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第1部   安定的発展への新たな要請と科学技術
第3章   国際的視点に立つた資源・エネルギーの確保に貢献する科学技術
第3節   食糧資源


1972年の世界的な食糧需給のひつ迫以降,世界食糧会議が国連主催で開催されるなど,今や食糧資源の安定的確保は,石油等の資源問題と並んで国際政治上の重要な課題となつている。我が国においても食糧の安定的確保の問題は,国民の間で大きな関心が持たれ,昨年12月の世論調査において「食糧問題に対する不安」はエネルギー問題に次ぐものとなつている (第1-1-1図) (第1-3-5表)

この問題については,政府をはじめ各種の機関で対応策の検討を進めてきており,昭和50年4月農政審議会は,  「食糧問題の展望と食糧政策の方向」を建議した。これによると,食糧政策の基本方向は「・・・長期的視点に立つて,限られた土地資源を高度に利用し,可能なものは極カ国内生産によつて賄い得る条件を整備することを基本として,国内生産体制の整備を進めるとともに,今後とも輸入に依存せざるを得ないものについては,その安定的輸入の確保を図る等総合的な食糧政策の展開を図る必要がある。」としつつ,食糧の安定的供給のための方策として,1)国内生産体制の整備,2)輸入の安定的確保,3)水産物供給の確保,4)今後の食生活の在り方とたん白・油脂資源発の開発用を挙げている。現在,食糧の生産において科学技術と密接な関係を持つ主要な特徴を掲げると,次のとおりである。

1) 区画整理,用排水等の土地基盤の整備状況,経営規模等の制約から大型機械の導入等科学技術の適用が円滑に進みにくいこと
2) 冷害,風水害,潮流の変化等の気象・海象条件の影響により,生産が不安定になりがちであること
3) 生物を通じての生産のため生産工程を支配する条件が複雑多岐にわたり,生産工程の完全機械化等高生産性技術の開発に困難な面が多いこと
4) 研究開発は,生物のライフサイクルのペースに依存して行われる場合が多く,しかも自然条件の時間的,地域的差異の影響を考慮して行われるため,他の分野の研究開発と比べて多くの時間を要すること
5) 外国からの技術導入については,今後は,食生活習慣,自然条件の違い等により,作物育種法等基礎的科学技術以外はあまり期待できないこと
6) 農・漁業者自身の長年にわたる経験と創意工夫によつて,しばしば研究機関の研究に先行する技術が開発されることがあること
7) 研究開発のほとんどは国・地方公共団体等の研究機関で行われていること

このような特徴を踏まえつつ食糧の安定確保のために科学技術の研究開発とその適用を有効適切に進めるためには,以下の諸観点が重要であろう。

1) 研究開発と同時並行して,技術の円滑な普及を図るため,社会的経済的諸条件の整備を国等がより積極的に推進する必要があること
2) 労働生産性を高めること及び国土の有効利用等の観点から,食糧資源の研究開発を一層重点的に推進する必要があること
3) 研究開発の推進に当たつては,関係する農作物等の生物としての本性に留意するとともに,特に,それが生態系から受けている影響並びにその研究成果が生態系に及ぼす影響を十分に評価して推進すること
4) 長期的展望の下に研究開発を着実に進める必要があること
5) 研究開発の推進に際しては,農・漁業者の創意工夫や労働意識の変化を反映して行く必要があること。

このような観点から,内外の食糧資源の安定的確保に科学技術の貢献し得る分野を「食糧資源の国内生産の強化」,「開発途上国への食糧増産への貢献」,「新しいたん白資源の開発」とに区分し,研究開発の動向を述べる。

第1-3-5表 食用農産物の自給率の推移

1 食糧資源の国内生産の強化

このことについて,農産物と水産物とに分けて述べる。

(1)農産物

(1)現状と課題

我が国農業の資源的制約と経済の高度成長下における農業経営の条件の変化の下で,農産物の国内生産の強化を図るために特に重要となつている点として 1)適切な国土利用計画の下に優良な農地・水源を確保し,その効率的利用を図るとともに,農地造成改良を推進ずること,2)農業と非農業部門との生産性格差にかんがみ,農業生産性の向上,適切な価格政策の運用等に努めること,3)農業労働力の質的低下に対処して農業への意欲と十分な経営能力を有し,今後の農業生産力の発展の担い手となろうとする者が農業に定着できるよう社会的経済的諸条件を整備することなどの方策の推進が緊要となつている。

このような状況の下で科学技術の研究開発への要請もますます広範多岐かつ重大なものとなつており,自然環境の保全と培養に留意しつつ食糧資源の安定的,効率的供給を目指して新技術の開発が推進されている。この項では,基本食糧の供給に重点を置く観点から,水田作,畑作,畜産,野菜作,果樹作,とに区分し,更に自給率が特に低くその生産振興が望まれている小麦作,大豆作,草地飼料作,てんさい,さとうきび作について特に重点的に述べることとする。

(2)研究開発の動向

(ア)水田作

近年における米生産は,ほぼ単年度需給の均衡が達成されているが,稲作農家の生産意欲の低下とそれに基づく管理の粗放化,有機質施用量の減少による水田地力の低下,施肥量の減少等の点が指摘されており,台風被害や不良天候の年における不作が懸念されている。更に,今後の長期的な気象は,変動が大きく不安定に推移すのであろうと警告されている。

