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第1部  社会発展基盤の強化と拡大のために
第4章  社会開発基盤の強化
第4節  環境の保全
2  研究開発の動向


環境を保全する科学技術の研究活動は,年々著しく活発なものとなつている。

このことは,例えば,総理府統計局の「科学技術研究調査」によれば,大学を除く公害防除研究費は,昭和45年度169億円,46年度327億円,47年度513億円と大幅な伸びを見せていることからも分かる。

環境を保全する科学技術は,ライフサイエンスや化学,物理学等の学問分野の広範な応用に基づくものであり,この取り組む課題は,地球全体の適切な利用のあり方に始まり,大気汚染,水質汚濁の防止等から美観,景観の保全にまでと極めて幅広いが,ここでは,当面国民にとつて大きな問題となつている大気汚染,水質汚濁,土壌汚染,騒音,振動,地盤沈下,悪臭を取り上げ,これらに関して,(1)環境の仕組みを解明し,適正な環境利用のあり方を求める科学技術,(2)環境破壊の状態をは握する科学技術,(3)環境破壊因子の排出を防止する科学技術,(4)破壊された環境を修復する科学技術,及び最近における資源問題の重大化に対処して,(5)環境の保全とともに資源の有効利用を積極的に推し進める科学技術を概観することとする。


(1) 環境の仕組みを解明し,適正-な環境利用のあり方を求める科学技術

このような科学技術は,最近とみに注目されてきたものであり,我が国のみならず世界各国が活発にその研究開発に取り組んでいる。

まず,関東南部を対象として,風系等の下層大気の構造や運動と,表層生物の保全を中心とする都市生活環境の基本的方向に関する調査研究が行われた。

これは,植物の活力を大気汚染の指標として採用し,傷んだ樹木が復元不可能となる点を耐性限度として調査を行つた結果,今後50年内に東京都内地区の樹木のほとんどが耐性限度を超える危険性のあること,及び産業,交通施設の適切な再配置,自然緑地p確保等が必要であることを指摘するとともに,環境の破壊を防止するたかとは,環境容量の概念を導入すべきこと,総量規制の必要なことなどを示唆したものである。

また,農林水産生態系における汚染物質の循環と指標生物に関する研究が進められている。この研究においては有機汚染物質,農薬等の土壌中の行動及び生物の状態を解明するとともに,大気汚染の指標としての生物の利用を図るものであるが,土壌中における有機汚染物質の分解量,有機有害物質の土壌中での行動,果樹や雑草木の耐性限界等多くの項目について解明が行われている。このほか,大気浄化,自然災害防止等,植物や土壌の持つ機能に着目して,開発適地を決定する研究が行われた。

更に,除草剤の林床動植物,土壌微生物,土壌性質に及ぼす影響と残留・転流に関する研究,農林漁業生産活動の場における生態系のは握及び環境を保全する農林漁業技術体系の確立等を目指す研究,瀬戸内海について大型水理模型を建設して海流,排水拡散,埋立事業の適否,海域の汚濁防止条件の解明を行う研究が進められている。

また,水質の汚濁について,試験水槽を用いて工場排水の分散,移動,希釈現象を解析する拡散モデルの研究等が行われている。これ以外にも,道路交通,道路構造と騒音,排気ガス,振動の関係を解明し,道路環境の基準設定を目指す研究等が行われている。


(2) 環境破壊の状態をは握する科学技術

環境破壊の状態をは握する科学技術は,大きく分けて,環境に関するデータを分析して環境破壊度を測る技術と個々の計測データを提供する技術に分けられる。

まず,前者について見ると,大気汚染の測定については,汚染地域を箱形に分かち,風,気温,地形等のデータから立体的な風の流れを取り出し,これを使用して,汚染物質の蓄積状況をとらえる数式モデルやガウス型の拡散モデルによつて大気汚染度の計算結果を人間が修正しながらその正確な値を測定するシステムが開発されておりその結果が注目される。また,風洞を使用して大気乱流の構造と拡散条件との関係を明らかにし,汚染を予測するシミュレーション手法の開発が進められている。

個々の計測データを提供する技術について見ると,最近脚光を浴びているものに生物を使用する方法がある。生物を使用する方法は,化学的,物理的計測法と異なり,一つの計測対象にとどまらず環境全体の状況を総合的には握する指標となり得るものと考えられるので,今後その発展が望まれる。

東京都においては,このような生物指標の一つとして,シデムシ,コガネムシを利用して環境破壊の程度をは握する調査研究を行い,実用化の見通しを得ている。このほか,カイガラムシ,タバコ,ケヤキ等の動植物の利用についても研究が進められている。一方,物理的,化学的計測法としては,大気汚染について有毒ガス,粉じんに対する計測機器の改良,標準化並びに自動車排出ガスの測定法,評価法の研究等が進められており,水質汚濁についても簡易なBOD測定法の開発等測定機器,測定法の開発が行われている。

