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第1部   安定的発展への新たな要請と科学技術
第4章   産業の新展開に貢献する科学技術
第4節   共通的基盤的科学技術の動向
1   電子技術


電子技術は,今日の社会・経済機構の中で人間の頭脳,中枢神経にも例えられる情報の獲得,伝達,記憶,計算,判断,指令,操作等の重要な役割を演じているばかりでなく,将来の日本の産業発展を主導する知識集約産業の中核的存在として,省資源,省エネルギー,安全化など種々の条件を課されている産業界においてもますます重要性を高めていくものと予想される。

最近の電子技術の目覚ましい発展は,電気工学,通信工学を母体とし,物理学,化学,数学など,基礎学問の支援を受けながら進展した電子工学と,計測工学,精密工学などの各種工学分野との相互に刺激し合つた結果の所産であり,更には,通信,情報処理等の利用分野からの大容量化,高速度処理化等の要請があつたこともその向上を促した重要な要因である。

固体物理学における物性論は,電子材料の改良,新しい機能素子等の開発の要請を受けて,トランジスタに始まる固体電子素子を出現させ,更に,加速して電子技術の発展はやがて集積回路(IC)及び大規模集積回路(LSI)へと進み,電子計算機等の各種電子装置の小型化,大容量化,大量情報の高速度処理を可能にした。

電磁波技術の研究は,光の領域に迫る電磁波を利用するレーザ等の実用化への見通しをつけ,通信容量の画期的増大,精密加工技術等からの要請にこたえる進展を図つている。

電子技術は,今後もますますその範囲を拡大し発展を続けるものと予想されるが,その足掛かりとして,新しい物理現象の探究と機能素子の開発,あるいはバイオニクス,オプトエレクトロニクス等のような未踏革新的な技術の研究開発の推進も期待されている。


注)電子デバイス(electronic device)電子の性質を利用した種々の機能を有する装置又は素子のことで,最近は,固体又は半導体の物性を利用し,従来の電子回路と同等の機能を持たせた機能素子等の研究開発が工業技術院電子技術総合研究所等で進められている。

(1) 電子デバイスの新概念

従来,電子技術は,回路技術を基礎とした電子デバイス 前ページ注) の進展に負うところが大きく,最近は,電子回路を高密度化したIC,LSIを登場させたが,更に,新たな変革がもたらされつつある。すなわち,従来のような回路技術に頼らず,物質に固有な性質を直接に利用して,例えば,固体素子自体にデバイスとして必要とされる高度な機能を発揮させようとする考え方である。

このような新しい概念に基づく電子デバイスを開発するためには,新しい物質現象及び物質の発見・合成に関する研究が必要である。それらを支えるものとして,物質合成技術,測定技術,物性解析技術,加工技術などの研究がある。その研究の方向は,従来の結晶性物質と並行して,無定形物質・物秩序状態にある物質・薄膜状及び線状の物質・高分子物質・原子核等にも対象が拡張されており,他方,物性研究では,表面現象,相転移現象,不純物効果等に関心が持たれ,電気伝導性・磁性・光学特性や,それらの特性の相互の関連について調査研究が進められている。また,これらの研究に不可欠な極限条件(極低温,超高圧,超高真空等)を作る技術の開発も積極的に進められている。物質合成技術については,新物質の合成と同時に新しい合成技術も研究されている。特に,デバイス開発を念頭においた各種エピタキシャル結晶成長技術(分子線やイオンビームによる方法・気体輸送法,化学輸送法,液相法等)が注目される。測定技術・物性解析技術の研究は,レーザ分光,光電子分光,シンクロトロン軌道放射分光等の各種の分光法,表面状態や不純物の微視的な解析手段の開発への関心が高まつている。

レーザ技術の進歩により新しい加工技術の分野が開かれた。LSI,磁気バブル素子,光IC等は,サブミクロンの加工精度を必要とし,そのため,イオンビーム,電子ビームの利用が注目され,イオン注入,イオンミリング,電子ビーム露光法等の研究が行われつつある。

(2) コヒーレント電磁波技術(超マイクロ波帯)

電子技術の一翼を担う電磁波技術の中で,主導的な役割を保有するものは,コヒーレント(coherent)電磁波技術である。従来における高周波,マイクロ波技術の発達は,電子回路によるコヒーレント電磁波の発生技術の発達によるものである。従来,コヒーレント電磁波の発生技術の周波数限界は,電子管技術の限界であるサブミリ波帯であつたが,1960年以来のレーザの開発により,一挙に紫外線領域まで拡大され,その利用技術は,多くの分野の発達を促した。

高周波,マイクロ波帯の利用は,従来,通信とレーダ等に限られていたが,社会的ニーズの多様化により,固体化等技術の進歩とともに,各種検出装置,加熱加工用あるいは電子レンジ等,一般民生機器にも広く利用されるに至つている。

ミリ波帯は,従来よりマイクロ波技術の延長としての利用が予測されながら,立体回路素子あるいは電子管の加工技術上の限界から,開発が遅れていたが,最近の増大する通信需要に対処するために,導波管方式による通信方式の開発が我国をはじめ欧米諸国において強力に進められた結果,100GHz以下において著しいミリ波技術の発達が見られ,ミリ波通信の実用化を目前に控えるに至つている。

一方,レーザ光は,波長の極めて短いコヒーレント電磁波としての特徴を生かして,従来の電磁波技術では予測し得ない分野での電磁波利用を可能にしている。すなわち,現在開発が進められている分野は,大容量光通信,ホログラフイ等による情報処理,細光ビームによる加工技術,あるいはレーダによる汚染物質の分析,高速光パルスによる高速現象の観測等の計測用等,極めて多岐にわたつており,更に最近,同位元素の分離,あるいは核融合への利用まで提案されている。今後,レーザ技術及びレーザ光利用技術の開発は,広範な分野において重要な役割を果たしていくものと予想される。

