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第1部   安定的発展への新たな要請と科学技術
第4章   産業の新展開に貢献する科学技術
第2節   自主技術開発力の強化


戦後,目覚ましく発展した我が国の技術革新は,欧米の先進国,特にアメリカからの導入技術を消化吸収することによつて達成された自主技術の少ない技術革新であつたと言われているが,このことは,次のようなことがらから裏付けられよう。

まず,基礎研究を中心とする学術研究については,学術審議会第3号答申(昭和48年10月)の中で「従来,我が国の学術研究には,研究の手段・方法がある程度確立された研究の更に精緻な発展を図るという形のもが多かつたと思われる・・・・・・」としているように,方法論の確立されていない未開発の領域に挑戦する独創的研究への取組が弱かつた。

また,技術開発の源泉である研究開発活動を見ると,研究費の額では最近ようやくアメリカ,ソ連を除く先進諸国に肩を並べるに至つたが,経済活動の規模に応じた研究活動の状況を示す指標と考えられる研究費の対国民所得比率及び対売上高比率では,先進諸国と比べ著しく低くなつている。すなわち,前者では,ほとんどの国が2.5以上であるた見られるのに対し,我が国は,昭和48年度2.16にとどまつており,後者では,アメリカ3.5(1971年度製造業のみ),フランス3.0(1969年度),西ドイツ2.8(1969年度)に対し,我が国は1.5(1973年度)となつており,我が国における研究開発に対する消極的な姿勢がうかがえる。

更に,先進国からの技術導入では,我が国は世界一の技術輸入国となつており,自主技術の開発状況を反映する技術貿易収支比率は,1971年度においてアメリカ11.31,イギリス1.06,フランス0.59,西ドイツ0.45に比べ我が国は0.12と著しく小さくなつている( 第1-4-1図 , 第2-3-1表 )。

このように,我が国の技術革新が海外からの導入技術を中心に推進されたことは,戦後の科学技術水準の先進国との格差を是正するために有効かつ適切な手段であつたと言えようが,その反面,自主技術開発力の強化という面から見れば問題を残す結果となつた。

その結果,我が国の主要産業における重要な生産技術,例えば,エチレン,ポリエチレン,合成ゴム,金属精錬等の製造プラント並びにLNG船(今後輸出船の中心になつていくと見られている。),大型あるいは高速船用の大型エンジン,大型電子計算機等における技術は,外国技術の消化吸収により今や導入技術からテイクオフしたと言われるに至つているが,これらの技術の基本となつている基本特許等については,依然として対外依存度が非常に高いと言われている。

第1-4-1図 主要国における技術輸入額の推移

第1-4-1表 輸出商品構成の国際比較(1973年)

また,我が国の輸出商品構成を見ると,主要先進国に比べ,次のような特徴が見られる (第1-4-1表)

1) 機械類及び輸送用機器類の割合はやや大きいが,その品目は船舶,自動車,テレビ,ラジオ等特定の分野に集中していること
2) 鉄鋼繊維等生産素材の割合が大きいこと
3) 化学工業製品の割合が小さいことに加え,化学製品その主体を成している有機化合物及び人造プラスチックについては,前者では合成繊維の原料であるεカプロラクタム,アクリルニトリル等が,後者では塩化ビニル樹脂,ポリエチレン等がそれぞれ大きな割合を占め,化学工業の輸出でも生産素材が大きな役割を果たしていること

このような特徴は,貿易市場等経済的条件によるところもあるが,我が国の産業技術の特質をある程度反映しているものと思われる。

したがつて,科学技術により,貿易市場条件の不利を補い,技術的に遅れている分野では追い付き,広範な産業分野,商品分野で加工度が高く高性能高品質の機械や化学製品等を輸出できるようにするため,技術開発を強めなければならない。

現在,産業技術の開発への要請は,資源・エネルギー問題,開発途上国の技術水準の向上,国内における賃金の上昇及び国民福祉や世界のニーズをリードするための新たな課題等への対応のためにますます広範かつ重大なものとなつている。これに応ずるためには,我が国における産業の中心をなしているマス・マーケッティング産業における大型化を中心とする生産技術の発展は世界的に見て限界にきていると言われていること,外国から学ぶ技術が少なくなつてきていること等を考慮すると,今後は従来のように模倣的な態度ではなく,独創性の高い自主技術の開発を重視しつつ技術開発力の飛躍的な強化を目指す必要がある。

このような要請に対応する関係諸機関の動向は,次のとおりである。

科学技術会議は,諮問第5号「1970年代における総合的科学技術政策の基本について」に対する答申(昭和46年4月)の中で科学技術政策展開に当たつて取るべき態度の一つとして,「国の内外の新しい諸情勢に対処し,社会・経済等のニーズにこたえる独創性の高い技術開発力の培養を重視すること」を取り上げている。

通商産業大臣の諮問機関である産業構造審議会は,昭和49年9月「わが国の産業構造の方向について」という答申を出し,その中で我が国の産業構造の高度化の方向について「・・・・・・全体として高加工度で技術集約度の高い知識集約的産業のウエイトを高めつつ,それぞれの産業にも諸条件の変化を克服し得るような高度化を追求していくといつたパターンが産業構造高度化が行われていくプロセスといつてよいであろう。」としつつ,更に,技術開発については,特に独創的技術開発の推進の重要性を述べ,全体として科学技術の果たす役割の重大さを強調している。

