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  序説

科学技術は,今日まで,国民生活の向上,産業経済の発展を先導する原動力として極めて重要な役割を果たしてきた。そして,今や,科学技術は,社会・経済の中に深く根を下ろし,そのあらゆる活動の基盤となつている。このように科学技術は,それぞれの時代において,社会・経済からの要請にこたえてさまざまな問題の解決に寄与し,更に進んで未知の領域を開拓し,豊かな社会を実現するけん引力となるとともに,将来への明るい展望を得るための不可欠の要素となつている。このような科学技術の発展は,科学者,技術者の不断の努力によるところが大きいが,企業の活動,政府の施策がこれに大きく貢献したことも事実である。今後も,科学技術が,社会・経済を支える重要な基盤として,大きな役割を果たしていくことは疑いない。

しかしながら,我が国の社会・経済は,今や一つの大きな転機に差し掛かつている。

科学技術についても,この新しい事態に対応して,過去の実績を踏まえつつ,更に新たな面における新たな活動が求められつつある。このような新しい事態にいかに対処すべきかということが,現在,科学技術に課せられた最大の課題であろう。

(社会・経済の安定的発展と科学技術の対応)

現在,我が国の社会・経済は,昭和30年代以降10数年にわたつて続いた経済の高度成長時代を終え,転換期に直面している。すなわち,資源ナショナリズムの高まりを背景とする資源・エネルギー供給の制約に対処しつつ,環境問題など高度成長のひずみを早急に解消し,国民福祉の向上を図ることが必要とされている。

このため,自然環境の保全を図りより健康でより安全な国民生活を確保するとともに,社会・経済活動の基盤となる資源・エネルギーの安定的な確保を図る一方,安価・大量の資源供給を前提とした大量生産―大量消費の体質から脱皮することなどが重要な問題となつており,これらの解決を図りつつ社会・経済の安定的発展を進めていくことが要請されている。このような問題は,社会・経済活動の多くの分野に複雑に関連しており,その解決には多くの困難が伴うので科学技術の多大な貢献が期待されているところである。

このため推進すべき科学技術の課題は数多くあるが,現在,特に重要なものは,次の三つに集約できよう。

一つには,国民生活の質的向上に貢献する科学技術の推進である。

国民生活の面では,衣食などの消費生活を中心にかなりの向上を見せたとは言え,環境の悪化,安全問題等国民の健康と安全に好ましくない影響を及ぼす問題が顕在化している。今後は,生活に必要な物資の量的な確保にとどまらず,長期的観点に立つて,健康,安全かつ快適な国民生活を確保するなど,その質的な向上を図ることが要請されている。

このような要請にこたえるためには,問題の所在を事前に察知し,それに対処する先取り的な研究態度の下に,健康を積極的に増進するための栄養,運動,休養などの適正化のための研究開発,新合成物質や各種環境汚染因子の人間及び生態系に与える影響の解明,各種災害や事故の要因となる種々の事象の解明や予知技術の開発等国民生活に密接に関連する科学技術の推進が必要である。その際,特にライフサイエンス,環境科学技術等国民福祉を指向する新しい総合的な科学技術の推進が重要なものとなつている。

二つには,資源・エネルギーの安定的確保に貢献する科学技術の推進である。

国民生活と産業活動に不可欠である資源・エネルギーの安定的確保は極めて重要であり,特に主要な資源の多くを海外に依存している我が国は,地球上における資源の偏在性と有限性を十分認識し,資源・エネルギーの節約とその供給源の多様化などを図つていくことが肝要である。そのためには,石油などに見られるように特定の海外資源に,過度に依存する需要構造からの転換を進めるとともに,国際的視野に立つて,新資源・新エネルギーの開発,資源・エネルギーの高度利用,未利用資源の開発などを目指して研究開発を推進することが重要である。

