第2章 未来の産業創造と社会変革に向けた新たな価値創出の取組

 経済や社会の在り方や産業構造が急激に変化し先行きの見通しを立てることが難しい大変革時代においては、組織や国の競争力を左右するゲームチェンジにつながる新たな知識やアイデアを生み出すことが不可欠である。そのため、政府は、新しい試みに果敢に挑戦し、非連続なイノベーションを積極的に生み出す取組を強化している。
 また、サイバー空間の積極的な利活用を中心とした取組を通して、新しい価値やサービスが次々と創出され、社会の主体たる人々に豊かさをもたらす未来社会の姿「Society 5.0」を世界に先駆けて実現するための取組を強化することとしている。

第1節 未来に果敢に挑戦する研究開発と人材の強化

 失敗を恐れず高いハードルに果敢に挑戦し、他の追随を許さないイノベーションを生み出していく営みが重要であり、アイデアの斬新さと経済・社会的インパクトを重視した研究開発への挑戦の促進とともに、より創造的なアイデアとそれを実装する行動力を持つ人材にアイデアの試行機会の提供を、関係府省が所管する研究開発プロジェクトに普及拡大を図ることが求められる。
 このため、文部科学省では、平成29年度から開始した「未来社会創造事業」において、社会・産業ニーズを踏まえ、経済・社会的にインパクトのあるターゲット(ハイインパクト)を明確に見据えた技術的にチャレンジングな目標(ハイリスク)を設定し、民間投資を誘発しつつ、戦略的創造研究推進事業や科学研究費助成事業等から創出された多様な研究成果を活用して、実用化が可能かどうか見極められる段階を目指した研究開発を進めている。

第2節 世界に先駆けた「Society 5.0」の実現

 第5期基本計画で掲げられた「Society 5.0」は、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合することにより、経済的発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会を目指すものである。政府は、Society 5.0の実現に向け、IoT(※1)、ビッグデータ、人工知能(AI)等の基盤技術や、これらを活用したプラットフォームの構築に必要となる取組に注力している。


  • ※1 Internet of Things

1 Society 5.0の姿

 Society 5.0は、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に次ぐ社会であり、例えば、都市だけでなく地方においても、自動走行車による移動手段の確保、分散型エネルギーの活用によるエネルギーの地産地消、次世代医療ICT基盤等の構築による「健康立国のための地域における人とくらしシステム」の実現などを可能とする社会であり、地方が地方であることの地理的・経済社会的制約から解放される社会である。すなわち、Society 5.0は、ドイツの「インダストリー 4.0」に見られる産業競争力の強化といった産業面での変革に加え、経済・社会的課題の解決という社会面での変革も含めている。

コラム2‐2 農業データ連携基盤の構築~農業における「Society 5.0」の実現に向けて~

 我が国の農業の競争力強化のためには、経験や勘をデータ化し活用していくことが重要であるものの、様々な農業ICTサービスやデータに相互間連携がないことや、公的データがバラバラに存在するなど、データを生かしきれていないことが課題となっている。
 こうしたことから、農業の担い手がデータを駆使して生産性向上や経営改善に挑戦できる環境を生み出すため、データの連携・共有・提供機能をもつ「農業データ連携基盤」を構築することとし、平成29年8月には、「農業データ連携基盤協議会(通称:WAGRI)」が設立された。そして、同年12月には、農業データ連携基盤のプロトタイプが稼働し、農機メーカーやICTベンダーが、農業データ連携基盤を介して自社のシステムに気象等のデータを取り込み活用することを試験的に開始した。
 今後は、平成31年4月からの本格稼働を目指し、さらに多くのシステムとの接続を進め、気象、地図、土壌をはじめ、提供データの充実を図ることとしている。農業者は、農業データ連携基盤を通じて様々なデータを取得し、営農に活用できるようになる。例えば、作物の生育、栽培管理、環境条件などに係るデータをビッグデータ化し、その解析によって、収量や品質の低いほ場の要因を特定し、それに見合った対策を講じることにより収量や品質の向上を図るなど高度な生産管理等が可能になる。

