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第1部  社会発展基盤の強化と拡大のために
第2章  資源・エネルギー基盤の強化
第4節  食料資源の確保と開発
2  研究開発の動向


さきに述べたような問題に対応して,食料を安定的に確保していくためには,育種,地力保全,栽培管理等の農業生産の基本的な諸技術並びに漁ろう,増養殖などの漁業の基本的な諸技術を発展させるとともに,農業,漁業の装置化・システム化に対応したシステム技術やコンピュータを利用した地域営農集団経営管理技術などの研究開発が要請されている。

更に,未利用資源の開発や農林業における公益的機能の解明などへの要請も高まつている。

したがつて,以下においては農業,漁業生産の基本的な技術,装置化・システム化に対応した技術,未利用資源の開発,農林業における環境保全技術とに分けて,研究開発の動向を述べることとする。


(1) 農業,漁業生産の基本的な技術

農業,漁業生産の基本的な技術については,各分野で 第1-2-11表 にその概略を示した研究が活発に進められているが,最近,特に注目されている地力培養,農薬を余り使わない害虫防除技術,自給率の低い作物の生産技術についてやや詳しく述べる。


(1) 地力培養技術

農業の土地生産性の基本となる地力を培養していくためには,堆・きゅう肥などの有機質肥料の施用が最も有効であるとされている。しかしながら,近年,有機質肥料の施用は,生産構造の変化や労働力不足により減少傾向を示しており,最近各地で地力との関連で問題にされ始めている。地力が低下すると高い水準の生産性が維持できないばかりが,冷害とか干ばつなどに対する抵抗力が弱まつて安定生産ができない。したがつて,有機質肥料を豊富かつ安価に供給することが必要である。そのための研究開発としては,わら,家畜糞尿などを施用するための研究や地力の本質を解明するための基礎研究が広く行われている。


2 農薬をあまり使わない害虫防除技術(害虫の総合防除法)

これまでの殺虫剤の使用量の増加に伴い殺虫剤抵抗性害虫の出現,天敵のへい死,生物相のかく乱,殺虫剤の残留などが生じた。

したがつて,今後の害虫防除法としては安全,省力,効率の観点から現在考えられる種々の防除方法の技術の向上を図りつつ,これらを総合的,有機的に結合する総合的防除法の研究開発が進められている。

第1-2-11表 農業及び水産業に関する主な研究


この防除法の研究開発について,個別技術の開発を見ると,殺虫剤については,低毒性,易分解性,殺虫選択性の高いものを目指して研究開発が行われており,その適切な使用方法についても研究が進められている。

一方,殺虫剤以外の防除手段に関する研究については,害虫の生態,発生予察,被害並びに天敵の利用,性フエロモンの利用,不妊化技術などの研究が進められている。

更に,以上の個別技術を組み合わせた総合的な防除技術体系,経済的被害水準に関する研究等を進められている。


3 小麦等麦類・大豆・飼料作物の生産技術

これらの作物は,我が国の食生活の重要な要素になつているにもかかわらず,昭和47年度における自給率は小麦5%,大豆4%,濃厚飼料3%と非常に低く,我が国の食料の安定供給のためには,これらの作物の国内における生産振興を図ることが必要である( 第1-2-10表 )。

従来これらの作物の生産が増加しなかつたのは,収益性が低いこと,我が国の収量が不安定であること,他の作物との作期及び労働力が競合することなどによるためである。

今後,小麦等麦類,大豆の生産を増大していくためには,品種改良,栽培改善を進めるとともに機械化・省力化技術体系を確立して労働生産性を大幅に向上させることが重要な課題である。

しかしながら,この技術を広範に適用するには,

1) 大型機械が効率よく運行できるように,ほ場が大区画で用排水が自由にコントロールできる土地基盤の整備を進めること。
2) 大規模な生産単位を作り出すために,集団栽培などの生産組織を作ること。
3) 農作物の栽培方式として,土地の有効利用,労力配分の適正化,地力の培養などの観点から輸作を導入すること。

などが必要である。

特に,小麦の場合,水稲の植付け時期までに収穫可能な早熟品種の育成,大豆では,たん白質含量の高い大豆,耐病性品種育成等が重要な課題として研究が進められている。

飼料作物については,栽培面積も多くかなりの増産が見込まれるものの生産については,調製・流通技術を確立することが重要である。しかし,我が国は,牧草生産量が多い夏期に高温多湿のため調整貯蔵及び流通過程に問題があり,生産拡大に対する大きな障害となつている。そのため農林省においては昭和46年度から粗飼料流通化のための技術開発を総合的に進めており,乾草の流通化のための調整技術,加工乾草のための技術開発,サイレージ流通化のための技術開発,流通規格の設定に関する研究開発が進められている。


