ここからサイトの主なメニューです
前(節)へ  次(節)へ
第1部   安定的発展への新たな要請と科学技術
第4章   産業の新展開に貢献する科学技術
第3節   技術開発の新展開
4   安全化技術


我が国の労働災害は,労働災害防止対策の展開,安全衛生技術の進歩,関係者の意識の向上等により,昭和36年をピークにその後は減少の方向にある。しかし,昭和49年には今なお125万人以上に及ぶ労働災害による被害者(うち死亡者は4,330人)を数えている。また,今後,機械設備等の大型化,高速化,建設工事の大規模化あるいは新しい生産技術の導入等により新たな種類の災害などの発生が懸念され,災害の防止は量質ともに楽観を許さない状況にある。

また,勤労者の健康問題である業務上疾病の発生についてもまだ年間3万件前後を数えており,最近では新しい化学物質等の導入や作業の機械化等に伴い職業がん,振動障害等の新たな職業性疾病の発生が大きな問題となつている。

このような状況に対処し,国民の大部分を占める勤労者の安全と健康を確保することは国民福祉への極めて重要な課題であるので,国は労働災害の防止を労働施策の最重点課題の一つとして必要な対策の推進に努めてきた。

特に,昭和47年には,進展を続ける産業社会に即応し,更に総合的で積極的な労働災害防止対策の推進を図るため,労働安全衛生法を制定した。現在,同法に基づき,よりきめの細かい安全衛生基準の確立,安全衛生教育の充実,工場施設・機械・設備等の安全化対策,健康管理対策等の諸施策を総合的に展開している。

このような対策の確立とその推進に際しては,科学技術がその基礎をなすものであり,安全衛生技術の研究開発は極めて重要な役割を果たすものである。またその役割は,産業技術全般の進歩等に伴いますます重大なものとなつている。そこで,以下においては,このうち特に重大な災害の防止という観点からの安全化技術に焦点をあわせ,これを1)災害発生機構の解明と被害の評価,2)安全設計のための技術,3)危険作業の機械化,4)安全装置,保護具の4区分に分けて研究開発の動向を述べることとする。

(研究開発の動向)

(1)災害発生機構の解明と被害の評価

災害防止の研究において,その主原因となる災害現象の発生機構を明らかにすることは,今後の同種災害を予測しその対策を立てる上に極めて重要である。しかし,災害の発生機構は,災害の種類が多く,しかも新材料,新工程の導入に伴い新しい災害現象が出現していることや,災害現象の多くは発生頻度が小さい等確率的要素を持つているので再現性に乏しいことなどのために,特に定量的解明は困難が多く,過去における多くの研究にもかかわらず,いまだ不明の事項が残されており,なかでも重大災害に関連する災害現象については,早急な解明が要望されている。このような事態に基づいて,材料の破壊,爆発,特に粉じん爆発,固体の熱危険性及び自然発火,化学プロセスにおける異常反応,大量漏えいガスの爆轟,静電気の帯電と放電による着火,人体の電撃危険性等について,基礎的な発生機構の解明が行われている。一方,産業の巨大化,高度化に対応して,発生する災害も大型化,複雑化の傾化を示しており,特に原子力,石油化学工業,石油貯蔵施設,大型建設工事等においては,爆発,倒壊,危険物の漏えい等,一度事故が生ずると企業内だけでなく第三者に対しても大きな被害を及ぼす危険が増大している。これらの災害を防止するには,個々の災害原因の解明とその対策だけでは不十分で,災害に関係する多くの原因と災害との間の複雑な関連性を解析し,更に,災害の発生頻度と被害の程度を予測,評価して,生産性やコストの制約の下で総合的に最適な安全対策を立てることが必要になつてきた。これに対応して,従来主として航空宇宙技術の中で開発されてきたシステム安全の理念が産業安全にも導入され,システム安全解析や危険性の評価に関する研究が進められており,例えば,電気設備の安全性評価法の研究や,トンネル工事の危険性の評価のため,長大トンネル工事の災害の要因分析等が行われている。

また,災害を人間・機械システムの中で人間側から検討し,人間の応答特性やエラーとシステムの安全性との関係を調べようとする研究も多く,安全人間工学という新しい分野が生まれつつある。

災害の分析,予測のために用いる数量モデルに関して,名義尺度で表わされることの多い災害要因に対して,従来から用いられている数量化法とともに,情報量を尺度とする数量モデルが研究されている。

