第4章 科学技術イノベーションの基盤的な力の強化

第1節 人材力の強化

 科学技術イノベーションを担うのは「人」である。世界中で高度人材の獲得競争が激化する一方、我が国では若年人口の減少が進んでいる。こうした中で、科学技術イノベーション人材の質の向上と能力発揮が一層重要になってきている。このため、様々な取組を通じ、我が国において、多様で優秀な人材を持続的に育成・確保し、科学技術イノベーション活動に携わる人材が、知的プロフェッショナルとして学界や産業界等の多様な場で活躍できる社会を創り出すこととしている。

1 知的プロフェッショナルとしての人材の育成・確保と活躍促進

(1)若手研究者の育成・活躍促進

 科学技術イノベーションの重要な担い手は若手研究者であり、優れた若手研究者の育成・確保を図ることが必要である。そのためには、優秀な者が博士課程に進学することで、知的プロフェッショナルである博士人材となるとともに、若手研究者として、安定した雇用と流動性の両立を図りながら、自らの研究活動に専念し、成果を上げることができるよう、研究費獲得の機会の増大や環境整備を進めることが重要である。
 しかしながら、我が国では、近年、若手大学本務教員の割合が減少するなど、若手研究者の置かれた厳しい状況が指摘されている(第2‐4‐1図)。

 第2‐4‐1図 大学における40歳未満本務教員比率

ア 若手研究者の安定かつ自立した研究の実現

 文部科学省では、新たな研究領域に挑戦するような優秀な若手研究者に対し、安定かつ自立して研究を推進できるような環境を実現するとともに、全国の産学官の研究機関をフィールドとした新たなキャリアパスを提示する「卓越研究員事業」を平成28年度より実施している。平成29年度までに、本事業を通じて創出されたポストにおいて、少なくとも212名(平成30年4月1日現在)の若手研究者が、安定かつ自立した研究環境を確保している。
 また、優秀な若手研究者が自らの研究に専念できる環境を整備し、安定的なポストに就けるようにするため、「テニュアトラック制」を導入する大学等を支援する「テニュアトラック普及・定着事業」を実施しており、平成29年度現在、39機関を支援している。
 また、国立大学における優秀な若手研究者の採用を拡大するため、「国立大学改革強化推進補助金(国立大学若手人材支援事業(特定支援型))」による支援を平成26年度より開始し、平成29年度現在、53機関を支援している。
 そのほか、平成25年12月に公布された「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を改正する法律」(平成25年法律第99号)により、研究者が契約期間中にまとまった研究業績等を上げ、適切な評価を受けやすくなり、安定的な職を得られることが期待されている。

イ キャリアパスの多様化

 科学技術イノベーションの推進に向けては、博士人材が、大学等の研究者としてのみならず、社会の多様な場で活躍することが、キャリアパスの明確化の観点から重要である。
 文部科学省が設置する科学技術・学術審議会人材委員会では、平成29年1月に、博士人材を「育成する場」である大学院博士課程の動向を念頭に置きつつ、博士人材の「活躍する場」である社会との接点に関する部分に焦点を当て、今後の取組の方向性を検討し、「博士人材の社会の多様な場での活躍促進に向けて~“共創(きょうそう)”と“共育”による「知のプロフェッショナル」のキャリアパス拡大~(これまでの検討の整理)」を取りまとめた。
 また、若手研究者等の流動性を高めつつ安定的な雇用を確保することで、キャリアアップを図るとともに、キャリアパスの多様化を進める仕組みを構築する大学等を支援する「科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業」を実施し、平成29年度現在、10拠点を支援している。
 さらに、科学技術振興機構においては、産学官で連携し、研究者や研究支援人材を対象とした求人・求職情報など、当該人材のキャリア開発に資する情報の提供及び活用支援を行うため、「研究人材キャリア情報活用支援事業」を実施しており、「研究人材のキャリア支援ポータルサイト(JREC‐IN Portal(※1))」を運営している。


  • ※1 https://jrecin.jst.go.jp
ウ 研究環境の整備

 科学研究費助成事業(「科研費」)においては、「科研費若手支援プラン」を策定し、研究者のキャリア形成に応じた支援を強化しつつ、オープンな場での切磋琢磨を促すための施策に取り組んでいる。平成30年度助成(平成29年9月公募)においては、若手研究者の基盤形成を幅広く支援する「若手研究」による支援の充実を図っている。また、国際競争下で研究の高度化に欠かせない、より規模が大きい「基盤研究(B)」の支援の充実を図るとともに、「若手研究」から科研費の基幹である「基盤研究」種目群へのステップアップを促進する応募制限緩和の取組を図った。

コラム2‐9 若手研究者の育成・支援を推進する研究開発評価とは何か~平成29年度文部科学省研究開発評価シンポジウム~

 文部科学省では、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」を踏まえ、「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針」を策定し、この中で「次代を担う若手研究者の育成・支援の推進」を特に留意すべき課題の一つに掲げている。
 近年、若手研究者の安定的ポストの減少、競争的資金等の外部資金獲得の激しい競争など、若手研究者は厳しい状況に置かれている。そのような中でも、研究開発評価はその運用の仕方によって若手研究者の育成・支援を推進するものにならなければならないという、文部科学省科学技術・学術政策局長の下に設置した有識者からなる研究開発評価推進検討会における議論を踏まえ、平成29年度は、「『若手研究者の育成・支援を推進する研究開発評価』とは何か」をテーマとして3月22日に文部科学省研究開発評価シンポジウム(※2)を開催した。
 本シンポジウムでは、若手研究者の雇用や昇進などの個別的な業績評価に限らず、若手研究者が実施する研究課題を支援し、若手を自立した研究者へと成長させる建設的な評価(主に研究開発課題の評価)や、研究課題においてや研究開発機関等によって雇用されている若手研究者を育成・支援する取組を評価項目に含む評価(研究開発課題の評価、研究開発機関等の評価)など幅広く取り扱った。
 第1部では、京都大学からは若手研究者に提供している育成・支援プログラムと、その中で取り入れている若手研究者の成長につながる評価・コメントの取組例(同年代・異分野の若手研究者による研究の長期的目標・展望を伴った研究発表への相互評価・コメント等)が、広島大学からは独自の指標である目標達成型重要業績指標(AKPI(R))等の教員の活動指標測定の仕組みや若手教員対象の表彰・認定制度、若手研究者育成の能力開発を目指したポートフォリオ等の若手研究者育成の取組が、科学技術振興機構からは戦略的創造研究推進事業のうち、独創的な若手研究者の「個の確立」を支援するACT‐I、課題採択時の評価における若手研究者を意識した事項及び若手研究者を支援する取組等が紹介された。
 第2部では、講演内容を踏まえ、事例紹介された若手研究者の育成・支援を推進する研究開発評価について、制度設計の経緯、取組による思わぬ効果や想定外の問題、他機関が適用するに当たっての留意点等、参加者からの質問を交えつつパネルディスカッションを行った。若手研究者の育成・支援を推進する研究開発評価については、取組が進んでいない研究開発機関等も多く、参加者からは具体的な取組の紹介が大変参考になったとの感想も寄せられた。

 若手研究者の育成・支援を推進する研究開発評価とは何か~平成29年度文部科学省研究開発評価シンポジウム~
 資料:文部科学省


  • ※2 文部科学省では、研究開発評価の一層の活用と効率化を図るとともに、評価関係者の評価意識の向上や評価関係者間の連携促進を目的として研究開発評価シンポジウムを開催している。
     https://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/hyouka/1296586.htm

(2)科学技術イノベーションを担う多様な人材の育成・活躍促進

ア マネジメント人材等の育成・活躍促進に向けた取組

 研究者のみならず、多様な人材の育成・活躍促進が重要であり、文部科学省では、研究者の研究活動活性化のための環境整備、大学等の研究開発マネジメント強化及び科学技術人材の研究職以外への多様なキャリアパスの確立を図る観点も含め、大学等における研究マネジメント人材(リサーチ・アドミニストレーター)の支援方策について調査研究等を実施している。
 また、世界水準の優れた研究大学群を増強するため、定量的な指標(エビデンス)に基づき、大学等における研究マネジメント人材(リサーチ・アドミニストレーターを含む。)群の確実な配置や集中的な研究環境改革を支援・促進することを通じて、我が国全体の研究力強化を図っている。平成29年度は、平成25年度に採択した22機関(大学及び大学共同利用機関法人)を引き続き支援している。
 そのほか、我が国の優秀な人材層に、プログラム・マネージャー(PM)という新たなイノベーション創出人材モデルと資金配分機関等で活躍するキャリアパスを提示・構築するために、PMに必要な知識・スキル・経験を実践的に習得する「プログラム・マネージャーの育成・活躍促進プログラム」を実施している。