このほか,悪臭,騒音,振動等について,多数の機器,測定法が開発されている。


(3) 環境破壊因子の排出を防止する科学技術

このような技術として最近とみに注目されているのは,従来の原理機構を転換し,根本的に環境破壊因子を無くしていこうどするものである。本項では,まずこのような科学技術を述べ,次いで,大気汚染,水質汚濁,騒音,振動,地盤沈下,悪臭等の各面における技術開発の動向を述べる。なお,こうした技術が別種の公害を発生することのないように留意する必要がある。


1 機構・原理を転換し,環境破壊因子を無くす科学技術

工業原料として必需品でありかつ大量の使用がなされているカセイソーダについては,その製造に水銀を使用しない隔膜法の研究が行われ,既に実用化の運びとなつている。更に,メツキ加工については,グロー放電を利用して蒸発させた金属をイオン化させてメツキするイオン化静電メツキ法の研究が進められている。

また,処理困難な廃液を発生する染色加工については,気相染色法等の非水染色法,溶融に重油を使うため窒素酸化物を排出するガラス製造については,電気炉による製造法が,土壌汚染や食品汚染問題を起こしている農薬については,生物を利用するいわゆる生物農薬がそれぞれ研究されている。

更に,これまで腐敗せず,発熱量が高く,燃やせば有毒ガスを発生するため処理に困難を伴ったプラスチックについては,放置すれば光で崩壊するもの,無機質成分が多い等のため発熱量の低いもの,燃やしても有毒ガスを発生させないものなどの開発が進められている。


2 大気汚染因子の排出を防ぐ科学技術

大気汚染については,排出基準の設定などの防止方策が採られているが,更に一地区における汚染物質の総量を規制することも検討され,可能な限りその排出を減ずる努力がなされている。硫黄酸化物の除去については,直接脱硫法,ガス化脱硫法等の研究開発が行われている。窒素酸化物の除去については,まだ遅れている現状にあるが, 一般の工場に使用し得る除去装置の開発が進められている。これとともに,硫黄酸化物,窒素酸化物を同時に除去する装置の研究が行われた。

また,都市における大気汚染の大きな原因の一つとして指摘された自動車排ガスについては,酸化触媒の使用により低温で効率良く排ガス中の一酸化炭素,炭化水素を酸化させる方法やロータリー・エンジン,複合渦流調整燃焼方式エンジンの開発に力が注がれ,成果が得られている。


3 水質汚濁因子の排出を防ぐ科学技術

排水中に含まれるカドミウム,水銀等の有毒重金属類や,BHC,PCB等の化合物類はやがて海に流れ,あるいは土地に含まれ,食物連鎖により濃縮されて人間に取り込まれるので,その時々の排出量が少なくても極めて危険である。

また,リン,窒素及び有機物は,湖水や海水を富栄養化状態に置き,有用生物に大きな打撃を与えるものであるので,水資源確保の面と合せて食料資源確保の面からも重大な問題である。

重金属類の排出防止については,石炭から生産されるニトロフミン酸を原料として,カドミウム,水銀等をほぼ完全に吸着する重金属捕集剤やサンゴ化石を用いた捕集剤の開発が行われている。

PCB等の化合物類については,紫外線等によつて処理する技術の開発が行われている。

リン,窒素,有機物については,下水に消石灰を加えてリンを沈殿除去する技術,凝灰石の一種であるゼオライトによつてアンモニア性窒素を吸着除去する技術及びメダカの一種であるグッピーに有機物を摂取させ汚水処理する方法について研究が進められている。また, PCBやプラスチックを分解する微生物の活用についても研究が行われている。一方,海洋汚染については,海中での土木工事の際,当該工事をアワの壁で包み,工事からの汚染を防止する技術,船舶から発生する油水を分離し,油分の海上漏出を防ぐ技術等の開発が行われている。これとともに海面重油をニトロフミン酸粉末に吸着させて沈める技術の開発が進められている。

更に,研究施設から排出される固体,液体の有機物,無機物をけいそう土を用いて粉末化回収するシステムの開発が行われ,実用化の運びとなつている。


4 騒音,振動を防止する科学技術

都市再開発に伴つて建造物を破砕処理することが多くなつているが,一方でこれらは激しい騒音を伴い,近辺の住民生活に大きな問題となつている。

これに対して,マイクロ波を照射してコンクリート構造物を内部から破砕する技術,テルミットを使用して破砕する技術の開発が鋭意取り組まれている。

また,産業廃棄物の処理については,超低温のLNG等(一160C°〜200°C)を使用して廃棄物の弾性を失わせ,破砕時の騒音発生を防ぐ技術が開発されている。

一方,機械装置に関しては,消音器や消音材料を用いての騒音の防止やゴムを介しての振動の防止について研究が進められ,成果が活発に利用されている。ジェット機の出すエンジン騒音については,騒音発生機構を明らかにするとともに,前後のダクトに吸音効果を付与して低騒音化を図る研究が行われている。更に,コンクリート造りアパートの上階からの不袂な床衝撃音については,床を適当なクッション材をはさんだ二重構造にすることにより低騒音化を図る研究が成果を収めている。

