ここからサイトの主なメニューです
前(節)へ  次(節)へ
第1部   安定成長下における技術開発推進への課題
第3章  技術開発推進への課題
第2節  国内技術移転の促進
3  技術移転を推進する上での留意点


前項までにおいて,我が国の技術移転の現状とその問題点を明らかにし,更に技術移転の成功例を事例的に取り上げて分析することにより,技術移転を成功させるための教訓を引き出してきた。本項ではこのような実態を踏まえて,今後,国内における技術移転を推進する上での留意すべき課題について述べる。

第1に挙げられるのは,技術を提供し,導入する当事者である民間企業,国公立試験研究機関,大学等が技術移転の重要性についての認識を深め技術移転推進のための体制の整備を図ることである。

民間企業においては,自社で開発された有力な技術は容易に開放できないことは当然であるが,それぞれの企業で保有されている技術の中には,その企業の中では十分価値が与えられないために,活用されずに放置されているものも数多くあるものと考えられる。このような技術を広く公開することによって技術の有効利用を促進し,新しい技術の価値を生み出す可能性が秘められている。

最近,一部企業においては特許全面公開を行い,積極的に技術提供しようという動きがあるが,このような技術提供者の積極的な姿勢と外部からの導入で対応できるものは積極的にそれを利用するという技術導入者の姿勢が重要である。

ぞこで,これらを具体化するため,提供者,導入者双方とも窓口機関の設置などの体制の整備が必要である。

第2には,技術情報流通機能の充実を図ることである。

技術移転を円滑に進めるためには,まず対象となる技術についての正確かつ詳細な情報の流通とその利用体制の整備を図ることが重要である。このため,個々の企業や機関における情報提供及び利用体制を充実させるとともに,更に広域的,網羅的な情報流通を行う第3者的な機関として,現在既にある日本科学技術情報センター,日本特許情報センターなどの機関や,また,単なる情報機関にとどまらず,既に紹介した新技術開発事業団などのように導入者側のニーズと,提供者側の提供希望技術についての情報をは握し,双方のあっ旋などまで行う専門機関の活用についても十分配慮する必要がある。

第3には,技術移転を行うに際しての技術評価の円滑化を図ることである。

技術移転を行うに際して最大の障害(ネック)となっているのは技術評価の困難さである。既に述べてきたように技術の持つ価値は,流動的で不確定要素が多く,その評価は極めて困難である。このための対策としては,まず第一義的には技術導入及び提供を行おうとする企業が技術評価に対する社内体制の整備を図るとともに,技術評価能力を有する専門スタッフの育成を行うことが必要である。しかし,前述したような技術評価の困難さを考えると,これと合わせて,できるだけ客観化された評価を行い,また,技術評価に関するコンサルタント機能を有した第3者的な機関の充実,更にコンサルティング業務に当たる技術士などの専門家の育成,充実に努めることなどによって技術評価体制の整備を図り,提供者,導入者間の技術移転の円滑化を図ることが重要である。

第4には,共同研究等の推進を図ることである。

前項で指摘してきたように,特に技術移転によって新しい技術,製品を創出する場合,一般的には提供者側が導入者側に対して技術指導を行うか,又は,導入者に協力して,共同研究を行うことが必要である。国公立試験研究機関,大学などから移転される場合は,移転される技術は完成度の低いものが多く,それを企業化するまでには,なお,相当の研究開発を要する場合が多い。このような場合には,これら機関による技術指導あるいは研究協力が行われることが,技術移転を推進する上において重要である。

また,民間企業間における共同研究は,相互の技術能力を有効に活用するという観点からはもちろん,技術の提供者,導入者の双方の信頼関係を醸成し,研究開発を促進する手段となり,更に研究開発の成果を共有することによって双方の利害調整を行う上での有効な手段ともなる。

以上の諸点に留意して,今後は国内に蓄積された技術の活用について一層の努力を傾けていくことが要請される。


むすび

我が国の科学技術は今一つの大きな試練の時を迎えている。

振り返って見ると,戦後から今日に至るまでの我が国社会経済の発展は,まさに技術革新によって成し遂げられたと言ってもよい。新しい技術が産業の形態を変え,新しい製品が我々の生活を便利で豊かなものとしてきた。

このような我が国の技術革新の源泉をなしたものは海外からの新しい知識・技術の導入と旺盛な研究活動であった。

海外からの技術導入は極めて効率的に,かつ,速やかに我が国と欧米先進諸国との技術格差を埋め,また,国内における活発な研究活動は導入技術の吸収・消化を促進し,優秀な国産技術の開発に貢献した。両者は二つの歯車のように互いにかみ合いながら,今日まで我が国の科学技術発展の原動力としての役割を果たし,その水準を世界のトップレベルにまで押し上げてきた。

しかし,最近,この二つに大きな変化が見られ始めた。まず,技術導入については欧米先進諸国との技術格差がほとんど解消された結果,導入すべき技術は次第に少なくなり,また,我が国の国際競争力の向上等に伴い海外からの導入が困難となってきた。このため,我が国の技術導入は昭和48年度をピークとして停滞傾向に転じており,今後更にその導入は困難になることが予想される。また,研究活動についても,景気の停滞とともに研究投資の伸びが止まり,実質研究費は47年度以降ほぼ横ばいに推移しており,当面予想される経済情勢から見て,再び高度成長期のような大幅な増加を期待することは困難となっている。

一方,現在,当面するエネルギー,食糧,環境等を始めとする多くの困難な問題に対処し,長期にわたって資源に乏しい狭小な国土で国の存続基盤を確保していかねばならない我が国にとって,科学技術は国の将来の可能性を切り開く鍵を握っているとも言え,科学技術の役割は従来にも増して一層重要なものとなっている。

このような科学技術の役割の増大に対処し,また海外からの技術導入の困難化に対処するためには,自主技術開発型の研究開発をより積極的に推進することが必要であるにもかかわらず,その原動力とも言える研究投資に停滞傾向が見られることは極めて憂慮すべきことである。

このような現状の分析を踏まえて,今年度の白書においては,今後の我が国の科学技術の発展を図るための当面の対応策として,限られた研究投資を有効に活用し,効率的な技術開発を進めることが重要であるという観点から,その具体策として,第1に,研究開発関係人材の充実,研究開発の計画的推進,各研究開発実施機関の連携の強化などの研究体制の整備などを図ること,第2に,国内に蓄積された技術の活用とその手段である技術移転の推進を"   図ること,を指摘した。そして,今後,我が国の技術水準及び技術開発力の向上を図る上で,当面の対応措置として,即効的であり,効率的であると考えられる技術移転に焦点を当て,その促進を図る上で留意すべき点について述べてきた。

しかしながら,このような技術移転による技術進歩にはおのずから限界があることは言うまでもないところであり,今後,長期にわたって技術水準及び技術開発力の向上を図るためには,まず研究開発資金の拡充を図ることが必要であり,今後の安定成長経済下においても長期的な観点に立ち,我が国全体の研究投資の水準がその経済力にふさわしいものとなるよう政府及び民間がともに努力しなければならない。

更に我が国においては,新製品・新技術を創造する技術開発力が相対的に立遅れている現状にかんがみ,今後,基礎・応用研究の充実による技術基盤の培養と,これに基づく独創的・先導的な技術開発の充実に一層の努力を傾注することが要請される。

以上のような認識の上に立って,政府と民間がそれぞれの分担と役割を明確にしつつ,ともに活発な研究開発活動の展開を図ることに努め,我が国経済の安定的な発展と国民生活の充実に寄与しなければならない。


前(節)へ  次(節)へ

ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