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第1部   安定的発展への新たな要請と科学技術
第4章   産業の新展開に貢献する科学技術
第3節   技術開発の新展開
3   省力化技術


戦後,我が国を世界一流の工業国に成長させた要因の一つに豊富で質の良い労働力が挙げられるが,近年,労働の質に対する社会的価値観の変化や労働時間短縮という時代の流れの中で,特に,単純労働等のダーティワークを要求する分野における労働力の供給は,大勢としては決定的な不足をもたらしつつある。

このため省力化は,省エネルギー,省資源と並んで,今後我が国が積極的に取り組まなければならない重要な課題となつてきた。

「省力」という用語は,従来の「労働力節約」あるいは「合理化」に代つて最近広く使われているが,産業における省力化のとらえ方は今日極めて広い範囲にわたつている。

例えば,荷役・運搬機械や建設機械等の機械類は,それ自身が肉体労働の省力化であり同時に安全化につながるということで今日まであらゆる分野に浸透してきており,今後も更にこのための技術開発が推進されていくであろう。しかし,生産システムにおいては,近年,単に肉体労働を機械によつて代替するだけでなく,知能,すなわちある程度の判断機能を持たせた省力化技術の研究開発も進められている。一方,流通分野においては,物流拠点とコンピュータとをオンラインで結んだ物流管理方式のほか,倉庫自動化システム,輸送情報システム等コンピュータを駆使した省力化が図られており,これらは今日ある程度の段階に達していると言え,荷役作業の自動化等に必要とされるパターン認識のようなより高度な技術開発が進められている。

以上のように,産業における省力化のとらえ方は広い範囲にわたつているが,ここでは技術開発の進展が著しい生産システムにおける省力化を中心として述べる。

ところで省力化は,産業社会の歴史において一貫して追求され続けてきた主要な課題であり,産業革命以降の機械による肉体労働からの解放から始まり,ベルトコンベアを中心とする流れ作業方式の導入によつて近代的大量生産へと発展し,やがて自動制御技術を利用したオートメーション時代へと移行した。オートメーションには,プロセス工業におけるプロセス・オートメーション,加工工業におけるメカニカル・オートメーション及び事務,経営に適用されるビジネス・オートメーションがあり,ガス工業や石油化学工業等の気体,液体を対象とするプロセス・オートメーションは,今日ほぼ完成された姿に近いものになつている。これらに対してメカニカル・オートメーションは,制御がその特質上容易でない固体を対象としていることから,省力化は遅れていると言える。しかも,今日の物質的生活水準の向上は需要の多様化を促すようになつてきており,これに伴つて生産形態においては,画一的な大量生産から機能的に多様な製品を生産する多品目生産への進展が見られ,一層省力化を図ることを困難にしている。

以上述べたことを踏まえると,今後の産業における生産システムの省力化の方向としては,

1) コンピュータを中核とした総合的なシステム化を図ること
2) 主として多品目生産の自動化,システム化を推進すること
3) 究極的に無人化を指向すること
4) 働く人間の安全性を向上し,精神衛生上も好ましい省力化であること

等が挙げられる。更に,こうした省力化対策を推進する際,従来のように単に生産性向上と結びついた省力化というだけでは不十分であり,今後は省エネルギー,省資源に加えて更に公害防止等企業の社会的責任の積極的な遂行を含んだ生産性への指向が重要である。

昭和49年度に科学技術庁計画局が行つた民間企業における,従来あるいは今後の省力化の方法の調査によると (第1-4-8図) ,生産プロセスの自動化の推進,コンピュータの導入等が従来,今後とも各産業共通した省力化の方向であることを示している。今後の方向としては,とりわけ全く新しい生産プロセスの開発及びロボット導入等による無人化への指向が飛躍的に増大しており,特にロボット等の導入については, 第1-4-2表 のように製造業の各部門で積極的に取り入れる方向にあることがうかがえる。

第1-4-8図 民間企業における,従来あるいは今後の省力化の方法(単位 %)

以上の観点から,今日の産業における生産システムの省力化技術の動向をメカニカル・オートメーションの分野に焦点を当てて概観する。

第1-4-2表 生産プロセスをロボットの導入等で無人化することを推進してきた又は推進していく企業数の比較(単位 社)

(研究開発の動向)

(1)生産システムの基本的パターン

今日の生産システムを工程別に見ると,直接作業に関ずる加工,組立て,各工程内及び工程間等における原料,半製品,製品等の位置の移動に関する搬送,並びに検査,包装等のそれぞれの機能を持つた各工程に区分することができる (第1-4-9図) 。これらの各工程における省力化はこれまで人間が行う作業の機械化,その自動化という経緯をたどつたことから,基本的には「人間が操作する機械」という枠を脱しきることはできなかつた。しかし,近年の無人化指向の省力化を背景として,従来の,人間が機械を操作する「人間対機械」という考え方から,人間を機械に置き換えた「機械対機械」という方向に移行し始めており,更に以上の動向を背景としたシステム化への動きが展開しつつある。また,今日,これらの各工程のうち,より高度な技術開発を必要とする搬送,検査,包装の分野が最大の課題となつている。以下,それぞれの工程別に研究開発の動向を述べる。

