションを阻害していることも少なくない。政府は、大胆な規制・制度改革の突破口として国家戦略特区制度を推進しており、あわせて、総合特区制度等の従来の特区制度についても、継続して着実に進めていくこととしている。これらの制度を活用することにより、イノベーションの促進が期待される。

ア 国家戦略特区に関する取組

 政府は、未来投資戦略2017、新しい経済政策パッケージ等に基づき、自動運転、無人航空機(ドローン)、電波利用の近未来技術の実現に関連する実証実験を、国家戦略特区内に地域限定型のサンドボックスを設け、より迅速・円滑に実現できるよう、監視・評価体制を設けて事後チェックを強化しつつ、事前規制の合理化を図ることを内容とする国家戦略特別区域法の改正法案を第196回国会に提出している。本改正法案施行後、速やかに特区におけるサンドボックス制度の活用を図り、実証実験を一層、精力的に行う。

イ 総合特区制度に関する取組

 政府は、我が国の経済成長のエンジンとなる産業・機能の集積拠点の形成を目的とする「国際戦略総合特区」7地域と、地域資源を最大限活用した地域活性化の取組による地域力向上を目的とする「地域活性化総合特区」32地域において、規制の特例措置、税制・財政・金融上の支援措置などにより総合的に支援を行っている。

2 情報通信技術の飛躍的発展に対応した知的財産の制度整備

 第4次産業革命時代においては、人工知能(AI)創作物や3Dデータ、創作性を認めにくいデータベース等の新しい情報財について、その利活用が、小説、音楽、絵画などのコンテンツ産業に限らず、その他産業(製造業、農業、広告宣伝業、小売業、金融保険業、運輸業、健康産業など)にも波及することが想定され、その基盤となる知財システムの構築を進めることが産業競争力強化の観点でますます重要になってきている。
 これを踏まえ、知的財産戦略本部は、データやAI(AI学習のプロセス、関連技術や生成物)などの新たな情報財の利活用促進の基盤となる知財システムの在り方について、新たな情報財検討委員会において、現行知的財産制度上で著作権等の対象とならない価値あるデータや機械学習、特に深層学習を用いたAIの保護・利活用の在り方について検討を行い、データ利用に関する契約の支援や公正な競争秩序の確保、AIの学習用データの作成の促進に関する環境整備や学習済みモデルの適切な保護等について具体的に検討を行い、報告書をとりまとめた。同報告書で示された施策の方向性については、「知的財産推進計画2017」に盛り込むとともに、データ利活用促進のための制限ある権利やAI生成物の知財制度上の保護の在り方については、引き続き検討を行うこととしている。
 また、文部科学省は、デジタル・ネットワークの発達に伴う著作物の利用環境の変化に柔軟に対応できるよう、著作権法において柔軟性のある権利制限規定を整備することについて、その効果と影響に関する分析を含め、検討を行い、平成29年4月、文化審議会において報告書を取りまとめた。これを踏まえ、平成30年2月に、著作権法の一部を改正する法律案を閣議決定し、国会に提出した。
 経済産業省は、第四次産業革命を視野に入れた知財システムの在り方に関する検討会において、第4次産業革命に対応した企業の戦略とそれを支える知財制度・運用の在り方について検討を行い、平成29年4月に報告書を取りまとめた。報告書で示された今後実施することが適当な取組に関して、不正競争防止法、工業標準化法、特許法等の改正も含め、第4次産業革命に対応した知財システムの整備に取り組んでいる。また、IoT関連技術やAI等の新たな技術の台頭に伴い、ソフトウエア関連発明が多くの技術分野で創出されるようになってきたため、特許庁は、様々な技術分野の審査官やユーザーに十分に理解されるよう、平成30年3月に、「特許・実用新案審査基準」及び「特許・実用新案審査ハンドブック」のソフトウエア関連発明に係る部分を明確化する改訂を行った。

第5節 「地方創生」に資するイノベーションシステムの構築

 イノベーションを創出するための強みや芽は様々な地域に存在している。こうした地域の特徴を活(い)かし、新しい製品やサービスの創出、既存産業の高付加価値化が図られていくためには、地域に自律的・持続的なイノベーションシステムが構築されることが重要である。

