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第1部   安定成長下における技術開発推進への課題
第3章  技術開発推進への課題
第2節  国内技術移転の促進
1  技術移転の現状と問題点



(1) 技術移転の現状

国内における技術移転の実態をとらえるために,まず通商産業省工業技術院が行った民間企業に対するアンケート調査結果について見てみよう。これによると第1-3-2図に示すように民間企業1社当たりの技術移転件数は年間2件程度で推移しており,技術移転が活発化しているとは言えない。ここで技術移転とは,ある技術を社会的,経済的な目的を持って他の組織へ移す過程を言い,その形態を前図に示された技術移転件数の内訳として見れば第1-3-3図のようになる。

一方,科学技術庁計画局が行った「民間企業の研究活動に関する調査(昭和52年度)」によれば第1-3-4図に示すように,民間企業は今後,既存技術を活用する場合に自社技術のみならず社外技術も合わせて使用することに強い意欲を示しており,このことから,その手段となる技術移転が今後増加すると見ることができる。

また,国立試験研究機関及び大学における研究成果の民間企業への移転については,研究論文の発表や研究成果説明会等の開催などにより,研究成果が民間企業に移転されているが,その全体をは握することは困難である。ここでは研究成果の活用の傾向の一端を知るため国立試験研究機関及び国立大学の研究成果に係る特許権,すなわち国有特許権の民間企業への移転状況について見ることとする。第1-3-5図は国有特許権の登録件数とその実施率の推移を示している。これによれば昭和51年3月末現在で登録件数3,492件,実施件数272件,実施率7.8%となっており,過去4年間の実施率も5〜8%となっている。国有特許権の実施率はアメリカにおいても5%程度と言われており,これに比べて我が国の実施率は必ずしも低い水準にあるというわけではないが,安定成長下において自主技術開発への期待が高まりつつあることから国有特許権についても技術移転推進体制の整備により,一層の円滑な活用を図る必要があろう。

第1-3-2図 民間企業1社当たりの平均技術移転件数

第1-3-3図 形態別1社当たりの平均技術移転件数(昭和50年度)

第1-3-4図 活用する既存技術の出所

第1-3-5図 国有特許権の登録件数と実施率


(2) 技術移転推進体制の現状

国内における技術移転は,前述したように活発であるとは言えないが,次に技術移転を推進するための体制の現状について見てみよう。

技術移転の推進に当たっては,技術情報の流通及び提供者,導入者間におけるあっ旋・仲介が重要である。そこで,このような役割を担っている機関の現状を見ると,情報の流通を行っている政府関係機関として,日本科学技術情報センターがあるほか,日本特許情報センター,化学情報協会等の各種団体及び民間会社がある。また,情報の提供に加えて,あっ旋等を行っている機関として新技術開発事業団及び中小企業振興事業団のような政府関係機関,各種団体並びに民間会社がある。

以上のような各種の機関によって技術移転が促進されているが,ここでは情報の収集,提供,評価,あっ旋,資金援助などの機能を有し,技術移転促進機関の申では代表的な機関である新技術開発事業団及び中小企業振興事業団についてその現状を紹介することとする。

1) 新技術開発事業団

新技術開発事業団は,昭和36年設立以来,国公立試験研究機関,大学等で生み出された研究成果の民間企業への移転を促進している(事業の仕組みは 第1-3-6図 参照)。

第1-3-6図 新技術開発事業団の研究成果移転事業の仕組み

同事業団は,国公立試験研究機関,大学等の保有する特許権等を体系的に調査し,優秀な成果でありながら実施されていないものの利用と開発を図るため,新技術の開発のあっ旋並びに委託開発及びその成果の普及の業務を行っている。

新技術の開発のあっ旋に当たっては,原則として,中立的な立場にある専門家を国有特許あっ旋委員として委嘱し,この委員を中心として調査及び企業へのあっ旋を行う。あっ旋を受けた企業が実施を希望するに至った場合,同事業団は,新技術の所有者に代わって実施中の管理を行う。なお,あつ旋を行った新技術が企業化されるまでに相当の資金を要し,その資金調達が企業では困難な場合のため,同事業団は,開発資金の一部を企業に貸付ける「あっ旋促進費」の制度を設けている。

次に,委託開発及びその成果の普及に当たっては,企業化が著しく困難な新技術の中で,国民生活の向上に資する新技術,社会経済発展の基盤となるもので,大きな効果が期待される新技術等に重点を置いて委託開発課題を選定し,企業に開発を委託する。その際,開発に直接必要な施設・設備費,運転費を開発費として企業に支出し,企業は開発終了後返済することとなるが,開発不成功の場合は返済を不要とし,開発に伴うリスクを負担している。開発に成功した新技術は,開発委託企業で実施するほか,第2,第3の企業に対しても普及することとしている。

第1-3-1表 新技術開発事業団の開発のあっ旋及び委託開発の状況

同事業団の開発のあっ旋及び委託開発の状況は,第1-3-1表のとおりであるが,件数的に見れば,増加しているとは言えない。しかしながら,近年,社会開発,資源確保等のための分野での技術開発の要請が増大していること,安定成長期における企業の科学技術活動の停滞傾向から見て,国公立試験研究機関,大学等における技術の民間への移転を一層促進する必要があること,技術開発の大型化,システム化により開発規模が増大していることなどから同事業団の役割が高まることも予想される。

