ここからサイトの主なメニューです
前(節)へ  次(節)へ
第1部   安定的発展への新たな要請と科学技術
第4章   産業の新展開に貢献する科学技術
第3節   技術開発の新展開
5   公害防止技術


公害としては,大気汚染,水質汚濁,悪臭,土壌汚染,騒音・振動及び地盤沈下が挙げられる。このうち騒音・振動,地盤沈下を除いた四分野の公害は,それぞれが媒体となる汚染物質を持ち,それらが生産・流通機構,あるいは都市機能,住民生活から排出,廃棄されているわけであるが,これらの各段階において発生する汚染物質は,近年,エネルギー消費が急増したことによりますます増大し,環境汚染問題はより深刻さを増している。

この環境汚染問題を解決するための研究開発の分野としては,第2章で述べたように,1)汚染の影響解明技術の研究開発,2)汚染物質を除去あるいは抑制する技術の研究開発,3)汚染の計測,監視技術の研究開発に分類されるが,ここでは2)のいわゆる公害防止技術について研究開発の動向を概観する。

公害防止技術としては,まず第1に,既に顕在化している汚染物質を除去することにより当面の緊急な解決を図る言わば対症療法的な対策がある。これは,公害防止装置を付加して汚染物質を除去する方法であるが,最終的には資源の有効利用の面から見ても,汚染物質を系外に出さないクローズド・システム注)化を指向すべきである。第2は,エネルギーをクリーン化するためあらかじめ汚染物質を除去したり,汚染物質の生成を抑制する機器やプロセス(クローズド・プロセス 注) )を開発すること,すなわち無公害化技術の開発である。

次に,民間企業にける,従来あるいは今後の公害防止の方法を科学技術庁計画局が昭和49年度に行つた調査によつて見ると (第1-4-16図) ,従来,今後とも除去技術の開発,クローズド・システム化の推進及び生産プロセスの改良を中心に推進しているが,特にクローズド・システム化の推進については,全体に占める比率が急増しており積極的な取り組み方がうかがえる。


注)クローズド・システムとは,生産過程から発生する汚染物質を地域外,又は工場外に出さないシステムを言う。また,クローズド・プロセスとは,従来の機構・原理を転換し,汚染物質を装置外へ出さないプロセスを言う。

第1-4-16図 民間企業における,従来あるいは今後の公害防止の方法(単位 %)

第1-4-3表 クローズド・システム化を推進してきた,又は推進していく企業数の比較(単位 %)

また,これを業種別に見ると, 第1-4-3表 のように従来は特に化学工業部門において重点的に推進されてきていたが,今後は,非鉄金属工業,食品工業,電気機械器具工業等の各部門でも積極的に推進する方向にあると言える。

以上の観点に従つて,主要な公害防止装置と無公害化技術について,研究開発の動向を概観する。なお,廃棄物の再生利用は公害防止上も重要な方策であるが,これについては省資源技術の項を参照されたい。

(研究開発の動向)

(1) 公害防止装置

(1)大気汚染

大気汚染物質は,粉じんとガスに大別され,浮遊粉じん,一酸化炭素(CO),硫黄酸化物(SOx)については,近年減少の傾向を示している。これは排出規制の強化によるものと思われるが,特にSOxについては輸入原油の低硫黄化,排煙脱硫技術,重油脱硫技術の進展等によるところが大きいものと思われる。窒素酸化物(NOx)については年々増加の傾向にあるが,その対策はSOxと比べて,技術的に遅れていると言える。また,NOx及び炭化水素(HC)を原因とする光化学スモッグは近年急速な増加を示しており,主要な原因の一つとして考えられている自動車の排出ガス対策を強力に推進する必要がある。

集じん装置は,重力,慣性力,遠心力,電気等を利用した各方式が既に実用化されており,技術的にはほぼ完成されていると言える。

排煙脱硫法には,排煙を粉状又は粒状の触媒や吸収吸着剤に接触させてSOxを除去する乾式法と,排煙をアルカリ溶液等の液体中に通してSOxを除去する湿式法がある。前者では,湿式石灰法,活性炭法,活性マンガン法等があり,後者ではウエルマン・ロード法等がある。乾式法は,処理コストが割高であること,装置が大きいこと等から湿式法の実用化が進んでいる。