このような背景の下で,水田作の研究開発は品種の改良と機械化技術並びに水田の総合利用等に重点的に取り組んでいる。

品種改良については,品質,食味に重点を置きつつ,機械化栽培に適し,かつ,病虫害及び気象災害に抵抗性の強い新品種を目標に育成を行つている。特に,農薬による危害防止の観点から,耐虫性について高度の抵抗性を持つた品種を育成するための基礎的研究及び育種試験を精力的に推進して,耐虫性に関する遺伝子源の探索と遺伝様式に関する研究が緒についた。

機械化・省力化栽培に関する研究では,水稲の機械移植のための育苗法,直播栽培の安定化のための諸問題,安全省力の雑草防除法などの研究を引き続き重点的に推進している。

また,水田利用率の低下等に対処するため,水田への飼料作物,野菜等の導入に関する水田の総合利用研究を進めている。

(イ)畑作

麦類,豆類,飼料作物等のいわゆる普通作物を中心とする農業は,地形,土壌等の自然的条件の劣悪さに加えて,生産規模が零細なほか,土地生産及び労働生産性が共に低いこと等により,国内生産が需要との関連においてかなり不均衡なまま今日に至つている。

今後,我が国の畑作振興を図るに当たつては,適地適作を前提として広域的な集団畑作地域を対象に,大型を主とした高能率の機械・施設を導入して高生産性の集団畑作経営の実現を図る必要がある。

そのためには,これまで主に研究してきた個別作物を対象とした栽培改善技術,個別作業を対象とした機械化技術に関するものに加えて,地域ごとの総合的生産技術を確立する必要がある。総合的研究の一環として昭和47年度から別枠研究により,高性能大型機械施設の効率的利用技術の確立,生産変動の要因解析と対策技術の確立,大規模ほ場における基盤整備と地力の維持増進技術の確立,新品種,新遺伝子源導入利用等をテーマに畑作に関する研究を一元的に推進している。

(ウ)畜産

畜産物の需要は年々増加の一途をたどつており,国土の有効利用による自給飼料の増大を背景とした畜産振興が極めて重要な課題となつている。そのための研究開発は,生産性が高く,かつ環境汚染を起こさない畜産の育成を目指して次のように行われている。

育種研究については,多頭羽飼養に適応し,強健にして斉一な高能力品種,系統の改良,育成のための研究開発を実施している。

繁殖研究については,牛では,凍結精液技術の開発により優良種雄牛の効率的利用が組織的に進められており,牛資質の改良に顕著な効果を示しつつある。また,人工妊娠技術が確立され,実用化に移りつつある。

豚の人工受精については,精子の耐凍性を克服するための技術開発の進展により,実用化の見通しを得るに至つている。

栄養研究については,家畜・家きんの健康を保持し,その能力を十分に発揮させるに必要な栄養素の種類と量を明らかにするなどの栄養生理的側面からの基礎的研究を広範に行つている。

更に,乳牛,肉用牛を対象に,給与養分と生産性に関する開発的研究が実施されているほか,牧草飼料作物等の粗飼料の利用効率向上を目的とした研究を行つている。

飼養管理研究については,乳牛では,多頭飼養,省力管理技術の確立のための基礎研究として,特に搾乳の合理化,環境条件と生理機能との関係を具体的に究明するための研究を重点的に進めている。肉牛では,繁殖牛の生産の合理化を進めるための管理方式について重点的に研究している。肉豚の研究は, 一応の成果が収められ,現在,繁殖豚の省力管理技術等の研究が推進されている。

畜産物の利用加工研究については最近,流通利用の観点が重視され,公共機関において,食肉の品質改善に関する研究が実施されている。

畜産公害に関する研究については,畜産廃棄物の処理・利用に関する研究を,汚水の処理を中心に家畜ふん尿の処理利用に関する特別研究として実施してきた。焼却,乾燥,悪臭防止等については,昭和48年度から大型研究の一環として,「家畜排泄物の処理利用技術の開発に関する研究」を実施している。

飼料研究については,飼料作物の研究が重視されており,特掲して述べることとする。

そのほか重要な研究としては,飼料資源の開発及び飼料の流通化研究がある。前者については,油粕類,工業副産物等の未利用資源の飼料化とその給与試験等を行つている。後者については,大型研究の一環として研究を実施し,現在成績を取りまとめ中である。

(エ) 野菜作

野菜の需要は,葉菜,果菜類を中心に増大するとされており,生産量の確保,価格の安定,更には,品質向上への要請も大きく,生産性の向上,生産の安定化,流通の合理化等のための施策が総合等に実施されることが要請されている。

このような観点から広範な分野において研究開発を行つている。

新品種の育成については,生産安定と品質向上を図るためには, 一般的な品質向上のほか,周年生産,周年供給等に伴う種々の作型への適応性,加工,省力機械化適性,野菜産地での連作あるいは農薬規制に伴う各種病害に対する耐病性等を育種目標とし,台木用品種の育成を含む広範な研究が行われている。

生理生態については,野菜栽培における周年生産・周年供給に伴う作型の増加に加えて,野菜の種類の多様性と品種の分化の多彩性とは,これらの栽培条件の解明の重要性を増大させている。そのために特定の環境条件に対する各種野菜の反応を解析し,最適の生育条件を設定するための研究を行つている。

機械装置利用による省力化については,野菜栽培を本格的な対象としたものはいまだその緒についたばかりであり,現在,露地栽培では,単一作目の規模拡大を前提とした大型機械の導入,利用法の研究を,施設栽培では,施設及び施設内装置・機械・器具の効率向上の問題点の摘出等の研究を行つている。

栽培技術の改善については,上記の技術を含む一般的な栽培技術の改善を図るものであり,その内容としては,個々の作物の栽培法改善,技能的技術の改良,輪・混作体系の改善等極めて多様なねらいを持つた研究を行つている。

