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第1部   安定成長下における技術開発推進への課題
第1章  我が国の科学技術の現状
第1節  科学技術への期待


今日,人類はエネルギー,食糧等の資源のひっ迫,環境汚染,開発途上国を中心とする爆発的な人口増加等によって,かつてない大きな試練に直面している。特に,主要な資源のほとんどを海外に依存し,それを国の発展の基盤としてきた我が国にとって,資源問題の帰趨は国の存立を左右する問題であり,更に,これまでの高度経済成長の過程で表面化してきた生活環境の汚染や自然環境の破壊,各種の事故,災害などに直面して,我が国の社会経済は今,大きな転換期にある。

このような我が国が直面する様々な困難を克服し,今後,長期にわたって経済の安定的発展と国民生活の充実を図っていく上で,科学技術の進歩に期待されるところは従来にも増して大きくなっている。

科学技術が社会経済の発展にどのように寄与し,また,今後,寄与することが期待されているかについて,定量的に見た一つの事例を第1-1-1図に示す。この図は我が国の経済成長が資本,労働,技術進歩等という三つの要因からなるものと仮定した場合の技術進歩等の寄与率を見たものである。これによれば,経済成長に占める技術進歩等のウエイトは,近年,次第に大きくなってきているが,特に安定成長を目指す昭和50年代においては,予想される経済成長率約6%のうち約65%は技術進歩等によるものとされている。

これには稼動率の向上や高水準技術の普及といった既存技術の下での可能な成長要因も含まれているが,技術進歩の役割が相対的に高まっていることがうかがえる。

第1-1-1図 我が国の経済成長に占める技術進歩等の寄与率

このことからは,世界的な技術革新の停滞傾向,研究投資の停滞,海外からの技術導入の困難化など,我が国の研究開発をめぐる環境が次第に悪化しつつある状況の中で,技術進歩に対する期待は過大であるとも言えるが,このような困難な状況の中においても我が国は更に新しい観点に立って技術開発を進めていかねばならなくなってきている。

一方,近年我が国の高度経済成長の進行とともに顕在化してきた環境汚染,各種事故・災害の深刻化,自然破壊の進行や資源・エネルギー危機を契機として,従来のように科学技術によりもたらされた成果が必ずしも人間・社会にとって好ましい影響を与えるのみではない点が認識され,また,大量のエネルギーや生活物資等を消費し,物質的に恵まれた生活を営めるようにすることが,必ずしも我々の幸福にはつながらないのではないかという反省も生まれ,科学技術に対する期待にも質的な変化が見られるようになってきた。

このような最近における科学技術をめぐる諸情勢の変化に対応するため,内閣総理大臣の諮問機関である科学技術会議は,昭和52年5月,諮問第6号「長期的展望に立った総合的科学技術政策の基本について」に対する答申において,今後の10年間における我が国の科学技術政策の目標を明らかにしているが,ここでは特に現下の科学技術に課せられた役割について述べることとする。

(資源制約の克服と科学技術)

資源制約の克服は,言うまでもなく,今後,我が国の直面する最大の課題である。今日の我が国の社会経済はエネルギー,食糧を始め各種鉱物資源,木材などの海外からの膨大な輸入によってその基盤が支えられている。しかしながら,これらの資源の多くは遠からずして供給制約が起こる恐れがあり,また,資源保有国における資源ナショナリズムの高まりなどによって,今後我が国が長期にわたってこれらの資源の安定的確保を図っていく道は誠に厳しい状況にある。このような中で我が国は,今後,国を挙げてこれらの資源の確保に取り組んでいかなければならないが,その実現のためには科学技術の進歩に期待するところが大きい。

まず,エネルギー資源については今後予想されるエネルギー需要の増大に対処するために,引き続き海外からの安定的確保を図るとともに国内において石油に代わる新エネルギー,代替エネルギーの開発と省エネルギー化を進めることが急務である。

石油に代わる代替エネルギーとして最も期待されるのは原子力であり,今日までその開発に力が注がれているが,昭和50年度における我が国の一次エネルギー供給量に占める原子力の比率は,まだ1.7%にすぎず,今後,大規模な利用を進めるには,軽水炉の信頼性・安全性の一層の向上を図るとともにウラン濃縮技術,放射性廃棄物処理処分技術等を開発し,核燃料サイクルの確立を図ることが急務である。また,長期的には新型転換炉,高速増殖炉,多目的高温ガス炉等の新型炉の実用化・普及,更には21世紀を目指した核融合炉の開発が要請されている。また,太陽エネルギー,地熱エネルギー,海洋エネルギー,水素エネルギーなどのいわゆる新エネルギーの開発もその促進が望まれる。なお,これらの代替エネルギー,新エネルギーの技術開発と併わせて既存の化石エネルギーの有効利用を図る観点から,ガス化,液化等による石炭の利用技術の開発,我が国周辺の大陸棚等における未利用の石油等の採掘技術の開発などを進めることが要請されている。

省エネルギーについては,国民の意識の向上と省エネルギー型産業構造への転換を図るとともに,省エネルギープロセス・設備・機器等の開発,廃熱利用システムの開発などのエネルギー利用効率の向上のための技術開発が要請されている。

