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第1部  社会発展基盤の強化と拡大のために
第4章  社会開発基盤の強化
第2節  社会システム充実のための科学技術の適用
5  交通



(1) 現状と問題点及び研究開発の方向

国民生活の高度化に伴い,交通と国民の日常活動とのかかわりはとみに深まり,ますます密接となつてきている。

現在の交通体系を形成している交通手段を見ると,都市間には航空機,新幹線,一般鉄道,高速道路,一般道路,旅客船等が,都市内には電車,地下鉄,モノレール,バス,乗用車等がある。47年度におけるそれら輸送機関別の旅客輸送量は,鉄道については,新幹線新大阪‐岡山間の営業開始や地下鉄等の伸びにより前年度に比べ順調に伸びたほか,航空,旅客船はともに大幅な伸びを示したこ。また,自動車は自家用乗用車の伸び率の低下などもあつたが依然増加している。

昭和47年度現在の輸送機関別の人キロ分担率は,自動車(50.7%)が昨年度に続いて鉄道(46.3%)を上回つている状態であり,交通量全体は6,482億人キロ(対前年度伸び率4.8%)と増大し続けている。

第1-4-13図 輸送機関別旅客輸送入キロ分担率の推移

しかしながら,このようにモータリゼーションの進展した交通を巡つては以下に述べるような様々な問題が起きている。

まず最初に,都市化の進展の結果,自動車等の急速な増大に伴う路面交通の慢性的な交通渋滞と,大都市における通勤鉄道の輸送力不足に基づく混雑である。

道路渋滞の激化により路面交通手段の輸送効率は近年軒並み低下しており,バス,タクシー等は必要な輸送力を確保し得なくなつている( 第1-4-14図 参照)。鉄道では国鉄,民鉄の輸送力増強対策にもかかわらずラッシュ時には200%をこえる混雑度を示しているものが多い。

第1-4-14図輸送効率の低下

次に,交通事故と交通公害の問題である。交通事故は交通事情の悪化,交通諸設備の不備などによつて多く発生している。道路交通による事故は全国的に減少傾向を示しているが,都心周辺部や中小都市では減少率が低く,依然として大きな問題となつている。また近年,航空機,鉄道,船の事故も相変わらず発生している。

交通公害の大きな問題は大気汚染,騒音及び振動である。都市の大気汚染の大きな原因の一つは自動車によるものである。自動車の排ガス中の有毒成分は一酸化炭素,炭化水素,窒素酸化物等であり,これらによる大気汚染は年々広域化しつつある。騒音,振動の問題は特に飛行場附近,新幹線沿線,幹線道路附近で大きな問題となつている。

以上述べた大気汚染,騒音,振動はもちろんのこと,交通渋滞や交通混雑は肉体的,精神的のいずれの点からも国民の健康にとつて重大な問題となつている。

更に既存の交通手段では対応し得ない新しい交通需要が発生していることがあげられる。 第1-4-15図 はトランスポート・ギャップを示したものである。これによれば距離と輸送需要との関係から見て徒歩と自動車との間,及び自動車,鉄道と航空機の間の速度を持つ交通機関を欠いていることがうかがえる。

第1-4-15図輸送需要曲線

以上述べた様々な問題を解決し,多様化する交通需要を満たし,交通を真に利用者のものとするには各交通手段の持つ特性,利点を十分発揮させるように位置づけを明らかにし,地域毎例えば,都市間,都市内,都市と郊外の連絡,郊外あるいは新都市内,過疎地等の違いによりその地域の交通手段を相互に有機的に結合し,最適交通体系を作り上げねばならない。その場合各地域間の調和を十分に考慮する必要がある。

そのためには,公共輸送機関網を整備するなど既存交通手段の有効利用を図るとともに,既存交通手段を補完する新しい交通手段を開発,導入することなどにより,より改良された交通体系を確立することが急務となつている。また,この交通体系は安全性,快適性等良い交通サービスを提供することに重点を置いた利用者主体の考え方に基づいたものでなければならない。