(2) 装置化・システム化に対応した技術
(1) システム技術
(イ) 乳牛自動飼育技術

乳牛の飼養管理には複雑な作業が多く,経営規模が小さいため,これまで機械化が困難であつた。しかし,200〜300頭という多頭飼育を前提として飼養管理の全過程の完全機械化自動化が実用化しつつある。この方式では粗飼料は,自動給飼装置でハーベストアからヘイレージが飼槽に無人で供給され,乳牛は常時採食することができる。乳牛は,この飼槽から通路等を往復することにより適当な運動を行うことになり,舎内にありながら実質的には放牧状態の飼育が可能である。

搾乳は,60〜70頭を単位として待機室に追いこみ,順次6頭づつ搾乳室に入れる。搾乳室に入つた牛は,自動的に床面から噴射される冷水と温水で下腹部が洗われた後,オペレーターによつて乳房や健康状態が確認され,ミルカーで搾乳される。搾乳された牛乳は,配管により牛乳処理室に送られ冷却貯乳される。

個々の牛の搾乳量は自動的に計算され,飼料給与量を乳量に応じて自動給飼する装置により濃厚飼料の給飼が行われる。

更に,糞尿については,自動糞尿処理装置により水洗,かくはんされ,スプリンクラーにより計画に基づいて草地に散布される。

このような作業のほとんどは,オペレーターのスイッチ操作によつて行われ,牧草の生産を含めても全作業を3〜4名で行い得るという非常に効率の高いものである。

このような装置は,非常に多額の設備投資を要するものであり,そのより効率的な運用方式の確立と個別技術の改良のための研究開発が進められている。


(ロ) 施設園芸システム技術

施設園芸は,ガラス室あるいはビニールハウス(これらをハウスという。)に温度調節装置やかん水施設を設置し,作物の生育環境をコントロールして,作物の促成あるいは抑制栽培を行うものである。施設園芸の普及は生鮮野菜などを年間を通じて供給することを可能にし,近年その発展が目覚ましい。

我が国における施設園芸は,従来規模が小さく余り高度な環境制御は行わず,多くの作業を手作業に頼つていた。

しかし,近年1棟当たり1,000m2 以上の規模のものを集中して1カ所に多数設置する動きが進んでいる。これに対応して,このようなハウスにおいては,作物生育環境制御を中心として多くの作業行程は機械化,自動化され集中的に管理されている。暖房について見ると,1カ所のボイラーから暖房計画に沿つてスチームが配管により各ハウスに自動的に配られる。冷房あるいは換気のために大型換気扇があり集中制御が行われる。かん水については,作物のうね間の配管を通じて中央制御装置により作物の生育時期ごとに必要水量が適時に自動的にかん水されている。

このようなシステムは生産性の大幅な向上が期待でき,急速に普及しつつあるが,これをより良いものにしていくためには,次のような課題が残されている。

ア ハウスの強度,環境調節適性,作業及び経済的効率等の設計設置基準を定めること
イ ハウス内における作物の好適環境条件の解明と機械装置による環境制御
ウ 育苗,移植,防除,収穫等機械化が遅れている作業の省力化技術の確立と機器を開発すること。
エ 悪条件下での装置作動の信頼性の向上,機器の配置方式等の環境制御技術を確立すること。

これらを解明してより高度な技術体系を確立するために昭和49年度から農林省において総合的な研究が推進されることとなつている。


(ハ) 水稲育苗施設技術

従来,水稲の育苗は,水田を使い,ほとんど機械施設を使わなかつた。しかし,近年における田植機の普及と並行して施設による育苗が進んできた。この2〜3年においては,農林省の助成の下に本田植付面積100haの苗供給が可能な育苗施設が建設されるなど,育苗技術が確立されつつある。このような大型施設においては,ほとんどすべての作業行程は機械化,自動化し,システム技術化している。

播種作業は,一定の大きさの育苗箱に一定量の土,肥料を入れその上に一定量の播種を行う全過程を自動的に行うプラントによつて行われる。これに続いて,温風又は温湯暖房が行われている断熱構造の出芽室があり,この中に播種された育苗箱を台車の上にかさねて設置し,2〜3日間かけて出芽が行われる。次の行程のために,FRP波板張りで自然の光と熱を取り込み,電熱で補助暖房を行つている緑化室がある。ここでは出芽室から取り出した育苗箱を台車に上下間隔を広く取つて積み重ね,光に当てながら2〜3日間緑化成育する。