イ 技術者の養成及び能力開発

 科学技術イノベーションの推進に当たって、産業界とそれを支える技術者は中核的な役割を果たしている。技術の高度化・統合化に伴い、技術者に求められる資質能力はますます高度化、多様化していく中で、文部科学省や関係機関においては、このような変化に対応した優秀な技術者の養成及び能力開発等を図っている。
 文部科学省は、大学等における実践的な工学教育に向けた取組を推進しており、各大学では、例えば、実際の現場での体験授業やグループ作業での演習、発表やディベート、問題解決型学習など教育内容や方法の改善に関する取組が進められている。また、高等専門学校では、中学校卒業後の早い年齢から、5年一貫の専門的・実践的な技術者教育を特徴としつつ、他分野との連携強化、地域産業を支える人材の育成、国際的な技術者として活躍する能力の向上等の取組を通じて、実践的・創造的技術者の育成を進めている。そのほか、科学技術に関する高等の専門的応用能力を持って計画、設計等の業務を行う者に対し、「技術士」の資格を付与する「技術士制度」を設けている。技術士試験は、理工系大学卒業程度の専門的学識等を確認する第一次試験と、技術士になるのに相(ふさ)応(わ)しい高等の専門的応用能力を確認する第二次試験から成る。平成29年度は、第一次試験については8,658名、第二次試験については3,501が合格した。第二次試験の部門別合格者は第2‐4‐2表のとおりである。

 第2‐4‐2表 技術士第二次試験の部門別合格者(平成29年度)

 さらに、科学技術振興機構は、技術者が科学技術の基礎知識を幅広く習得することを支援するために、科学技術の各分野及び共通領域に関するインターネット自習教材(※3)を提供している。


  • ※3 https://jrecin.jst.go.jp/

(3)大学院教育改革の推進

 文部科学省は、高度な専門的知識と倫理観を基礎に自ら考え行動し、新たな知及びそれに基づく価値を創造し、グローバルに活躍し未来を牽引(けんいん)する「知のプロフェッショナル」を育成するための大学院教育改革を推進している。例えば、「未来を牽引(けんいん)する大学院教育改革」(平成27年9月15日中央教育審議会大学分科会)や「第3次大学院教育振興施策要綱」(平成28年3月31日文部科学大臣決定)を踏まえ、大学院教育の充実・強化を図っている。
 特に、博士課程教育については、広く産学官にわたりグローバルに活躍するリーダーを養成するため、産・学・官の参画を得つつ、専門分野の枠を超えて博士課程前期・後期一貫した学位プログラムを構築・展開する大学院教育の抜本的改革を支援する「博士課程教育リーディングプログラム」を平成23年度から実施し、平成28年度までに62プログラムを支援している。
 また、「『日本再興戦略』改訂2015」(平成27年6月閣議決定)において、「文理融合分野など異分野の一体的教育や我が国が強い分野の最先端の教育を可能にし、また、複数の大学、研究機関、企業、海外機関等が連携して形成する「卓越大学院(仮称)」制度を創設する」とされた。これを踏まえ、平成28年4月に、産学官からなる「卓越大学院(仮称)検討のための有識者会議」において、「卓越大学院(仮称)構想に関する基本的な考え方」が取りまとめられ、卓越大学院を形成する分野の設定や複数の機関が連携する仕組みの基本的方向性について示された。平成30年度からの本格実施に向け、各大学が構想を具体化するための検討を進め、文部科学省としても、平成29年度に公募・審査等の方向性を検討するための調査研究を行う「卓越大学院プログラム(仮称)構想推進委託事業」により、その検討を加速させている。
 日本学生支援機構は、能力があるにもかかわらず、経済的な理由により進学等が困難な学生に対する奨学金事業を実施しており、大学院で無利子奨学金の貸与を受けた者のうち、在学中に特に優れた業績を上げた学生については奨学金の返還免除を行っている。なお、平成30年度入学者より、博士課程の大学院業績優秀者免除制度の拡充を行い、博士後期課程学生の経済的負担を軽減することで、進学を促進することとしている。
 日本学術振興会は、我が国の学術研究の将来を担う優秀な博士課程(後期)の学生に対して研究奨励金を支給する「特別研究員(DC)事業」を実施している。
 日本学術会議は、文部科学省からの審議依頼に応じて、大学教育の分野別質保証のために、全ての学生が身に付けるべき基本的な素養等を主要な内容とする「教育課程編成上の参照基準」の策定を行っており、平成29年度までに、31分野の参照基準を公表した。

(4)次代の科学技術イノベーションを担う人材の育成

 文部科学省では、理科教育における観察・実験や指導の充実に向けた指導体制を整えるための理科観察・実験アシスタントの配置の支援や、「理科教育振興法」(昭和28年法律第186号)に基づき、観察・実験に係る実験用機器をはじめとした理科、算数・数学教育に使用する設備の計画的な整備を進めている。
 また、先進的な理数系教育を実施する高等学校等を「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」に指定し、科学技術振興機構を通じて支援することで、生徒の科学的能力や科学的思考力等を培い、将来の国際的な科学技術人材等の育成を図っている。具体的には、学習指導要領によらないカリキュラムの開発・実践や課題研究の推進、科学技術人材の育成等を実施するとともに、他校への成果の普及に取り組んでいる。平成29年度においては、全国203校の高等学校等が特色ある取組を進めている。
 科学技術振興機構は、意欲・能力のある高校生を対象とした、国際的な科学技術人材を育成するプログラムの開発・実施を行う大学を「グローバルサイエンスキャンパス(GSC)」において選定し、支援している。これに加え、平成29年度から、理数分野で特に意欲や突出した能力を有する小中学生を対象に、その能力の更なる伸長を図るため、大学等が特別な教育プログラムを提供する「ジュニアドクター育成塾」を開始した。
 そのほか、学校・教育委員会と大学等が連携・協働し、中高生自ら課題を発見し、科学的な手法にしたがって継続的・自立的な実践活動を進める「中高生の科学研究実践活動推進プログラム」等の取組を実施している。
 加えて、全国の自然科学系分野を学ぶ学部学生等が自主研究を発表し、全国レベルで切(せっ)磋(さ)琢(たく)磨(ま)し合うとともに、企業関係者等とも交流を図ることができる機会として、「第7回サイエンス・インカレ」(平成30年3月3日~4日)を東京都豊島区において開催し、計263組の応募の中から書類審査を通過した計169組が発表を行った(第2‐4‐3図)。
 さらに、数学、化学、生物学、物理、情報、地学、地理の国際科学オリンピックやインテル国際学生科学技術フェア(Intel ISEF(※4))等の国際科学技術コンテストの国内大会の開催や、国際大会への日本代表選手の派遣、国際大会の日本開催に対する支援等を行っている(第2‐4‐4図)。平成29年度は、全国の高校生等が、学校対抗・チーム制で理科・数学等における筆記・実技の総合力を競う場として、「第7回科学の甲子園」(平成30年3月16日~19日)が埼玉県さいたま市において開催され、神奈川県代表チームが優勝し(第2‐4‐5図)、中学生を対象に茨城県つくば市で開催された「第5回科学の甲子園ジュニア」(平成29年12月1日~3日)では東京都代表チームが優勝した(第2‐4‐6図)。
 文部科学省、特許庁、日本弁理士会及び工業所有権情報・研修館は、国民の知的財産に対する理解と関心を深めるため、高等学校、高等専門学校及び大学等の生徒・学生を対象としたパテントコンテスト及びデザインパテントコンテストを開催している。コンテストに応募された発明・意匠のうち優れたものについては、表彰を行うとともに、生徒・学生が行う実際の特許出願・意匠登録出願から権利取得までの過程を支援している。なお、コンテストに応募した生徒・学生が所属する学校の中から、本コンテストに際し積極的な取組を行い、生徒・学生の知的財産マインドの向上を図る努力を行った学校、生徒・学生の知的財産制度の理解を深める努力を行った学校に対しては、文部科学省科学技術・学術政策局長賞を授与している。

 第2‐4‐3図 第7回サイエンス・インカレ開会式

 第2‐4‐4図 平成29年度国際科学技術コンテスト出場選手

 第2-4-5図第7回科学の甲子園

 第2‐4‐6図 第5回科学の甲子園ジュニア


  • ※4 Intel International Science and Engineering Fair

2 人材の多様性確保と流動化の促進

(1)女性の活躍促進

  女性研究者の活躍を促し、その能力を発揮させていくことは、我が国の経済社会の再生・活発化や男女共同参画社会の推進に寄与するものである。第5期基本計画では、第4期基本計画が掲げた女性研究者の新規採用割合に関する目標値(自然科学系全体で30%、理学系20%、工学系15%、農学系30%、医学・歯学・薬学系合わせて30%)について、第5期基本計画期間中に速やかに達成することを目指すとしている。我が国では、女性研究者の登用や活躍促進を進めることで、女性研究者の割合は年々増加傾向にあるものの、平成29年3月現在で約16%であり、先進諸国と比較すると依然として低い水準にある(第2‐4‐7図)。

