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第1部   安定的発展への新たな要請と科学技術
第1章   社会・経済の安定的発展と科学技術

科学技術は,社会・経済の中に深く根をおろし,今や,国民生活,産業経済などのあらゆる活動の基盤となつている。昭和30年以降における経済の高度成長は,優秀で勤勉な国民の不断の努力によるところも大きかつたが,多くの分野における技術革新が,産業構造を高度化し,生産性の向上をもたらし,更に資源の利用範囲を拡大することなどによつて大きな役割を果たしてきたことは見のがせない。国民生活の面で見ても,男女とも70才を超えた平均寿命,多彩になつた食生活,便利で快適な生活用品,大容量で高度化した交通,通信等に見られるようにその向上・発展に果たした科学技術の貢献は大きく評価されなければならない。

しかしながら,このような科学技術の貢献も昭和40年代に入り,各地に見られる自然環境の汚染や破壊の進行,過密がもたらす交通の渋滞や事故の多発,処理困難な生活廃棄物の増大更には産業の大型化,機械化による災害の大規模化や人間疎外の問題などの種々のひずみが発生する中で,特に科学技術の適用面における反省が求められるようになり,技術の事前評価やより総合性を持つた技術開発の推進を行うことが強く求められるようになつてきた。テクノロジーアセスメントの導入及びソフトサイエンスの振興などの新しい科学技術手法の発展や安全・環境面を重視した科学技術の進展は,こうした時代の要請にこたえたものであるが,このような科学技術の推進によつて,顕在化した諸問題の解決を図り,健康で安全な生活など国民生活の質的な向上に寄与していくことが緊要な課題となつている。

一方,我々の生活と産業活動にとつてその血脈とも言える資源・エネルギー供給の不安定化の問題が重大化している。近時高揚してきた資源ナショナリズムは,資源・エネルギー供給の不安定化と価格の高騰をもたらし,世界の政治・経済に大きな影響を与えつつあるが,主要な資源の大部分を海外に依存している我が国において,この影響は極めて深刻なものであり,科学技術に対する要請も一段と大きいものとなつている。すなわち,これまでのような安価・大量の資源・エネルギーの供給を前提とした大量生産―大量消費の体質から徐々に脱皮する努力を続け,省資源・省エネルギーを重視した生産・消費構造を目指すと同時に,新資源・新エネルギーの開発等によつて,資源・エネルギーの安定供給を図ることが必要となつている。このような問題の解決は極めて困難な要素を伴つているものであるが,この解決のために科学技術の貢献が強く求められている。

今後の科学技術活動は,上述のように増大し変化を遂げつつある社会・経済からの要請に積極的にこたえていかなければならず,その努力の中で社会・経済の安定的な発展に貢献していくことが必要である。また,今後は国際的な動向にも積極的に目を向け,国際的視野の中で科学技術協力を活発化する必要があろう。

本章では,まず,我が国の社会・経済が多くの困難な課題を抱えつつも安定的発展を目指しながら,科学技術にどのような要請をしつつあるかを国民生活の面,資源・エネルギー確保の面及び産業活動の面から見ていくとともに,これらへの科学技術の対応の方向を概観する。

更に,今後の科学技術の推進に際して特に留意し,努力すべき重要な課題として 1)自主技術開発力の強化 2)国際的視点に立つた科学技術協力の推進及び 3)科学技術に対する国民の理解と協力への努力,の3つを挙げこれらについて述べることとする。

(安定的発展を目指す社会・経済と科学技術の対応)

昨年実施された社会意識に関する世論調査(内閣総理大臣官房広報室調査)の結果は,多くの困難な課題を抱えた我が国社会・経済に対する国民の意識・期待を端的に示しているものと言える (第1-1-1図)

第1-1-1図 社会意識に見る現在及び将来の評価と展望

すなわち,潤いのある生活に必要な「心のゆとり」,「自然の尊重」等についてはこの改善を望んでおり,また,我々の健康や安全の確保に必要な「公害問題」や「過密」の解消についても,これを強く望んでいるのが見られる。このような問題の発生は,一方では科学技術の推進・適用に大きなかかわり合いを持つものであるが,他方,その改善のためには,今後の科学技術が大きな役割を担つているものである。更に,我々の生活と産業活動に大きなかかわりを持つ「資源・エネルギー不足」については,これを憂慮しているのが見られるが,これらに対しては,その節約に努めると同時に,新資源や新エネルギーの開発,未利用資源の開発等今後の科学技術の成果が大きく期待される分野である。