これらのほか,自動車の低騒音化を目指した研究が行われている。


5 その他

悪臭の防止については,水産加工場について中温酸化反応装置を用いて脱臭を行う研究や畜産分野における動物の排せつ物からの悪臭発生を防止する研究が進められている。

また,地盤沈下については,在来の調査研究資料を基として地盤沈下モデルを作成し,沈下の定量的予測を行う試みがなされている。


(4) 破壊された環境を修復する科学技術

環境の破壊は,騒音,振動,悪臭の場合を除き多くは蓄積されていく傾向の強いものであり,これまで破壊された部分は放置すれば容易に復元しないと考えられる。したがつて,何らかの作用を加えて修復することが望まれる。現在のところ,このような科学技術の研究開発は,緒についた段階であり,まだ十分な成果が収められていない。現在進められいるものとしては,漁業資源を損なうヘドロ汚染について,これを凍結して除去する方法の研究がある。また,著しく汚濁の進行している瀬戸内海について,四国山脈を経由してパイプラインを設置し,太平洋の海水を導入してその浄化を図る研究も試みられている。

このほか,特定有害物質で汚染された農地土壌の改良対策の研究が進められている。


(5) 環境の保全及び資源の有効利用を図る科学技術

近年あらゆる方面で資源の不足が叫ばれており,「使い捨て」型の資源利用に対して厳しい反省が行われている。とりわけ資源のほとんどを海外からの輸入に依存している我が国にとつて,このことは極めて重要な意味を持つものであり,環境を保全するとともに,更に進んで汚染の原因となるものを利用していく気運が盛り上つてきている。

このため,まず,廃棄物を資源に転化する技術の重要性が認識されるとともにその開発が強く要請されるに至つた。更に,こうした資源化技術と生産工程を有機的に組み合わせ,環境破壊防止と資源の有効利用を図るクローズドシステムがとみに注目され,積極的な取組みがなされている。したがつて,以下廃棄物の資源化を図る科学技術及びクローズドシステムを目指す科学技術についてそれぞれ最近の動向を述べる。


(1) 廃棄物の資源化を図る科学技術

大量に排出され,その処理が問題となつているプラスチック廃棄物については,これを熱分解し,燃料油を製造する技術の開発が進められており,既に実用規模のプラントが建設され,これを用いた研究が行われている( 第1-4-19図 )。また,触媒等によつてプラスチックを分解,破砕し,原料化するなどその再利用を図る技術の開発が進められている。

第1-4-19図 プラスチック廃棄物熱分解処理装置概略図

これとともに,固型廃棄物については,都市ごみの処理・再利用技術,石油精製の際のアスフアルトからエチレンを生産する技術等の開発が行われている。

更に,アルミニウムの製錬については,電解そうから発生するガスを利用した氷晶石製造法が実用化されているが,更に不要となつた赤泥から軽量骨材等を製造する技術の開発が取り組まれている。

鉄,銅,亜鉛等の金属の製錬に関しては,発生するスラグから骨材等の有用物資を得るための研究開発が行われている。

また,メッキ工程の第1水洗液を電気分解し,有用重金属,アルカリを回収するとともに工程外へのスラッジ等の排出を大幅に縮減する技術の研究が行われ,成果を収めている。紙パルプ製造工程から排出される廃液スラッジを利用して建材ボードや繊維壁材を製造する技術の開発が進められている。

家畜のと殺場から排出され,河川汚濁等の原因となつているスラッジについて生物学的,化学的処理を行うとともに,含まれる血液,浮遊物を回収して飼料として活用する技術が開発されている。また,原子力発電所等から排出される温排水を利用して魚介類を養殖する技術,し尿を発酵処理することにより環境への排出を防ぎ水分を利用可能な水として回収するとともに有機肥料を生産する技術の開発が行われている。


2 クローズドシステムを目指す科学技術

クローズドシステムは,システムの内で作り出された廃棄物をできるだけ資源化し,最終的に資源化できないものは,処理,処分を行うことによつて有害な廃棄物を系外に出さない技術システムである。このシステムの規模は,多種多様な原材料を用い様々な製品を生産している一つの工場の場合もあり,また,製品の生産と原材料消費が多数の場で行われている地域において地域ベースで行う場合もある。

このような技術を開発していくためには,各企業で排出される廃棄物の量のは握,性状分析,生産工程の総点検,廃棄物の相互利用及び再利用の検討等の手順から基本的設計の開発が重要である。このような基本設計の開発についての研究開発は近年,ようやくその緒につき研究が行われている。今後,民間企業の積極的協力の下にこのような基本設計の開発が各方面で取り組まれることが望まれている。


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