三つには,産業の新展開に貢献する科学技術の推進である。

我が国の産業は上述のように豊富低廉な資源・エネルギーの大量消費に加えて質が高く豊富な労働力,外国からの導入技術の消化吸収などにより世界に類を見ない発展を遂げてきた。しかし,今や,資源・エネルギーの供給の不安定化と価格の高騰,賃金水準の上昇,開発途上国の輸出競争力の向上,環境問題,安全問題の解決に対する要請の増大等に見られるように,産業を巡る内外の状況は極めて厳しい。このため,高性能で加工度の高い製品の開発を強力に推進し,更には公害防止技術,安全化技術,省資源技術,省エネルギー技術,省力化技術の研究開発を進め,内外の状況に適切に対処していくことが要請されている。とりわけ産業技術の開発に当たつては,単に製品の開発にとどまらず,独創性の高い研究開発の成果である技術そのものを輸出し得るよう努めることが重要である。

更に,科学技術は,このような社会・経済が直面する課題の解決に直接寄与するだけにとどまらず,長期的観点に立ち将来生じるであろう社会・経済からの要請に対応できるものでなければならない。このために,研究開発の基盤となり,あるいは革新的な科学技術の基幹となる電子技術,材料技術,極限技術などの共通的基盤的科学技術の振興に格段の努力を必要とする。

以上述べてきたように,多くの課題を解決するために科学技術を推進していくに当たつて,資源に乏しく狭小な国土に1億余りの人口を抱えて高密度社会を営んでいる我が国においては,従来のような海外からの導入技術の消化吸収というパターンから脱却し,独創性の高い自主技術の開発を強力に進めるとともに,全地球的観点から解決を必要とする課題に貢献するため,科学技術面での国際協力を活発に推進していく必要がある。

(科学技術の計画的推進)

このように,社会・経済の安定的発展を図るために科学技術に課されている使命は,かつてなく重大なものとなつており,これにこたえていくためには今後の科学技術活動の一層の充実が必要となつている。すなわち,科学技術活動を支える主要な要素である研究投資,人材の養成,研究管理等について新たな観点から見直し,その結果を研究活動の推進に十分反映していく必要がある。

我が国の研究投資について見ると,政府,企業等の努力により着実に増加を示し,昭和48年度の研究費は1兆9,809億円と額では最近アメリカ,ソ連を除く先進国と肩を並べるに至つたが,経済活動の規模と比較した対国民所得比率では主要先進国が2.5%以上であると見られるのに対し,我が国は2.16%と低位にある。

今後,我が国において,科学技術活動の活発化,特に自主技術開発の強化の必要性が大きくなつていることからその一層の充実を図ることはもちろん,時代のニーズを的確には握して研究の方向付けを図るとともに,将来の科学技術の飛躍的発展の源泉としての基礎的研究分野の強化に配慮しつつ,研究費を重点的に配分するなど有効な活用に格段の配慮が必要である。

研究者については,昭和49年4月現在23万8千人とアメリカ,ソ連に次ぐ数に達しているが,とりわけ独創性の高い自主技術を開発し得る創造性の豊かな人材の育成が重要となつており,また,学際的研究及び国際的研究協力の増加に対応して,広い視野に立つて総合的判断ができ,更には国際性を兼ね備えた人材の増加が望まれる。

更に,研究者の創意・工夫が生かされるよう研究環境の整備を進めるとともに研究組織の運営を図ることが重要となつている。

そして,上述のような科学技術への要請を的確には握し,それに基づき重点的研究課題の明確化,研究者の育成,研究費の増額,研究体制の整備などについて,これらを長期的展望の下に計画的に推進し,社会・経済の安定的発展に積極的に寄与すべきである。

一方,科学技術の影響が広く国のすみずみまで行き渡り,その公共的性格が一層強まつている今日,科学技術の適用に際しては問題点をできる限り予測し,適切な対策を講ずるとともに科学技術振興の重要性について国民の十分な理解を得るよう不断の努力を傾注する必要がある。

(本書の構成)

本書は,以上のような認識に基づき,第1部では,安定的発展を目指す社会・経済からの要請にこたえていこうとする科学技術の動向を,国民生活の向上,資源・エネルギーの確保,産業の新展開の各分野について,特に,研究開発の面を中心に見ていき,第2部では,科学技術活動を,研究投資及び人材,科学技術情報,技術貿易及び特許出願,国際交流の面から述べ,第3部では,科学技術振興のために昭和49年度において政府が実施した諸施策を紹介している。


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