化学物質による生育の調整等については,花芽分化促進剤,着果剤,わいか剤,除雄剤及び除草剤等が含まれ,それらの利用法を確立するために種類ごとの適応性,環境条件と効果の発現との関係,栽培技術内の位置付け等を明らかにするために研究を行つている。

流通利用適性については,良質な生産物を安定的に供給するために,輸送・貯蔵における品質の保持,コスト低減,生産物の加工利用及び流通システムの改善等のための研究を行つている。

病害虫対策についは,農薬の規制による防除法の再検討並びに施設栽培の普及による発生時期の変動及び新病害虫の出現による新防除法の研究等が要請されている。このため病原菌,害虫の生態,被害解析等について更に詳細な研究を行つている。

(オ)果樹作

我が国の果樹作は,国際競争の激化,労賃の上昇,生産過剰等数多くの難問題をかかえている。それらの解決のためには,需要に見合つた植栽,広域濃密生産団地の形成,機械化省力技術の導入,樹園地の基盤整備,品種改良,生産安定,流通加工対策の強化等生産から流通・加工の各般にわたるコスト引下げと品質向上のための対策を総合的に実施することが要請されている。

このような要請に沿つて,広範な分野で研究開発を行つている。

新品種の育成については我が国の気候風土に適応した,高品質で生産力の高い品種の作出を目標に,種類によつては耐病性,耐虫性,加工用等を考慮して研究を進めている。

栽培管理の機械化については,土壌管理,薬剤散布,収穫運搬等の作業の機械化による能率並びに生育収量,品質等に及ぼす影響,新機種の利用改良,,機械化を前提とした開園様式と機械の利用効率等の究明を行つている。

化学物質による生育調整等については,摘果,落葉,袋掛け等果樹栽培特有の集約的手労働を節約する技術と果実の品質向上,除草労力節減のための新除草剤の利用,用途別生育調整剤による処理方法の開発等について研究を行つている。

台木と整枝せん定については,果樹の繁殖技術としての台木の改良並びにつぎ木技術の改善,かんきつ類の連作障害の回避,結果年限短縮を図るための高接ぎ法の障害対策の確立,果樹のせん定法再検討による合理的整枝法の確立のための研究を行つている。

栄養生理と施肥合理化については,果樹園の合理的な肥培法の基礎となる栄養診断,果樹園の老朽化対策,果実の品質向上のための無機栄養の役割り等の研究を進めている。

土壌の生産力要因と管理法については,果樹園の土壌生産力の増強を目的とし生産力に関与する主要因を解明することと,土壌の管理法を地力維持増強の面から研究を行つている。

果実の加工適性については,品種系統別,産地別,採収時期等の各種条件下について加工適性の解明を行つている。

果実の低温貯蔵法の確立に資するため,低温貯蔵施設機器の改良,庫内諸条件の調整等の研究とともに栽培条件,入庫までの処理取扱い等の諸要因が貯蔵性に及ぼす影響を明確にするための研究を行つている。

病虫害対策については,主要病害虫の防除に関しては一応の水準に達しているが,生産費中に大きな割合を占める防除費の低減を図るために防除の要否,程度及び適期を決定する必要がある。

このために病菌,害虫の生態,被害解析等について更に詳細な研究を進めるとともに,新たに出現する種類・系統の病菌害虫,薬剤抵抗性,新しい防除法等についての研究を行つている。

(カ)麦作

麦作については,麺用小麦,飼料用大麦,精麦用大麦等の国内生産増加が要請されており,研究開発は,それぞれの地域ごとの総合的な生産技術を確立することを目途に進めている。

品種改良については,早生化(1週間以上),多収性(500kq/10アール),耐病性,良質性(製麺・製パン・飼料適性),機械化適性を目標に進めている。これまでの成果としては,小麦については,「農林61号」のような広域適応性の優良品種の育成を行つているほか,水稲作との競合や雨害の回避をねらいとした極早生品種の育成を目標として,昭和47年度以降,「農林61号」より1週間早生の良質品種2品種を育成した。大麦については飼料用及び醸造用を主とし,食用を従として多収性,耐病性,耐倒伏性を重点目標として育種を進め,昭和46年度以降,ビール用麦2品種,飼料用麦1品種を育成した。

また,栽培技術関係の研究においては,機械化一貫体系の確立に重点をおいて実施されており,これまでに小型及び大型機械化栽培技術体系はほぼ確立した。北海道道東畑作地帯における大型機械化栽培法は普及段階に入り,小麦作付面積増に貢献しており,また,内地の小規模麦作地帯における小型機による多条播栽培法は,慣行栽培法と比べ10アール当たりの所要労働時間で3割以上節減し,大幅な増収が期待できる技術を確立し, 一部の地域で既に普及している。このように,麦類に関する研究はかなりの成果を挙げているが,現在の小麦作の減少を食い止め,更に増加させていくためにまず品種改良については,極早生及び耐病性品種の育成に重点を置いて研究を進めるとともに,栽培が容易で作柄が安定し,かつ,広域適応性を有する総合的に秀れた品種の作出を進める必要がある。

そのため,昭和49年度において,小麦の原産地から有用遺伝子を導入するとともに,近年開発した育種年限短縮のための世代促進用施設を設置し,極早生品種,多収良質品種の育成に当たるとともに,二条大麦についても小麦と同様に世代促進栽培用施設を整備する等,育種面での強化を図ることとしている。