 農業データ連携基盤の構造・効果 農業データ連携基盤の構造・効果
 農業データ連携基盤の構造・効果
 提供:農林水産省

2 実現に必要となる取組

 第5期基本計画では、Society 5.0の実現に向け、経済・社会的課題を踏まえた11のシステム(※2)の開発を先行的かつ着実に進め、システムの連携強調を図り、現在では想定されないような新しいサービスも含め、様々なサービスに活用できる共通のプラットフォームを段階的に構築していくとしている。11システムの例として、文部科学省は、「地球環境情報プラットフォーム」として、「データ統合・解析システム(DIAS)」を世界に先駆けて開発し、平成28年度からは「地球環境情報プラットフォーム構築推進プログラム」として、民間企業も含めた国内外の多くのユーザーに長期的、安定的に利用されるための運営体制の整備や共通基盤技術の開発を推進している。
 また、総務省において、「おもてなしシステム」として、平成32年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向け、民間事業者等による超臨場感映像技術(※3)の研究開発を推進するとともに、多言語音声翻訳システムを実利用するために不可欠な雑音抑圧技術等の研究開発や病院、商業施設、鉄道、タクシー等の実際の現場での性能評価等を通じて、更なる技術の精度向上を図っている。平成29年度は全国4か所の観光地等で利活用実証を実施した。そのほかのシステムに関する取組も、府省庁連携の下、研究開発を実施している。

 サービスプラットフォームのイメージ
 サービスプラットフォームのイメージ
 資料:内閣府作成


  • ※2 エネルギーバリューチェーンの最適化、地球環境情報プラットフォームの構築、効率的かつ効果的なインフラ維持管理・更新の実現、自然災害に対する強靱(きょうじん)な社会の実現、高度道路交通システム、新たなものづくりシステム、統合型材料開発システム、地域包括ケアシステムの推進、おもてなしシステム、スマート・フードチェーンシステム、スマート生産システム
  • ※3 プラネタリウム施設などを活用したドームシアターで臨場感あふれるスポーツや地域のお祭りなどの映像を投影する全天映像技術など、距離の壁を超える空間映像技術

第3節 「Society 5.0」における競争力向上と基盤技術の強化

 第5期基本計画では、経済力の持続的向上を実現できる国を目指し「Society 5.0」を掲げているため、さまざまな分野におけるサイバー空間とフィジカル空間を高度に融合するためのプラットフォームの構築や、このプラットフォームの構築に必要となる基盤技術の強化が必要である。