更に利用者の生活様式や意識の変化によつて交通体系に対するニーズは変化するので,このような事態に対応できる柔軟性の高い体系であることが望まれる。

以上のような観点から,政府,民間で進められている研究開発を,1)総合的発展のための研究開発と,2)交通体系を構成する要素となる交通手段の技術開発とに分け概観する。


(2) 研究開発の動向
1 総合的発展のための研究開発

総合的発展を目指した研究開発は各方面で行われている。例えば,運輸省,建設省では都市交通の現状のあい路の打開,あるいは新しいパターンの交通需要への対応手段として最近内外で研究開発が進められている新交通手段に関しての技術評価やケース・スタディを行い,都市交通への適応性の調査研究を行つている。

また自治省においては,都市の交通体系についてケース・スタディを行い,地下鉄とバス網との組合わせによる最適交通体系実現の方策について検討を始めている。

このほか,民間においても,通商産業省の指導の下に最近注目を集め始めたV/STOL機の開発の前提となる諸条件の調査分析を行い,総合的発展に資するためその都市間交通におけ.る役割の調査に関する研究も行われている。

今後の方向としては,地域全体の交通手段の最適組合わせ等を考慮した交通体系発展のためのソフトウエアの開発が望まれる。


1 要素となる交通手段の技術開発

交通体系の構成要素となる交通手段の技術開発を

1) 現在の交通の流れを改善するもの
2) 既存の交通手段に技術的改良を加えるもの
3) 既存の交通手段の利用方法を改善するもの
4) 新しい交通手段を開発するもの

に大別し概観する。


(イ) 現在の交通の流れを改善するもの

広域交通管制システムが代表的な例である。これは,既存の自動車道路を変更せずに,自動車全体の流れを制御し,自動車交通全体の効率を高めるシステムである。このシステムは交差点での交通量を感知し,交通信号を制御することによつて交通渋滞を緩和するものであり,現在,東京,札幌,北九州等の交通混雑の激しい一部地域で実施されている。

その管制システムを機能的にレベル・アップしたものとして,通商産業省工業技術院が昭和48年度から5か年間計画で推進している自動車総合管制システムがある。この総合管制システムは,自動車の走行誘導,走行情報の車両表示,緊急通信などを行い,自動車の流れを良くし,最適化しようとするものであり,現在,自動車との情報伝送を中心に実験が進められている。

また,海上交通に関しては,東京湾,京浜港,川崎区及び横浜区で管制室から無人信号所を遠隔操作して港内,航路の管制及び情報提供を行う海上交通管制システムが実施されている。

このほか,航空管制システム,リアルタイム交通情報システムなどが一部実施あるいは研究開発が検討されている。


(ロ) 既存の交通手段に技術的改良を加えるもの

自動車については,低公害エンジンなど種々改良が行われているが,いずれも排気ガスを伴うものであつてより一層の技術開発が望まれる。更に燃料消費効率の点でも改良すべき課題が残されている。

公害等の諸問題の解決に貢献するものとして研究開発が進められている電気自動車は,排気ガスを放出せず騒音も著しく低下するばかりでなく,運転操作が簡単になるという長所を有している。工業技術院では46年度より大型プロジェクトとしてこれを取り上げ,高性能電池及び利用・充電システム等を中心に研究開発を行つている。現在,牛乳,新聞等の小口配達用や電力会社等の巡視用として一部実用化されている。

また,運輸省においては,48年度より5か年計画で都市交通に適した低公害自動車の研究開発を行つている。

そのほか,安全性を高めるとともに省力化を図るため超自動化船,列車運転の全自動化,新幹線の COMTRAC 等が,また,騒音防止のため地下鉄のゴムタイヤ車輪や低騒音ジェットエンジン等の研究開発が進められている。


(ハ) 既存の交通手段の利用方法を改善するもの

これに属するものは,バスを主体として利用方法を改善したもので,無軌道輸送システムといわれるテマンド・バス,ミニ・バス,シティカー・システム,更にはバス・ロケーション・システムなどがある。

デマンド・バスは,輸送需要の個別的な発生に対応してバスの配車を制御するシステムであり,従来のバスと異なるのは時刻表に従った運行が行われない点にある。このシステムの導入地域としては,比較的過疎な地域が適している。既に大阪府能勢町で実用を開始している。