次に,栽培技術関係の研究においては,麦単独ではなく,他の畑作物との組合せによる合理的な輪作体系及び水稲の中苗移植を含めた稲麦一貫技術体系の確立に関する研究を推進する必要がある。

このため,別枠研究の一環として,安定多収栽培技術の確立及び大型機械施設による収穫乾燥調整技術の確立等を図るための研究を引き続き強力に推進している。

(キ) 大豆作

大豆作については,食用大豆の需給安定のために国内における大幅な増産が要請されている。

我が国の大豆作は,全国平均収量130kg/10アールと低水準にあるものの,試験研究において又は先進農家の段階では適切な管理を行うことにより300kg/10アール以上の収量を得ていること等を考慮すれば,今後増産の可能性が見込まれる。

大豆に関する研究開発は,優良品種の育成を第一とし,施肥法等の栽培法の改善,病害虫防除,機械化栽培法の確立等を目途として,研究を実施してきている。

これまでの研究開発の成果としては,品種改良においては,多収,良質,耐病虫性,機械化適性等について試験を進め,最近では「オクシロメ」,「ゴガク」,「ライデン」,「カルマイ」等の品種を育成しており,栽培関係試験においては,冷害防止のため生育抑制剤「B9」の効果,多収のための施肥法,水田転換畑における地下水位の許容水準の解明等が挙げられ,また,機械化技術については,刈取り作業の省力化に重点を置きビーンハーベスターの開発及び稲作用バインダーの改良利用等を行つている。また,北海道において大型機械を使つた機械化一貫体系の場合,収量270kg/10アール,労働時間10時間/10アールを達成する見通しを得ている。

今後の研究開発の方向としては,全般的な技術水準のより一層の向上を図るほか,不適地とされている暖地における病虫害の防除を中心とする技術の確立を重点に進める必要がある。

このため,品種改良においては,海外から抵抗性遺伝子の導入を図るなど副病性品種の育成を重点に,多収性,高たん白の品種の育成を図るとともに,栽培関係においては,耐病虫性品種と併せ病害虫の効率的な防除技術の確立に関する研究を推進するほか,機械化栽培技術については各種機械化技術体系について引き続き研究を進めることとし,特に収穫作業,乾燥調整法の研究に重点を置いて進めることとしている。

なお,大豆の機械化栽培技術に関しては,特に大型研究の一環として重点的に取り組んでいる。

(ク) 草地飼料作

国民の食糧需要に応じて畜産の発展を図るためには,飼料基盤を強化することが極めて緊要となつており,牧草を中心とした粗飼料を国内で大幅に増産することが要請されている。そのための研究としては,それぞれの地域ごとの総合的な生産技術を確立するために,牧草・飼料作物の品種育成,高位生産技術,草地生態系の解明,草地の開発・管理,飼料基盤に適合する飼養方式,利用加工・流通技術等を含む総合的な研究開発が必要である。このような研究開発の動向を見ると,次のとおりである。

牧草・飼料作物の品種の育成については,現在まで11草種,23品種(とうもろこし,えん麦を除く。)を育成し,農林登録をしている。これらの国内育成品種は,外国品種に比べ1〜5割程度の増収があり,現在外国品種に代わつて栽培されつつある。

今後の育種目標は,多収,病害虫抵抗性,放牧適性の品種育成が主体となるであろう。

多収技術は,草種別肥培管理,混播,作付体系等においてかなりの進歩をみせ,普及している技術も多い。

今後,個々の技術の改善を図るとともに,労働生産性を高めるための機械化生産技術が主要研究課題となるものと思われる。

草地生態系の解明については,研究は緒についたばかりであり,今後は,草地群落の構造と機能物質循環等が主要研究課題とな今ものと思われる。

草地開発技術,管理法については,耕起又は不耕起による草地開発並びに刈取時期,放牧時期,時期別草地管理(肥培管理)等の技術を実用化しつつある。

しかし,これら開発された草地が社会的,経済的,自然的立地の不備からその活用が不十分の事例が少なくなく,今後,国土利用と環境保全の広い視野から草地開発を計画的に行う必要がある。

このため,草地開発計画樹立のための方法論,立地利用条件に応じた造成法,管理法の解明が主要な研究課題として提起されている。

飼料基盤に適する飼養方法については,経営規模に合つた家畜飼養頭数,放牧方法,家畜衛生対策等について基本的技術が明らかになつた。

今後これら技術の改善を図るとともに,放牧地の生産力向上,放牧家畜の生理機能,群行動の解明,家畜管理の装置化等が主な研究課題として提起されている。

利用・加工・流通技術については,牧草等の利用技術は,乾草,サイレージ,青刈り放牧等も標準的技術は不十分ながら確立されている。しかしながら,畜産経営の大規模化,飼料生産と家畜飼養との分業化等の動向に対応して良質の粗飼料をスムーズに流通化させるためには,加工・流通技術の確立が重要な課題となつている。

このためその研究は,現在緒についたところであり,乾草,圧縮成形(ヘイキューブ),サイレージの流通化技術の確立を急いでいる。

今後の乾草流通では梱包の規格化,圧縮成形では成形機の試作改良,成形性,飼料価値,サイレージでは,流通に際しての各種容器,輸送方式等が主要研究課題として提起されている。

