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第1部   科学技術発展の回顧と新たな課題
第1章  科学技術発展の回顧
第2節  科学技術の発展傾向
3  科学技術の発展形態又は方向


技術開発の担い手や対象分野のみならず,科学技術そのものの発展形態や方向にも,いくつかの傾向を見出すことができる。例えば,過去の科学技術白書(昭和37年度,44年度)においては,次のような傾向を指摘した。

1) 科学と技術は別々に発展してきたが,科学理論が技術に応用されたり,科学研究に技術が寄与するなど,科学と技術の結び付きが強まる傾向が出ている(具体例については, 第1-1-6表参照 )。
2) 科学技術は専門化,細分化しているが,他方において境界領域的学問や多数の分野を総合した科学技術分野が出現しており,また,特定の目的のために多分野の知識を結集すること,すなわち,科学技術の総合化が進んでいる(具体例については, 第1-1-6表参照 )。
3) 技術が大容量化,自動化,直接化,新機能の創出,軽量・小型化,品質の高度化・高性能化などの発展形態を示している(具体例については, 第1-1-3表参照 )。

これらの傾向は,科学理論の技術への応用で停滞が見られ,技術の大型化は頭打ちのきざしにあるなどの動きが認められるが,大きな流れとしては現在でも変わりがないので,今回は,これらとは別の視点で発展傾向を見ることとする。

第1-1-3表 技術の発展形態とその具体例


第1-1-4表 技術開発を実施するに当たり重視するニーズ

(効率性第一主義から,効率性と環境保全・安全性・省資源との調和へ)

最近関心を呼んでいる視点としては,科学技術の目標の変化がある。すなわち,高度経済成長による生活水準の向上と社会的ひずみといわれる諸問題の顕在化は,価値観の変化をもたらし,科学技術の目標についても“より速く・安く・大量に・便利に”よりも“より安全に・省資源で・環境保全に留意して”を求める傾向が出ている。このことは,昭和49年に行った「民間企業における研究活動に関する調査」において,「技術開発を推進するに当たり重要視するニーズ」の中で,環境保全,災害の防止,食品の安全化が比較的高い比重を占めていることからも,うかがい知ることができる( 第1-1-4表 )。

更に科学技術庁長官賞 注) の対象となった技術について見ても同様であることがわかる( 第1-1-5表 及び 第1-1-11図 )。すなわち,昭和30年代後半においては,経済の高度成長に寄与する技術の側面が強く現れ,効率性を追求することを中心的目標とするものが圧倒的に多く受賞技術の86.5%を占めているが,40年後半になると,環境保全や安全性の重視,高度経済成長に対する反省を反映して,効率性は68.9%に減少し,環境保全が3.4%から13.3%へ,安全性が5.9%から11.1%へそれぞれ増加している。省資源についても4.2%から6.7%に増加しており,近年の資源エネルギー問題の重要性を反映している。

このような傾向からも,技術の目標は,前述のように“より速く・安く・大量に・便利に”から“より安全に・省資源で・環境保全に留意して”に,すなわち,言い換えれば“効率性第一主義”から“効率性と環境保全・安全性・省資源との調和”に変わりつつあるということができよう。

最近,比較的多く出現している効率性と環境保全の調和型の技術の具体例を科学技術庁長官賞受賞の技術の中かから示すと,次のとおりである。


注)科学技術庁長官賞は,科学技術庁が毎年科学技術振興施策の一つとして実施している制度で,我が国の科学技術水準の向上に顕著な功績をあげた者を対象として表彰し,その功績を讃えるものである。その内訳は,1)科学技術功労者表彰,2)研究功績者表彰,3)創意工夫功労者表彰(創意工夫育成功労学校表彰を含む。)に分かれている。このなかで1)の科学技術功労者表彰は,a;優れた国産技術の開発に貢献した研究者又は発明者の業績,b優れた国産技術の育成に貢献した者の業績,c科学技術の普及啓発又は発明の奨励に貢献した者の業績,d科学技術の振興施策の推進に貢献した業績に分けている。本書では1)のaの対象となった技術について分析した。