また一方,「物質的豊かさ」については,今後,低下すると見ているものの「福祉社会の実現」,「公害問題の解消」については,将来,この改善が進むと見ているのは,今後の安定的発展を目指す我が国の社会・経済についての国民の評価・期待を示しているものと言え,このような面においても今後の科学技術の進展が重要になつていると言えよう。

―国民生活からの要請―

近年の国民生活は,多彩で豊かになつた食生活,各種の医療技術の向上,交通・通信網の整備などに見られるように,種々の面でかなりの向上を見せている。しかしながら,下水道,廃棄物処理等の公共施設あるいは豊かな生活環境に必要な街路,都市公園の整備等の面に見られるようにまだ立ち遅れを見せている面も多く,更に,環境問題,安全問題など国民生活の上にもたらす好ましくない影響が顕在化している。国民生活の水準の維持・向上のためには,食糧,生活用品等についての量的な確保を図つていかなければならないが,同時に,安全で良質な消費財,サービス等が従来以上に要請されている。今後は,このような質的な面の向上にこたえていくことが,科学技術に課せられた重要な課題と言えよう。

このような観点から現代における国民生活に関連する科学技術課題を見ると,健康阻害要因が増大している中で国民の健康の保持・増進を図つていくためには,まず,各種阻害要因の解明,医療技術のより一層の向上に努めるとともに,積極的に健康の増進を図り,複雑化する社会環境にも十分に適応し得る強じんな心身を持つようにすることが重要である。このため,運動,栄養,休養の面において日常生活の適正化を図るための基礎的な諸研究の推進が今後より一層重要となつていくであろう。また,安全の確保については,各種生活用品のフールプルーフ技術の開発をはじめ,食品添加物の検査方法の確立,医薬品の品質管理等の技術開発,また,各種災害については,その事象の解明,予知,予測技術や防災技術に関する研究開発が早急に望まれている。更に,環境の保全に関しては,エコシステムの研究開発をはじめ,各種汚染因子の人体及び自然生態系に与える影響の解明並びにそれらの基礎的技術とも言える計測・環境監視技術の向上,更には破壊された環境を改善する諸技術の開発が急務とされている。このように,生活の質的な向上を図るため科学技術に求められている課題は極めて多いが,特に,我が国において切実な問題となつている健康と安全の確保並びに環境の保全に関連する科学技術の振興が,当面,必要となつていると言えよう。

このような人間福祉を指向した科学技術の重要性については,既に,国際的には1971年のOECD科学大臣会議の報告の申で指摘されており,また,我が国においても,同年に科学技術会議の諮問第5号「1970年代における総合的科学技術政策の基本について」に対する答申の中で,人間福祉優先の科学技術の推進の必要性が強調されているが,上述のような健康と安全を取り巻く複雑な阻害要因の増大という状況において,これらへの総合的な解明と対応を目指す科学技術の振興が一段と必要となつている。近時,このような動きを背景として,生物の諸機能や自然のメカニズムの解明等を通して,より良い人間環境の創造を目指す新しい総合的な科学技術であるライフサイエンス,環境科学技術等の振興が重要となつているが,このような科学技術は前述したような健康・安全・環境といつたような分野の研究開発の推進にも大きく貢献することが期待されている。

-資源・エネルギーの安定的確保からの要請-

石油をはじめエネルギー資源の安定供給は,我が国の社会・経済の発展に欠くべからざるものであるが,我が国はエネルギー資源のみならず,食糧・鉱物などの主要な資源についても海外依存度が高く,しかも国内生産の割合は近年低下の方向に向つている状況にある (第1-1-2図) 。近時高揚してきた資源保有国における資源ナショナリズムは,世界の政治・経済構造を揺るがしているが,上述したように主要な資源の大部分を海外に依存している我が国にとつて,これへの対応いかんは,我が国の経済的地位,生活水準の維持向上に重大な影響をもたらすものである。

第1-1-2図 主要資源の我が国における自給率の推移

このような意味において,国際的視点に立つて,新資源,新エネルギー開発,未利用資源の開発等により,資源の安定的確保を図ることは,極めて重要となつている。

特にエネルギーについては,我が国社会・経済の発展の上で極めて重要な要素となつていることにかんがみ,その節約に一層努めるとともに,原子力をはじめ新エネルギー開発を進めて供給源の多様化を図り,石油依存型の我が国のエネルギー需要構造を困難ではあるが徐々に改善していくことが必要となつている。したがつて,このような面において科学技術が果たす役割は一層大きくなつていると言える。