その後は大型ビニールハウスに移し,10〜15日間の硬化育苗を行う。

このような施設と作業行程とによつて育苗は,著しく生産性の高いものとなつたが,施設の一層効率良い運転と育苗技術の安定化のためには出芽期における根上がり,緑化期の徒長,立枯病防除などの問題があり,これらについて研究開発が進められている。


(ニ) 自動補給式いけす定置網技術

我が国の定置網の着業総数は, 1,185カ統にもおよび,1か年間の漁獲量は15万トンに達し,鮮度の高いものを供給している。

しかし,従来の定置網漁は,漁具費がかなり高額である割りに漁獲量が少なく,多くの労力を要し,しかも消極的な漁法として斜陽産業視するむきもあつた。

このような弱点を克服して開発されたのが,自動補給式定置網である( 第1-2-19図 )。この網の大きな特徴は,水中にスピーカーを設置して,音波により魚を積極的に網の中へ誘い込み,更に漁獲のためのポケット部まで魚を集める方式をとり,しかも漁獲までの行程に自動制御装置を付けたことである。すなわち,複数の水中スピーカーは,網外から順次ポケット袋網へ魚を誘導するよう放声の順序,周期等を自動的に制御する方式を取り,ポケット袋網にどの程度の魚が入つたかを検知して陸上に知らせる装置が組み込まれている。更に,魚量判定装置の検知結果によつて末端のポケット袋網部分に魚を誘い込むための水中スピーカー群の作動停止と次のポケット袋網に対応する水中スピーカー群を作動させる自動装置も組み込まれているので,効率良く網の機能を発揮する。

第1-2-19図 自動補給式いけす定置網平面図(模式図)

期待される効果としては,所要労働時間が2分の1に節約されるほか漁法の積極化により網に入る魚量が増加し,しかも網に入つた魚はほとんどすべて捕獲できることによる漁獲量の増加は,採算性の向上に対すを期待を大きくしている。

今後の問題点としては,使用する機器の電源を波力発電ブイに依存することが多くなるのでこのブイの小型化が望まれている。


2 経営管理技術

農業の労働生産性を大幅に上げる最も有効な手段として,農業部門における生産・流通・加工等のあらゆる経済活動を土地や大型機械・装置の所有権をこえた共通の目的をもった地域集団に組織する「農業のシステム化」が進められている。農業のシステム化においては,土地,機械,組織など農業関係資源を地域集団を単位として最も有効に活用していくために,計画,組織化,調整,コミュニケーションの四つの基本的機能を含む経営管理をコンピュータを使うなどして一元的に行うものが見られ始めた。そのための技術のうち会計処理や単純な情報伝達の技術はかなり開発されてきたが,作物の生産や出荷などの計画,調整などを行う技術は開発されていなかつたため,昭和47年度からは国あるいは県の事業としてそれらの研究開発が進められている。現在までに開発されたものとしては,温州みかん生産予測システム,養豚団地個体管理システム,大型施設園芸経営診断システムがある。

このうち温州みかん生産予測システムについては,生産予測式の開発を目的としたものである。みかんの生産予測は,大別して3種類必要である。すなわち,毎年の果実生育初期にその年の出荷計画や施設利用計画を立てるための予測,果実収穫直前に出荷指令を出すための予測,更に,長期的な生産計画,施設計画を作成するための長期的な生産予測が必要である。

昭和47年度に熊本県が中心となつて開発した生産予測式は,全く新しい試みであり,これまでの試験研究の成果を基に,電子計算機の高度な計算能力を活用して収量関連要素と収量との関係を処理して上記予測目的別に導き出されたものである。更に,みかん栽培の特殊性(隔年結果現象等)のためこの予測式の有効性が引き続き検討されている。

また,この予測式を実際に適用する場合に必要な一定地域の収量関連要素のデータ入力方式も同時に開発された。

今一つの例として,養豚団地管理システムの一部分として熊本県が中心となつて昭和47年度から開発している養豚団地個体管理システムがある。これは子豚供給センターに飼養されている繁殖豚及びこれから生産された子豚のすべての個体について繁殖能力,育成能力,発育能力,産肉能力などの関係要素を雄系統と雌系統とに分け系統的に把握し,電子計算機に入力する方法を開発したものである。昭和48年度はこれに引き続き,家畜育種に関する試験研究の成果を活用しつつこれらデータを電子計算機で処理し,繁殖豚の能力判定,交配選抜淘汰などの方式を開発するための研究が進められている。

