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第1部   科学技術発展の回顧と新たな課題
第2章  社会開発分野における技術革新への期待
第2節  社会開発分野における技術革新達成の条件
  むすび


戦後の我が国の最大の課題は,図式的に示せば,経済の復興→経済の成長→国民生活の向上にあった。パイの拡大によって国民一人一人に対する配分を増やし,国民生活の向上を図ることが目指され,この図式は広く国民に支持されてきた。このような課題の達成のため,生産技術を中心とする科学技術の振興が強く求められた。

当初は主として外国技術の導入によって,更に経済力が向上するにつれて外国技術の導入に加えて研究開発活動の充実を図ることによって,科学技術水準の向上に努め,海外からの資源。エネルギーと国内の良質の労働力とを組み合わせて,国際競争力のある工業製品を作り,加工貿易立国としての道を歩いてきた。

この方法は極めて有効であった。新しい科学技術の積極的採用を背景とする経済の成長は世界の驚異の的となった。国民生活面でもその充実は著しく,所得の向上,平均寿命の向上,食生活の多彩化,生活用品の多様化・便利化,交通・通信の発達など枚挙にいとまがない。これらに果たした科学技術の貢献は,高く評価されなければならない。

一方,生産活動の急速な拡大は,工場・人口の過度の集中をもたらし,社会投資の遅れとあいまって,環境汚染,交通事故,過密・過疎などのいわゆる社会的ひずみといわれる諸現象を顕在化させた。生活水準の向上は,価値観の変化をもたらし,経済の高度成長→国民生活の向上という単純な図式は有効性を失いはじめてきた。

このような社会環境条件の変化を反映して科学技術に対する要請も大きく変化してきた。あらゆる活動の基盤としてのエネルギー技術,加工貿易立国として不可欠の高度の生産技術など産業活動分野における科学技術振興の重要性は認識されながらも,これらの技術が“効率性”を追求するのみならず,“環境保全・安全性・省資源との調和”を図ることが求められている。

更に,科学技術は産業活動面で大きく寄与しているにもかかわらず,社会開発面では,その寄与が立ち遅れていることにかんがみ,社会開発面における科学技術の寄与を拡大することが強く要請されている。

「はじめに」でも指摘したように,資源・エネルギーの安定的確保に貢献する科学技術,産業の新展開に貢献する科学技術の推進など科学技術政策上の重要課題は多いが,本年度の白書では,焦点をしぼって,ともすれば日の当たりにくい社会開発分野における科学技術の寄与の拡大を取り上げたので,以下,この点に関し配慮すべき諸点を述べる。

第1は,社会開発における科学技術の役割の明確化である。社会開発分野においては,科学技術以外の政策(福祉政策,医療政策,都市政策,交通政策など)の役割が大きいため,問題解決のために科学技術に何が期待されているかが不明確になりやすく,また,科学技術面での成果が科学技術以外の政策の中で十分生かされないおそれがある。したがって,社会開発面において科学技術の寄与を拡大するに当たっては,問題解決に期待される科学技術の役割,更には,科学技術以外の役割との関係を明確にし,科学技術の役割について全体的位置付けを十分認識して努力することが重要である。

第2は,国立試験研究機関,大学など公的機関における研究活動の拡充である。社会開発分野の科学技術には,医療の向上,食品・薬品などの安全性の確保,災害防止など国が中心となるべきものが多く含まれており,この面で科学技術の寄与の拡大を図るためには,国立試験研究機関,大学など公的機関における研究活動の一層の拡充を図ることが重要である。

第3は,社会開発分野における科学技術の寄与の拡大が機器やシステムの開発などを通じて行われる場合が多いので,この点について民間企業の能力の活用を図ることが重要であるが,その際,産業活動分野におけるとは異なる考え方で対処する必要のあることである。戦後の復興と経済の高度成長の原動力となった産業活動分野における技術革新を達成させた要因は種々あるが,なかでも基本となったのは,技術開発に成功した際の創業者利潤を期待して,危険(リスク)をおかして新製品,新製法の開発を行う企業家精神であったことは疑いのないところである。このような市場を通じての競争メカニズムによる技術革新への動機付けは,民間企業の能力を活用する以上,当然の前提であるが,社会開発分野においてはこの点が働きにくいので,政策的に需要を形成することによってこの分野でも企業家精神による動機付けが十分機能するよう配慮することが重要である。すなわち,社会開発分野における需要は,1)多種多様であり,需要者が国・地方公共団体など公的機関であることが多いこと,2)社会制度のあり方と密接に関連していること,の特徴を有しており,国は,需要の明確化,社会制度の改善によって需要の形成に積極的な役割を果たすことが期待されていると言えよう。

第4は,総合的連携体制の確立である。社会開発分野の問題解決のためには,専門化・細分化する傾向にある科学技術を,それぞれの問題に合わせて結集するとともに,研究開発を行う側とその成果を利用する側との連携の強化を図ることが重要であり,このような観点から,国は,社会開発分野において科学技術の寄与を拡大するに当たって,問題に応じて総合的連携体制の確立に努めることが重要である。

以上のほかにも,1)国民の理解と協力の中で推進すること,2)国際協力を重視すること,3)自然科学のみならず社会科学を含めた学際的アプローチを重視することなど,科学技術の振興一般に共通する事項に留意する必要があることはもちろんであるが,最後に強調しておきたいことは,研究開発成果の需要側を所管する行政当局の役割の重要性である。社会開発分野における科学技術の寄与の拡大は,行政的に見れば,福祉政策,医療政策,都市政策,交通政策などの各種政策の実現手段として科学技術をどのように利用するかということに尽きる。この意味から,政策の検討,実施において,今まで以上に科学技術要因を重視し,人類の英智である科学技術の粋を活用する姿勢が重要であり,これこそ社会開発分野における科学技術の寄与の拡大を期待する国民にこたえる道であることを銘記すべきである。


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