ここからサイトの主なメニューです
前(節)へ  次(節)へ
第1部   安定的発展への新たな要請と科学技術
第4章   産業の新展開に貢献する科学技術
第3節   技術開発の新展開
1   省エネルギー技術


第1-4-4図 に示されるように,我が国のエネルギー使用の実態を見ると鉱工業部門でほぼ53%を占め,しかも同部門はエネルギー消費量の多い重化学工業のウエイトが高いこともあり,我が国の産業構造はエネルギー多消費型と言える。一方,民生部門その他においては,過去10年間の急速な電化製品の普及等によりエネルギー消費は全体の約24%を占めているが,1人当たりのエネルギー消費量は欧米先進国と比べてかなり低く,今後の国民生活の向上とともに更に増大することが予想される。

したがつて,我が国は今後,このような実態を踏まえて省エネルギー対策を推進する必要があるが,現在の石油を中心とした化石燃料に依存したエネルギー利用体系を急には転換し得ないとすれば,当面,この利用体系の中でエネルギーの合理的な利用を図ることが重要である。その方向としては,まず第1に,既存プロセス,又は機器の改良開発並びに廃棄エネルギーの有効利用等によりエネルギー原単位を向上させること,第2に,機器や設備の使用・運転の合理化,規格の統一,耐久消費材の長寿命化等によりエネルギー使用の節約を図ること,第3に,エネルギー多消費型産業を漸減させ,省エネルギー型産業を育成することが挙げられる。ここでは,以上のうち,特に科学技術の果す役割の大きい第1のエネルギー利用の効率化についてその消費部門における研究開発の動向を述べる。

第1-4-4図 主要国の部門別エネルギー消費構成と1人当たりエネルギー消費量

エネルギー利用の効率化は,エネルギーが生産活動や社会生活,個人生活のあらゆる面で使用され,その使用形態も多岐にわたつているためその実現手段は多種多様であるが,その研究開発課題を分類すると以下のように大別できよう。

1) 機器の高効率化と新型機器の開発
2) 生産プロセスの改良と新プロセスの開発
3) 廃棄エネルギーの有効利用
4) 廃棄物の再生利用
5) エネルギーの総合利用効率の向上

以上の5つの省エネルギー対策を推進するに当たり,次の点に留意する必要があろう。まず第1に,技術あるいは製品のライフサイクル全体での省エネルギー技術であること,言い換えれば,生産一使用一廃棄の各段階でのエネルギー消費のすべての面を考慮し,その総量を減少させるような省エネルギー技術であること,第2に,後述する省力化,公害防止並びに安全化等との調和を図ること,すなわち,工程の自動化あるいは労働環境の整備等は,反面エネルギー消費の増大をもたらしやすく,いかにしてこの矛盾する両者を両立させるかが,省エネルギー技術の研究開発の大きなポイントとなる。

次に民間企業における,従来あるいは今後の省エネルギー化の方法を,昭和49年度に科学技術庁計画局が行つた調査によつて見ると (第1-4-5図) ,機器等の使用・運転の合理化,生産プロセスの改良,廃熱の利用が,従来,今後とも大部分を占めている。なかでも廃棄エネルギーが膨大である今日の産業構造の実態から見て,その有効利用を今後とも積極的に推進する必要があろう。

また,今後の省エネルギー化の方法として,特に,新しい生産プロセス,新しい製品の開発及び資源の再生利用の比率がいずれも増大しており,各企業における積極的な取り組み方がうかがえる。一方,生産プロセスの大規模化についてはかなりその比率が低下しており,ある程度の段階に達していることを示している。

以下,それぞれの課題について研究開発の動向を述べる。

第1-4-5図 民間企業における,従来あるいは今後の省エネルギー化の方法(単位 %)

(研究開発の動向)

(1)機器の高効率化と新型機器の開発

ボイラーについては従来から経済性の向上を目的とする省エネルギー化がかなり進んでおり,特に,発電用等の大型水管ボイラー等については,90%程度の熱効率の達成が可能となつている。中小型ボイラーについては熱効率が70%台と低いものが多いが,ボイラー自体の熱効率の改善はある程度限られるので,後述の排熱回収技術の向上により熱効率を引き上げることが課題となろう。

工業用炉はその目的によつて種類も多く,熱効率も種類によつて大幅に異なるが,概して炉自体の熱効率は40〜60%と低く,今後かなり改善の余地がある。しかし,炉自体の熱効率の改善は,耐熱材,断熱材等の材質の改善等ある程度限られたものになるので,排熱の回収利用が大きな課題となろう。

民生部門での省エネルギーを実施していくには,需要の場所が全国に無数に散在し,しかも小口であること,また,消費者自らが寄与し得る範囲は相当程度限定されることなどの特徴を勘案しつつ推進する必要がある。このため,機器等の使用の合理化によるエネルギーの節約だけでなく,機器の高効率化や新型機器の開発による省エネルギー化に努めることが肝要である。