1 競争力向上に必要となる取組

 近年ではイノベーションが急速に進展し、技術がめまぐるしく進化する中、第4次産業革命や「Society 5.0」の実現に向け、人工知能・ビッグデータ・IoTなどの技術革新を社会実装につなげ、産業構造改革を促す人材を育成する必要性が高まっている。
 このため、今後我が国の産業活動を活性化させるために必要な、数理・データサイエンスの基礎的素養を身につけた人材を広く育成するため、大学において文系・理系を問わず全学的な数理・データサイエンスの教育強化を図り、数理的思考やデータ分析・活用能力を持ち、社会における様々な問題の解決、新しい課題の発見及びデータから価値を生み出すことができる人材を育成するための教育体制の構築に取り組んでいる。また、産学連携による実践的な教育ネットワークを形成し、Society 5.0の実現に向けて人材不足が深刻化しているサイバーセキュリティ人材やデータサイエンティスト、科学技術を実装する人材といった産業界のニーズに応じた人材育成を推進することとしている。さらに、第4次産業革命や Society 5.0の実現に向けた人材育成の中心を担う工学系教育への期待が高まっていることを踏まえ、平成29年1月より、文部科学省において、有識者会議を開催し、産業構造の変化に柔軟に対応し得る工学教育システムへの改革を図るために必要な今後の工学系教育における学部・大学院の教育体制・教育課程の在り方、産学連携教育の在り方等について平成29年6月に「大学における工学系教育の在り方について(中間まとめ)」を取りまとめた。そして、これを踏まえた具体的な制度設計等について、平成29年度中を目途に検討を取りまとめ、平成30年度から順次実施し、平成31年度からの本格実施を目指している。
 また、AI、IoT、ビッグデータ、セキュリティ等を高度に活用する知識やスキルを有し、ビジネス化等の実社会での活用能力を併せ持つ高度データ関連人材を育成・確保するため、博士課程学生・博士号取得者等に対し、各々の専門性を有しながら、データサイエンス等のスキルを習得させ、社会の多様な場での活躍を促進する「データ関連人材育成プログラム」を平成29年より実施している。
 総務省は、「戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)」において、日々新しい技術や発想が誕生している世界的に予想のつかない情報通信技術(ICT)分野における、破壊的な地球規模の価値創造を生み出すために、大いなる可能性があり、野心的な技術課題への挑戦を支援する「異能(inno) vation」プログラムを実施している。また、多様な分野・業種における膨大な数のIoT機器の利活用が見込まれていることを踏まえ、IoTユーザやネットワークの運用・管理を担う人材等を育成するため、産学官の連携体制の下、育成カリキュラムの開発や講習会等の実施に取り組んでいる。
 内閣府では、知的財産戦略本部の下に設置されていた新たな情報財検討委員会において、現行知財制度上で著作権等の対象とならない価値あるデータや機械学習、特に深層学習を用いた人工知能の保護・利活用の在り方について検討を行い、データ利用に関する契約の支援や公正な競争秩序の確保、人工知能の学習用データの作成の促進に関する環境整備や学習済みモデルの適切な保護等について具体的に検討を行い、報告書をとりまとめた。同報告書で示された方向性については「知的財産推進計画2017」に反映するとともに、データ利活用促進のための制限ある権利や人工知能プログラム・人工知能生成物の知財制度上の保護の在り方については、引き続き検討を行うこととしている。

2 基盤技術の戦略的強化

(1)Society 5.0サービスプラットフォームの構築に必要となる基盤技術

 Society 5.0サービスプラットフォームの構築に必要となる基盤技術、すなわちサイバー空間における情報の流通・処理・蓄積に関する技術は、我が国がSociety 5.0を推進し、ビッグデータ等から付加価値を生み出していく上で必要な技術のため、政府は、特に以下の基盤技術について強化を図ることとしている。

ア サイバーセキュリティ技術(第3章第2節3参照)

 内閣府は、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」において、国民生活の根幹を支える重要インフラ等をサイバー攻撃から守るために「重要インフラ等におけるサイバーセキュリティの確保」を立ち上げ、研究開発活動を推進している。
 総務省は、情報通信研究機構を通じて、サイバーセキュリティ分野の研究開発を推進している。

イ IoTシステム構築技術

 総務省は、多様なIoTサービスを創出するため、膨大な数のIoT機器を迅速かつ効率的に接続する技術や異なる無線規格のIoT機器や複数のサービスをまとめて効率的かつ安全にネットワークに接続・収容する技術等の共通基盤技術を確立し、国際標準化に向けた取組を強化している。また、防災、農業、シェアリングエコノミー等の生活に身近な分野においてIoTを活用した実証事業である「IoTサービス創出支援事業」を実施し、これらの分野における新たなIoTサービスの参照モデルを構築するとともに、当該サービスの普及・展開に必要なルールの明確化等を行っている。
 情報通信研究機構は、様々な事業者が最適なIoTシステムの開発・検証を行うことができる環境(IoTテストベッド)を整備し、先進的なIoTサービスの開発・社会実証を推進している。
 国土地理院は、地理系データベースに登録される地理空間情報の利活用を促進するため、多様な地理空間情報を位置の基準である基盤地図情報にひも付けるための標準的な仕様に関する調査を実施した。