シティカー・システム(公共レンタカー・システム)は,都市において交通混雑緩和のために小型自動車を公共的に利用しようとするシステムで現在,管理のためのソフト・ウェアの開発が進められている。

更に,バス・ロケーション・システムは,バスの現在位置をとらえスケジュールとの違いを検出しフィード・バックすることにより,バス運行を正確に行うシステムである。導入地としては,道路交通混雑が激しく旅客輸送需要の大きい比較的過密な都市が挙げられている。東京では一部実施されている。


注)  Computer aided traffic controlの略でコンピュータを使つて列車の運行を管理するシステム。


(ニ) 新しい交通手段を開発するもの

既存の交通手段の引き起こしている各種の問題をできるだけ解消するような新しい技術を取り入れた連続輸送システム,軌道輸送システム,複合輸送システムと呼ばれるものが新しい交通手段として研究開発されている。

連続輸送システムは,ベルトコンベアなどを使つて動く歩道式に連続的に運ぶものの総称である。このシステムは,交通需要の多い短距離交通例えばエアーターミナル,繁華街,ターミナルビル内,駅と繁華街の間などに適している。現在新宿副都心再開発地区での導入が検討されている。

軌道輸送システムは,これまでの鉄道技術,自動車技術に最近目覚ましい発展を遂げたコンピュータ制御技術を加えて,最も数多くの種類の研究開発が進められている。

この軌道輸送システムは,専用軌道の上を専用の車両が自動的に走行する交通手段であり以下の2つに大別される。

第1の中量軌道輸送(ガイド・ウェイ・バス)システムは,市電,市バスを自動化したものと見られ都市高速鉄道と都市内のバスとの中間的輸送力を持つと考えられているシステムである。このシステムは交通サービスの質を落とすことなしに非常に広い範囲の交通需要量の変動に対応できるという運用の柔軟性からニュータウンあるいは地方の中刻都市や中小都市の主交通手段等に適用されることが考えられている。

第2は,個別軌道輸送システムと呼ばれているもので,タクシーの無人化に相当するものである。現在,沖縄海洋博で導入実験が検討されている。

複合輸送システムは,在来の自動車と新交通手段を有機的に複合化し,より優れたシステムとしようとするものである。有軌道と無軌道,本線輸送と端末輸送等の2つ以上の機能を必要とするような地区に対して適用される可能性が高いと考えられている。

一方,将来は都市間交通において主要な役割を果たすものと期待される超高速鉄道とV/STOL機の研究開発がある。国鉄で開発が進められている超高速鉄道は,超電導磁気浮上リニア・モーター方式で鉄道高速化の壁である車輪とレールの粘着,車体支持及び集電の面で従来方式とは全く違った新しい技術を集大成しようとするものである。

短距離で離着陸ができ低公害のSTOL機については,高揚力装置,安全操縦性,離着陸特性及び運航方式に関する研究開発が,また,ヘリコプターのように垂直に離着陸のでき,かつ高速のVTOL機については遷移飛行(VT OL実験機の試作を含む),自動化技術,低騒音エンジン等の研究開発が進められている。

以上のほかに最近見直されてきた交通手段にモノレールがある。モノレールは自動車のように排気ガスによる大気汚染をもたらさず,ゴムタイヤを使うため騒音も少ない。現在各地で進められている導入構想には,都心と工業地帯あるいはニュータウンとの連絡,地方都市内交通機関としてなどがあり,地方都市交通の主役になると期待されておりそのため改良,開発が行われている。また,これについて建設省ではモノレール導入のための調査を各都市で実施している。

地域の交通体系は地域計画全体との関連を考慮しつつ進められる必要がある。特に,現在検討中の新交通手段の多くはこの建設空間を道路上に求めているので,いかにして新交通手段の施設と進路計画とを調和させるかが重要な課題となつてくる。

また,交通事故,交通公害,交通混雑等の解消を目的に導入された新交通手段が,別種の公害を起こすことになつてはならない。例えば,都市景観との調和,日照権,プライバシーの確保など人間活動の細部にわたつて意が払われたものであることが望まれる。


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