 第2‐4‐7図 各国における女性研究者の割合

 内閣府は、ウェブサイト「理工チャレンジ(リコチャレ)~女子中高校生・女子学生の理工系分野への選択~(※5)」において、理工系分野での女性の活躍を推進している大学や企業など「リコチャレ応援団体」の取組やイベント、理工系分野で活躍する女性からのメッセージなどを情報提供している。また、女子生徒等の理工系分野への進路選択を支援するため、平成29年7月~8月に、文部科学省・一般社団法人日本経済団体連合会との共催で、夏休み期間中に各大学・企業等で実施している、主に女子中学生・高校生等を対象とした、理工系の職場見学、仕事体験、施設見学など多彩なイベントを取りまとめた「夏のリコチャレ2017~理工系のお仕事体感しよう!~」を開催した。
 文部科学省は、研究と出産・育児・介護等との両立や女性研究者の研究力向上を通じたリーダー育成を一体的に推進するなど、女性研究者の活躍促進を通じた研究環境のダイバーシティ実現に関する目標・計画を掲げ、優れた取組を体系的、組織的に実施する大学等を支援する「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ」を実施しており、平成29年度現在、69機関を支援している。
 科学技術振興機構は、科学技術分野で活躍する女性研究者・技術者、女子学生等と女子中高生の交流機会の提供や実験教室、出前授業の実施等、女子中高生の理系進路選択の支援を行う「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」を実施している。
 また、日本学術振興会は、出産・育児により研究を中断した研究者に対して、研究奨励金を支給し、研究復帰を支援する「特別研究員(RPD)事業」を実施している。
 経済産業省では、理系女性活躍促進のため、理系女性が持っているスキルと産業界が求めるスキルの可視化を行い、女性自身がどのようなスキルを身につければよいか把握できるような環境整備等を支援するため「理系女性活躍促進支援事業」を実施し、平成29年9月に、学生・大学教員・企業人事担当者を対象とした「理系女性活躍促進シンポジウム」を開催した。
 産業技術総合研究所は、全国18の大学や研究機関から成る組織(ダイバーシティ・サポート・オフィス)の運営に携わり、参加機関と連携してダイバーシティ推進に関する情報共有や意見交換を行っている。また、大学・企業との連携・協働で女性活躍推進法行動計画を実践し、より広いネットワークの下で、相互に研究者等のワーク・ライフ・バランスの実現やキャリア形成を支援し、意識啓発を進めるなどダイバーシティ推進に努めている。
 女性分野が優先アジェンダの一つであった平成28年5月のG7伊勢志摩サミットにおいては、G7首脳は「女性の理系キャリア促進のためのイニシアティブ(WINDS(※6))」の立ち上げに合意した。平成28年11月、外務省は3名のWINDS大使を任命し、WINDS大使は理系分野の女性の活躍を推進するための各種会議及びイベントに積極的に参加し、平成30年1月にもWINDS大使を1名再任命した。


  • ※5 http://www.gender.go.jp/c-challenge/
  • ※6 Women’s Initiative in Developing STEM Career

(2)国際的な研究ネットワーク構築の強化

ア 国際研究ネットワークの充実

(ア)我が国の研究者の国際流動の現状
 平成29年度に公表した「国際研究交流状況調査」によれば、我が国の大学、独立行政法人等の外国人研究者の短期受入れ者数は、平成21年度まで増加傾向であったところ、東日本大震災等の影響により平成23年度にかけて減少したが、その後、回復傾向が見られる。また、中・長期受入れ者数は、平成12年度以降、おおむね1万2,000~1万5,000人の水準で推移している(第2‐4‐8図)。次に、我が国における研究者の短期派遣者数は、調査開始以降、増加傾向が見られる。また、中・長期派遣者数は、平成20年度以降、おおむね4,000~5,000人の水準で推移している(第2‐4‐9図)。

 第2‐4‐8図 海外からの受入れ研究者数(短期/中・長期)の推移

 第2‐4‐9図 海外への派遣研究者数(短期/中・長期)の推移

(イ)研究者の国際交流を促進するための取組
 世界規模で進む頭脳循環の流れの中で、我が国の研究者及び研究グループが国際的研究・人材ネットワークの中心に位置付けられ、それを維持していくことができるよう、取組を進めている。
 日本学術振興会は、国際舞台で活躍できる我が国の若手研究者の育成を図るために、若手研究者を海外に派遣する諸事業や諸外国の優秀な研究者を招聘(しょうへい)する事業を実施するほか、科学研究費助成事業において、平成30年度助成(平成29年9月公募)より、「国際共同研究加速基金」を発展的に見直し、国際共同研究の基盤の構築や更なる強化を図る「国際共同研究(B)」を創設することとしている。
 そのほか、我が国の高いポテンシャルを有する研究グループが特定の研究領域で研究ネットワークを戦略的に形成するため、海外のトップクラスの研究機関と若手研究者の派遣・受入れを行う大学等研究機関を重点的に支援する「頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進事業」を実施している。また、我が国における学術の将来を担う国際的視野に富む有能な研究者を養成・確保するため、優れた若手研究者が海外の特定の大学等研究機関において長期間研究に専念できるよう支援する「海外特別研究員事業」や博士後期課程学生等の海外渡航支援として、「若手研究者海外挑戦プログラム」等を実施している。
 さらに、優れた外国人研究者に対し、我が国の大学等において研究活動に従事する機会を提供するとともに、我が国の大学等の研究環境の国際化に資するため、「外国人特別研究員」等様々なキャリアステージや目的に応じた招聘(しょうへい)事業を実施しているほか、「二国間交流事業」により我が国と諸外国の研究チームの持続的ネットワーク形成を支援している。
 また、アジア太平洋アフリカ地域の人材育成とネットワーク形成のため「HOPEミーティング」を開催し、同地域から選抜された大学院生等とノーベル賞受賞者をはじめとする世界の著名研究者が交流する機会を提供している。
 科学技術振興機構は、海外の優秀な人材の獲得につなげるため、アジア及び太平洋諸国の35の国・地域から青少年(40歳以下の高校生、大学生、大学院生、研究者等)を短期(1~3週間程度)に招聘(しょうへい)する日本・アジア青少年サイエンス交流事業を平成26年度から実施している。

イ 国際的な研究助成プログラム

 ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)は、1987年(昭和62年)6月のベネチア・サミットにおいて我が国が提唱した国際的な研究助成プログラムで、生体の持つ複雑な機能の解明のための基礎的な国際共同研究などを推進することを目的としている。日本・米国・フランス・ドイツ・EU・英国・スイス・カナダ・イタリア・オーストラリア・韓国・ニュージーランド・インド・ノルウェー・シンガポールの計15か国・極で運営されており、我が国は本プログラム創設以来、積極的な支援を行っている。本プログラムでは、国際共同研究チームへの研究費助成、若手研究者が国外で研究を行うための旅費、滞在費等の助成及び受賞者会合の開催等が実施されている。

(3)分野、組織、セクター等の壁を越えた流動化の促進

 文部科学省及び経済産業省は、人材の流動性を高めるうえで、教員が複数機関で常勤としての身分を有しながら、必要な従事比率で業務を行うクロスアポイントメントを促進することが重要であるとの認識の下、その実施に当たっての留意点、推奨される実施例等をまとめた「クロスアポイントメント制度の基本的枠組みと留意点」を平成26年12月に公表し、制度の導入を促進してきた。さらに、平成28年11月に策定された「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」においても、クロスアポイントメントを促している。
 また、文部科学省は、複数の大学等でコンソーシアムを形成し、企業等とも連携して、研究者の流動性を高めつつ、安定的な雇用を確保しながらキャリアアップを図る「科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業」を実施している。

第2節 知の基盤の強化

  持続的なイノベーションの創出には、従来の慣習や常識にとらわれない柔軟な思考と斬新な発想が求められている。そうした中、学術研究と基礎研究の改革と強化をはじめ、研究者が腰を据えて研究に取り組むための環境整備等、質的・量的双方の観点から知の基盤の強化を図ることとしている。

1 イノベーションの源泉としての学術研究と基礎研究の推進

(1)学術研究の推進に向けた改革と強化

ア 科学研究費助成事業の改革・強化

 文部科学省及び日本学術振興会は科学研究費助成事業(科研費)を実施している。科研費は、人文学・社会科学から自然科学までの全ての分野にわたり、あらゆる学術研究を対象とする唯一の競争的資金であり、研究の多様性を確保しつつ独創的な研究活動を支援することにより、研究活動の裾野の拡大を図り、持続的な研究の発展と重厚な知的蓄積の形成に資する役割を果たしている。平成29年度は、主な研究種目全体で10万件を超える新たな応募のうち、ピアレビュー(研究者コミュニティから選ばれた研究者による審査)によって約2万5,000件を採択し、数年間継続する研究課題を含めて約7万6,000件を支援している(平成29年度予算額2,284億円)。
 科研費は、これまでも制度を不断に見直し、基金化の導入などの改善を図ってきたが、質の高い学術研究を推進し、卓越した「知」を創出するため、「科研費改革の実施方針」(平成27年9月策定)及びその内容を反映した第5期基本計画を踏まえ、その抜本的な改革(1.審査システムの見直し、2.研究種目・枠組みの見直し、3.柔軟かつ適正な研究費使用の促進)を進めるとともに、量的な政策目標として、新規採択率30%の目標を掲げている。
 1.については、文部科学省 科学技術・学術審議会 学術分科会において取りまとめられた「科学研究費助成事業の審査システム改革について」に基づき、平成30年度助成(平成29年9月公募開始)から、400程度に細分化されている審査区分を大括り化し、抜本的に見直した上で新たな審査区分表として設定するとともに、合議審査を一層充実させる「総合審査」などの新しい審査方式を導入している。
 2.については、同分科会研究費部会において取りまとめられた「科研費による挑戦的な研究に対する支援強化について」に基づき、学術の変革・転換を志向する研究を支援する「挑戦的研究」を創設するとともに、若手研究者の独立を支援するなどの取組を平成29年度から実施している。
 今後も、更なる学術研究の振興に向け、第5期基本計画を踏まえた改革を図り、科研費の充実を図っていく。