第1-4-9図 生産システムの基本的パターン

(2) 加工の省力化

今日の生産形態は画一的な大量生産から多品目生産への進展が見られる。したがつて,各設備機器に共通して要求される技術的条件は,高度なフレキシビリティである。こうした要求に沿う代表的な加工機器にNC工作機械がある。NC工作機械は,「加工する物の形や作業の順序を数値化したテープ(又はカード)を数値制御(NumericaI Control)装置にかけて機器を操作し,自動的に加工する工作機械」で,旋盤,ボール盤,フライス盤等はかなりNC化されている (第1-4-10図)

NC工作機械の応用開発利用としてDNC(Direct NC),CNC(Computer NC)等が既に実用化されている。

DNCは,NC工作機械のコントローラの論理をコンピュータに置き換え,テープ読取り機を不要化したシステムで,タイムシェアリング(時分割)システム等の導入により多数のNC工作機械を制御することができる (第1-4-11図)

第1-4-10図NCの概念図

第1-4-11図 DNCシステムの概念図

DNCシステムを更に発展させていけば,部品の加工時間を最少化すること等を目的とした適応制御も同時に行うことが可能であり,研究開発が進められている。

CNCは,NC工作機械のコントローラの論理をミニ・コンピュータで置き換えたものであり,最近のミニ・コンピュータの価格の急激な低下によつて可能になつたものである。 第1-4-12図 に将来の方向としてのDNC/CNC合成システムの概念図を示す。

第1-4-12図 DNC/CNC合成システムの概念図

その他基本的課題として,NC工作機械の普及を図るため,NC工作機械用プログラミング言語の標準化が現在推進されている。

(3) 搬送の省力化

加工の省力化が進展するに従つて,搬送の省力化がより強く要請されてきている。搬送は加工・組立等の言わば「点」における作業を結ぶ「線」の作業にも当たり,点の省力化に応じて線の省力化が要求されるのは当然の勢いとも言える。ここで大切なことは,搬送をシステムとしてとらえ,工程ないしショップ全体を通じた「もの」の流れとしては握することである。

搬送に要求される機能は,例えば,一つの多品目生産システムについて考えて見れば,ライン内,ライン間,工程間,ショップ間等それぞれの各レベルで,異なつた機能が要求される。

ライン内搬送では加工機・組立機等へのローディング,アンローディング等各種のMH(マテリアル・ハンドリング,原料・半製品・製品の移動)機能が要求されるし,ライン間,工程間の搬送では,移載,集品,仕分け機能のほか,バッファ機能,ストック機能等が主として必要とされる。また,ショップ間の搬送については,仕分け,貯蔵集品等の流通過程に近い機能が必要とされ,搬送省力化の中で今日最も技術開発の必要な分野でもある。

このように,生産システムの各レベルに従つて搬送の形態もそれぞれ特徴を持つたサブシステムに区別できるが,基本的にはMH機能と移送とに分離することができる。すなわち,各サブシステムの申では種々のMH機能が要求され,移送はそれぞれのサブシステムを接続する機能であると言える。

第1-4-13図 産業用ロボット利用状況(昭和48年生産分)

まず,MH機能としては,産業用ロボットがライン内搬送におけるローデイング,アンローデイング機能やライン間,工程間の移載機能を担うMH機器として最も注目されている。また,移送を担う機器としてはコンベア類,無人けん引車や無人運転車が実用化されているが,特に無人車システムは,コンピュータを使用した自動移載装置の技術開発によりフレキシビリティは増大するので,今後の進展が期待される。

産業用ロボットはワークに対する高いフレキシビリティを持つため,多品目生産システムにおける格好のMH機器として注目され,プレス,切削,研削,熱処理等種々の工程への適用が図られてきている (第1-4-13図)

産業用ロボットの導入に際しては,今日,作業速度が遅いこと,あるいは 産業用ロボットを含めたシステムの信頼性が十分でないこと等の問題がある が,年々生産台数は上昇しており (第1-4-14図) ,昭和48年12月現在,約7,800台がか動している。

この背景には産業用ロボットの導入により省力化や生産性の向上を図り,更に,危険,過酷な悪環境下での作業や単調な「ロボット的作業」等の解消を図るといつた強いニーズがあつたためと言えるが,それ以上に近年の産業用ロボット自体のかなりの技術的進歩及びその利用技術の開発により,産業用ロボットの応用性が大幅に向上したことも大きな要因と言える。