エネルギーの研究開発は,先駆的技術開発はもちろんのこと,基礎研究の拡充から地道な技術蓄積,更には,環境保全・安全の確保等を考慮したテクノロジーアセスメントの実施等にわたつて均衡のとれた形で展開される必要がある。特に,核分裂・核融合エネルギー,太陽エネルギー,地熱エネルギーなどのいわゆる新エネルギーの研究開発は,大規模かつ長期的に進める必要があるため,研究機関相互の有機的連けいを図り,総合的かつ計画的に推進することが必要である。更に,先進国との研究の分担協力等についても積極的な推進を図ることが有効である。我が国では,既に新型動力炉,MHD発電等の研究開発がナショナルプロジェクトとして行われているが,昭和49年度からはサンシャイン計画に基づいて,太陽エネルギー,地熱エネルギーなどの研究開発が進められている。なお,昭和50年7月科学技術会議エネルギー科学技術部会では,長期的展望に立つてエネルギー研究開発の目標を設定するとともに,その推進に必要な施策について報告書を提出したが,今後のエネルギー研究開発を効果的に進めるためにもこの内容を十分に踏まえて対処する必要があろう。

また,食糧については,近年の世界の食糧需給のひつ迫化傾向から,我が国の自給率の低さが憂慮されている。農産物は,その生産の大部分が土地,水,気象などの自然条件の制約を受けるものであり,また,同時に零細な農業経営などの社会・経済的条件の制約の中で生産されるものである。このように,農産物の生産には種々の条件が複雑に絡み合つているため,生産量を増加させるにはかなりの長い期間を要するが,このような農業生産の性格を踏まえた生産技術,並びに農業経営の合理化に関する研究開発を新たな情勢を考慮しながら推進していくことが必要となつている。

また,我が国の動物性たん白質の半分を担つている水産物の確保については,近年,広大な経済水域の設定の動きなどの国際的な動向を含めて環境条件が厳しくなつている。このような状況に対処するため,資源の保全をまず基調としながら,新資源の開発や栽培漁業技術等の研究開発を積極的に推進することが必要となつている。

-産業の新展開からの要請-

昭和30年代及び40年代前半の経済は,安価豊富な輸入エネルギーと目覚しい技術革新,豊富な労働力を基盤として,いわゆるエネルギー多消費型産業,装置産業を中心に高度の発展を遂げた。

 このため,我が国は先進諸国と比べて,総エネルギー消費の申で鉱工業部門の占める割合が極めて高い消費構成となつている (第1-1-3図)

第1-1-3図 日本,西ドイツ,アメリカのエネルギー消費構成(%)

しかしながら,一昨年秋以降の石油の高価格化,供給の不安定化は今後とも続き,これまでのような石油消費の伸びは望めない状況が予想されている。更に,装置産業などに見られる環境・安全問題等による国内立地難や若年労働力の不足化傾向など生産活動への制約が加わりつつある。このような厳しい状況の下で我が国は,資源の節約と環境の保全,更には技術の集約化を目指すなど産業における新たな展開を図ることが必要とされている。

このような産業の新展開には,それを支える産業技術の発展が必要であるが,特に,廃棄物の再生利用,廃棄エネルギーの有効利用,エネルギー消費の少い新生産プロセスの開発など省資源・省エネルギー技術,単純労働等からの解放と作業効率の向上をもたらす産業用ロボットの開発やNC工作機械の高度利用などの省力化技術,生産施設や工作機械の安全設計などの安全化技術,及びクローズドシステムの開発などの公害防止技術等に関する研究開発,並びに高性能で加工度が高い製品を生産するための研究開発,更には,技術そのものを商品化していくための研究開発などが重要となつている。

一方,このような研究開発には,その基礎となる科学技術を含め,幅広い研究の推進が必要であるが,電子技術,材料技術,極限技術,分析・測定技術,微生物利用技術等の共通的基盤的科学技術の推進も重要となつている。

(科学技術を推進するに当たつての努力すべき課題)

以上,見てきたように,安定的発展を目指す社会・経済における科学技術への要請は,環境,安全問題,資源・エネルギー問題が重要性を増す申で生活や産業に必要な物資,サービスの量的な確保を図ると同時に,健康や安全面での配慮など国民生活の質的な向上を達成することに集約することができよう。

今後は,このような要請にこたえてゆくために,国民生活の向上,資源・エネルギーの安定的確保,及び産業の新展開に貢献する各分野における科学技術の一層の振興を図つていくことが必要であるが,その場合,特に留意し,その達成に努力すべき重要な課題を以下3つに集約して述べる。

第1は,社会・経済からの多様なニーズにこたえつつ自主技術開発力を高めることへの努力である。

前述のように,国民生活の向上,資源・エネルギーの安定的確保及び産業の新展開は,科学技術に対する基本的な要請であるが,これらにこたえるためには,自主技術開発力の強化が不可欠のものである。