2) 中小企業振興事業団

中小企業庁では,中小企業の技術移転を促進し,中小企業の技術開発力の強化に資するため,昭和52年度より,技術移転促進事業を実施している。事業の概要は第1-3-7図のとおりであり,中小企業庁の総合企画調整の下に,各都道府県の公設試験研究機関(都道府県市立の工業,繊維,木工試験所等)は技術移転に関する情報提供及び指導を,また,中小企業振興事業団は,公設試験研究機関に協力し,広域的な技術情報の提供を行うとともに,導入技術についての技術的評価,あっ旋等の業務を行うことになっている。

更に事業団では中小企業から申し込みを受けた技術について分析・評価するために公害,電気,繊維,機械金属,化学等の技術移転専門調査員を置き,技術移転の橋渡しを行っている。このほか,必要に応じて,改良研究促進のための助成,新技術を企業化するための融資なども行うことになっている。

この事業を進めていく上で特に留意しなければならないのは技術の移転を受けるのが中小企業であることから,技術面,資金面からの支援が重要であると言うことである。

例えば,情報の流通にしても一方的に情報を流し,中小企業側にその取捨選択を任せるのみでなく,中小企業側のニーズをは握し,それを満たす技術情報の収集,選択,提供を行い,更に技術指導などのきめ細かい援助を行うことが重要であると考えられる。また,資金面での援助については,補助金や融資制度の適切な運用を図ることが重要である。

第1-3-7図 中小企業への技術移転促進事業の仕組み


(3) 技術移転の問題点

これまでに我が国の技術移転の状況とその推進体制の現状について見てきたが,更に現状においてどのような点が技術移転に際しての隘路となっているか考察してみよう。

この場合,国公立試験研究機関及び大学における研究成果の民間への移転は,その性格に由来する特有の問題点を持っているので,まずこの点を述べ,次に国公立試験研究機関等からの民間への移転,及び民間企業間の移転の両者を含む技術移転一般の問題点について述べることとする。

国公立試験研究機関及び大学における研究成果の形態としては,研究論文及び特許権等が主たるものであるが,研究論文の流通については日本科学技術情報センター等によりその流通体制の整備が図られつつあるので,ここでは特許権等の移転に際しての問題点を挙げることとする。

1) 特許権等の活用システムが不十分であること

国公立試験研究機関においては,特許権等の管理・活用システムは比較的充実しており,特許権等の帰属,管理方式の制度化などが図られているが,特許権等の管理・活用を図るべき専門のスタッフは必ずしも十分とは言えず,外部の専門機関にあっ旋等を委嘱し,特許権等の活用に努めている。

また,大学においては,学術審議会が,昭和52年6月,文部大臣に対する「大学教員等の発明に係る特許等の取扱いについて」の答申の中で,大学における現状を分析し,大学内のシステムの整備,大学外の専門的組織における特許権等の処理の促進等の必要性について述べており,これを受けてその整備を図るべく検討が行われている。

2) 技術移転後の研究開発が必要であること

これは,技術移転の際に問題となるよりはむしろそれ以後の問題ではあるが,国公立試験研究機関及び大学における研究活動の結果として生まれた特許権等は,基礎的なレベルのものが多く,実用化,商品化に当たって多額の研究開発費や長い研究開発期間を必要とする場合が多いので,企業化までに多大の開発努力が必要である。

次に,国内における技術移転一般の問題として,現状において技術移転を阻害する要因にどのようなものがあるかを見ることにする。第1-3-8図の民間企業に対するアンケート調査結果によれば,技術移転の阻害要因を次の3点に要約することができる。

1) 技術評価の困難さ

アンケート調査によれば技術移転を行うに当たって最大の障害となっているのは技術評価の困難さである。技術の導入者側は技術導入が自社の業績にどのように貢献するかをあらかじめ予測する必要があり,そのために,技術の市場性,技術が完成された技術であるかどうか,未完成技術であれば,今後更にどの程度の研究開発を必要とするか等の観点から技術評価が必要である。また,提供者側は,適正なロイヤリティの算定等を行う観点から市場性,技術の完成度等の技術評価が必要である。これらの評価に当たっては,必要な情報が十分に入手できにくいこと,一般的な評価方法を確立することが極めてむずかしいことから,個々のケースによって評価方法は異なってくるし,また,導入者と提供者の評価が容易に一致するものではないことは想像に難くない。

2) 技術情報の交換の場の不足

技術移転を行うためには,移転の対象となる技術についての正確な情報とこれらの情報を交換する場が必要である。現在,このような技術情報提供機関として,日本科学技術情報センター,日本特許情報センターなどがあるが第1-3-8図に示すように,まだ十分とは考えられていない。また,第1-3-9図により,現在利用されている情報源を見ると,多種,多様なものがあるが,「業務上のつきあい」,「関係企業」などを情報源としているものが多く,広域的,網羅的な情報流通が行われているとは言い難い。

第1-3-8図 技術移転の阻害要因

3) 技術移転の限界

一般的には,技術移転によって導入者はその技術を利用して新製品等を作り出し,提供者は技術に見合った対価を得ることになる。すなわち,両者とも技術移転によって利益を得ることができるのである。しかし,提供者側から見れば技術を開放したことによって競争相手が自分たちと同等又はそれ以上の性能の製品を生み出すのではないかという不安がある。また,導入者側から見れば,過度の技術導入によって自社の研究開発意欲が阻害され,革新的な技術や製品を生み出すことが困難になるのではないかという不安もある。これらのことは,第1-3-8図からも読み取ることができるが,企業という組織の壁とそれによる技術移転の限界を示していると言える。

第1-3-9図 技術移転の情報源


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