最近の傾向としては,特に,冷暖房のためのエネルギー消費の伸びが著しく,今後ともこの傾向は続くものと考えられるので,この分野は特に重点的に省エネルギー化を推進する必要がある。

具体的方策としては,冷暖房機器の高効率化と,建築物の断熱性の強化が重要である。冷暖房機器については,コンプレッサの効率向上や,後述する放射能力の高い熱交換器の開発が推進されている。建築物の断熱性については,これまで我が国においては特別な注意が払われてきたとは言いがたく,今後,特に配慮する必要があろう。断熱材使用によるあるモデルでの試算例によると,50%以上ものエネルギー節減が可能である (第1-4-6図)

そのほか民生部門においては,照明器具の効率化も重要である。白熱灯,蛍光灯等の効率はそれぞれ数%,20%程度と低く,現在進められているメタルハロゲンなどの,より白色光に近い特性を持つ蛍光灯の研究開発が成功すれば,現在のものより30〜40%の効率向上が見込まれ,大幅なエネルギー節減が期待できる。

第1-4-6図 断熱材使用によるエネルギー節減効果の試算例

輸送部門における省エネルギー対策としては,広域交通管制システム等により自動車交通の効率を高めること,新交通システム,物資輸送のための新しいシステムを含む公共輸送機関の整備拡充により燃料消費原単位の低下を図ること,個々の輸送機器自体のエネルギー効率を高めること等が挙げられる。

広域交通管制システムは現在一部地域で実用化されているが,更に機能的にレベル・アップするものとして,通商産業省工業技術院において「自動車総合管制技術」の研究開発を大型プロジェクトとして推進している。

また,新交通システムはその走行路の形態により,1)動く歩道のような連続輸送システム,2)利用者の需要動向に対応して合理的な運用を図る呼出しバス,シティカー等の無軌道輸送システム,3)専用軌道をコンピュータによつて目的地まで完全自動走行する個別又は中量の軌道輸送システム,4)自動車に一般道路を走行する機能と,ガイドウエイ等の専用通行帯における高速自動運転機能の両者を持たせたデュアルモードシステム等に分類できる。これらは,それぞれ関係各省庁及び民間企業等により研究開発が進められているが,なかでも軌道輸送システムは最も研究が集中している分野で,個別軌道システムのデモンストレーションが,昭和50年に開催される沖縄国際海洋博覧会において行われることになつている。一方,これらの旅客輸送に対して,物資輸送のための新しいシステムについても整備の促進を検討する必要がある。

個々の輸送機器自体のエネルギー効率向上については,自動車の単位輸送当たりの燃料消費が大きいため自動車のエネルギー消費効率の向上が大きな意味を持つている。しかし,自動車の既存のピストンエンジンは技術的に成熟期に達しており,これ以上の改良の余地は少ない。しかも,公害防止の上から排出ガス浄化が必須条件となつているが,炭化水素(HC),窒素酸化物(NOx),一酸化炭素(CO)の減少と燃料消費率の向上は技術的に相反するものであり,自動車の省エネルギー対策は,小型軽量化等の手段によるか新型エンジンの開発によらなければならないであろう。

新型の自動車エンジンとしては,電気自動車,ガスタービンエンジン,スターリングエンジン等があり,特に,電気自動車はNOx等による大気汚染は完全に無くなり,騒音も小さくなるなど公害防止上からも極めて有効であり,通商産業省工業技術院で大型プロジエクトとして研究開発を進めている。

ガスタービンエンジンは,一般に内燃機関と比較して効率が良いこと,軽量で大出力が得られることなどの長所があるが,反面,負荷変動への対応が困難であること,高温燃焼によりNOxを生成することなどの問題がある。また,スターリングエンジンは,静粛性,排気の清浄性,効率の面で優れているが,機構が複雑であるなどの問題がある。我が国においては,ガスタービンエンジン及びスターリングエンジンについては現在研究の緒についた段階であるが,いずれも完全な成熟状態にある既存のピストンエンジンに代替し,実用化に至るには,多大の研究開発努力が必要である。

輸送機器のエネルギー効率の向上は,そのほか,車両の軽量化によつても大きく期待できる。例えば,鉄道車両の電力の消費についてステンレス車とアルミ車を比較すると,アルミ車は12.7%の電力節減ができ,更に,回生ブレーキ付きサイリスタチョッパ制御方式(サイリスタによつて,主回路を断続することにより電圧を変化させ速度制御を行い,同時にブレーキ時には電力回生も行う制御方式)を併用すれば,44%もの電力消費節減になるという実測例がある (いずれも営団地下鉄・千代田線の例)。しかしながら,アルミ化,回生ブレーキ付きサイリスタチョッパ制御方式は,ともに車両価格の上昇につながることもあり,一部では実用化の例はあるものの,この技術の適用範囲は限られると言える。