我が国の技術水準は,激しい国際競争の下で経済の高度成長を支えてきたことにも見られるように,相当高いものであると言うことができよう。しかしながら,その間の我が国の科学技術は,主として欧米の進んだ技術を導入し,それを消化吸収するという形で発展してきたことも事実である。このため,我が国の科学技術は新領域分野や独創的技術の開発が遅れ,その結果,相対的に自主技術開発力がぜい弱になつたことも否定することはできない。このようなことは,我が国の技術貿易の収支比率が,他の先進諸国に比べて一段と低いところにあることによつても裏書きされているものと言えよう (第1-1-4図)

第1-1-4図 主要国における技術貿易収支比率の推移資料:アメリカ:Survey of Current Business 1974.6 イギリス:Trade &Industry 1974.6西ドイツ:ドイツ連邦銀行統計フランス:BALANCE DES PAYMENTS DE L,ANNEE 1971日  本:日本銀行「国際収支統計月報」より作成。

また,これまでの我が国の研究開発への投資額を対国民所得比及び民間企業における対売上高比で見ると,いずれも先進諸国と比べ著しく低い。前者では,ほとんどの国が2.5%以上であるとのに対し,我が国は,昭和48年度で2.16%にとどまつている。また,後者でも,アメリカ3.5%(1971年度),西ドイツ2.8%(1969年度)に対し,我が国は1.5%(1973年度)となつている。このようなことは,科学技術の歴史が浅く,先進諸国に急速に追いつく必要のあつた我が国にとつて,投資効率の高い技術発展を推進してきたとも言える。

しかしながら,昨今の内外の情勢の変化を見ると,従来のような導入技術に依存した科学技術によつて,社会・経済からの多様な要請にこたえていくことは,今後,ますます困難になつていくと思われる。

第1-1-5図 自主技術開発を進める動機(民間企業)

我が国は他国に比べて環境問題などより厳しい制約下に置かれ,特に,資源・エネルギーの海外依存度が著しく高く,しかも,それらの安価で大量の輸入を前提とした生産構造を形成しており,これからの離脱には,なみなみならぬ努力を必要とする。また,開発途上国における技術水準が徐々にではあるが高まりつつあり,それが安価な労働力と結びついて,我が国の貿易構造の面にも影響を与えつつある。

これらのことは,自主技術開発を進めるに当たつての動機について調査した「民間企業における研究活動に関する調査」の結果からもうかがうことができる (第1-1-5図)

以上のような内外の情勢の推移を見ると,社会・経済からの多様なニーズにこたえ,安定的発展を進めていくためには,独創性の高い自主技術の開発を一層強力に推進することが最も重要な課題の一つとして挙げることができよう。

第2は,国際的視点に立つた科学技術協力推進への努力である。

近時,資源保有国におけるナショナリズムの高まりに具現化した地球上の資源の有限性や偏在性,開発途上国における人口の急増に伴う飢餓,貧困,疾病からの開放,世界的規模での自然環境の汚染・破壊の進行等,全地球的観点から早急に解決を図らなければならない問題が増大している。我が国は,国際的な地位の向上に伴い国際社会の一員としての責務が増しており,これらの諸問題にこたえていくための協力が要請されている。また,国内的にはエネルギー,食糧等の安定供給の問題,環境問題,都市問題など緊急にその解決を図らなければならない重要な問題を抱えており,これらの問題の解決には,諸外国及び我が国の研究ポテンシャルを相互に活用するための研究協力が有効かつ不可欠な状況にあり,このような面における国際協力を推進していくことが極めて重要となつている。

開発途上国との国際協力については,これらの諸国における人口問題及び食糧問題の解決,更には,経済水準の向上など開発途上国の自助努力に待つことが重要であることはもちろんであるが,技術の定着に留意した先進諸国からの協力が必要である。我が国のこれまでの開発途上国への協力を技術協力額の対GNP比で見ると,DAC加盟諸国と比べて低く,その立ち遅れが見られる (第1-1-6図) 。このような協力を他の先進諸国並みに引き上げる努力が必要であるが,同時に,相手国の自然風土及び社会・経済的な諸条件を良く見極めながら実状に応じた研究協力を行い,その過程において開発途上国の技術水準を高めていくことが必要となつている。このような観点から,熱帯農業研究に見られるような相手国内での共同研究の実施,鉱工業分野における相手国との間での共同研究の実施等は,今後の成果が期待されるものである。このような開発途上国に対する協力は,直接的には開発途上国の発展に貢献するものであるが,ひいては,世界全体の食糧需給の緩和や経済発展につながつていくものであると考えられる。