1 地域企業の活性化

 地域イノベーション・エコシステムの形成と地方創生の実現に向けて、イノベーション実現のきっかけ・仕組み作りの量的拡大を図る段階から、具体的に地域の技術シーズ等を生かし、地域からグローバル展開を前提とした社会的なインパクトの大きい事業化の成功モデルを創出する段階へと転換が求められている。このため、文部科学省では、平成28年度より開始した「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」により、地域の成長に貢献しようとする地域大学に事業プロデュースチームを創設し、地域の競争力の源泉(コア技術等)を核に、地域内外の人材や技術を取り込み、グローバル展開が可能な事業化計画を策定し、リスクは高いが社会的インパクトが大きい事業化プロジェクトを支援している。平成29年度までに全14地域が採択されている(第2‐5‐7図)。
 経済産業省は、地域中核企業候補が新分野・新事業等に挑戦する取組を支援し、その成長を促すため、支援人材を活用して、全国大の外部リソース(大学、協力企業、金融機関等)とのネットワーク構築を支援している。また、地域中核企業の更なる成長のため、支援人材を活用して、事業化戦略の立案/販路開拓等をハンズオン支援している。そのほか、関係省庁とも連携を図りつつ、国際市場に通用する事業化等に精通した専門家であるグローバル・コーディネーターを組織化した「グローバル・ネットワーク協議会」を通じ、グローバル市場も視野に入れた事業化戦略の立案や販路開拓等を支援している。
 加えて、「新市場創造型標準化制度」の活用においては、中堅・中小企業から提案のあった案件について、平成28年度末時点で規格を5件策定した。さらに、自治体・産業振興機関、地域金融機関、大学・公的研究機関(パートナー機関)と一般財団法人日本規格協会が連携し、地域において標準化の戦略的活用に関する情報提供・助言等を行う「標準化活用支援パートナーシップ制度」のパートナー機関数を平成28年度末時点で118機関に拡大し、全国47都道府県に設置した。

 第2‐5‐7図 地域イノベーション・エコシステムによる支援地域一覧

2 地域の特性を生かしたイノベーションシステムの駆動

(1)地域イノベーションシステムの構築

 総務省、文部科学省、農林水産省及び経済産業省は、地域イノベーションの創出に向けて、地方公共団体、大学等研究機関、産業界及び金融機関の連携・協力により策定した主体的かつ優れた構想を持つ地域を「地域イノベーション戦略推進地域」として選定し、研究段階から事業化に至るまで連続的な展開ができるよう、関係省の施策を総動員して支援するシステムを構築している。
 平成29年度現在、国際的に優位な大学等の技術シーズや企業集積があり、海外からヒト・モノ・カネを引き付ける強力なポテンシャルを有する「国際競争力強化地域」20地域と、地域の特性を活かしたイノベーションが期待でき、将来的には海外市場を獲得できるポテンシャルを有する「研究機能・産業集積高度化地域」25地域の計45地域を選定している(第2‐5‐8図)。
 総務省は、「戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE(※15))」において、地域に根ざした新規産業の創出、地場産業の振興や地域社会の活性化等に貢献する情報通信分野の研究開発を行う企業と大学等が提案する研究開発を推進している。
 文部科学省は、「地域産学バリュープログラム」により、マッチングプランナーが各地の企業の開発ニーズを把握し、その解決に向けて、全国の大学等発シーズと戦略的に結び付け、共同研究から事業化に係る展開等を支援するなど、高付加価値・競争力のある地域科学技術イノベーション創出を図っている。
 経済産業省は、「地域未来投資の活性化のための基盤強化事業」により、公設試験研究機関等に対しIoT設備等の導入を支援することを通じ、地域企業によるIoT関連技術の活用を促す環境を整え、地域イノベーション創出のための新たな共同基盤を整備している。
 特許庁は、地方における事業化機能拡充のため、潜在ニーズを掘り起こして事業を構想し、金融機関を含む地域ネットワークを構築・活用しながらシーズのマッチングから事業資金調達、販路開拓までを含めた事業創出環境整備を支援する「事業プロデューサー」を、平成28年度より平成30年度までの予定で、3機関に1名ずつ計3名派遣している。
 農林水産省は、「農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業」において、地域の自由な発想を活(い)かして、地域の活性化や生産現場等の技術的課題の解決につながる研究タイプを設定し、都道府県の試験研究機関や地域の大学を中心とした産学官連携による研究開発を推進しており、この中で、地域イノベーション戦略の推進に向けた研究を支援している。また、同省では、農林水産業・食品産業分野を専門とする産学連携コーディネーターを全国に配置し、ニーズの収集・把握、シーズの収集・提供を行うとともに、産学官のマッチング支援や研究開発資金の紹介・取得支援、商品化・事業化支援等を通じ、地域における農林水産・食品分野の研究開発の振興を図っている。
 そのほか、地域の研究開発と技術の普及促進を支援する地域マッチングフォーラムの開催等の取組を進めている。
 産業技術総合研究所は、公設試等と人的交流などを通して密接に連携し、協働で地域企業のニーズの発掘に努めるとともに、産業技術総合研究所の技術シーズを活用した地域企業への技術支援を行っている。具体的には公設試等職員やその幹部経験者等113名を地域企業への「橋渡し」の調整役として「産総研イノベーションコーディネータ」に委嘱、雇用したり、産業技術連携推進会議を通じて公設試相互及び公設試と産業技術総合研究所との協力体制を強化するとともに、公設試職員の技術力向上や人材育成を支援している。さらに、包括協定を締結する等、地方自治体との連携を積極的に進め、地方自治体の予算による補助事業の活用等により、地域産業特性に応じた技術分野での連携を推進している。このような産業技術総合研究所の技術シーズを事業化につなぐ「橋渡し」を地域及び全国レベルで行い、地域企業の技術競争力強化に資することで地方創生に取り組んでいる。