(2) 生産プロセスの改良と新プロセスの開発

鉱工業部門には,鉄鋼,アルミ,化学等エネルギー多消費型産業が多いが,現行方式の生産プロセスでは省エネルギー化はかなり進んでいるので,今後の省エネルギー化の方向としては新プロセスの開発が大きな課題と言える。

鉄鋼部門の高炉,転炉による製鉄プロセスは大量の良質原料炭を必要とし,また,NOx,硫黄酸化物(SOx)等の環境汚染物質の防除も大きな問題であるため,現行プロセスに代わるものとして直接還元製鉄技術が注目を集めている。これは高温還元ガスにより還元鉄を生産し,これを電気炉により溶解し,所定の成分調節を行つて鋼を得る技術である。還元剤の原料として,例えば,減圧残渣油等が考えられ,これを利用することにより原料炭が不要となるほか,未利用エネルギー源の有効利用も図れる等,省エネルギー効果は極めて大きい。具体的には種々の方式が考えられているが,現在,通商産業省工業技術院において,高温ガス炉を熱エネルギー源とした「高温還元ガス利用による直接製鉄」の研究開発を大型プロジエクトとして推進している。

製鋼プロセスにおける省エネルギー対策としては,各工程の熱効率を上げることが重要であるが,より重要なのはプロセス全体の熱効率の向上である。この意味から一貫熱間工程による連続加工の促進,熱エネルギーのクローズド・システム化の開発が特に重要な課題となる。現在,連続鋳造法を採用することにより,鉄鋼トン当たり15万Kcalの節約が可能となつている。

また,圧延プロセスにおいては,加熱,冷却が繰り返されエネルギーが多量に消費されているが,直接圧延技術により鋳造工程から直接圧延を行うことができれば,加熱,冷却に要するエネルギーは不要になり,大きな省エネルギー効果が期待できる。現在,直接圧延技術の決め手である熱間状態での疵の検出器及び自動除去装置等の研究開発が推進されている。

アルミニウム精錬部門は,高エネルギー価格の時代を迎え,これまでにない困難に直面していると言える。アルミニウムは,俗に「電力のかん詰め」と言われるように,アルミ精錬部門のボトルネックは電力費の問題である。

しかしながら,我が国においては世界的にも高水準の大容量電解槽が,全電解能力の8割近くに達していることから,今後短期間での大容量化による電力消費の節減は多くを期待できない。現在,新しい省エネルギー型の精錬プロセスとしてトス法とアルコア法が特に注目されている。

これらはいずれも塩化アルミを作り,これをマンガンで還元(トス法)したり,あるいは電気分解(アルコア法)するものである。アルコア法については本格的な実用化が計画中で,その動向が注自されている。

エネルギー多消費型産業の1つといえるセメント工業は,そのエネルギー原単位が鉄鋼の約5分の1,アルミニウムの40分の1とかなり低いが,焼成工程におけるSPキルン(サスペンション・プレヒータ付きキルン)を中心に装置の大型化,近代化が進められエネルギー消費の原単位はかなり向上した。更に,最近はサスペンション・プレヒータとロータリーキルンとの間に助燃炉を設けたNSPキルンが開発され,キルンの焼成能力はSP方式の2倍以上に増大し,更にエネルギー原単位の向上を図れるようになつた。

化学工業部門では,反応条件を改善するための各種触媒の開発が省エネルギー効果を高めるものとして重要である。例えば重質油の軽質化では,熱分解法における600〜800°Cの反応温度に比べ,触媒を用いた接触分解法では,450〜600°Cに低下させることができる。新しい触媒及び触媒反応の開発はなお試行錯誤による傾向が強いが,最近では酵素反応モデルとしての錯体の研究等進歩が著しい。

(3) 廃棄エネルギーの有効利用

我が国のエネルギーの供給及び消費の構成によると,廃棄エネルギーが投入エネルギーの約50%にも上ると言われており,廃棄エネルギーの有効利用は省エネルギー対策の中でも最も重要な課題の1つと言える。

比較的高温の排熱については,熱交換器,排熱ボイラ,空気予熱器等による排熱の回収が実用化されているほか,鉄鋼業における高炉炉頂圧タービンによる高圧エネルギーの回収やコークスドライクウエンチによるコークス炉の排熱回収等各産業特有の技術も開発されている。

今後は,これらの技術を一層普及させる必要があるが, 一方,工場,発電所からの200°C程度以下の比較的低温の排熱利用技術の研究開発も進められている。現在,野菜の栽培,魚貝類の養殖等のほか,高効率熱交換器,低温度サイクル発電,ヒートポンプ等の研究開発が推進されているが,なかでも低温度サイクル発電,ヒートポンプが注目されている。