しかしながら,現在の産業用ロボットのほとんどは, 第1-4-14図 に示すようにその内容としては簡単なメモリーを持つマニプレータ(機械の手)であると言える。しかもその機械的構造も人間の手等に比べて簡単で,制御 方式も記憶している軌道に沿つて手を動かすという単純なものである。したがつて,適用できる作業も簡単なハンドリングやスポット溶接の位置,角度の設定等限られた種類のものである。

このような実態から,現在,産業用ロボットに対しては次のようなアプローチで研究開発が進められている。

第1のアプローチは,最近の目覚ましいエレクトロニクス技術を産業用ロボットの機能向上に利用し,より高度のフレキシビリテイを持たせた省力化システムを開発することである。特に,ミニ・コンピュータ及びマイクロ・コンピュータは,ここ数年急速に安価になつており,産業用ロボットのコンピュータ化は容易となつている。既に,プレイバックロボット (第1-4-14 図注)1参照) はかなり普及しているが,現在,ミニ・コンピュータを用いてロボットを群制御するシステム (第1-4-15図) や,視覚,触覚等のセンサ機能を持たせたセンサ・フィードバック制御等の研究開発が進められている。特に,これらのより人間に近い知能を持たせた知能ロボットは,組立工程のような複雑な作業も可能となるため,その研究開発は急務であると言える。

第1-4-14図 産業用ロボットの形式別生産比率(台数比)

第1-4-15図 ミニ・コンピュータによるロボット群制御の概念図

第2のアプローチは,前述のような中途半端なはん用性から脱却し,産業用ロボットの単機能化を図ることである。すなわち,産業用ロボットを省力化システムの一部品と考え,その能力不足は生産ラインに設備された他の関連機器や製造工程自身の改善で補うという考え方である。この方向の産業用ロボットの姿としては,モジュール化した標準仕様の産業用ロボットを使用目的に応じて組み合わせるシステム的使用法と言え,研究開発が進められている。

(4) 組立,検査の省力化

生産システムにおける省力化の中で最も障害になつているのは,組立,検査,包装等判断力が伴わなければならない分野であるが,最近に至つて着実な進展を示してきている。

組立工程の省力化では,パーツハンドリング機能が果たす役割は大きい。

パーツハンドリングで主流となるものはパーツフィーダである。パーツフィーダは,これまでパーツ供給の分野で幅広く利用されてきたが,組付け,接着等に代表される組立工程において,他の組立機構と組合わせた自動組立ユニットの形で自動化が進みつつある。現在,同一方向からの組立作業の可能な構造を持つた時計やカメラ等の自動組立が既に実用化されているが,今後,更に高度なセンサ機能やパターン認識機能を持つた産業用ロボットの開発が進めば,より複雑な組立工程の省力化が可能となろう。

また,検査工程の省力化は特に遅れており,組立工程の省力化にも要求されるセンサ機能の開発に待つところが大きいが,検査機能を十分に発揮するには,より高度なパターン認識機能の開発が重要な課題となつている。将来的には,これらの検査機能を加工処理システムと組合わせて,生産から品質管理までを一貫して行う,無人化工場を指向した加工情報処理システムの開発を推進すべきである。

(5) 無人化工場への指向

これまで述べたような省力化技術は,反面,一歩進めるたびに付加作業と歪みを生むと言える。すなわち,今後,単純作業,危険作業等の解消を図るための省力化を進めていく過程で,開発の困難な技術は取り残される恐れがあり,残された少数作業者の仕事はより精神的ダーティワーク化することが考えられる。また,直接作業を省力化することにより,作業情報のプログラミング等の間接作業が増大してきて,これも新たな単調ダーティワークに変わる可能性がある。更に,進行する省力化が不十分であれば生産システムの硬直化を招き,製品の画一化や陳腐化を招きかねないという恐れもあり,これらの諸問題を克服するには完全な無人化工場を指向するほかはないと言える。

前に述べたように気体,液体等の流体は最も省力化しやすいため,ガス工業や石油化学工業等のプロセス・オートメーションの分野ではほとんど無人化が成功しており,今後の無人化工場の対象は最も無人化が困難とされる多品目少量生産の製造工業である。

工場の無人化は,これまで述べた各生産工程の無人化と,各生産工程相互の情報伝達の無人化とからなり,それらをコンピュータにより総合的に制御することによつて達成されると考えられる。すなわち,これまでに述べた個々の省力化技術の開発だけでなく,それらをトータルシステム的に発展させる必要がある。その際,無人化により増大するプログラミング等の付加作業を減少させることにより,人間の精神衛生上好ましいものとすること,またフレキシビリティの確保を図ることなどに特に留意する必要がある。

現在,通商産業省において機械工場無人化モデルの概念設計を進めているが,無人化工場を開発するには総合技術を要する上,社会的影響も大きく,開発コストも極めて多大となることが予想されるので,国としても今後積極的に推進すべきである。


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