イ 大学・大学共同利用機関における共同利用・共同研究の推進

 我が国の学術研究の発展には、最先端の大型装置や貴重な資料・データ等を、個々の大学の枠を越えて全国の研究者が利用し、共同研究を行う「共同利用・共同研究体制」が大きく貢献しており、主に大学共同利用機関や、文部科学大臣の認定を受けた国公私立大学の共同利用・共同研究拠点(※7)によって担われている。
 特に、学術研究の大型プロジェクトは、研究を進める上で、多くの物的・人的資源が必要であり、個々の大学では実施が困難であるため、主に共同利用・共同研究体制において取り組まれており、文部科学省では「大規模学術フロンティア促進事業」により、これらの取組を推進している。
 平成29年度は、世界トップレベルの成果の創出が期待される10のプロジェクト(第2‐4‐10図)を推進しており、例えば、宇宙素粒子観測装置「スーパーカミオカンデ」における研究成果は、平成27年度の梶田隆章・東京大学宇宙線研究所長のノーベル物理学賞受賞に直接貢献している。また、古典籍約30万点を画像データ化して新たな国際共同研究の発展を目指す「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」においては、平成29年10月に「新日本古典籍総合データベース」を公開し、誰もが古典籍の画像データにアクセスすることが可能となっている。こうした取組により、江戸時代の古典籍「星解」と現代の計算に基づく再現から、1770年に太陽の史上最大級の磁気嵐が発生していたことが明らかとなるなど、異分野融合による研究が進められている。

 第2‐4‐10図 大規模学術フロンティア促進事業において実施する大型プロジェクト


  • ※7 平成29年4月現在、53大学105拠点が認定を受けて活動している。

コラム2‐10 国際的な科学誌ネイチャーが特集した我が国の科学研究の現状

 2017年(平成29年)3月、国際的な科学誌「ネイチャー」は、我が国の科学研究を憂慮する別刷りの特集“Nature Index 2017 Japan”を発行した。
 この特集によると、世界の高品質な科学成果を取り扱う主要な68の学術誌に掲載された論文数を比較分析したところ、2016年の論文数は2012年と比較し中国が47.7%、英国が17.3%それぞれ増加したのに対し、我が国は8.3%減少していた。さらに、より多くの学術誌に掲載された論文のデータベースについて2005年から2015年まで同様に分析した結果、2015年の論文数は世界全体で収録数が約80%増加し、中国や米国が高い伸びを示す中、我が国は14%増にとどまり、全体に占める割合は7.4%から4.7%に下落していた。同誌は、「日本は世界のトップ科学研究国ではあるが、この10年間は世界の論文数の伸びについていけていない」としている。
 原因として、同誌では、ドイツや韓国、中国などが研究開発への支出を増やす中、日本では科学技術関係投資が2001年以降伸び悩んでいることや国立大学において人件費に充てる運営費交付金が減り、若手研究者が任期なしの職を得る機会が少ないこと等を挙げている。同誌は、「日本の科学研究は転換点にあり、次の10年で成果を出さなければ、科学研究でトップの国という地位を失いかねない」とし、我が国の科学研究に警鐘を鳴らす内容となっている。
 また、2018年(平成30年)3月に発行された“Nature Index 2018 Japan”では、世界の高品質な科学成果を取り扱う主要な68の学術誌に掲載された論文全体に占める日本の論文の割合は、中国の伸びを背景にさらに低下し、2012年の9.2%から2017年の8.6%に低下したとされた。
 文部科学省科学技術・学術政策研究所の報告書においても、ネイチャー誌と同様に、我が国の研究者の論文数・シェアは低下傾向であるというデータが示されており、世界全体で国際共著論文が大きく増えている一方、我が国の共著論文の伸びが相対的に低いことなどが要因の一つであると考えられる。このため、次世代を担う若手研究者の育成や世界トップレベルの研究拠点の形成など国際ネットワークの強化に取り組むとともに、第5期基本計画の政府研究開発投資目標である対GDP比1%の達成に向けて取り組んでいる。

 主要68誌に掲載されている全論文数に対する論文数の割合
 資料:NATURE INDEX 2018 JAPAN (Nature 555, S54‐S55 (2018)
 https://www.natureindex.com/supplements/nature-index-2018-japan/index)掲載資料を基に文部科学省作成

(2)戦略的・要請的な基礎研究の推進に向けた改革と強化

 科学技術振興機構が実施している「戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)」及び日本医療研究開発機構が実施している「革新的先端研究開発支援事業」では、国が戦略的に定めた目標の下、大学等の研究者から提案を募り、組織・分野の枠を超えた時限的な研究体制を構築して、戦略的な基礎研究を推進するとともに、有望な成果について研究を加速・深化している。
 なお、文部科学省は平成29年度目標として、以下の六つを設定した。
(戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出))

  • ナノスケール熱動態の理解と制御技術による革新的材料・デバイス技術の開発
  • 実験とデータ科学等の融合による革新的材料開発手法の構築
  • ネットワークにつながれた環境全体とのインタラクションの高度化
  • 量子技術の適用による生体センシングの革新と生体分子の動態及び相互作用の解明
  • 細胞外微粒子により惹起される生体応答の機序解明と制御

 (革新的先端研究開発支援事業)

  • 全ライフコースを対象とした個体の機能低下メカニズムの解明

(3)国際共同研究の推進と世界トップレベルの研究拠点の形成

  我が国が世界の研究ネットワークの主要な一角に位置付けられ、世界の中で存在感を発揮していくためには、国際共同研究を戦略的に推進するとともに、国内に国際頭脳循環の中核となる研究拠点を形成することが重要である。

ア 諸外国との国際共同研究

(ア)国際熱核融合実験炉(ITER)
 ITER計画は、世界7極の国際協力により実施されており、2025年(平成37年)の運転開始に向けてフランス・カダラッシュにおいてITERの建設作業が本格化している。我が国は、ITER機器のうち超伝導コイルの製作等を進めている(第3章第1節参照)。

(イ)国際宇宙ステーション(ISS)
 国際宇宙ステーション(ISS)計画において、我が国は、日本実験棟「きぼう」及び宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)の運用などを行っている。(第3章第4節参照)。

(ウ)国際深海科学掘削計画(IODP(※8))
 国際深海科学掘削計画(IODP)は、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした日米欧主導の多国間国際協力プロジェクトで、統合国際深海掘削計画[前IODP(2003~2013年(平成15~25年))]を引き継いで、2013年(平成25年)10月から実施されている。我が国が提供し、科学掘削船としては世界最高レベルの性能を有する地球深部探査船「ちきゅう」及び米国が提供する掘削船を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて世界各地の深海底の掘削を行っている。2017年(平成29年)度には、地球深部探査船「ちきゅう」による東南海地震の想定震源域である紀伊半島沖熊野灘での掘削を実施し、掘削孔への長期孔内観測システムの設置等を行った。

(エ)大型ハドロン衝突型加速器(LHC)
 大型ハドロン衝突型加速器(LHC)計画(※9)においては、CERN(※10)加盟国と日本、米国等による国際協力の下、2008年(平成20年)に加速器が完成し、現在、世界最高のエネルギー領域において実験研究が行われている。

(オ)国際リニアコライダー(ILC)
 「ヒッグス粒子」の性質をより詳細に解明すること等を目指して、国際的な研究者のグループが線形加速器「国際リニアコライダー(ILC)」を構想しており、平成25年6月に技術設計報告書が公表された。
 文部科学省は、平成25年9月に出された日本学術会議の回答を受けて、平成26年5月から外部有識者による会議を開催し、平成27年6月に科学的意義等について、平成28年7月に人材の確保・育成方策について、平成29年7月に体制及びマネジメントの在り方について、議論の取りまとめを行った。その後、平成29年11月に公表された計画見直しの内容について、科学的意義やコスト等を検証するため再度部会を設置し、議論を進めるなど、引き続きILC計画に係る諸課題の検討を行っている。