(ケ) てんさい,さとうきび作

砂糖原料である,てんさい,さとうきびの生産は,自然的条件等の制約があるので,適地適産を通じて国内自給力の向上に努めることとしている。

てんさいは,冷害に強く,北海道地方で最も安定した生産を上げており,我が国の甘味資源として重要な作物である。

てんさいの研究は,育種面では高糖多収性を重点に進め北海道向け4品種を育成するとともに,外国からの導入品種についても厳密な試験を行い普及に移している。

最近の著しい増収は,多収品種の普及と栽培技術の改善によるものである。すなわち,土地基盤整備事業の推進と大型機械の普及により深耕多肥栽培を一般化するとともに,移植栽培の普及により早期播種による生育期間の拡大,間引き除草の労力の減少等大型機械化体系を農家に定着させた。

また,遺伝的単胚種の育成(モノホープ:48年)導入は,育苗に大幅な省力を可能とし,労働時間の短縮に大きく貢献している。今後は直播栽培の再検討,栽培面積拡大のための酪農地帯への導入等が重要な課題となるものと思われる。

さとうきびは,九州の南西諸島及び沖縄県に作付けされている。その研究としては,育種では高糖,多収,耐病,早熟,強稈,機械化適性等を重要目標に実施しており,新たに2品種を育成し,成果を上げている。

栽培面では,労力で最もあい路になつている収穫作業の問題は,小型収穫機の開発,大中型機の利用,改良研究が行われており,省力機械化一貫体系の確立を目指し,研究を進めている。また,高温期間の短い西南諸島では初期成育の促進が多収,高糖に通ずることからマルチ栽培法が開発され,普及しつつあるほか,株出し栽培における多収栽培法の研究を進めている。

(2) 水産物

(1) 現状と課題

水産資源は,我が国の消費する動物性たん白質の5割程度を供給して食生活に重要な役割を果たしているが,その獲得を巡る条件は,1)沿岸海域における公害の発生,埋立て等による環境の悪化,2)海洋法会議における広大な経済水域の設定の動き,3)北洋漁業に対する国際規制の強化等により悪化している。

このような状況に対処し,水産資源の保存を基本としつつ,水産物の生産の増大と安定的供給を確保するためには,水産資源の動向を的確には握するとともに,次のような基本方向で対策を推進する必要がある。

1) 沿岸海域については,優良漁場の確保と漁場の整備開発,及び漁業資源の維持培養
2) 沖合・遠洋海域においては,関係国との協力,協調を推進し,相互に漁業の発展を図るという基本姿勢に立つて我が国の遠洋漁業の実績の確保と操業の安全を図るとともに,深海をも含めた新漁場の開発を推進すること
3) 資源の開発と有効利用を図るため,未利用多獲性魚介類のたん白質利用に関する技術開発を積極的に進めること
4) 優良な漁業労働力の確保と水産業の近代化

このような方策の中で,科学技術の果たすべき役割が大きいと考えられる分野である漁場調査技術,栽培漁業技術,養殖技術における研究開発の動向を述べることとする。

(2) 研究開発の動向

(ア) 漁場調査技術

漁場調査の目的は,資源の保存,合理的利用,漁業の生産性向上及び新資源の開発に役立たせることにあり,そのためには,十分な海洋の科学的知識に基づく資源調査,漁況海況予報及び漁場探査等の技術の確立が必要とされている。

(a) 資源調査技術

資源状態を的確に評価するために行うのが資源調査であり,一般的には,魚体調査と漁獲量,漁獲努力量調査から成つている。魚体調査によつて資源変動要因のうち,成長と死亡についての特性がは握されている。漁獲量,漁獲努力量調査は,漁獲による死亡率や相対的な資源量を推定するために行われている。

最近における資源調査の重点課題は,暖流域では魚の種類が多いため,群を中心にした魚種相互間の変動を追求することであり,北方の寒流域では単一魚種の再生産過程を明らかにすることであるとされている。

(b) 漁況海況予測技術

漁況海況予報は,来遊する魚の種類,量,時期,場所をあらかじめ推測して広く知らせることであり,現在「漁期申の漁況,海況の推移予測並びに今後数年間の資源量の変動,分布海域の変化等の見通し」を内容とした予報が漁期前1回作成されている。このための調査は,ほぼ周年にわたつて沿岸海流の動静や沿岸海域における陸水と沿岸水との関係を知るため一定の測線について調査を行つている。沖合の情報は,漁船や航空機を利用して収集して無線や郵送で伝達し,浅海の情報は,自動海況観測装置を利用している。

今後の課題としては,沿岸水と陸水及び外洋水の三者の関連性を明らかにするための沖合と浅海との情報流通の総合化,情報収集処理技術の確立,予報精度の向上等が提起されている。

(c) 漁場探査技術

漁場探査には,新漁場の開発のための探査と既存漁場での操業場所の探査との二つがある。

前者は,海洋情報を整理分析することにより有望な海洋構造をもつ海域を知るとともに,混獲,胃内容物中の未利用魚種の存在等他の漁業の結果から得られる生物学的情報に注意する方法を取つている。

新漁場の資源評価には,現在,漁獲試験を行つているが,より迅速な推定技術として音響利用の技術を各国で研究中である。

後者では,海洋構造の精査,他船の漁獲情報,超音波魚探,目視,鳥群等による魚群の観察等の方法を取つている。この探査では,海洋情報の迅速な収集,伝達が決め手であり,電子工学や音響学的な方法により海洋情報と魚群の量及び行動を自動的に知る技術が求められている。

(イ) 栽培漁業技術

栽培漁業は,種苗放流,放流後の生育管理,生育基盤の整備,適切な漁場行使・操業の実施等を通じて資源を積極的に培養しつつ,最も合理的な生産を行うことを目途とする沿海漁業であるとされている。