(3) 情報処理技術

20世紀の科学技術の大きな成果の一つである電子計算機を中核とする情報処理技術は,広く社会機構の申に定着し,我々の生活に多大の変革をもたらしている。

現在の超高性能計算機では,1秒に1億回近くの加減算が行われ,また,一方,大容量記憶装置としては3兆ビット(書籍にして2.000万冊)のものも出現している。また1枚の基板にこれまでの中型計算機程度の機能を持たせる可能性も出てきている。

ハードウエアとソフトウエアの中間に位置し,ハードウエアに融通性を持たせるマイクロ・プログラム技術(ファームウエア技術)も普及した。計算機システムの能率的な使用のための,種々のプログラム言語やオペレーティング・システムが開発されている。また,数多くの計算機をネットワーク化する技術も確立されてきたが,これは,計算機を会話的に使用することを可能にするタイム・シエアリング技術とともに,情報の共有化を行う技術として重要なものである。

計算機の発達と普及によつて,ますます重要になつてきたことは,人間と計算機の密接な交渉であり,それにともなう計算機利用の高度化である。このためには,高度の入出力機能としてのパターン情報処理,高度の会話的利用のための言語情報,知識情報の組み込みが必要である。我が国では計算機を用いる文字,図形,物体,音声などのパターン認識のプロジェクトが実施され,具体的な成果が着実に得られている。印刷文字については,ほぼ100%に近い識別率が得られている。

人間と計算機の高度な会話機能は,計算機がどの程度まで自然言語を理解することができるか,また,人間が持つている「知識」をどの程度計算機に組み込むことができるかということに帰着する。これについては,最近アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)を中心として活発な研究が進められている。このために,大規模なプログラムを作成する新しい意味での自動プログラミングの研究が開始されている。これらは,アメリカでは,計算機の能力を人間の能力に近づける研究として取り上げられており,知能ロボットの研究とともに,新しい人工知能の研究の中核となりつつある。

情報処理技術は,近い将来極めて小型で高性能の,かつ,安価な計算機を目指すとともに,今後の情報処理技術の研究は,言語学,心理学,論理学,音声学等との相互連携の下に,幅広く展開していくものと考えられる。

(4) 制御技術

制御技術は,生産の合理化のために必要な技術であるとともに,原子力開発,宇宙開発,海洋開発などに欠くことのできない重要な技術である。このような制御技術は,20世紀に入り,鉄鋼業をはじめ,化学工業,石油精製工業におけるプロセス制御に導入されることにより,その本格的発展期を迎えた。

初期の制御技術を支えた理論は,単なる調節の領域にとどまり,その多くは経験に基づくか,又は比例,積分,微分の三動作に代表されるような簡単なダイナミックスによるものであつたが,最近における近代制御理論の発達は,外乱を含む複雑なダイナミック・システムの固定や,最適な制御を可能とした。

一方,第二次大戦中,イギリスで軍事上の要請からORの開発が始まり,それが広範囲の制御系に適用されるようになり,制御技術は,古典的ないわゆる調節技術から,大きな操業システム全体の制御技術へと拡大されるようになつた。

電子計算機の発達は,このような近代制御理論の発達や,ORに代表される大規模系の操業理論の発展にも,極めて重大な影響を及ぼしている。これらの制御理論のすべては,電子計算機の計算能力を前提とした実用価値のある理論として出現し,発達した。そこで,静的な操業理論と動的な操業とは逐次総合化され深い相関を持つようになり,制御技術は,単一ループの動作理論へと発展した。そして,その大規模な操業システムの中で,複数個の電子計算機をいかに配置し,いかなる関連を持たせ,各種プラントに多種多量の物質をいかに処理させるかというテーマが多くの国で取り上げられるようになつた。時分割で,直接にプラントを制御させる, DDC(Direct Digital Control)調節系の設定点や,システム・パラメータを変更指令するSCC(Supervisory Computer Control)は,電子計算機の制御への応用の一大眼目となつている。

現在,電子計算機にどこまで集中制御させるかということ,これとは反対に,領域をどこで区切り分散させるかということ,また,いかに計算機を相互に関連させるかということなどが研究されており,具体的に応用されつつある。

制御理論や制御システムの構成ばかりでなく,これらの発展と相まつて,制御機器は極めて急速に発達している。かつて空気調節器は,信頼性が高いものとして各方面に採用されていたが,現在では,情報量においてこれに数段勝り,伝達速度も格段と高い電子式調節器がこれを凌駕している。

最近の産業界における省力,安全化の要請は産業ロボットの開発を促したが,これは近代制御システムの構成理論,電子計算機のソフトウエア技術等の結晶と言える。更に,単純動作の組合せによるトランスファー・マシンではなく,それ自身認識能力,思考能力を持つ知識ロボットの開発が望まれている。これが実現すれば画期的なものであり,その技術的波及効果は極めて大きなものがあると言えよう。

以上のように,制御技術は,現在,急速に進展している分野であり,更に一層の高度化が期待されている。今後の制御技術の課題は,制御システム全体の中で,電子計算機,計装機器などの諸要素を,いかに位置付けるか,また,各種要素を有機的に結合することなどによつて,制御機能をいかに適切に発揮させるかということであり,これと併せて流体制御素子の開発・計算機器の高度化が必要とされている。


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