第1-1-5表技術の目標

第1-1-11図 技術の目標の変化


1) 拡散浸透法による金属表面処理技術(昭和50年度受賞)

金属に焼入れなどの表面処理を行うと金属の表面が硬くなり,耐摩耗性,耐食性,耐酸化性を高めることができる。拡散浸透法による金属表面処理法というのは,特定の金属元素を母材の表面に拡散浸透させ,硬くて丈夫な硬化層を形成し強い合金を作る方法である。従来までは,焼入れという高温加熱によって母材の組織を変化させて強くしたり,金属拡散浸透法でも炭素を使う浸炭,窒素を使う窒化という方法によるものであったが,最近の機械部品は一層高度な耐久性を求めるものが多くなり,新しい処理方法の開発が望まれていた。このため開発された方法は,バナジウム(V),ニオビウム(Nb),チタニウム(Ti)などの炭化物を簡単な方法で母材に被覆させて大きな効果を得ようとするもので,更にこの処理法は構造の簡単な槽の中で溶融している塩溶剤のなかに被処理物を浸漬し,一定時間保持する方法であり,従来の気体雰囲気中での加熱方法に比べて槽への被処理物の送入,取出しが自由であるため,作業能率が高い。しかも,従来の方法のように有害な塩化水素(HCl)のガス洩れ発生(爆発性の水素と塩化物(TiC14 )からなるガスを入れた気密炉のなかで加熱することにより発生する可能性がある。)などの公害に結びつくおそれもないので,処理の効率性向上と同時に環境保全との調和を得ている点で注目に値する技術である。


2) 気流炉によるセメント焼成技術(昭和50年度受賞)

セメントの製造は,石灰,シリカ,アルミナ及び酸化鉄を含む原料を適当な割合で混合し,それを粉砕して均密にしたあと焼成炉内で高温で加熱焼成し,凝結調整剤(石膏など)を数パーセント加えて粉砕し,微粉末にすることによって完成する。焼成の段階で,従来は高温の熱風を炉に供給し粉体を加熱していたが,この方法では加熱効率が低いため十分な焼成ができず,効果を高めようとすれば付属機器が大きくなり,設備費が増大するなどの欠点があった。新しく開発された方法は,炉の下部より旋回気流を供給し,炉の上部から燃料と粉体を供給することにより炉内に混合乱気流を形成させ,炉内で直接燃焼を行わせるもので,燃焼と同時に粉体の加熱と反応を行わせ,燃焼によって生ずる発熱を急速に粉体に吸収させるというものである。これにより,熱効率の上昇,燃料消費の低減化,炉の小型化と設備の簡素化を図ることができ,かつ,窒素酸化物(NOx)の発生量を減らすことができるので,公害防止にも役立つ利点を有しており,効率性を高めるだけでなく環境保全をも配慮した技術である。


3) 自動連続濾過装置(昭和50年度受賞)

最近の社会経済活動の活発化は,資源消費量の増大をもたらしたが,同時に廃棄物の量をも増大させている。無秩序なゴミの廃棄は,海,河川,湖沼の美観を損なうだけでなく,公害の発生源となるおそれがあるため,廃棄物処理に関する技術の開発が急がれている。開発された自動連続濾過装置は,特に液体(流体)中の大量の浮遊物,塵芥などの固体廃棄物の濾過,選別に効果を発揮するもので,従来の濾過装置は目詰りがしたり,連続的に大量処理ができないといった欠点があったが,新しく開発された濾過装置は,このような構造上の問題点を解決し,長時間,連続的に,しかも大量の濾過が可能である。この装置の概略の構造は,フォークに似た特殊な形状のフィルタープレートを鎖状に組み合わせた濾過フィルターとベルトコンベアから成り立っており,濾過フィルターによって固体廃棄物の大きさの選別を行いベルトコンベアで所要の個所に移送するもので,その選別能力はマッチ棒程度の微小なごみから小型自動車程度のものまで及んでいる。特に海水・河川水の取水口・下水処理場での前処理,工場循環水の処理・工場廃液の前処理,湖水・入江の浮遊物除去などに有効である。環境保全の一環としての固体廃棄物処理の効率を著しく高めた技術として注目に値するものである。


