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第1部   安定成長下における技術開発推進への課題
第2章  科学技術活動の停滞
第2節  研究投資の停滞傾向とその影響
2  研究投資停滞の影響


前項において,1)昭和40年代後半以降,我が国の研究投資に停滞傾向が見られ,その主な要因として民間企業の研究投資の停滞が挙げられ,更に,2)企業のこの投資動向は,企業規模,業種にかかわらず,ほぼ全般的な傾向であること,また,3)このような企業の研究投資の停滞は,費目別に見ると人件費以外の研究資材費等への投資の削減を,研究の性格別に見ると基礎・応用研究への投資の削減を伴っていることを分析してきた。

本項においては,このような研究投資面から見た問題点が我が国の技術開発力向上に与える影響を検討するのであるが,一般に,研究活動においては,研究投資を始めてから,その研究開発成果を得るまでには相当の期間を必要とする。第1-2-2表は,戦後,我が国で研究開発に成功した重要技術101例について,基礎研究開始から企業化までの研究開発期間を示したものである。

これによると企業化までには,平均5.9年研究開発期間を要している。

第1-2-22図 業種別基礎・応用研究費(実質)の増減(昭和50年度)

このような研究活動の特徴から,研究投資の停滞が技術開発活動に与えた影響を,現在,具体的な指標により指摘することは困難である。したがって,ここでは民間企業の研究投資の停滞が,どのような理由で影響を与えるかを1)研究投資構造の国際的な特徴と,2)基礎・応用研究の組織別役割を視点として述べることとする。

第1-2-2表 重要技術の研究開発期間


(1) 研究投資構造の国際的な特徴から見た影響

既に述べたように,我が国の研究費が民間企業の研究投資動向に大きく左右される要因として,1)我が国の研究費総額に占める企業の研究費の使用割合が大きいこと,2)これらの大部分を企業が自己負担していることを挙げた。

我が国と技術的に密接な関係にある欧米主要国における民間企業を主体とする産業部門 注) の研究費の使用割合を見ると,フランス59.4%(1973年),西ドイツ64.7%(1973年),イギリス63.1%(1972年度),アメリカ68.1%(1975年)と,我が国の64.3%(1975年度)とほぼ同様で,各国とも企業が技術開発の中心的担い手と言える。


注)経済協力開発機構(OECD)の研究開発統計で用いている分類で,民間企業に公共企業体の研究活動を含めたものである。国際比較の場合は,この分類に準じて比較することとする。

第1-2-23図 産業部門における研究費の負担割合

しかしながら,使用研究費のうち企業が自己負担している比率を比較すると,第1-2-23図に示すとおり,我が国が著しく高い比率を示しているのに対し,欧米主要国では自己負担は60〜79%と我が国より低く,代わって政府負担が19〜37%と高い比率を占めている。

このような産業部門への政府資金の支出について,更に,その配分状況を見ると,第1-2-24図に示すとおり,産業向け政府資金の過半が航空機工業及び電気機械工業の2業種に支出されている。次いで,機械工業,化学工業及び精密機械工業への政府支出が多い。そして,これらの業種において使用される研究費中の政府負担割合を見ると,航空機工業は各国とも7割以上が政府負担資金であり,電気機械工業,機械工業及び精密機械工業についても使用した研究費のほぼ1割〜5割を政府が負担している。

第1-2-24図 主要国における産業向け政府資金の主な配分内容

民間企業の研究開発活動は,企業が存続することが前提となるため1)市場経済の原理に従うもので,2)企業の資金負担能力の範囲内で,3)できる限り短期的に成果が上がり,かつ,4)研究成果の不確実性の小さいものを研究開発課題とする特徴を持っている。

欧米主要国では,企業の持つ投資行動の特徴に含まれている欠点を補うため,このように国の政策に基づいて基幹的・戦略的と言える業種に政府資金が集申的に配分され,これにより企業の危険負担を軽減させるとともに,その技術開発力を活用して革新的な技術開発が進められていると言える。政府資金の配分目的のうち,軍事,宇宙関係などでは,投資効率に問題点があることを指摘されてはいるが,過去にジェット機,電子計算機,集積回路,人工衛星など数々の成果を上げており,政府資金の投入が,企業の研究開発活動を刺激して大きな効果をもたらしていることは疑いのない事実と言える。