以下,本項においては,栽培漁業技術の動向を種苗生産技術,栽培漁業施設技術,育成管理技術,漁場改良造成技術とに区分して述べる。

(a) 種苗生産技術

沿岸漁業振興の一環として行われる大規模な種苗放流に要する大量の種苗の増産が要請されているが,現在,主要な魚種ですら天然種苗に依存しており,生産供給が不安定となるのみならず,種苗採捕が天然資源に悪影響を及ぼすとの観点から人工採苗技術の開発による種苗の円滑な供給が切望されている。これに対する主要な研究開発は,次のとおりである。

工場生産方式による種苗生産技術については,魚類,甲殼類の飼料の確保がネックとなつている。幼期に必要な植物性プランクトン及び小型動物性プラントンの培養は,一応実用段階に達しており,現在,成長の晩期に必要な大型動物性プランクトンについて,培養に適した種類の検索及び高密度培養の技術の開発を中心的な課題として進めている。

海面利用による中間育成技術の開発については,魚介類の種苗生産において成育期のごく一時期における陸上施設の飼育空間の限界を広い海面施設で補うことによつて共食いによる減耗を防ぎ,陸上施設の生産効率の増大を図ることができる。そのために海面施設による種苗養成技術の開発は,大きな課題として研究開発を進めている。

親魚養成技術については,現在,採卵用の親魚は天然産に依存しており,その豊凶,成熟の良否,産卵期の長短等が種苗生産の成績を左右している。

したがつて,計画的な採卵と種苗生産のために採卵用親魚の養成技術の開発を各種の魚について進めている。

(b) 栽培漁業施設

放流用種苗の海面におけるじゆん(馴)致飼育施設としては,クルマエビ等底着性生物用として仮設的な網囲のほか人工干潟を造成し,より大きな生物による食害防止を図る技術を開発しつつあり,注目すべき成果を得ている。

また,魚類を対象に音波利用による飼育法や整流装置とプランクトンを集める照明装置を組み込んだ育苗施設も開発している。

(c) 漁場改良造成技術

漁場の改善方法は,砂浜漁場,岩場漁場及び内湾漁場のそれぞれに特色がある。

砂浜漁場では,波と流れを制御して波の力を減らし,これによつて漂砂を安定させ底生魚介類の生息に適した環境の造成が図られる。この目的のためには,現在まだ本格的な土木的工法が未開発のため,人工魚礁が用いられている。人工魚礁として新たに鉄や合成樹脂を素材とする組立魚礁の実用化試験が進み,一部は実用段階に入つている。古船,古タイヤ等の廃材利用は,造成コストが安い利点があり,広く用いられている。

また,アワビ,ウニ等草食動物の生息所をH字礁で造成する方法に加えて,餌料海草を付けた種縄の海中設置や海中林造成により砂浜域を岩礁生物の漁場に変える技術を試験している。

岩場漁場においては,岩礁と岩礁との間を整理して生物に好適な環境に作り替えたり,波や潮流を制御するために人工魚礁の設置,投石,築磯,岩礁爆破等が行われている。また,パイル打ち込み,ブロックや人工海草等を利用して保護水面を造成し,幼稚魚の生育適地とすることも実施されている。

(ウ) 養殖技術

養殖業は,区画された水域を専用して水産生物を所有し,それらの生活及び環境を積極的に管理して最終生産物の段階まで育成する生産方法であり,漁業とは別の性格を有するものである。

以下,本項においては,養殖技術の動向を養殖施設技術,養殖漁場改良造成技術,育成管理技術とに区分して述べる。 注)

(a) 養殖施設技術

現在使用されている養殖施設の種類は, 第1-3-6表 のとおりであるが,このうち技術開発が重視されている魚類の養殖施設について述べる。

ハマチ養殖は,魚類の海面養殖における収獲量の大部分を占めているが,その養殖施設は生簀方式の網生簀方式が著しく伸展している。この方式は,海面で自由に行使でき,飼育管理が行き届き,集約的養殖を行うのに適していると同時に小資本で経営できるという利点がある。しかし,この養殖方式は,養殖に伴う海水汚濁負荷が大きく,経営体の増加につれて海水流動,酸素収支等の諸条件を考慮した適切な区画漁業権漁場の配量,収容密度等,養殖場海域の適正な行使が必要となつており,また,投餌その他の飼育技術の改良が要請される。

第1-3-6表 現行の内水面,海面養殖の施設


注)種苗生産技術については,栽培漁業におけると同様に重要であるが,それと共通の技術であるためこの項では省略した。

更に,海面における養殖が今後外海域へとその利用水域を拡大するのに伴つて波浪の影響を防止するための施設の改良や底層利用のための調査研究等が一層重要となつている。

一方,水面区画方式及び造池方式の中には粗放養殖が行われている施設が多く,集約的養殖方式のための施設技術の開発が要請されている。この技術としてクルマエビについては,最近開発された技術である二重底流水式養殖法により,従来の約7倍もの高密度飼育が実現しており,その実用化に大きな期待が持たれている。

(b) 漁場改良造成技術

養殖漁場の多くは水深20m以浅の内湾や浅海式であるが,近年,汚濁水域の拡大や干拓,埋立の増加によつて養殖に適した漁場は減少しており,これに伴つて漁場における養殖密度が高くなつているため環境も悪化している。

この対策としては,既存漁場の改善及びそれによる高度利用と漁場の沖合化とがある。

前者については,閉鎖的性状を持つ湾あるいは入江の老化漁場に対して,開水路工,作れい(零),導流工等大規模な土木工事が行われ,海水の交流を促進し海水及び底質の改善が進められており,生態系の回復の効果も確認されつつある。このような事業は,養殖業のための区画された水域だけでなく,広く公共水域の環境の改善が同時に行われるものであり,栽培漁業にも大きく貢献するものとして期待されている。