NOxの排出防止技術は,大別して排煙脱硝法と,後で述べる燃焼方法の改善によりNOxの生成を抑制する方法がある。

排煙脱硝法は,排煙脱硫法が前述のように一応確立しているのに比べ,現在十分に実用に耐える装置はまだ開発されていないと言える。

固定施設の排煙脱硝法は乾式法と湿式法に分けられ,乾式法では接触分解法,接触還元法,溶解アルカリ吸着法,電子線照射法等があるが,アンモニアによる接触還元法が,現在,比較的実現性が高く開発が進められている。

湿式法には,中和吸収法,酸による吸収法,酸化吸収法,液相還元法等があるが,酸化吸収法,液相還元法が注目され種々の開発が進められている。

自動車排出ガスの脱硝の方法としては,発生したNOxを後処理する方法と,後で述べる低公害エンジンのようにエンジン本体からのNOxの発生を抑制する方法とに大別されるが,NOxの除去は,自動車排出ガスの他の汚染物質であるCOやHC,アセトアルデヒド等に比べ最も困難とされている。

発生したNOxを後処理する方法としては,発生したNOxを還元触媒によつて減少させる触媒式浄化方式,NOxを含む排気を再燃焼させることによつて減少させる排気再燃焼方式があるが,これらは現在のところ51年規制(0.25g/km)での実用化については発生を抑制する方式には及ばない状態にあり,一層の研究開発の努力が必要とされよう。しかし,NOx,CO,HCを同時に低減させることは極めて困難であるだけでなく,エンジンの燃焼経済性や生産コスト等も問題となるため,それぞれの技術について今後も更に検討を要する段階にある。

(2) 水質汚濁

水質汚濁の原因となる汚染物質の種類は多いが,それらの汚染物質を含んだ排水の処理方法は,生物学的処理,物理学的処理及び化学的処理に大別される。生物学的処理には,微生物細胞の好気性又は嫌気性代謝活性を利用した活性汚泥法やメタン発酵法等があり,物理学的処理には沈澱,ろ過等の固液分離法や吸着法等がある。また,化学的処理としては,排水中に溶存している汚染物質を難溶性化合物に変えて分離除去する中和沈澱法,硫化物沈澱法等のほか,排水中の汚染物質を濃縮分離するイオン交換法等がある。以下,それぞれの処理方法について概観寸る,活性汚泥法は,省資源技術の項で述べたメタン発酵法が嫌気性処理法であるのに対して好気性処理法であり,排水に活性汚泥を混合して空気を通じることによつて,凝集,吸着,沈澱,酸化等を行わせ,有機物を分解する方法である。

中和沈澱法は,重金属を難溶性の水酸化物として沈澱除去する方法で,低コストで処理操作も容易なため適用例が多いが,スラッジ(生成固形物)量が多い等の欠点がある。硫化物沈澱法は,硫化物として沈澱除去する方法で,中和沈澱法に比べ沈澱物の容積及び含水量が少ないため,スラッジの処理,重金属の回収が比較的容易であるが,コスト面及び取扱いの面等で問題がある。

固液分離法は,水酸化物や硫化物等の水に不溶性の固形物を取り除く操作で,凝集,沈澱,ろ過,浮上,遠心分離等の方法がある。

吸着法は,活性炭等の吸着剤により排水中の可溶性の汚染物質や油脂の微粒子等を取り除く方法で,水銀排水のように水中での化学形態が不明なものの除去や,製油所排水の処理として有効な方法である。

イオン交換法は,イオン交換樹脂,イオン交換液,イオン交換膜,無機イオン交換体等を用いて溶存イオンをイオン交換体に取り込み,重金属を除去又は回収する方法である。この方法はコスト面での問題はあるが,1)排水中からの有用金属を回収,再利用できること,2)使用水量を循環再使用できるため工場全体の排水量が減少すること,3)汚染物質の除去率が極めて高いことなどの利点がある。先に述べた水酸化物や硫化物等による沈澱凝集法では,スラッジに有害重金属を含有するものが少なくないため,スラッジの処分が大きな問題となつており,現在,焼成法,セメント又はアスファルトによる固形化等により無害化する研究開発が進められている。

しかし,重金属排水の処理は単に有害物質を取り除くだけでなく,有価金属を回収再生利用することが省資源の面からも重要であり,イオン交換法はこの面で極めて有効な処理法としてクローズアップされ,かなり普及しつつある。