低温度サイクル発電では,フレオンを作動流体としたフロンガスタービン発電がある。フレオンは極めて低い温度で気化する特性(沸点23.8°C)を持つており,フロンガスタービンはこの性質を利用して高温でない熱源を用いてガスタービンを回して発電しようとするもので,既に実用化されてはいるが,熱効率が低いため経済的理由から普及には至つていない。しかし,今後は地熱や太陽熱等の低温熱源の活用の有力な手段として応用の場が拡大しよう。

ヒートポンプの原理は,一般の冷凍熱を逆に利用して冷媒の凝縮熱及び潜熱を利用して低温のエネルギーを高温のエネルギーに高めるものであり,小型のものは家庭,ビルの冷暖房に既に実用化されているが,効率の良い大型のものはまだ実用化に至つていない。現在,発電所や工場から排出される大量の温排水を地域暖房等に利用する大型ヒートポンプの研究開発が進められている。

廃棄エネルギーの有効利用では,そのほか,熱伝導の高効率化という観点からヒートパイプが注目されている。ヒートパイプは,銅,ステレンス等の材料で作られた密閉したパイプに,ウイック材(多孔質体)という金属繊維,ガラス繊維等を内壁に張り,内部に作動流体としてアルコール,アンモニア等を封入した構造になつており,ウイックの毛管作用と作動流体の気化潜熱を利用して大量の熱をわずかな温度差で効率良く輸送する装置である。

このヒートパイプの熱伝導率は銀の約1,000倍と言われ,建造物,工場,発電所等からの排熱を60〜70%回収することが可能である。また,空調装置,熱交換器等に利用することにより,これらの機器の性能向上,小型化が可能となるほか,発電機,電動機等に利用すれば冷却効率を上げることができ,これらの大容量化,性能向上が期待されている。現在,宇宙船用等一部の特殊目的用として実用化されてはいるが, 一般的利用については試作試験等応用段階にある。

(4) 廃棄物の再生利用

都市ゴミ等の一般廃棄物及び産業廃棄物の再生利用については,素材回収技術,熱回収技術等が実用化されており,省資源だけでなく省エネルギー効果を期待できるものも少なくない。例えば,アルミ製品の廃棄物からの素材回収に要するエネルギーは,鉱石から精錬するのに要するエネルギーの約4%で済むと言われている。

また,熱回収技術を用いると焼却処理の排熱を回収して地域冷暖房に利用できるため,省エネルギー効果は大きい(省資源技術の項参照)。

(5) エネルギー総合利用効率の向上

これまで述べた個々の省エネルギー技術は,それぞれの立地条件も異なるため,特定の分野に限定して適用されているのが現状である。そのため現行のシステム及び技術水準によつては必ずしもこれ以上の成果は期待できず,より広範囲にシステム化してエネルギーの総合利用の実現を図ることによつて,全体としての効率を向上させ得る場合が少なくない。

第1-4-5図に示されるように,民間企業における今後の省エネルギー化の方法についての調査結果によると,コンビナートのようなトータルシステム化への指向の比率は,従来,今後とも最低となつているが,これは,現状では地理的,経済的困難が極めて大きいためと思われる。

現在,火力発電の熱効率は40%程度にまで向上しており,単体としてはほぼ限界に達しているが,熱併給発電システム(発電を主とし,熱水又は蒸気を工場や地域冷暖房用等に供給する方式)等によれば,エネルギーの総合利用効率を大幅に向上させることが可能である。この熱併給発電システムは欧米諸都市では数多く実用化されているが,我が国においては地域集中冷暖房システムやコンビナートにおける共同発電あるいは蒸気の一部の共同利用の例が若干見られる程度であり,将来は,省エネルギーの観点を大幅に重視した熱総合供給コンビナートを開発すべきである。この場合,改めて現行システムの見直しを行うとともに,新たなエネルギーの供給,消費システムの導入を検討する必要があろう。具体的には,まず第1に,コンビナート構成業種のエネルギー需要の特徴を分析し,エネルギーの流れが合理的に行われるように各業種の配置を行うこと,第2に,地域冷暖房等コンビナート外へのエネルギー供給が経済的,効率的に行われるように都市計画の段階で十分考慮すること(ここで工場排熱あるいは廃棄物からの熱回収を図れば,更にエネルギーの節減効果は大きくなる。),第3に,長期的課題であるが,高温ガス炉の開発等により,製鉄,化学工業や海水淡水化,地域冷暖房等,原子炉で発生した熱の多目的利用を図ることなどである。

現在,「高温還元ガス利用による直接製鉄」及び「一海水淡水化と副産物利用」の研究開発を通商産業省工業技術院において大型プロジエクトとして推進している。


前(節)へ  次(節)へ

ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