また,信頼性工学の面からは,各種冗長システムの特性や点検,保守に関する研究が多く行われている。

(2) 安全設計のための技術

機械や構造物の構成材料の破壊は,重大災害の原因となることが多い。破壊事故はその60%以上が疲れ破壊によると言われており,安全面からの研究も,破壊力学を基礎とした疲れ破壊に関する実験的研究が多い。理論的な研究としては,疲れ破壊,クリープ破壊等時間依存性破壊の寿命に関して,従来の線型被害法則(Miner則)に対する確率論的並びに決定論的研究が行われている。エレクトロンフラクトグラフィ,すなわち電子顕微鏡による破面の観察は,それが破壊の種類によつて特有の形状を呈することから,破壊機構の解明に盛んに用いられているが,応用面の1つとして事故を起こした部材の破面から,破壊の種類や破壊までの応力状態を知ることによつて,今後の破壊防止に役立たせようという研究が進められている。金属材料の腐食は安全上重要であるが,腐食が金属の組成,組織応力状態,環境条件等のわずかな変化によつて大きな影響を受けるため,実験室でのデータが実際に役たないことが多いので,実際のシステムで腐食の評価に役立つ計測方法の研究開発が進められている。

構造,機能の面で安全設計上最も基本的な要件は,フールプルーフ(Fool proof)とフェールセーフ(Fail safe)である。フールプルーフ構造とは,1)定められた順序で操作しないと作動しないこと,2)誤つた操作をしても故障や災害にならないこと,3)馬鹿力を出しても壊れないこと等で,インターロックや安全装置によつて代表される。フェールセーフとは,故障が生じても直ちに災害にはならない構造で,冗長回路や圧縮バネの使用等がこれに当たる。フールプルーフとフェールセーフはいずれも広く安全設計に取入れられてきており,特に化学プラントの計装機器のフェールセーフ化等が著しい。また,電子計算機を含んだシステムのフェールセーフ化の開発も進んでいる。

次に,主要な業種ごとに見ると,機械関係の重要な安全研究としては,クレーン操作の安全化,研削砥石の強度等の研究が行われている。

化学関係では,安全設計のための各種化学物質の燃焼爆発性に関する多くのデータが発表されており,例えば,可燃性ガス・蒸気の発火危険性,各種粉じんの爆発危険性,混合ガスのセーフギャップ,特殊環境下における高分子材料,潤滑油等の発火危険性,LNG等低温液化ガスの蒸気爆発,爆発時の爆風圧による被害等の実験的研究が行われている。

建設関係では,工事用設備の安全化を図るため,足場,ネットフレーム等の強度に関する実験的研究や,墜落防止のため階段及び仮設手摺について,人間工学と強度の両面からの研究が行われている。また,高熱作業場の環境改善のため熱気流の流動に関する基礎的研究や,トンネル工事や地下鉄工事の安全化のため,地層の発熱現象や注入強化剤に関する研究が進められている。

電気関係では,電気回路を点火源とする火災,爆発を防止するため,開閉火花による可燃性ガスや固体の着火性,特に高圧下における着火限界や絶縁材料の耐アーク性等について研究が進められており,また,静電気による着火を防止するため,給油管及びタンク内の帯電,ガソリンの噴霧帯電,高圧噴射水ミストの帯電,火薬類の放電着火等の研究がなされている。

海洋開発の安全のためには,水中爆破に伴う水中圧力波に関する基礎的及び実験的研究や,水面に流出した油の燃焼実験等が行われており,また,水申における電撃危険性の防止のため,水中の電流,電位分布に関して基礎的研究が進められている。

(3) 危険作業の機械化

機械化,自動化の技術は広範な分野に行きわたつており,特に運搬作業,建設作業等の機械化は著しい。このため人力作業による災害は減少したものの,代わつてこれらの機械による災害が増加して,一時その動向が憂慮されていたが,安全対策の徹底によつて,ここ数年ようやく減少の傾向を示し始めた。反面,新しく機械化の進んできた農業機械や食品機械等では,いまだ安全性の不十分なものが残され,今後の課題となつている。

加工機械の安全のためには,作業点の防護が肝要であり,各種の自動送給装置が開発されている。また,始め省力化を目的として開発された産業用ロボットは,現在では危険作業や悪環境作業の実施等安全の面で大きく貢献しつつある。

(4) 安全装置,保護具

安全思想の高揚と法規の拡充に従つて,安全装置の開発は活発化している。プレスの安全装置は数多いが,新しいものとしては,欧米では以前から開発されていた容量式のものが我が国でも試作され始めた。クレーンの過負荷防止装置は,法制化されてからまだ日の浅いこともあつて,荷重,ジブの長さ,角度等の検出方法,モーメントの計算機構等に多くの新しい種類のものが開発されており,また,水平制御装量についての開発も進められている。

感電の危険の多い場所で移動式の電気機器を使用する場合には,電気回路に感電防止用漏電遮断器の設置が義務付けられているが,人体の電撃現象に関する基礎的研究に基づいて,従来の電流形に比べてより高性能な積分形の漏電遮断器が開発された。

可燃性ガス配管内での爆轟又は爆発火炎の伝ぱを阻止するため,管路の拡大,焼結金属又は多層金網の使用による火炎抑止器の研究が行われている。

保護具では,防熱面の改良及び選択のため,輻射熱遮断効果に関する研究が行われた。


前(節)へ  次(節)へ

ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