第1-1-6図 主要国の技術協力額(対GNP比)注)DAC平均には,1968年はニュージーランド及びポルトガルが,1973年は同上のほかスウエーデン及びベルギーが除かれている。資料:DAC資料,経済企画庁「海外経済動向指標」より作成。

次に,先進国との国際協力については,先進諸国に共通した,エネルギー問題,環境問題,都市問題の解決など今後の人類の福祉達成に不可欠と言える課題について,近年の研究分野の拡大や研究規模の大型化などに対応して,多数国間の研究協力を行う等,効果的な研究協力を推進する必要が生じている。

このような課題に対しては,近年,人間環境会議,OECD科学大臣会議,国際エネルギー機関などを通じ,国際的な情報・意見の交換が図られつつあるが,今後,国際機関を通じた科学技術面での協力がなお一層活発化するものと考えられ,これらへの積極的な対応が必要となつている。また,二国間協力では,従来は欧米諸国などと原子力利用を中心に交流を行つてきたが,近年,西ドイツ,フランス,ソ連との科学技術全般にわたる科学技術協力協定が結ばれ,科学技術の広い分野にわたる科学者・技術者の交流,情報交換,研究協力等を行うこととなつている。

今後,我が国は,開発途上国の自助努力を促しつつ,積極的な協力を行うとともに,先進諸国と相互に協力できる分野を明確にしながら技術交流を行い,双方の研究ポテンシャルを高めていくことが必要である。

また,とかく先進諸国の優れた成果を導入することに主眼があつたこれまでの状況を反省し,自らの技術開発力を高める努力を続けながら,一層効果の高い国際協力の推進を図つていくことが重要である。

第3は,科学技術活動を国民の理解と協力の申で推進していくことへの努力である。

今後の科学技術活動の推進に当たつては,科学技術の公共的な性格を一層重視していく必要があると考えられる。すなわち,科学技術の影響が広く国のすみずみにまで行きわたるようになり,しかもその影響力が大きくなつた今日では,科学技術の成果が国民福祉につながり,質的に豊かで充実した社会の建設に貢献していくためには,科学技術に対する国民の理解と協力が不可欠の要件である。

これまで見てきたように,今日まで科学技術は,国民生活の向上あるいは産業の発展に対して大きく貢献してきた。また今後,社会・経済からの要請にこたえて,その安定的発展を図つていく上で,科学技術へ大きな期待が寄せられている。

しかし,従来,科学技術を適用するに当たつて,それがもたらす負の影響に対する評価が適切でなかつた事例,あるいは,その推進に際して地元住民等の理解を得るための努力が不十分であつた事例などが存在したことは事実であり,このため国民の間に不安感が存在することも否定できない。

近年,産業廃棄物による公害の発生,都市ゴミ処理,高速自動車道の開設に件う隣接住民への騒音・排出ガス被害,航空機による騒音等の問題に見られるように,地域住民と密接な関連をもつ問題としてとらえることができるものが多くなつている。また,直接の被害はなかつたが,原子力船「むつ」出力上昇試験に伴う地元とのトラブルは,科学技術の推進に際し,その地域住民の理解と協力を得るための努力が十分でなかつた例として見ることができる。

今後,科学技術の推進・適用に当たつては,上述のような例を十分踏まえて,特に,安全性の確保のための研究開発に一層の努力を傾注するとともに,その安全性,信頼性などの重要な点についての問題点を出来る限り予測し,適切な対策を講じるなど,一層の努力を払う必要がある。更に,科学技術振興の重要性について国民の理解を深め,協力を得るよう日常の普及啓発活動,地元住民との対話も進めるなど格段の努力が必要と考えられる。

このようにして,国民の十分な理解と協力が得られることにより,はじて科学技術活動は実効を上げ得るものであり,そのような努力の中で,安定的発展時代における科学技術の使命も達成されるものと考えられる。

以上,本章においては,安定的発展を目指した社会・経済と科学技術の対応及び今後の科学技術活動の推進に際して特に留意し,その達成に努力すべき重要な課題について概観してきた。

第2章以下においては,安定的発展を支えるための科学技術に対する要請と課題を3つの重要な面-(1)健康・安全など国民生活の向上に貢献する科学技術,(2)国際的視点に立つた資源・エネルギーの確保に貢献する科学技術,及び(3)産業の新展開に貢献する科学技術-から具体的に見ていくとともに,これらの要請,課題にこたえるために取り組まれている科学技術活動の動向を見ていくこととする。


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