以上のほか,より高度な排水処理技術として,特殊な構造を持つた高分子膜を用いて排水中の溶存無機物,有機物を効果的に除去する限外ろ過法,逆浸透圧法等の膜分離技術の研究開発が推進されている。限外ろ過法は,ウルトラフィルタという一種の半透膜を使つて有用物の濃縮や精製,あるいはスラッジ除去に利用できるもので応用開発が進められている。逆浸透圧法は,メッキ排水,パルプ排水,石油化学排水のような複合排水の処理として注目され,研究開発が進められている。

これまで述べたように,排水処理技術の研究開発を推進する上で,汚染物質を効率良く除去するだけでなく,資源の有効利用並びに処理費用の低減を図ることなどにも十分留意する必要があり,現在,処理液を再生循環するアルミニウム表面処理プロセス等の系外に汚染物質を全く出さないクローズド・システム化の研究開発が活発に進められている。

(3) 悪臭汚染

悪臭防除技術には,洗浄法,燃焼法,吸着法,化学的脱臭法,電極法等があり,それぞれ実用化されている。

洗浄法としては,アンモニア,低級アミン類,低級脂肪酸類等の水に対して溶解度の大きいものには,洗浄液として水を使用する水洗浄法があり,硫化水素,メルカプタン類,高級アミン類,脂肪酸類のように,水に対する溶解度が小さいものが含まれている場合には,酸,アルカり溶液や酸化剤等の薬剤溶液で中和反応や酸化反応を行い,臭気成分を除去する薬液洗浄法がある。洗浄法は,装置,設備が安価で,従来から有力な手段として使用されているが,悪臭ガスの除去率が最大限90〜95%程度しか期待できず,他の方法と組合わせる必要性のある場合が多い。

燃焼法は酸化によつて無臭な物質に変化させる方法で,悪臭ガス中の可燃成分が燃焼可能な範囲にあるか,高濃度で排出される場合には直接燃焼法があるが,更に燃焼反応を低温で行わせるため触媒を用いた触媒燃焼法がある。触媒燃焼法は,直接燃焼法で生ずるような高温に伴う問題を解決するとともに補助燃料費の節減が図れる。燃焼法による悪臭ガスの除去は脱臭効果が極めて高く,99%以上の脱臭率が得られる。特に,触媒燃焼法は近年急速に伸びており,印刷塗装関係で多く利用されている。

吸着法は,活性炭,スルフオン化炭,イオン交換樹脂等の高分子化合物の選択吸着性を利用した方法で,下水し尿関係,化学工場,樹脂関係等多岐にわたつて利用され,かなり普及しつつある。

電極法は,微粉体除去を目的としたコットレル式電気集じん装置を脱臭用に応用したもので,脱臭効率は洗浄法を併用しても85%程度と低いが,設備費,運転維持費が他の方法に比較して安いことに特徴がある。

以上のようにいくつかの悪臭防除技術があるが,実際には,単一の脱臭技術で対応できることはまれであり,これらの組合わせで対処している場合が多い。

(4) 騒音・振動

今日,騒音・振動公害の発生源は,機械装置,工場に起因するもののほか,交通機関によるもの,建設工事や建造物の破砕処理に伴うもの等多種多様であり,住民の日常生活に大きな影響を及ぼしている。

まず,機械装置の騒音・振動に関する研究については,騒音の発生機構を解明し,効果的な消音器や消音材料等の設計基準を確立する実験研究が進められている。また,機械振動の効果的しゃ断方法を求めるため,地面伝ぱ機構を解明するなどの基礎的研究が行われており,防振ゴム等の防振装置の開発が推進されている。

また,工場等による広域騒音については,現状では,防音塀の設置等が行われている程度であるが,一般的に広域での騒音音波の伝ぱについては,地上障害物だけでなく気象その他による影響についてまだ多くの問題が未解決あるいは資料不足のままであり,今後の研究に待つところが大きい。

交通騒音では,ジェット機の騒音や新幹線電車による騒音が特に問題となつている。

ジェット機の騒音については,ジェットエンジンの低騒音化を目指して効果的な消音方法を確立するため,ファンエンジンから発生する騒音を詳細に解析してその特性を明らかにすることにより,排気消音器の改善を図るなどの基礎的な研究が推進されている。

新幹線電車による騒音発生については,試験装置による車両,レール間騒音の発生機構の解明等の基礎的研究のほか,防音車輪,軌道弾性材等騒音抑止効果の研究及び逆L型防音壁等の各種防音壁の研究開発が推進されている。