4) 案内軌条式電車(昭和47年度受賞)

環境問題の解決は現下の重要課題であり,車両走行時の騒音による都市公害もその一つである。この問題に対応するため,車両騒音をなくする方法の一つとして車輪をゴムタイヤ方式にし,車両走行時の騒音による都市公害が生ずることのないゴムタイヤ電車が開発され,昭和46年の冬期オリンピックを機に札幌で採用された。

本車両は,ゴムタイヤが鉄車輪ほど過負荷に耐え得ない反面,粘着特性が良く,またはるかに大きいスリップアングルを持たせて走行することができるため,これらの長所を生かし,欠点を補うよう考慮して設計されたものである。すなわち,極力車両の軽量化を図るとともに,1車両当たりに使用するタイヤ数を多くして,7軸からなる多軸構造とし,更に車体の中央部に配置した2軸の駆動台車を固定することにより,駆動装置及び車両の構造を簡単・軽量とする効果を上げている。また,すべての走行輪をダブルタイヤとしただけでなく,案内用車輪にはチューブレスタイヤを使用し,その上その内部には補助車輪を内蔵してタイヤトラブルに対する保安度を高めている。

更に車両の案内機構を,車軸全体を操向する独得の一案内点方式とし,小さい案内力で大型車両の案内を可能とし,案内輪の小型化と案内軌条の強度確保を容易にしているなどの特長をもっている。

この電車は,1両当たり270名の大量乗車で最高速度毎時75kmの高速輸送を可能とし,かつ,車両走行時の騒音を少なくした都市交通に適した鉄道システムであるといえる。

第1-1-12図 アメリカにおける革新型技術の減少傾向

(革新型の技術進歩から改良型の技術進歩へ)

第1-1-6表 科学と技術の結び付きと総合化傾向の具体例

戦後の技術革新は,テレビジョン,トランジスタ,コンピュータ,電子複写機,抗生物質,農薬,合成ゴム,合成繊維,ジェット機,原子力などに代表されるように,新しい原理・原則に基づく革新型の技術進歩によって特徴づけられる。しかし,近年は,新しい原理・原則の発見の停滞によって,この種の技術進歩が減少し,個別技術の改良,組合せによって技術進歩が図られる傾向が強くなっている (第1-1-12図参照) 。昭和37年度の科学技術白書に取りあげた総合化傾向の発展傾向は一段と促進され,科学と技術の結び付きによる技術の飛躍は一段落の傾向にあるといえよう (第1-1-6表参照)

このような傾向は,いわば在来型技術の円熟化ともいうべきものであり,新しい型の技術の出現なしにはいずれは技術進歩が壁にぶつかり,経済の安定的成長,国民福祉の向上にとって重大な支障となるおそれがあることを暗示している。したがって,今から次の技術革新の芽となる原理・原則の発見に積極的に取り組むことが極めて重要である。

第1-1-7表 期待されるライフサイエンスの応用課題例

この分野に属するものとしては,新しい材料の開発,レーザ技術,基礎電子技術,情報科学,ライフサイエンス,超高温・超高圧・極低温など極限状態に関する技術,触媒技術などの基礎的・基盤的科学技術分野があるが,なかでもライフサイエンスは,生命現象あるいは生物機能を科学的に解明し,工業,医療,農業,環境保全など多面的に応用しようとするもので次期の技術革新を先導するものとして期待がよせられている (第1-1-7表参照)

この面の研究開発は,直接応用には結びつきにくいし基礎的研究であり,大学,国立試験研究機関などが主たる役割を担うべき分野である。


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