ウ 人工知能技術

 Society 5.0の基盤技術である人工知能技術の研究開発と社会実装に向けて、平成28年4月に創設された人工知能技術戦略会議を司令塔として、内閣府、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省の関係府省の連携の下、平成29年3月に策定した「人工知能の研究開発目標と産業化のロードマップ」で規定した「生産性」、「健康、医療・介護」、「空間の移動」の重点3分野を中核に人工知能技術に関する研究開発・社会実装を、一体的に推進している。
 総務省では、情報通信研究機構において、脳活動分析技術を用い、人の感性を客観的に評価するシステムの開発を実施しており、このシステムを用いて、脳活動等に現れる無意識での価値判断等に応じた効率的な情報処理プロセスの開発等を実施している。また、ソーシャルなビッグデータから知能を理解する/作るアプローチによる人工知能として、自然言語処理、データマイニング、辞書・知識ベースの構築等の研究開発・実証を実施している。
 文部科学省では、理化学研究所に設置された革新知能統合研究センターにおいて、関係府省や企業、大学、研究機関等と連携しながら、1.深層学習の原理解明や汎用的な機械学習の新たな基盤技術の構築、2.再生医療、モノづくりなどの日本が強みを持つ分野をさらに発展させ、高齢者ヘルスケア、防災・減災、インフラの保守・管理技術などの我が国の社会的課題を解決するための人工知能等の基盤技術を実装した解析システムの研究開発、3.人工知能技術の普及に伴って生じる倫理的・法的・社会的問題に関する研究などを実施している。また、科学技術振興機構において、人工知能等の分野における若手研究者の独創的な発想や、新たなイノベーションを切り開く挑戦的な研究課題に対する支援を一体的に推進している。
 経済産業省は、平成27年5月、産業技術総合研究所に設置した「人工知能研究センター」に優れた研究者・技術を結集し、アカデミアと産業界のハブとして目的基礎研究の成果を社会実装につなげていく好循環を生むエコシステムの形成に取り組んでいる。具体的には、脳型人工知能やデータ・知識融合型人工知能の先端研究や、研究成果の早期橋渡しを可能とする人工知能フレームワーク・先進中核モジュールのツール開発や、人工知能技術の有効性や信頼性を定量的に評価するための標準的評価手法等の開発等に取り組んでいる。また、新エネルギー・産業技術総合開発機構では、人工知能技術とロボット要素技術の融合を目指し、平成27年度より「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」事業を実施している。具体的には、産業技術総合研究所人工知能研究センターを拠点として人工知能技術の研究開発に取り組むとともに、生物の嗅覚受容体を用いた匂いセンサ等の革新的センシング技術、全方向駆動を可能とする革新的アクチュエータ技術等の研究開発に取り組んでいる。

エ デバイス技術

 経済産業省は、サーバ、PC、次世代自動車等技術の高度化・省エネ化に向けて、次世代半導体デバイスの集積化技術、光回路と電子回路を組み合わせた光エレクトロニクス技術等の研究開発を行うとともに、革新的デバイスを多様な用途に活用するための標準化・共通化、信頼性・安全性担保の方針策定等の基盤整備を実施した。さらにデータ収集システム、高速大容量データストレージシステム、人工知能計算機基盤技術、先進的なセキュリティなどの次世代のIoT社会を下支えする横断的な技術開発を実施した。

オ ネットワーク技術

 総務省は、Society 5.0において急増が予想されるネットワークの通信量に対応するため、1波長当たり1Tbps を超える光伝送システムの実用化を目指した研究開発を実施した。また、本格的なIoT社会のICT基盤として期待される第5世代移動通信システム(5G)の平成32年の実現に向けて、平成27年度より、超高速・多数接続・超低遅延といった要素技術の研究開発に取り組むとともに、平成29年度より、5Gの社会実装を念頭に、具体的な利活用を想定した実証試験を実施している。さらに、世界的に周波数分配が行われていない275~370GHzのテラヘルツ波を用いた、数十Gbps級の超高速伝送が可能な無線通信基盤技術の応用展開を目指し、シリコン半導体CMOS(※4)トランシーバ技術や、MEMS(※5)真空管による増幅器技術の研究開発を実施した。
 情報通信研究機構は、テラヘルツ波を利用した100Gbps級の無線通信システムの実現を目指したデバイス技術や集積化技術、信号源や検出器等に関する基盤技術の研究開発を行った。
 また、ICT利活用に伴う通信量及び消費電力の急激な増大に対処するため、ネットワーク全体の超高速化と低消費電力化を同時に実現する光ネットワークに関する研究開発を推進した。


