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第1部  社会発展基盤の強化と拡大のために
第4章  社会開発基盤の強化
第5節  安全の確保
1  現状と問題点


姿を変え,所を変えて発生する様々な事故や災害によつて,依然として我々はその生命や健康を脅かされ続けている。

我が国における事故や災害の発生の原因を見てみると,極めて多岐にわたつており,しかもこれらが複雑に絡み合つていることが多い。

しかし,こうした原因を大きく分けてみれば,おおよそ人工的なものと自然的なものとに大別される。

ここでは,まず人工的な要因による事故や災害から動向を見よう。

最近における技術革新の結果,能率の良さ,便利さ,快適さが著しく増進されている反面,思いもよらない事故や災害が発生していることを見逃すわけにはいかない。

まず,高い経済性を求めて大規模化,集中化,コンビナート化等が推し進められている生産施設については,安全確保策に万一欠陥があつたりするとそれは巨大な規模の災害発生につながる可能性がある。現に昭和48年の夏から秋にかけて各地で続発したコンビナート災害等はまだ記憶に新しいところである。また,日常生活の面に着目しても自動車事故による死傷,ガス器具の誤使用等による火災,中毒,死亡,衣料処理剤による皮膚障害など安全が脅かされる事例は多数発生している。

また,一面において食品,家庭用品および医療品等化学物質の人体に対する影響等,健康面からみた国民的不安が高まつてきていることも見逃がせない。

自然的要因による災害も跡を断たないことを指摘し得る。例えば,最近における自然災害によるり災者数,死傷者数,被害額をみると, 第1-4-20図 に示すとおり,年間,り災者数は数十万人,死傷者数は800人〜2,600人にも達し,被災額は数千億円に及んで重大な問題となつている。多発する自然災害の中にあつても,大河川のはん濫による広範囲の水害は治山治水対策の強化によつて大幅な減少を見せているが,集中豪雨により危険な箇所に建てられた家屋ががけ崩れに巻き込まれるなど局地的災害はむしろ増加する傾向にある。

第1-4-20図自然災害による被害

また,人口や産業の都市集中が顕著となり危険物の大量集積も行われていることなどのため,いつたん災害が発生した場合,次々と二次的,三次的災害が引き起こされ,大惨事に至る危険性がある。更に我が国の地理的,地形的条件も様々な災害の発生しやすい環境を形成している。

人工的要因や自然的要因による事故や災害を包括して死因中に占める不慮の事故による死亡の割合を見ると 第1-4-21図 に示すとおりであり,不慮の事故による死亡の比重は高くなつてきている。

第1-4-21図 死因中,不慮の事故の占める割合の推移

以上見たように,これらの事態は国民生活に対する脅威としてのしかかつており,その根絶は今日における緊急かつ重大な課題となつている。

次に,上記事故や災害等を防ぐための努力について見よう。

これまでも,多様化する事故や災害に対応するために大きな努力が払われてきたが,急速に進行する社会・経済の動きに対応しきれないこともしばしばであつた。しかし今日,安全の持つ重要性が広く認識され,その確保が国民的要請となるに及んで,事故や災害を根絶しようとする努力は強化されつつある。

ここで,安全を確保するにはどのような努力が必要とされるかを見てみれば, 第1-4-13表 に示すとおり,教育・訓練,施設等の整備,規制及び科学技術の研究開発が挙げられよう。

第1-4-13表 安全確保に必要とされる努力

これらの中にあつて,科学技術の役割を見ると,まず,教育・訓練,施設等の整備,規制を支え,前進させていくことが挙げられる。これら3者は,例えば安全施設が十分な技術的裏付けを持つて設置されるのでなければ実効を期し難いなどに見られるように技術的裏付けを必要としており,更に科学技術の進歩によつて前進していく関係にある。

また,安全な製品や工程等の開発が教育・訓練や規制等に先立つてまず行われるべきであるが,このためには科学技術を駆使していくことが必要不可欠である。

更に,自然災害については,地震や台風等の発生を防止する方法が存在しない現在,防災上,予知,予測の占めるウェイトは大きいが,この面で果たす科学技術の役割も忘れることはできない。

こうしたことから,安全を確保する上で科学技術の役割は大きく,使命は重大であるといえる。既にこのような認識から科学技術会議は,諮問第5号に対して昭和46年4月に提出した答申において,重要研究開発分野として安全に関する科学技術を位置付けている。更に,本答申中,国民生活に関連する科学技術を取り上げ,調査,審議を進めた「国民生活に密着した研究開発目標について」(中間報告)においては,科学技術による国民生活の向上との観点に立ち,とりわけ健康と安全が重要であるとして,食品,家庭用品及び医薬品等の化学物質の安全性の確保,火災の防止,自動車事故の防止,地震災害の防止,豪雨災害の防止等について当面推進すべき研究開発目標を指摘している。

以上を背景として事故や災害を防止し,安全を確保する科学技術は年ごとにその研究活動が活発となつている。

最近見落とすことのできないのは,安全の確保に関するいくつかの考え方がクローズアップされ,研究開発に反映されつつあることである。

一つは,「人間は必ず誤りを犯し,機械は必ず故障を起こす」ことを大前提にすえ,なおかつ安全が確保される技術を作り出そうとする考え方である。

まず,人間と機械類の結び付きに着目レ,疲労,誤認,誤動作といつた人間の持つ諸特性を解明してこれに対応し得る機械類を開発しようとするものであり,いわゆるマン・マシン・システムの安全化を図ろうとするものである。また,機械類における故障等異常状態に着目し,どのような事態が発生しても作動,作用は必ず安全側へ向かうことをねらいとし,いわゆるフェール・セーフを含むものである。

いま一つは,自然の物理的メカニズムを解明して自然災害による被害の発生を防止しようとする考え方である。

先述したように,予知,予測は防災上の鍵であるが,現在,自然の物理的メカニズムはなお厚いベールに覆われており,正確な予知,予測は困難なことが多い。したがつてこのようなメカニズムの解明が急務となつている。

以下,こうした考え方を踏まえながら,安全を確保する科学技術の動向を概観することとする。


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