  • ※8 International Ocean Discovery Program
  • ※9 欧州合同原子核研究機関(CERN)の巨大な円形加速器を用いて、宇宙創成時(ビッグバン直後)の状態を再現し、未知の粒子の発見や、物質の究極の内部構造の探索を行う実験計画
  • ※10 Conseil Européen pour la Recherche Nucléaire:欧州原子核研究機構
イ 世界トップレベル拠点の形成に向けた取組

 文部科学省は、「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI(※10))」を推進している。本プログラムは、優れた研究環境と世界トップレベルの研究水準を誇る研究拠点の構築を目指して、優れた研究者を中核として世界トップレベルの拠点形成を目指す構想に対し、集中的に支援している。具体的には、1拠点当たり7億円程度(平成22年度以前の採択拠点においては最大14億円程度)の支援を10年間行うものであり、平成29年度現在11拠点が活動している(第2‐4‐11図)。本プログラムでは、「世界トップレベル研究拠点プログラム委員会」(委員長:野依良治・科学技術振興機構 研究開発戦略センター長)を中心として丁寧かつきめ細やかな進捗管理を毎年実施しており、「目に見える研究拠点」の確実な形成を目指している。
 また、世界水準の優れた研究大学群を増強するため、研究マネジメント人材の確保・活用と大学改革・集中的な研究環境改革の一体的な推進を支援・促進し、我が国全体の研究力強化を図るため、「研究大学強化促進事業」を実施している。

 第2‐4‐11図 世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の概要


  • ※11 World Premier International Research Center Initiative

2 研究開発活動を支える共通基盤技術、施設・設備、情報基盤の戦略的強化

(1)共通基盤技術と研究機器の戦略的開発・利用

 科学技術振興機構は、文部科学省の方針に基づき、世界最先端の研究者やものづくり現場のニーズに応えられる我が国発のオンリーワン、ナンバーワンの先端計測分析技術・機器の開発等を行う「研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)」を実施している(第2‐4‐12図)。開発されたプロトタイプが製品化に至った事例は、平成30年3月の時点で約57件に上る。

 第2‐4‐12図 先端計測分析技術・機器開発の主な成果例

(2)産学官が利用する研究施設・設備及び知的基盤の整備・共用、ネットワーク化

ア 研究施設・設備の整備・共用、ネットワーク化の促進

 科学技術の振興のための基盤である研究施設・設備は、整備や効果的な利用を図ることが重要である。また、「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律」(平成20年法律第63号)においても、大学、国立研究開発法人等が保有する研究施設・設備の共用の促進を図るため、国が必要な施策を講じる旨が規定されている。
 このため政府は、科学技術に関する広範な研究開発領域や、産学官の多様な研究機関に用いられる共通的、基盤的な施設・設備に関して、その有効利用、活用を促進するとともに、施設・設備の相互のネットワーク化を促進し、利便性、相互補完性、緊急時対応等を向上するための取組を進めている。

(ア)特定先端大型研究施設
 「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」(平成6年法律第78号)(以下「共用法」という。)では、特に重要な大規模研究施設は特定先端大型研究施設と位置付けられ、計画的な整備及び運用並びに中立・公正な共用が規定されている。

(1)大型放射光施設(SPring‐8)
 大型放射光施設(SPring‐8)は、光速近くまで加速した電子の進行方向を曲げたときに発生する極めて明るい光である「放射光」を用いて、物質の原子・分子レベルの構造や機能を解析可能な世界最高性能の研究基盤施設である。本施設は平成9年の供用開始から20年を迎えた今なお、生命科学、環境・エネルギーから新材料開発まで、我が国の経済成長を牽引(けんいん)する様々な分野で革新的な研究開発に貢献している。

 大型放射光施設(SPring‐8)及びX線自由電子レーザー施設(SACLA)(左の縦長の施設がSACLA。右の円形状の施設がSPring‐8)
 大型放射光施設(SPring‐8)及びX線自由電子レーザー施設(SACLA)(左の縦長の施設がSACLA。右の円形状の施設がSPring‐8)
 提供:理化学研究所

(2)X線自由電子レーザー施設(SACLA)
 X線自由電子レーザー施設(SACLA)は、レーザーと放射光の特長を併せ持つ究極の光を発振し、原子レベルの超微細構造や化学反応の超高速動態・変化を瞬時に計測・分析する世界最先端の研究基盤施設である。平成24年3月に供用を開始し、同年に先導的利用研究の推進のため「X線自由電子レーザー重点戦略研究課題」事業が開始された。平成29年度は、従来の技術では観測できなかった、材料が超高速で破壊される瞬間の動画撮影に成功するなど、画期的な成果が生まれているほか、世界で初めて電子ビームの振り分け運転(※1)による2本の硬X線FEL(※2)ビームラインの同時供用が開始されるなど利用環境の整備も着実に進められている。


  • ※12 線型加速器からの電子ビームをパルス毎に複数のビームラインに振り分けることで、複数のビームラインを同時に利用可能。
  • ※13 硬X線FELとは波長が0.3nm以下の短い硬X線領域の自由電子レーザー

コラム2‐11 SPring‐8共用開始から20年を迎えて

 大型放射光施設SPring‐8は、世界最先端の放射光を利用できる大型研究基盤として、平成3年11月に理化学研究所と旧・日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)の協働により建設が開始され、約6年の歳月を経て、平成9年10月、国内外の幅広い分野の研究者への共用が開始された。
 SPring‐8は、これまでの20年間の運転実績により、故障等によって利用できなかった時間(ダウンタイム)を1%未満に抑えることで高い稼働率を実現し、高輝度で安定した品質の良い放射光を利用できる環境を維持してきている。こうした利用環境の維持により、学術のみならず産業利用も幅広く進められており、利用者は年間1万6千人、累計22万人、論文創出数は年間1千報、累計1万報を超えるなど、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、生命科学、環境・エネルギー、材料開発など幅広い分野の研究者に利用されており、様々な分野の研究開発で画期的な成果をあげている。
 学術研究においては、ロドプシンやカルシウムポンプの立体構造の決定、小惑星探査機はやぶさプロジェクトでの小惑星イトカワの微粒子分析などがあげられる。一方、民間企業による研究開発も盛んに行われており、ゴム内部の精密な構造解析による高性能・高品質な低燃費タイヤ、透明酸化物半導体(IGZO)の薄膜トランジスタ(TFT)特性の解明など、これまで約400社に利用され、SPring‐8を利用した数々の研究成果が製品化につながっている。
 平成24年3月には、SPring‐8に隣接して、世界で二つ目のX線自由電子レーザーであるSACLAの共用が開始された。これにより放射光とX線レーザーを同時に利用できる世界でも類を見ない施設として、放射光とX線自由電子レーザーの相乗利用による研究開発が盛んに行われることとなった。例えば、植物の光合成に重要な役割を果たすタンパク質である光合成系2複合体(PS2)について、放射光によりタンパク質全体の構造が解析されるとともに、X線自由電子レーザーにより触媒中心の原子構造が世界で初めて解明されるなど、世界最先端の顕著な成果が創出されている。
 平成29年10月、SPring‐8は共用開始から20周年を迎えた。産業界、学術界、地方自治体等の関係者に加え、諸外国の主要な放射光施設の長らが集まり、国宝姫路城にて、SPring‐8の20周年式典が執り行われた。この20年の共用を通じて、最先端の大型研究施設として我が国の科学技術イノベーションや産業競争力の強化に貢献してきたSPring‐8は、次の20年においても我が国の最先端の研究開発を支える礎であり続けることが期待されている。

 SPring‐8ニ十周年記念式典の様子
 SPring‐8ニ十周年記念式典の様子
 提供:理化学研究所

 光化学系2タンパク質複合体の結晶構造
 光化学系2タンパク質複合体の結晶構造
 提供:沈建仁・岡山大学教授

(3)スーパーコンピュータ「京(けい)」
 スーパーコンピュータを用いたシミュレーションは、理論、実験と並ぶ、現代の科学技術の第3の手法として最先端の科学技術や産業競争力の強化に不可欠なものとなっている。平成24年9月末に供用が開始された「京(けい)」は、理化学研究所が、利用者支援を行う登録機関である一般財団法人高度情報科学技術研究機構、ユーザーコミュニティ機関等から構成される一般社団法人HPCI(※14)コンソーシアムと連携しつつ運用しており、医療・創薬の高度化、ものづくりの革新、地震・津波の被害軽減や物質と宇宙の起源の解明など、様々な分野において、世界に先駆けた画期的な成果の創出に貢献している。
 また、文部科学省は、我が国が直面する社会的・科学的課題の解決に貢献するため、平成33年から平成34年の運用開始を目標に「京(けい)」の後継機であるポスト「京(けい)」を開発するプロジェクトを推進している。システムと課題解決に資するアプリケーションとを協調的に開発することにより、世界最高水準の汎用性のあるスーパーコンピュータの実現を目指している。平成29年度には、システムの詳細設計を行うとともに、健康長寿、防災・減災、エネルギー、ものづくり分野等の九つの重点課題と、社会経済現象、脳の神経回路等を対象とした四つの萌芽的課題に関するアプリケーションの研究開発に取り組んでいる。