  • ※4 Complementary Metal Oxide Semiconductor
  • ※5 Micro Electro Mechanical Systems

コラム2‐3 皮膚に貼り付けられるセンサー・ディスプレイの開発

 近年、めざましい発展を遂げている情報通信・エレクトロニクスを背景に、ポータブルのセンサーやスマートフォンなどを用いた健康管理が普及しつつある。しかし、これまでのエレクトロニクスはそのほとんどが硬い材料でできていた。
 染谷隆夫・東京大学大学院工学系研究科教授らは、柔らかい材料を用いることで、皮膚に密着し、いつでも、どこでも、誰でも簡単に生体情報をモニタリングできるデバイスの研究を、科学技術振興機構のCREST(※6)、ERATO(※7)等の支援を受けて進めてきた。デバイスの伸縮性・皮膚密着性・低炎症性などの機能向上を進め、平成29年度からは、科学技術振興機構のACCEL(※8)の支援を受け、これまでに得られた技術の統合・発展により、1枚のシートを皮膚に接触させるだけで誰もが簡単にさまざまな生体情報を計測できるスーパーバイオイメージャー(伸縮性イメージセンサー)の開発を進めている。
 平成30年、染谷隆夫教授らは、皮膚に直接貼り付けて使用する、薄型で伸縮自在の低炎症性スキンセンサーで計測された心電波形の動画を皮膚上に貼り付けたスキンディスプレイに表示できるセンサーシステムの開発に成功した。いつでも、どこでも、誰でも簡単に生体情報をモニタリングできるこのシステムは、子供や高齢者の情報へのアクセシビリティ向上、在宅ヘルスケアなどの多くの用途への展開が考えられ、安心・安全で快適な社会の実現への鍵となることが期待される。

 生体と調和した、スキンエレクトロニクスの開発
 生体と調和した、スキンエレクトロニクスの開発
 提供:東京大学


  • ※6 戦略的創造研究推進事業のうち、科学技術イノベーションにつながる卓越した成果を生み出すネットワーク型研究(チーム型)を推進する制度 https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/index.html
  • ※7 戦略的創造研究推進事業のうち、卓越したリーダーによる独創的な基礎研究を推進する制度 https://www.jst.go.jp/erato/index.html
  • ※8 戦略的創造研究推進事業で創出された顕著な研究成果をプログラムマネージャーのイノベーション指向の研究開発マネジメントにより、企業やベンチャー、他事業などに研究開発の流れをつなげることを目指す制度 https://www.jst.go.jp/erato/index.html
カ 数理科学の振興

 文部科学省は、数学・数理科学的知見を活用して諸科学や産業における様々な課題の解決に貢献し、新たな価値(数学イノベーション)を生み出す枠組みを構築するための活動の一環として、平成29年度より「数学アドバンストイノベーションプラットフォーム(AIMaP)」を実施している。本事業では、全国13の大学や公的研究機関の数学・数理科学の研究拠点がネットワークを組み、潜在する数学・数理科学へのニーズを積極的に発掘し、その問題の解決にふさわしい数学・数理科学研究者と他の諸科学分野や産業界の研究者の協働による研究を促進するための活動を行っている。具体的には、諸科学や産業界向けに数学を活用した研究事例や数理的手法を紹介する会合の開催、共同研究に向けた議論をするワークショップ、スタディグループの開催、諸科学・産業との連携のノウハウ共有及び水平展開の場の設定等を実施している。

(2)新たな価値創出のコアとなる強みを有する基盤技術

 我が国が強みを有する技術を生かしたコンポーネントを各システムの要素に組み込むことで、我が国の優位性を確保し、国内外の経済・社会の多様なニーズに対応する新たな価値を生み出すシステムとすることが可能となることから、政府は、個別システムにおいて新たな価値創出のコアとなり現実世界で機能する技術として、特に以下の基盤技術について強化を図ることとしている。