このような方式が開発されれば,現在の繁殖豚の最も有効な活用方法の確立,生産される子豚の適切な肥育管理及び長期的には繁殖豚の非常に効率の高い育種が可能となろう。

このような技術開発は,以上からも分かるように緒についたばかりであり,農業のシステム化の活発化に対応して一層促進されることが望まれている。


(3) 未利用資源の開発
1 おきあみ資源開発技術

おきあみは,小えびに似た大型プランクトンの代表種であり,南極海では高い密度で繁殖生息している。おきあみの資源量は,ヒゲクジラなどの捕食動物に関する調査研究を通じた大ざつぱな推定では,南極海だけで数億ないし数十億トンにも達し,これに基づくおきあみの漁獲可能量は少なく見ても1970年における世界の総漁獲量約7,000万トンの30%にもおよぶものである。

食品価値としては,小えびの代替となるほか良質なたん白質をはじめ豊富に栄養原を含んでいるので,多量に捕獲できれば加工食品原料の良質な素材を提供できるものとして期待されている。

そのため,我が国においても昭和47年度からおきあみ漁業の企業化のための調査研究を進めており,48年度は中層群を対象としたトロール網により目標とした漁獲量を達成している。今後は,更に有効な漁具・漁法並びに海域等を検討し,この調査研究の結果を基に企業的操業のための船型,操業方式の確立を行なうこととしている。

更に,おきあみ類の資源量,生態等をより正確に把握するための基礎的な調査研究も昭和48年度から並行して推進されている。


2 深海漁業の資源開発技術

深海漁業は,国際的な制約が少なく,また,漁場開発がほとんど行われておらず,新しい資源開発領域として注目される。

水深200〜2,000mまでの大陸棚傾斜面,場合によつては200m以浅の大陸深部も含めた深海での漁獲量比率を見ると世界では全漁獲量の2%強で,我が国においても,全漁獲量900万トンのうちメヌケ,ギンダラ,キンメダイなどの深海性魚類は,2〜3%を占めているにすぎず,この水深帯における漁業資源は未利用状態と考えてよい。

世界における深海の面積は3,060万Km2で,現在漁業が営まれている大陸棚の面積2,700万km2よりも広い。

深海における漁業資源については,我が国では数年前から基礎調査を水産庁が中心となつて組織的に進めてきたばかりであり,まだ,多くの知見を持つに至つていない。現在までの調査結果によれば,大陸棚上の魚群密度1に対して深海における魚群密度は水深200〜1,000mで2分の1, 1,000〜2,000mで4分の1と推定され,これに基ずき資源量を試算すると世界の大陸棚斜面において期待される漁獲可能量は約2,000万トンとなり,これは1970年における世界の総漁獲量の3割近くにも及ぶものである。

このように将来の資源としてかなりの期待ができそうであるが,深海魚の漁獲の企業化のためには次のような問題点がある。

1) 深海における操業は,水深1,OOOm前後となると効率が2分の1以下となる。
2) 高級魚が期待できない。
3) 深海生物は,一般にエネルギー代謝が緩慢である,ため,生態系を混乱させると回復が容易でない。

したがつて,深海漁業の推進のための研究開発として資源評価の的確化等のための基礎的研究,採算の合う魚群密度分布の調査,市場性の向上のための加工技術開発,操業法の効率化技術の開発等が進められている。


(4) 農林業における環境保全技術

農林漁業については,国民の食料の安定的供給とあわせて,自然環境を維持培養する機能のあることが大きく見直されようとしている。

農林業の環境の維持培養機能としては,国土保全,水の保全,水・大気・土壌の浄化,気候緩和,安全・快適さの保持,保健休養,野生鳥獣の保護,景観の保全があり,これらの機能は,人間の生活環境の保全に大きく貢献している。

農林業にこのような機能を十分果たさせるためには,農林漁業環境維持培養機能について,科学的,計量的なデータの準備をしなければならない。

このような課題に取り組むには,多分野の知識を総合的な研究計画の下に結集し,各領城の研究を同時並行的に進めてシステム的に技術の開発がなされなければならない。そのため,農林省において関係の試験研究機関を動員するなど,新しい研究開発体制が作られた( 第1-2-20図 )。

第1-2-20図 農林漁業における環境保金技術に関する総合研究推進体制

このような研究開発基盤の上に昭和48年度においては,農林業の土地利用方式の変化や都市化の進展が農林水産及びそれを取り巻く環境の生態系に与える影響の解明,家畜糞尿処理利用技術の開発などの研究開発が進められている。


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