後者については,波浪の制御が最も重要な課題である。今後の漁場の対策となる水深30m以深域の消波工としては,防波潜堤,防波柵等の剛構造物による方法は経費的,技術的に難点がある。そのため,安価で消波効果の大きい柔構造物又は流体式の消波工技術の開発を目指す研究開発を進めている。

柔構造物については,比較的小型の浮体を連結した種々の型態の浮防波堤が実用化しており,最近では浮体の軽量化,多孔化により消波効果の向上を図つている。

流体式の消波工技術については,海中で空気を噴出させ上昇流に伴う表層流で消波する空気防波堤,防波堤から水を噴出させる消波するウオータージェット等の消波工もある。

(C) 育成管理技術

この分野の技術としては,養魚の生理・生態の解明,飼料の開発,病害虫の防除等が含まれる。ここでは,現在,その研究開発が重要となつている飼料の開発と病害虫の防除の動向について述べる。

養魚飼料としては,現在その大部分を多獲性の生鮮魚貝類に依存しているが,これらは,価格と供給量の点で問題がある。人工配合飼料は,その基材であるホワイトフイッシュミールに量的制約があるため,内水面養殖ではかなり普及しているが,海面養殖ではほとんど利用されていない。そのため,基材の量的制約に対処するために,ビール酵母,パルプ酵母,大豆粕等の混用のための研究を進めている。質的制約については,特に海面養殖において,対象魚種の餌に対するし好性と関連して,人工配合飼料の質と用法等の改善のための研究を重点的に進めている。

病害虫防除については,防疫体制及び治療薬の開発が不十分なため,毎年大きな被害が発生しており,更に,汚染域の拡大と養殖業の増大によつて,新しい病害が多発する傾向にある。

この対策としては,魚病診断技術者の養成等行政面の魚病対策と並行して魚病専門の予防薬,治療薬の開発を本格的に進めつつある。

2 開発途上国の食糧増産への貢献

(1) 開発途上国の現状と技術協力

開発途上国の多くが位置する熱帯,亜熱帯地域の気象条件は, 一般的に強烈な日照と季節的に偏在する降雨量によつて特徴づけられている。このことは,農作物の生育には良い点がある反面,地力の消耗が激しく病害虫の発生も多い。また,社会・経済条件の制約があつてかんがい排水や,ほ場整備等の土地基盤整備が進んでおらず,経費のかかる施肥や病害虫防除も行われていない。一般に開発途上国の農業はこのような状況の下で粗放的に行われており,厳しい自然条件に適応してそれなりの技術を組み立てているもの,生産は不安定で極めて低収量である。

一方,水産資源は,マグロ及びエビ資源を除くと豊富ではなく,大規模な開発には適していないと言われている。しかし,沿岸地域のリーフにせい息する未利用の資源の開発あるいは内水面養殖にかなりの可能性を有している。

開発途上国は,現在のような生活水準からの脱皮と増大し続ける人口を賄うための努力を続けており,主要産業である農業及び漁業の発展は最も重要な課題となつている。これらの発展は,栄養水準の向上だけでなく,その国の経済発展をもたらし,食糧の不足分を海外に依存する必要がなくなり,世界の食糧需給の安定に貢献する。このことは,食糧供給の海外依存度が高い我が国にとつて食生活の安定につながるものである。

(2) 開発途上国への貢献

(1) 農業

従来,我が国の農業技術協力は,主として,開発途上国からの研修員の受入れ,専門家の個別派遣,専門家派遣・機械供与を組み合わせた農業協カプロジェクトの設置,運営という形で行われてきたが,近年は国民経済の発展に資する経済社会の発展計画の一環となるべき大型プロジェクトに対する協力が多くなつてきた。

このような協力のうち農業技術の研究開発活動は,農学研究協カプロジェクトという形で実施しているが,研究開発の実施については,農林省熱帯農業研究センターが中心となつて行つており,在外研究員と相手国の研究者との共同研究,同センター単独の研究及び同センターと国内の他の試験場所あるいは招へい外国研究者との共同研究により推進している。

開発途上国への技術の貢献を考える場合,我が国の既存の技術によるものと開発途上国との共同研究の成果によるものとが考えられる。前者について見ると,我が国の農業技術は小農技術としては高い水準にあると言われるが,開発途上国との間に,気象・土壌等の自然条件,農業に多くの経費を掛けられないという経済条件,更にその他社会的条件の差異も加わてそのままで適用できる技術は少ないと言つてよい。むしろ,基礎研究の成果や研究手法等の活用,専門家の派遣を通じた応用研究,実証試験及び研修生の受入れ等により貢献している。

後者について見ると,稲作,畑作,畜産,病害虫の部門において共同研究が行われ多くの成果を上げている。そのうち現地で活用されて大きな成果を上げているものを見ると次のとおりである。

水稲の育種については,東南アジアに分布するインデイカ種で多収性のバハギア等の有望品種の育成に成功し,現地で栽培面積が増加している。

病害虫防除については,イネの主要な病害の一つであるイネ白葉枯病の感染源並びに感染経路を明らかにし,感染の防止方法を確立した。

稲作機械化に関する研究については,東南アジア地域の条件に適した田植機及び収穫機の改良開発に関する研究を行い,新機種の完成の見通しを得ている。

とうもろこしベト病抵抗性品種の育成については抵抗性品種スクリーニングの方法を確立し,抵抗性品種改良の効率が飛躍的に向上した。

しかしながら,これらの成果は,熱帯・亜熱帯地域に内包されている巨大な農業生産力を引き出すためには緒についたばかりであり,これらの地域において,より広範な農業技術の発展のために貢献することが期待されている。これは我が国が果たすべき重要な国際的責務の一つであり,また,我が国の研究領域を拡大する意味でも重要である。