ア ロボット、アクチュエータ、ヒューマンインターフェース技術における研究開発

 消防庁では、人が近づけない現場に接近し、情報収集や放水を行うためのロボットの研究開発を実施している(第3章第2節1参照)。

イ センサ技術における研究開発

 ビッグデータ、IoT時代には、リアルデータの活用が重要になってくる。このため、あらゆるものから情報を収集するセンサ技術の高度化も重要である。例えば、経済産業省においては、環境変化に影響されない視覚・聴覚等のセンシング技術の研究開発を実施した。

ウ 素材・ナノテクノロジー分野における研究開発の推進

 ナノテクノロジー・材料科学技術分野は、我が国が高い競争力を有する分野であるとともに、広範で多様な研究領域・応用分野を支える基盤である。その横串的な性格から、異分野融合・技術融合により不連続なイノベーションをもたらす鍵として広範な社会的課題の解決に資するとともに、未来の社会における新たな価値創出のコアとなる基盤技術である。
 文部科学省では、ナノテクノロジー・材料科学技術分野に係る、基礎的・先導的な研究から実用化を展望した技術開発までを戦略的に推進するとともに、研究開発拠点の形成等への支援を実施している。
 例えば、「統合型材料研究開発プロジェクト」を立ち上げ、ライフサイクル設計等の社会システム全体を俯瞰(ふかん)する取組と、材料開発技術シーズの源泉となる基礎基盤研究を融合した、新しい研究開発スキームの有効性を実証する取組を行っている。
 物質・材料研究機構では、ナノテクノロジー・材料科学技術分野のイノベーション創出を強力に推進するため、基礎研究と産業界のニーズの融合による革新的材料創出の場や、世界中の研究者が集うグローバル拠点を構築するとともに、これらの活動を最大化するための研究基盤の整備を行う事業として「革新的材料開発力強化プログラム~M(M‐cube)~」を実施している。

エ 量子科学技術(光・量子技術(※9))分野における研究開発の推進

 経済・社会の様々な課題が複雑化し、資本や競争優位が激しく動く社会の中で、量子科学技術は、先端レーザーによる量子状態制御や、量子情報処理を可能とする物理素子の要素技術等が生み出され始め、サイエンスの進展のみならず、Society 5.0実現に向けた社会課題の解決と産業応用を視野に入れた新しい技術体系が急速に発展する兆しがある。
 文部科学省では、平成20年度から「光・量子科学拠点形成に向けた基盤技術開発」を実施し、我が国の光・量子技術分野のポテンシャルと他分野のニーズとをつなげ、産学官の多様な研究者が連携・融合しながら光・量子技術の研究開発を進めてきたところ、上記状況に鑑み、科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 量子科学技術委員会において、平成28年3月より、量子科学技術の最新の研究動向を俯瞰(ふかん)的に総覧し、量子科学技術が経済・社会に与え得るインパクトや我が国の強み・課題について調査検討を開始した。さらに、時間軸とともに研究・技術がどう進展して何が実現され得るのか等を示すロードマップを、量子情報処理、量子計測・センシング、極短パルスレーザー、次世代レーザー加工の研究・技術領域において策定した。これらを踏まえて今後の推進方策の方向性について「量子科学技術(光・量子技術)の新たな推進方策 報告書」を取りまとめ、平成29年8月に公表した。
 また、イノベーション創出の基盤技術として、量子科学技術の重要性が高まってきたことを受け、平成28年4月、放射線医学総合研究所と日本原子力研究開発機構の一部が統合し、量子科学技術研究開発機構が発足した。量子科学技術研究開発機構では、重粒子線がん治療装置の小型化・高度化の研究や、世界トップクラスの高強度レーザー(J‐KAREN)やイオン照射研究施設(TIARA)を利用した物質・生命科学研究等を実施し、量子科学技術を一体的、総合的に推進している。

 第2‐2‐1表 Society 5.0実現に向けた主な施策(平成29年度)


  • ※9 「量子」のふるまいや影響に関する科学とそれを応用する技術

お問合せ先

科学技術・学術政策局企画評価課

(科学技術・学術政策局企画評価課)

-- 登録:令和元年09月 --