エネルギーと並び重要な資源である食糧資源の確保に関しては,自給力の向上を図ることが大きな課題であり,そのためには作物の基本的生産能力の改善を目指した光合成効率の向上等に関する基礎的研究を初めとして多収性・耐冷性等の優良品種の育成,農地の高度利用技術の開発,病害虫防除技術や気象災害防止技術の開発等への期待が大きい。また,200海里時代に対応した水産資源の生産量の確保を図るための資源培養型漁業技術等の開発,たん白資源確保のための新たん白資源利用技術,未利用及び低利用水産たん白資源の利用技術の開発などが強く望まれている。

このほか,鉱物資源,木材の確保などに当たっても国内資源の開発と同時に,海外における資源開発,現地加工化のための適正技術の開発・移転,新資源の開発等を促進するとともに,これら資源の有効利用を促進するための資源のリサイクリング,節約技術の開発を進めることが望まれている。

更に,国内では最も豊富に存在する水資源についても,近い将来においてそのひっ迫が懸念されるに至っており,これに対処するための水資源かん養,海水淡水化技術等の水資源開発技術及び汚水の再利用,節水型工業プロセスの開発等による水の有効利用技術の開発を進めることが急務である。

(国民生活の質的向上と科学技術)

戦後の我が国の社会経済は驚異的な発展を成し遂げ,今日国民は所得の向上,食生活の多様化,生活用品の多様化・便利化,交通・通信の発達など数多くの恩恵を享受している。反面,社会資本の整備の遅れなどとあいまって,環境汚染,各種の事故・災害,都市の過密化などのいわゆる社会的ひずみと言われる諸現象が数多く発生するようになってきた。このような中で国民は住みよい生活環境,健康で安全かつ快適な生活の実現を強く求めている。

このような期待にこたえるためには,まず第1に環境保全,各種の事故・災害の防止,均衡のとれた国土利用,生活環境施設・交通運輸・情報通信体系等の整備を進めることが必要であり,このための科学技術を発展させることが不可欠である。

環境保全に当たっては,望ましい環境の質を科学的に明らかにし,その質を維持・達成するための環境監視・測定技術,環境影響評価手法,汚染防止技術の開発等を進めることが望まれている。

自然災害,火災,交通事故,労働災害等を防止し,安全な生活環境を創造するためには,これらの事故・災害現象の解明,安全基準を確立するための基礎的研究,人為的要因の強い事故・災害についての人間の行動心理,人間工学面からの研究が必要であり,これらの成果によって予知,予報,被害軽減のための事前対策,災害発生時の緊急対策等について科学技術面からの貢献が期待される。

また,各種生活用品,食品,医薬品等の安全性の確保に係る科学技術の推進を図ることも大きな課題である。

更に,生活環境を整備するためには,都市の安全性,保健性,快適性の向上を図るため,都市計画・建設技術の開発,低廉で優れた機能を有し,かつ省資源・省エネルギー型住宅の設計・建設技術の開発,低公害・省エネルギー型の交通輸送技術の開発,総合的な情報通信システムの開発なども待たれている。

第2には国民の健康の維持・増進を図るための科学技術の推進である。今日の我が国の健康水準は平均寿命・乳児死亡率を見ても,北欧諸国とともに,世界の最高水準に達していると言えるが,健康な生活の実現は国民の基本的な欲求であり,科学技術に対して更に多様な期待が寄せられている。

健康な生活の確保の基本は,国民が生活様式その他の改善を通じて日常生活の中での健康づくりを目指すことである。そのため,健康とは何かを明らかにし,生活の中での健康の維持・増進の方法を解明するための健康科学を推進するとともに,将来,新たに発生する恐れのある健康阻害因子の除去など健康問題に対して積極的に取り組むことが要請されている。一方,今後,ますます進行する高齢化社会に対処するため,老人医療技術の開発や身体障害者の福祉を増進するためのリハビリテーション技術の高度化への期待も大きい。更に,救急医療体制の整備,へき地における医療の確保等保健・医療サービスの向上のため,医療情報システムの開発を図るとともに,検査・診断技術や治療技術の高度化を図ることも強く望まれている。

また,今日の我が国における代表的な高死亡率疾病である脳血管疾患,心疾患,がん等のいわゆる成人病やウイルス性疾患,遺伝性疾患等の予防・診断・治療技術の高度化を図ることも望まれている。

(国際協調及び国際競争力の確保と科学技術)

必要な資源のほとんどを海外に依存し,加工貿易立国としての道を歩んでいる我が国が,今後,安定した社会経済の発展を図っていくためには,国際協調を第1としながら,産業の国際競争力の維持を図っていくことが不可欠である。

今日,先進工業国として世界的にも極めて高い技術水準に到達している我が国は,全地球的規模で生じている様々な問題の解決に寄与し,また開発途上国の発展に貢献するための技術開発を進め,科学技術協力を促進することはもちろんであるが,先進諸国にも我が国の優れた技術を提供することが必要である。

一方,我が国の産業の国際競争力は最近における賃金の上昇,資源価格の高騰や開発途上国の工業化の進展等によって,業種によっては低下しているものも少なくない。

資源に乏しく,加工貿易立国としての道を志向しなければならない我が国にとって,産業の国際競争力を維持していくことは極めて重要なことであり,それには科学技術の発展に待つところが大きい。特に,従来のわが国の産業の発展は海外からの技術導入によって支えられてきた面が強いが,後述するように海外からの技術導入に依存することが次第に困難となりつつあることから,今後は我が国が独自の技術開発を進めていくことが必要となっている。

以上,概観してきたように,今後,我が国が社会経済の安定的発展を図り,国民生活の向上を図っていく上において科学技術の役割は従来以上に重要となっている。


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