一方,我が国の産業における研究投資構造は,民間企業自立型と言え,企業の研究開発に対する行動の特徴が,そのまま産業全体の動きとなる特徴を有している。これに加え,技術開発の複雑・高度化などにより開発研究規模が一般に大型化しているため,研究開発に伴う危険負担と成果取得の不確実性が増大する傾向にある。このような状況の下で研究投資の停滞が続くことは,欧米主要国とは異なり,企業の防衛的な行動がそのまま産業界全体の行動となり,革新性の強い技術開発を避け,我が国の技術開発力を弱める方向に影響することを指摘できよう。

経済的な制約がある場合の民間企業のこのような投資行動については,科学技術庁計画局が行った「民間企業の研究活動に関する調査(昭和51年度)」においても示されている。・これは,我が国において,近年,画期的な新製品,新技術の少ない理由を調査したもので,その結果は第1-2-25図のとおり,研究開発費の増大により危険負担が大きくなっているため技術革新を目指す研究開発を避けていることによるという理由が最も多く,企業の研究開発活動に対する消極的な態度と,これによる我が国の技術開発力向上への影響をうかがうことができる。

第1-2-25図 画期的な新製品,新技術の少ない理由


(2) 基礎研究及び応用研究への投資の後退の影響

研究投資の後退が技術開発力の向上に与えるもう一つの大きな影響として,研究投資面の制約に伴って現れている民間企業における基礎研究及び応用研究への投資の後退による影響が挙げられる。

基礎研究及び応用研究は,一般に不確実性が大きく,また,その成果は論文等の形で広く普及されるものが多いため,投資の直接の回収率は悪いと言える。しかしながら,自主技術開発を進めていく上で,基礎研究及び応用研究がその基盤となることは疑う余地のないところである。このことは,第1-2-26図に示すように,自主技術開発の活発なアメリカにおいて,技術革新を支えた源泉は・応用研究,基礎研究に多く求められ,次いで技術移転が続いていることからも明らかである。

第1-2-26図 技術革新を支えた源泉

我が国における基礎研究及び応用研究の実施状況を研究組織別に見ると第1-2-27図のとおりとなる。

同図に示すとおり,基礎研究は,その過半が大学等において行われている。大学等における基礎研究は科学の進歩を目的とした理論の追求を基調として行われているとともに,特定の実際的応用を間接のねらいとする研究も行われている。そして,基礎研究の次の段階と言える特定の実際的応用を直接のねらいとする応用研究への投資額は,基礎研究の約3分の1であり,我が国全体の11.4%となっている。

国・公営研究機関と特殊法人では基礎研究は投資額で我が国全体の約6分の1,応用研究は同じく約4分の1を占め,主に実際的な応用を目的とした研究を行っており,対象分野としては,市場性の少なさや不確実性の大きさなどから民間では研究開発を実施し難い低生産性部門,社会開発部門,先導的・基盤的部門を主としている。

第1-2-27図 組織別の性格別研究費支出割合

一方,民間企業では,基礎研究においても投資額で我が国の基礎研究の約4分の1を,応用研究では6割以上を占めており,その研究は市場性のある産業技術を対象に,1)実際的な応用を念頭において特定分野の科学知識の精度を高め新たな技術開発の芽を発掘し,育てることと,2)応用研究あるいは開発研究段階で発生する問題を解決することを目的としていると言える。

我が国の場合,海外からの導入技術を基盤として,その改良により技術革新を生み出す例が多い。この場合の基礎研究,応用研究は問題解決的な性格と言えるが,第1-2-2表に示したとおり,戦後の重要な技術革新例においては,基礎研究を始めてから開発段階に入るまでに約3年の基礎・応用研究が行われている。

基礎研究及び応用研究が自主技術開発を進めていく上で必要不可欠なものであり,かつ,その研究組織別の役割を考慮すると,民間企業における基礎研究及び応用研究への投資の後退の影響としては,1)産業部門における次の技術開発の芽を減少させ,長期的にみると我が国の技術開発力を弱めること,待にこの影響は,国・公営研究機関,大学等が直接的に代替できない産業技術分野に強く現れること,2)技術開発途中に発生した問題の解決が遅れ,技術開発の遅れなどをもたらすこと,3)これらの影響は,基礎研究及び応用研究への投資の後退の著しい中堅企業,中小企業に比較的強く現れることが指摘できよう。


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