そのほか,建造物の破砕処理に伴う騒音に関しては,マイクロ波を利用してコンクリート構造物を内部から破砕する技術,テルミットを使用して破砕する技術等の開発が推進されている。また,廃棄物の処理については,省資源技術の項で述べたように超低温のLNG等による低温破砕技術の研究開発が進められている。

(2) 無公害化技術

エネルギーをクリーン化するためあらかじめ汚染物質を除去する技術,機構や原理を転換して汚染物質の生成を抑制するクローズド・プロセス技術等の無公害化技術の開発は,公害防止技術開発の上で重要な課題であるが,現状では公害防止装置に比べて開発が遅れている。

脱硫技術には前述の排煙脱硫技術のほか,重油燃料の中からあらかじめ硫黄分を取り除く重油脱硫技術,ガス化脱硫技術があり,積極的な無公害化技術として注目されている。

重油脱硫の方法には,水素化脱硫法,微生物法,放射線法等があるが,後の二つの方法についてはまだ基礎研究の域を出ず,現在実用化されているのは水素化脱硫法のみである。これは,重油に含まれる硫黄分を触媒作用を利用して水素と反応させて硫化水素として除去するもので,直接法と間接法に分けられる。前者は,脱硫率が高いが装置建設費が巨大となる。後者は,脱硫率は劣るが装量建設費が比較的安価で,それぞれに一長一短がある。間接法は技術的にもほぼ完成されたものと見てよく,多く実用化されているが,最近ではSOx規制の厳格化から脱硫効果の優れた直接法がその価値を高めつつある。

ガス化脱硫技術は,重油,アスファルト等の重質油を酸素と水蒸気によつてガス化し,含まれている硫化水素を単体硫黄として完全に回収して,硫黄分の無い高発熱量のガス状燃料を製造する技術で,現在,研究開発が進められている。

NOxの排出防止技術のうち,排煙脱硝法等については先に述べたが,そのほか,燃焼方法を変えることにより汚染物質の生成を抑制する方法がある。

まず,ボイラー等固定燃焼装置については,ガス燃焼用低NOxバーナーや,二段燃焼法,排ガス混合法等の特殊燃焼技術が実用化されており,排煙脱硝法に比べて,コストは安価であるが効率は高くない。また,自動車については,成層燃焼方式やロータリーエンジンが注目されている。成層燃焼方式は,燃料を副燃焼室で高密度状態で点火させ,希薄な状態にあるシリンダ内での爆発を促すもので,NOx生成の抑制とともにCO,HC等による汚染物質も軽減される。しかし,こ,の方式は出力が小さく小型車向きのエンジンであり,大型車用エンジンへの指向が今後の課題である。ロータリーエンジンはユニークなエンジン形式として注目され,特にNOx対策として有効であるが,燃焼経済性で問題が残り,更に研究開発が進められている。そのほか電気自動車は通商産業省工業技術院で大型プロジェクトとして推進しているが,NOx等による大気汚染の問題が全く無いのは勿論,騒音も小さくなるなど公害防止上極めて有効である。

次に,汚染物質の生成を抑制するブロセスとして直接還元製鉄,ソーダ工業におけるイオン交換膜法等のクローズド・プロセス技術の研究開発が進められている。

直接還元製鉄は,製銑,製鋼工程からNOx,SOx等の汚染物質を排出する問題を解決することが可能であり,省エネルギーだけでなく,公害防止上も極めて注目されている技術である。

ソーダ工業部門においては,水銀問題を契機に苛性ソーダの製法を水銀電極による電解法から,水銀を用いない隔膜法に転換する技術の実用化が進められている。しかし,隔膜法は水銀法に比べて生成する苛性ソーダの濃度が低く,しかも品質が劣るので,これを解決するため隔膜にイオン交換膜を利用する研究開発が進められている。この方法が実用化されれば隔膜法は順次イオン交換膜法に切り替わつて行くであろう (第1-4-17図)

第1-4-17図 隔膜法及びイオン交換膜法の概念図

クローズド・プロセス技術としては,そのほか,無公害パルプ製造法,非水染色加工法,無公害ガラス製造法等の研究開発が進められている。

また,以上述べたもののほか,根本的に汚染物質の生成を抑制しようとするものには,新エネルギー利用の面でのソーラ・ハウス,水素燃料等,農業分野における生物農薬等があり,それぞれ研究開発が推進されている。


前(節)へ  次(節)へ

ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