 スーパーコンピュータ「京(けい)」
 提供:理化学研究所


  • ※14 High Performance Computing Infrastructure

(4)大強度陽子加速器施設(J‐PARC(※15))
 大強度陽子加速器施設(J‐PARC)は、世界最高レベルのビーム強度を持つ陽子加速器を利用して生成される中性子、ミュオン、ニュートリノ(※16)等の多彩な二次粒子を利用して、幅広い分野における基礎研究から産業応用まで様々な研究開発に貢献している。物質・生命科学実験施設(特定中性子線施設)では、革新的な材料や新しい薬の開発につながる構造解析等の研究が行われ、多くの成果が出ている。原子核・素粒子実験施設(ハドロン実験施設)やニュートリノ実験施設は、共用法の対象外の施設であるが、国内外の大学等の研究者との共同利用が進められている。特に、ニュートリノ実験施設では、2015年(平成27年)ノーベル物理学賞を受賞したニュートリノ振動の研究に続き、その更なる詳細解明を目指して、T2K(Tokai to Kamioka)実験が行われている。

 大強度陽子加速器施設(J‐PARC)
 大強度陽子加速器施設(J‐PARC)
 提供:J‐PARCセンター


  • ※15 Japan Proton Accelerator Research Complex
  • ※16 素粒子の一つ。電気的に中性で物質を通り抜けるため検出が難しく、質量などその性質は未知の部分が多い。

(イ)新たな軟X線向け高輝度3GeV級放射光源
 文部科学省では、平成28年11月から科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 量子科学技術委員会 量子ビーム利用推進小委員会において、軟X線に強みを持つ高輝度3GeV級放射光源(次世代放射光施設)に関し、その科学技術イノベーション政策上の意義、求められる性能、整備・運用の基本的考え方と具体的方策等について審議検討を進めている。平成30年1月には、「学術、産業ともに高い利用が見込まれる次世代放射光施設を、官民地域パートナーシップにより早期に整備することが必要であり、量子科学技術研究開発機構を国の整備・運用主体として計画を進めていくことが適当である」との検討結果を「新たな軟X線向け高輝度3GeV級放射光源の整備等について(報告)」として取りまとめた。

(ウ)研究施設設備間のネットワーク構築

(1)共用プラットフォーム
 文部科学省は、産学官が共用可能な研究施設・設備等における施設間のネットワークを構築する共用プラットフォームを形成することにより、世界最高水準の研究開発基盤の維持・高度化を図っている(第2‐4‐13図)。

 第2‐4‐13図 「先端研究基盤共用促進事業」(共用プラットフォーム形成支援)の採択機関

(2)革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築
 文部科学省は、世界最高水準の計算性能を有するスーパーコンピュータ「京(けい)」を中核とし、国内の大学や研究機関等のスーパーコンピュータやストレージを高速ネットワークでつなぎ、多様な利用者のニーズに対応した計算環境を提供するHPCIの構築を進めている。また、HPCIの効果的・効率的な運営に努めながら、様々な分野での利用を推進している。

 革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築
 資料:文部科学省作成

(3)ナノテクノロジープラットフォーム
 文部科学省は、ナノテクノロジーに関する最先端の研究設備とその活用のノウハウを有する機関が緊密に連携し、全国的な共用体制を構築することで、産学官の利用者に対し、最先端設備の利用機会と高度な技術支援を提供している。

イ 競争的資金改革と連携した新たな共用システムの導入

 文部科学省は、競争的研究費改革と連携し、研究組織のマネジメントと一体となった研究設備・機器の整備運用の早期確立により、研究開発と共用の好循環を実現する新たな共用システムの導入を推進している(第2‐4‐14図)。

 第2‐4‐14図 「先端研究基盤共用促進事業」(新たな共用システム構築支援)の採択機関

ウ 知的基盤の整備・共用、ネットワーク化の促進

 文部科学省は、日本医療研究開発機構を通じ、ライフサイエンス研究の基盤となる研究用動植物等のバイオリソースのうち、国が戦略的に整備することが重要なものについて、体系的に収集、保存、提供等を行うための体制を整備することを目的として、「ナショナルバイオリソースプロジェクト」を実施している。また、老化メカニズムの解明・制御に関する研究開発を包括的に推進するとともに老化研究の核となる拠点形成を目指し、「老化メカニズムの解明・制御プロジェクト」を実施している。
 経済産業省は、計量標準、微生物遺伝資源及び地質情報の3分野の新たな知的基盤整備計画及び具体的な利用促進方策について、平成30年2月にその進捗状況の確認と計画の見直しを行った。
 計量標準については、産業技術総合研究所が、石油中流量(液種追加)などの物理標準整備を実施した。これは石油及び自動車産業の燃料計測分野での活用が期待されている。また、化学標準物質については水道水質基準に対応したICP‐MS(※17)用金属混合標準液等の整備を行ったほか、先端材料の適正管理のための静的光散乱用水溶性高分子標準物質の整備を行い、産業技術総合研究所へのトレーサビリティが確保された依頼試験の実施体制を確立した。
 微生物遺伝資源については、製品評価技術基盤機構が、微生物遺伝資源の収集・保存・分譲を行うとともに、これらの資源に関する情報(系統的位置付け、遺伝子に関する情報等)を整備、拡充し、幅広く提供している(平成30年1月末現在の分譲株数は6,339株)。また、微生物資源の保存と持続可能な利用を目指した15か国・地域の27機関のネットワーク活動(アジア・コンソーシアム、平成16年設立)への参加を通じて、アジア各国との協力関係を構築し、生物多様性条約や名古屋議定書を踏まえたアジア諸国の微生物遺伝資源の利用を支援している。これらの取組のほか、ミャンマーにおいて日本の事業者による産業上有用な微生物資源の探索と日本への移転を支援している。
 地質情報については、産業技術総合研究所が、5万分の1地質図幅4区画、海底地質図1区画を出版した。また、都市域の地盤リスク軽減を目的に、千葉県北部地域において、高精度な地下の地層の分布形態を3次元で可視化する地質図(都市域の地質地盤図)を整備、ウェブ公開した(第2‐4‐15図)。さらに、次世代シームレス地質図として、20万の1日本シームレス地質図V2の正式公開を行った。V2版の凡例数は、従来の386から2,400超へと6倍以上に増え、より詳細な地質情報の表現や目的・用途に応じた柔軟な表示が可能となった。火山噴火時の対応として、平成29年10月の霧島山新燃岳噴火、及び平成30年1月の草津白根山噴火に対する緊急調査を実施した。成果は、迅速にウェブサイト等で公開するとともに、火山噴火予知連絡会に報告した。その他、地質情報の二次利用に向けた取組として、地質図Naviの定常的な更新及びアプリケーションの開発・公開を行った。地質図Naviでは、大幅改訂された日本シームレス地質図V2のほか、地熱資源データ、プレート面等深線データの表示機能を追加した。また、他機関との連携により、赤色立体地図と土壌図(農業・食品産業技術総合研究所)、人口密度データ(総務省統計局)を表示可能とした。アプリケーションでは、新たに地質図の3次元表示を行うビューアを制作し、オープンソースとして公開した。