(2) 漁業

我が国の水産技術は,広範な分野にわたつて高い水準にあり,従来,開発途上国に対しては,船舶や器材の提供,訓練センター等の設置運営,漁業開発計画の作成,研修生の受入等により漁業訓練を中心とした技術協力に大きな貢献をしてきた。

しかしながら,FAOや先進国の援助を通じて,初級の漁業訓練機関や航海学校が開発途上国にもおおむね設立され,また,漁業行政の担当部局も次第に整備されてきているため,今後の技術協力の分野としては,沿岸漁業あるいは養殖業を中心とした漁場調査,漁具漁法等の開発,水産加工,各種養殖等への要請が更に増えてくるものと思われる。

このような要請にこたえるためには,開発途上国の多くが位置する熱帯地方の沿岸漁業あるいは養殖業のための研究開発が必要であるが,現在,我が国において熱帯漁業に関しては,基礎的な資料はもとより科学的な研究を戦後ほとんど行つていない。

したがつて,以上見てきたような諸情勢にかんがみ,早急に研究組織体制の整備を行い,組織的系統的な研究を強力に推進することが要請されている。

3 新しいたん白資源

(1) 現状と課題

開発途上国を中心とした世界的なたん白不足に対処するため,1967年,国連は世界におけるたん白資源の開発利用促進の基本的方向についてその政策目標の具体的提案を行つた。その政策目標は各国に適した問題解決の方策によつて具体的に推進されているが,我が国にとつて1972年以降における世界的な食糧需給のひつ迫と漁業を巡る諸制約は,新しいたん白資源の開発の重要性をより切実なものとしている。

我が国における新しいたん白資源の開発利用の現状と今後の方向について見ると,次のとおりである。

(2) 研究開発の動向

大豆たん自の新利用としては,現在,主に飼料用に供されている210万トンにも及ぶ脱脂大豆(たん白含量約50俗)について,これを飼料として用いるよりも直接食用として活用することがより効率的であるという考え方に立つて,組織状あるいは維繊状大豆たん白食品が開発利用されてきた。小麦についても,小麦粉から分離されたたん白が同様に利用されている。

しかしながら,現段階では畜肉,魚肉等の加工食品の増量用,添加用としての利用が主体であり,今後は,たん白資源の高度利用の観点から新製品の開発普及,調理法の開発が要請される。

水産物たん白については,オキアミ,深海魚等の未開発資源の開発に取り組む必要がある。

オキアミは,南氷洋に集群をなして豊富に生息する大型動物性プランクトンで,良質なたん白質を含有しており,食品素材としての利用価値は高い。

漁獲方法については,ほぼ確立しつつあり,当面,南氷洋全域にわたる集群の分布状況の解明及び船上処理加工を含む加工利用方法の開発が重要な課題となつている。

また,水深300m以深の陸棚斜面については,今後の新漁場開発及び漁獲技術の開発に期待するところが大きい。更に加工技術としては,利用度の低い多獲性魚等については,冷凍すり身に見られるような技術開発やたん白を濃縮分離する方法等により高度利用することが望まれる。

畜産物については,増大する飼料需要に対してどのように安定的に供給するかが問題となつており,新しいたん白資源の開発利用を検討する必要が生じている。たん白系飼料として利用の促進を検討すべきものとしては,牛用として使用されている尿素等の非たん白体窒素や家畜廃棄物であるフェーザーミール,肉骨粉等が挙げられるが,利用方法に適切な指導を要するものと思われる。今後開発を推進すべきものとしては,微生物たん白(SCP),家畜排泄物の飼料利用が考えられる。

SCPは,酵母,細菌,藻類等の微生物の成長速度が著しく高いことを利用してたん白質を生合成しようとするものである。その生産に必要なエネルギー源原料の利用を分類すると,その主なものは,1)炭化水素,アルコール類,酢酸の利用,2)パルプ廃液,オガクズ,バガス等の廃棄物利用,3)でんぷん,糖蜜等の農産物利用,4)光合成利用が挙げられる。

世界のSCPの利用状況については,飼料を主体として,ソビエトでは炭化水素を使つて培養したSCPを年間2万トン生産し,将来100万トンの生産も計画中であると言われている。イギリス,フランス等でも,  SCPを製造中である。

日本でも,既に,パルプ廃液で培養した酵母の飼料への利用が行われているほか,農産物,アルコール類,酢酸等を使つて培養した微生物等の飼料への利用の研究も一部で行われている。また,クロレラ,スピルリナ等についても開発利用が進められている。

これらのSCPの飼料化に当たつては,安全性に十分配慮する必要があり国連たん白諮問委員会では,最近「飼料用新たん白源の栄養及び安全面に関する指針」を出している。農林省では,昭和50年度から新たに大型研究として農林水産廃棄物を利用した飼料用SCPの利用開発並びに安全性,品質の評価のための基準の設定等に取り組むこととしている。

なお, SCPの全般的な展望としては,将来,サンシャイン計画等のエネルギー開発計画の成果等によりエネルギー事情が大幅に好転すれば,工業的生産により,高い生産性の下で大量のたん白の供給を行う可能性を有しており,未来技術として注目される。


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