 第2‐5‐8図 地域イノベーション戦略推進地域 選定地域一覧


  • ※15 Stracegic Information and Communications R&D Promotion Programme

(2)地域における知的財産の権利化支援

 特許庁は、全国各地の面接会場に審査官・審判官が出張する出張面接、インターネット回線を利用し出願人自身のPCから参加できるテレビ面接及び各地で口頭審理を行う巡回審判を実施した。また、地域の中小企業やベンチャー企業、研究施設等が集まるリサーチパークや大学等といった企業等集積地域を対象に、出張面接と特許権に関するセミナーを同時に開催する「地域拠点特許推進プログラム」を実施した。

3 地域が主体となる施策の推進

(1)地域の自律的・持続的な成長に向けた支援

 地域が自身の強みを生かしたイノベーションシステムを主体的に構築し、自律的・持続的に成長していくために、中長期的な視点に立った支援が重要である。
 内閣府は、文部科学省と共に、省庁や自治体が地域におけるイノベーション・エコシステムの状況について把握するための点検指標の設定に関する検討を行っている。
 特許庁は、平成28年9月に策定した「地域知財活性化行動計画」に基づき、各地域・自治体の特色を踏まえて、地域・中小企業に対する支援施策をきめ細やかに実施するため、平成29年12月に、都道府県ごとの特色を踏まえた平成31年度までの目標を取りまとめた。

第6節 グローバルなニーズを先取りしたイノベーション創出機会の開拓

 世界的な共通課題であるエネルギー、資源、食料の確保、自然災害の対応等について、我が国はグローバルなニーズを先取りしつつ、我が国の技術力や現場への実装の経験を生かし、戦略性を持って、リーダーシップを取ることにより、イノベーションの創出等の機会を開拓することとしている。

1 グローバルなニーズを先取りする研究開発の推進

 科学技術に関する政策決定に活用するため、海外の情報を継続的・組織的・体系的に収集・蓄積・分析し、横断的に利用する体制を構築する必要があり、文部科学省及び関係機関において情報収集等を行っている。
 グローバルなニーズを先取りする研究開発の推進に向けた長期的な変化の探索・分析の一環として、科学技術・学術政策研究所では、将来社会に大きなインパクトをもたらす可能性のある科学技術や社会の新しい動き(変化の兆し)を、体系的で継続的なモニタリングを通じて見いだし、潜在的な機会やリスクを把握する「ホライズン・スキャニング」の取組を進めている。その一環で「KIDSASHI(きざし)」サイトを開設し、将来の見通しが不確実な中、ホライズン・スキャニングにより得られた情報をいち早く提供している。
 科学技術振興機構 研究開発戦略センターは、科学技術イノベーション政策を立案する上で有益な海外動向について調査・分析を行っている。
 日本学術振興会は、海外研究連絡センターにおいて、海外の学術動向等の情報収集及び我が国の大学等の国際化支援のほか、海外の学術振興機関等との連携やシンポジウムの開催等の活動を行っている。平成29年度は、ワシントン研究連絡センターとボストン日本国総領事館の共催で“Food Science for the Future”をテーマに「日米学術交流フォーラム」を開催し、米国内で活躍する日本人研究者のプレゼンスを向上させるとともに、日米の研究者間のネットワーク構築の場を提供した。
 また、直面する経済・社会的課題も視野に入れ、科学技術先進国との国際共同研究及び研究交流を戦略的に推進している(第4章第2節1(3)、第7章第3節参照)。

2 インクルーシブ・イノベーションを推進する仕組みの構築

(1)地球規模問題に関する開発途上国との協力の推進

 アジア、アフリカ、中南米等の開発途上国との科学技術協力については、これらの国々のニーズを踏まえ、地球規模課題の解決と、社会実装に向けた国際共同研究を推進するため、文部科学省、科学技術振興機構及び日本医療研究開発機構並びに外務省及び国際協力機構が連携し、我が国の先進的な科学技術と政府開発援助(ODA(※16))を組み合わせた「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS(※17))」を実施している。平成20~29年度(2008~2017年度)に、環境・エネルギー、生物資源、防災、感染症分野において、47か国で125件(地域別ではアジア65件、アフリカ32件等)を採択している。
 文部科学省は、我が国のSATREPSに参加する大学に留学を希望する者を国費外国人留学生として採用するという、国際共同研究と留学生制度を組み合わせた取組を実施している。これにより、国際共同研究に参画する相手国の若手研究者等が、我が国で学位を取得することが可能になるなど、人材育成にも寄与する協力を進めている。


  • ※16 Official Development Assistance
  • ※17 Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development

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科学技術・学術政策局企画評価課

(科学技術・学術政策局企画評価課)

-- 登録:令和元年09月 --