 第2‐4‐15図 千葉県北部地域の3次元地質モデル


  • ※17 Inductively coupled plasma-mass spectrometry:誘導結合プラズマ質量分析

(3)大学等の施設・設備の整備と情報基盤の強化

ア 国立大学等の施設・設備

 国立大学等の施設は、日本の次代を担う人材育成の場であるとともに、地方創生やイノベーション創出の拠点となるなど、Society 5.0の実現に資する知の基盤である。現在、国立大学等の施設は、建築後25年以上を経過した施設が約6割を占めるとともに、キャンパス内の給排水管やガス管等のライフラインの老朽化も進行している。
 こうした中、文部科学省では、第5期基本計画を踏まえ、平成28年3月に「第4次国立大学法人等施設整備5か年計画(平成28~32年度)」(平成28年3月29日文部科学大臣決定。以下「第4次5か年計画」という。)を策定し、計画的かつ重点的な施設整備を推進している(第2‐4‐16図)。
 第4次5か年計画では、1.安全・安心な教育研究環境の基盤の整備:約475万m2、2.国立大学等の機能強化等変化への対応(新増築):約40万m2及び(大学附属病院施設の整備):約70万m2、合計約585万m2を優先的に整備すべき対象としているほか、3.サステイナブル・キャンパスの形成のために、省エネルギー対策や社会の先導モデルとなる取組を推進することとしている。平成29年度は、同計画期間の2年目であり、2か年の整備面積としては、1.安全・安心な教育研究環境の基盤の整備:約25万m2、2.国立大学等の機能強化等変化への対応(新増築):約8万m2及び(大学附属病院施設の整備):約21万m2、合計約54万m2となる見込みであり、今後も計画的かつ重点的な整備を推進していく。
 また、同計画では、国立大学法人等に対して長期的な視点に立って、大学の基本理念やアカデミックプラン、経営戦略等を踏まえたキャンパス全体の整備計画(キャンパスマスタープラン)を策定・充実するとともに、同プランに基づいた計画的で、より効果的かつ効率的な施設整備を行うよう求めている。さらに、戦略的な施設マネジメントの取組や、多様な財源を活用した施設整備を一層推進することとしている。施設マネジメントについては、大学の理念やアカデミックプランの実現に向けて、経営的視点から施設全般に係る様々な取組を行う施設マネジメントを一層促進するために、平成25年11月から有識者会議(※18)を開催し、国立大学等の経営者層に向けて、施設マネジメントの基本的な考え方、具体的な実施方策、先進的な取組事例等を示した報告書(※19)を平成27年3月に取りまとめた。加えて、本報告書を踏まえた施設マネジメントの実践に参考となるよう、平成27年10月及び平成29年3月に事例集を作成した。
 国立大学等の設備は、最先端の研究を推進させるとともに、質の高い教育研究を支える基盤であり、その計画的な維持・管理、整備が必要である。
 大学が整備する大型の研究設備の整備に対する支援のほか、「30m光学赤外線望遠鏡(TMT)計画」をはじめとした、我が国発の独創的なアイディアによる世界最高水準の研究設備についても「大規模学術フロンティア促進事業」により支援を行っている。

 第2‐4‐16図 老朽改善による機能強化等の整備事例


  • ※18 国立大学等施設の総合的なマネジメントに関する検討会
  • ※19 「大学経営に求められる施設戦略~施設マネジメントが教育研究基盤を強化する~」
イ 私立大学の施設・設備

 文部科学省は、私立大学の建学の精神や特色を生かした質の高い教育研究活動等の基盤となる施設・設備等の整備を支援している。

ウ 研究情報基盤の整備

 情報通信研究機構は、構築・運営しているNICT総合テストベッドにより、IoTや新世代ネットワーク等の技術実証・社会実証を推進している。
 国立情報学研究所は、大学等の学術研究や教育活動全般を支える基幹的ネットワークとして学術情報ネットワーク(SINET(※20))を運用している。平成29年度末現在で、国内の850以上の大学・研究機関がSINETに接続しており、教育・研究に携わる数多くの人々のための学術情報の流通が確保されている。また、国際的な先端研究プロジェクトで必要とされる国際間の研究情報流通を円滑に進めるため、米国や欧州など多くの海外研究ネットワークと相互接続している。
 農林水産省は、農林水産関連の研究機関を相互に接続する農林水産省研究ネットワーク(MAFFIN(※21))を構築・運営しており、平成29年度現在で82機関が接続している。MAFFINはフィリピンと接続しており、海外との研究情報流通の一翼を担っている。
 環境省は、科学的情報に基づく自然保護施策の推進に寄与することを目的として、国や地方自治体の自然系調査研究機関が情報交換・情報共有するための自然系調査研究機関連絡会議(NORNAC(※22))を運用しており、現在53の研究機関が参加している。また、地球規模での生物多様性保全に必要な科学的基盤の強化のため、アジア太平洋地域における生物多様性観測・モニタリングデータの収集・統合化などを推進するアジア太平洋地域生物多様性観測ネットワーク(AP‐BON(※23))の事務局を務めており、多くの国から参画を得ている。


  • ※20 Science Information NETwork
  • ※21 Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries Research Network
  • ※22 Network of Organizations for Research on Nature Conservation
  • ※23 Asia-Pacific Biodiversity Observation Network
エ データベースの構築・提供

 国立国会図書館は、収集・保管している資料に関するデータベースを作成し、ウェブサイト(※24)で情報を提供している。
 国立情報学研究所は、効果的・効率的な研究開発活動の促進に向け、イノベーション創出に必要な学術情報を体系的に収集し、使いやすいように整備した上で、インターネット上で公開している。例えば、全国の大学図書館等が所蔵する学術図書・雑誌の目録所在情報や国内の博士論文を含む学術論文を一元的に検索可能なデータベース(CiNii(※25))を構築し、提供しているほか、大学等が教育研究成果を保存・公開する機関リポジトリの構築を支援するとともに、機関リポジトリ間のデータベース連携(JAIRO(※26))を図っている。
 科学技術振興機構は、国内外の科学技術に関して、文献、特許、研究者、研究開発活動に関わる基本的な情報を体系的にデータベース化し、そうした情報を相互に関連付けて提供するサービス(J‐GLOBAL)や、科学技術に係る文献に関し、日本語抄録を付加したデータベースを整備し、これを国内外の各種データベースと連動させる文献情報検索サービス(JDream3(※27))を行っている。また、我が国の研究者情報を一元的に集積し、研究業績情報の管理と提供、大学の研究者総覧の構築を支援する研究者総覧データベース(researchmap)やオープンサイエンスの進展に対応し、学協会の刊行するオープンアクセスジャーナルを育成するため、共用システム環境(J‐STAGE(※28))を提供している(本節3参照)。
 農林水産省は、国内で発行されている農林水産関係学術誌の論文等の書誌データベース(JASI(※29))等、農林水産関係の文献情報や図書資料類の所在情報を構築・提供している。また、研究開発型の独立行政法人、国公立試験研究機関や大学の農林水産分野の研究報告等をデジタル化した全文情報データベース、試験研究機関で実施中の研究課題データベース等を構築・提供している。
 環境省は、生物多様性情報システム(J‐IBIS(※30))において、全国の自然環境及び生物多様性に関する情報の収集・管理・提供をしている。


  • ※24 http://iss.ndl.go.jp/
  • ※25 Citation Information by NII
  • ※26 Japan Institutional Repositories Online
  • ※27 JST Document Retrieval system for Academic and Medical fields Ⅲ
  • ※28 Japan Science and Technology information Aggregator, Electronic
  • ※29 Japan Agricultural Sciences Index
  • ※30 Japan Integrated Biodiversity Information System

3 オープンサイエンスの推進

(1)我が国の検討状況

 オープンサイエンスとは、オープンアクセスと研究データのオープン化(オープンデータ)を含む概念であり、世界的にも急速な広がりを見せており、オープンイノベーションの重要な基盤として注目されている。こうした潮流を踏まえて、適切な国際連携により、資金配分機関、学界、産学官等の関係者による推進を加速することが求められている。
 内閣府では、平成27年に国際的動向を踏まえたオープンサイエンスに関する検討会において「我が国におけるオープンサイエンス推進のあり方について」報告書を取りまとめた。同報告書では、公的研究資金における研究成果(論文、研究データ等)の利活用促進を拡大することが、我が国のオープンサイエンス推進の基本姿勢として示されている。これを踏まえて、我が国のオープンサイエンスの実施状況等をフォローアップすべく、「オープンサイエンス推進に関するフォローアップ検討会」を平成27、28年度に開催した。さらに、平成29年度は、「国際的動向を踏まえたオープンサイエンスの推進に関する検討会」を設置し、国際動向を踏まえたオープンサイエンス推進や国際プレゼンスの向上のための方策等について検討を行っている。
 文部科学省では、平成28年2月、科学技術・学術審議会 学術分科会 学術情報委員会において、「学術情報のオープン化の推進について(審議まとめ)」をまとめ、公的研究資金による研究成果のうち、論文とそのエビデンスとしての研究データは、原則公開とすべきとの方針を示し、関係機関において取り組むべき事項について提起した。それをもとに、平成29年1月、同審議会総合政策特別委員会において、「総合政策特別委員会における第5期科学技術基本計画の実施状況のフォローアップ等に関する審議のとりまとめ」をまとめ、オープンサイエンスを巡る国際的な動きや国内における状況を踏まえつつ、競争的資金におけるデータ共有・公開の促進、研究分野の特性に応じたデータの公開/非公開の在り方、研究データの保管に係る基盤の整備などを中心に、具体的な施策を進める上での方向性や留意すべき点等を示した。

(2)競争的資金における研究成果の共有・公開に係る取組

 科学技術振興機構では、戦略的創造研究推進事業において、データマネジメント実施方針を示し、データを積極的に共有・利活用することで研究成果の効果的な創出等が期待される研究領域に対して、データの保存・管理・公開の実施を原則とした。
 日本医療研究開発機構では、「疾病克服に向けたゲノム医療実現化プロジェクト」において、データシェアリングポリシーを示し、研究事業に対して、原則としてデータシェアリングを行うことを義務づけた。
 日本学術振興会では、オープンアクセスに係る取組について方針を示し、科研費等による論文のオープンアクセス化を進めている。