経済団体連合会は,昭和50年2月「混迷する世界経済と今後のわが国産業構造(試論)」という報告書を発表しており,その中で技術開発については,わが国産業は・・・・・・鉄鋼,石油化学,造船,自動車等が国際競争力強化の重要な基盤となつているが,このような大型化を中心とする生産技術の発展は,世界的に見ても一つの限界にぶつかつている。また,社会的ニーズの多様化,経済の安定成長への転換,環境問題の登場などにより,新しい分野での技術開発の必要性は急速に高まつており,省資源,省力化,公害防止,備蓄のシステム化,都市開発などの要請にかなう技術開発を多面的に推進し,わが国独自の技術体系の確立を計画的に推進することが極めて重要な課題となつている。」としており,更に,「資源はないが,高い工業力をもつわが国としては,今後はより一層創造性の富んだ技術開発を推進していくことこそ,日本のみならず世界のニーズに応えるものであり・・・・・・技術立国を目指すことが必要である。」としている。これらのことから自主技術開発,とりわけ独創性の高い技術開発の重要性が改ためて強く認識されてきていることがうかがえる。

一方,産業技術の研究開発を中心となつて進めている民間企業の動向を,科学技術庁「昭和49年度民間企業の研究活動に関する調査」により述べると,次のとおりである。

自主技術開発力の強化については,あらゆる業種を通じてほとんどの企業で取り組んでおり,その動機を見ると,「環境問題が重要視されてきたため」が20.9%と第1位を占めており,次いで「労働力が高価になつたため」,「特許等による開発者利潤をとられるため」,「導入技術が少なくなつたため」,「資源・エネルギ一入手が困難になつたため」等が多くなつている (第1-1-2図) 。このように民間企業における自主技術開発に対する認識には,本章の初めに述べたような社会経済情勢の変化が反映されているものと思われる。

また,自主技術開発を推進する上で解決しなければならない問題点としては,「研究者を中心とした問題」が23.9%と第1位を占めており,次いで「研究の総合管理,運営,評価を中心とした問題」,「研究費を中心とした問題」,「研究施設,設備等を中心とした問題」,「情報の利用,流通,処理を中心とした問題」が続き,この5つに問題点が集約できる (第1-4-2図)

第1-4-2図 自主技術開発を推進する上で解決しなければならない問題点

更に,これらの問題点の内容をそれぞれについて見ると,以下のように多岐にわたつている。「研究者を中心とした問題」では,「新分野の専門研究者数の充足」が20.0%と第1位を占めており,次いで「能力開発」,「アイディア開発」,「研究者数の充足」等が多くなつている (第1-4-3図)

「研究の総合管理,運営,評価を中心とした問題」については,「長期的研究方針,研究計画の確立」が23.5%と第1位を占めており,次いで「技術予測評価手法の適用」,「研究評価手法の確立」等が多くなつている。

第1-4-3図 自主技術を推進する上で解決しなければならない問題点の分析

「研究費を中心とした問題」については,「研究予算総枠の増大」が25.1%と第1位を占めており,次いで「研究用設備投資の確保」,「長期的,計画的な研究予算化」等が多くなつている。

「研究施設,設備を中心とした問題」については,「実験設備の整備」が28.1%と第1位を占めており,次いで「測定設備の整備」,「施設の広さ確保」等の順となつている。

「情報の利用,流通処理を中心とした問題」については,「大量情報からの必要な情報の選択」が21.8%と第1位を占めており,次いで「情報処理技術者の養成確保」,「情報検索のスピード化」等が多くなつている。

以上の結果から今後自主技術開発力を強化していくためには,1)新分野の専門研究者をはじめとした研究者数の充足,2)長期的視点に立つた研究開発の推進,3)研究費総額の増大,4)研究者の能力開発,5)大量の情報からの必要な情報の選択等が民間企業において重要な課題と考えられていることがうかがえる。

一方,国は,民間企業に対して財政,金融,税制等の諸施策を重点的に実施して産業基盤の強化に大きな役割を果たし,民間企業における研究開発努力の援助,技術導入の活発化,産業技術の発展に貢献してきた。更に,国は自ら巨大な投資を要する先導的科学技術,共通的基盤的科学技術,経営規模が零細で自ら研究開発のできない分野の技術等の研究開発を行つている。国の負担研究費は昭和43〜48年度の5年間に年平均19.3%と順調な伸びを示した。しかしながら全研究費に占める国の研究費の負担割合は,従来から27%前後とあまり変つておらず欧米先進諸国と比較して著しく低い。

以上,新たな情勢の下での自主技術開発力強化の必要性並びにその推進者である民間企業及び国における問題点を見てきた。しかし,このように自主技術開発に大きな期待が掛けられている今日,その要請にこたえるべく研究開発活動を推進することは決して容易なものではなく,国の総力を挙げて総合的計画的に推進しなければならない。

そのためには,まず,我が国にふさわしい研究開発のあり方を新しい情勢に則して見直すことが必要となつている。すなわち,上述の技術開発への要請,我が国の国力,経済発展や国民福祉の在り方等を的確に評価し,それに基づき,重点的に研究開発を進めるべき分野の明確化,能力開発も含めた研究者の育成,国の負担割合,対売上高比率等を含めた研究費の増強及びその有効な活用を可能にするための研究管理の改善などを長期的展望の下に計画的に推進する必要があろう。


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