(3)研究成果を共有・公開するための取組

 理化学研究所、物質・材料研究機構、防災科学技術研究所では、我が国が強みを活(い)かせるナノテク・材料、ライフサイエンス、防災分野で、膨大・高品質な研究データを利活用しやすい形で集積し、産学官で共有・解析することで、新たな価値の創出につなげるデータプラットフォーム拠点の構築を進めている。
 国立情報学研究所は、大学等が教育研究成果を保存・公開する機関リポジトリの構築を支援するとともに、機関リポジトリ間のデータベース連携(JAIRO)を図っている。
 科学技術振興機構は、学協会の刊行するオープンアクセスジャーナルを育成するため、J‐STAGEを提供している。
 科学技術振興機構バイオサイエンスデータベースセンターは、「ライフサイエンスデータベース統合推進事業」を実施し、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省の4省が保有する生命科学系データベースを一元的に参照できる合同ポータルサイト(※31)の拡充や、日本医療研究開発機構との連携等により、オープンサイエンスを推進している。


  • ※31 http://integbio.jp/

第3節 資金改革の強化

 政府が支出する研究資金には、大学等の研究や教育を安定的・継続的に支える基盤的経費と、優れた研究や特定の目的に資する研究等を推進する公募型資金がある。
 国は、双方の研究資金についてバランスを考慮しつつ改革を進めるとともに、これら研究資金改革と国立大学の組織改革とを一体的に推進することにより、科学技術イノベーション活動の根幹を強化することとしている。

1 基盤的経費の改革

(1)国立大学について

 我が国社会の活力や持続性を確かなものとする上で、新たな価値を生み出す礎となる知の創出とそれを支える人材育成を担う国立大学の役割への期待は大いに高まっており、「社会変革のエンジン」として「知の創出機能」を最大化していくことが必要である。
 国立大学は、法人化のメリットをこれまで以上に生かし、新たな経済社会を展望した大胆な発想の転換の下、新領域・融合分野など新たな研究領域の開拓、産業構造の変化や雇用ニーズに対応した新しい時代の産業を担う人材育成、地域・日本・世界が直面する経済社会の課題解決などを図っていくことが重要である。あわせて、学問の進展やイノベーション創出などに最大限貢献できる組織への転換等を国立大学自ら推し進めていくことが必要であり、今後更なる改革を進めていく上では、その財政基盤と機能強化に一層取り組んでいかなければならない。
 平成29年度においては、国立大学が我が国の人材養成・学術研究の中核として継続的・安定的に教育研究活動を実施できるよう、基盤的経費である国立大学法人運営費交付金等について、平成16年度の法人化以降初の増額となる対前年度25億円増の1兆971億円を確保した。
 また、平成28年度から始まった第3期中期目標期間においては、各大学の強み・特色を踏まえた機能強化の方向性に応じた取組をきめ細かく支援するため、国立大学法人運営費交付金の中の「3つの重点支援の枠組み」において、評価に基づく重点支援を実施することとしており、平成29年度においても、本枠組みにより各国立大学の機能強化を推進している。

(2)国立研究開発法人について

 第5期基本計画において、国立研究開発法人は科学技術イノベーション推進の中核機関としての役割が期待されている。文部科学省所管の8つの国立研究開発法人の運営費交付金に着目すると、平成22年度から平成28年度までに、総じて減少傾向にあったところ、平成29年度予算においては、国立研究開発法人が担うミッションの重要性に鑑み、4,689億円(対前年度比3.0%増)を確保した。平成29年度からは、特に我が国の強みを活(い)かせるナノテク・材料、ライフサイエンス、防災分野で、膨大・高品質な研究データを利活用しやすい形で集積し、産学官で共有・解析することで新たな価値の創出につなげるデータプラットフォーム拠点を構築するために必要な予算を運営費交付金等により措置している。
 また、運営費交付金の確保とあわせて、国立研究開発法人は、イノベーションシステムの駆動力として、組織改革とその機能強化を求められている。文部科学省においては、法人の機能強化を支援し、各法人の使命・役割に応じた国際的な拠点化や国内外の関係機関との連携、橋渡し機能が効果的に発揮されるよう「イノベーションハブ構築支援事業」を実施している。

2 公募型資金の改革

(1)競争的資金制度の改善及び充実

 競争的資金制度は、競争的な研究環境を形成し、研究者が多様で独創的な研究に継続的、発展的に取り組む上で基幹的な研究資金制度であり、これまでも予算の確保や制度の改善及び充実に努めてきた(平成29年度予算額4,279億円、第2‐4‐17表)。競争的資金制度の特徴である間接経費は、研究者の属する組織間の競争を促し、研究の質を高めることなどを目的として、競争的資金を獲得した研究者の属する機関に対して研究費(直接経費)の一定比率を配分するものである。
 競争的資金の公募情報の公開や応募の受付など研究開発管理業務については、「府省共通研究開発管理システム(e‐Rad(※32))」を活用しており、研究者・研究機関及び配分機関双方において、研究費の申請・管理等に関わる業務が一層効率化されている。
 さらに、各制度では、公正かつ透明で質の高い審査及び評価を行うため、審査員の年齢や性別及び所属等の多様性の確保、利害関係者の排除、審査員の評価システムの整備、審査及び採択の方法や基準の明確化並びに審査結果の開示を行っている。
 例えば、科研費では、延べ7,000人以上の研究者によるピアレビューにより審査が実施されている。日本学術振興会は、審査委員候補者データベース(平成29年度現在、登録者数約9万7,000人)を活用し、研究機関のバランスや若手研究者、女性研究者の積極的な登用等に配慮しながら、審査委員を選考している。また、審査結果の開示については、内容を順次充実してきており、例えば、不採択課題全体の中でのおよその順位や評定要素ごとの平均点等の数値情報のほか、応募者により詳しく評価内容を伝えるために、審査委員が不十分であると評価した評定要素ごとの具体的な項目についても、「科研費電子申請システム」により電子的に開示している。これらに加えて、平成30年度助成(平成29年9月公募)で「総合審査」を導入した研究種目(「基盤研究(A)」、「挑戦的研究」)においては、審査時の各委員の審査所見による「審査結果の所見」を開示している。
 競争的資金をはじめとする公的研究費の不正使用の防止に向けた取組については、「公的研究費の不正使用等の防止に関する取組について(共通的な指針)」(平成18年8月31日総合科学技術会議)や「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」(平成26年2月18日改正、文部科学大臣決定)等の指針を策定してきた。また、研究機関における不正防止に向けた体制整備の状況を調査するなどモニタリングを徹底するとともに、必要に応じ、改善に向けた指導・措置を講じつつ、フォローアップを実施することにより、研究機関における適切な管理・監査体制の整備を促すなど、公的研究費の不正使用の防止に取り組んでいる。

 第2‐4‐17表 競争的資金総括表

 第2‐4‐17表 競争的資金総括表2

 第2‐4‐17表 競争的資金総括表3


  • ※32 Research And Development(=科学技術のための研究開発)の頭文字から成る「Rad」に、Electronic(電子)の頭文字を冠している。

(2)研究成果の持続的創出に向けた競争的研究費改革について

 文部科学省は、競争的研究費改革に関する検討会(主査:濵口道成・科学技術振興機構理事長)にて提言された「研究成果の持続的創出に向けた競争的研究費改革について(中間取りまとめ)」(平成27年6月24日)を踏まえ、競争的資金以外の競争的研究費についても、平成28年度以降の新規採択分から順次、間接経費を30%措置するなど、競争的研究費の制度改善を進めている。また、関係府省においては、競争的資金以外の研究資金についても、間接経費の導入、使い勝手の改善等の実施について、大学改革の進展等を視野に入れつつ検討を進めている。

3 国立大学改革と研究資金改革との一体的推進

 文部科学省では、我が国がイノベーションに最も適した国となるための基盤を構築するため、大学改革と研究資金を一体的に推進している。
 具体的には、文部科学省の競争的資金(※33)については、従来30%の間接経費を措置していたが、競争的資金以外の競争的研究費(※34)についても、平成28年度以降の新規採択から、順次、間接経費30%を措置している。
 また、他省庁の間接経費等の措置については、内閣府に「研究資金に関する関係府省連絡会」が設置され検討が行われており、現在対象となる事業を整理している。文部科学省においても、間接経費等の適切な措置の必要性について分析を行い、その結果を同連絡会に対して説明している。
 さらに、国立大学等における人事給与システム改革の実施を前提として、研究代表者への人件費支出が可能となるよう、直接経費支出の柔軟化に向けた検討を行っている。文部科学省は、これらの取組を通じて、競争的研究費による研究成果の持続的創出を図るとともに、大学改革の鍵となる大学のガバナンス及びマネジメントの強化を後押しすることとしている。


  • ※33 資源配分主体が広く研究開発課題等を募り、提案された課題の中から、専門家を含む複数の者による科学的、技術的な観点を中心とした評価に基づいて実施すべき課題を採択し、研究者等に配分する研究開発資金。実務的には、同定義に基づき各省が内閣府に登録した制度を指す。
  • ※34 研究機関において公募により競争的に獲得される経費のうち、「研究」に係るもの。

お問合せ先

科学技術・学術政策局企画評価課

(科学技術・学術政策局企画評価課)

-- 登録:令和元年09月 --