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  序説

(科学技術への要請)

我が国は,資源に乏しく,狭小な国土に1億余の国民が世界に類を見ない高密度社会を営んでいる。このような条件のもとで一層多様化し,高度化する社会・経済の要請にこたえていくため,科学技術が寄与すべき問題は,数多くあり,科学技術の重要性は飛躍的に高まつている。

このような情勢にあつて,現在,特に解決を要する重要問題として次の二つを指摘することができる。

一つは,資源・エネルギー問題である。

昨年10月,中東戦争を契機としたエネルギー危機は,世界各国に深刻な影響を与えた。特に,エネルギー消費量のほぼ8割近くを輸入石油に依存している我が国においては,その衝撃はとりわけ大きく,国民生活のすみずみにまで及び,エネルギー問題の重大さとその解決のためにあらゆる分野の総力を結集することの必要性を我々に強く再認識させた。

我が国は,石油ばかりではなく,鉄,銅,ニッケル,錫,アルミニウム等鉱物資源についても,その海外依存度は,100形に達するものもあるほど極めて高い。更に,食料資源についても飼料穀物,小麦,大豆等の大部分を輸入に依存しており,また,木材についても国内消費量の半ば以上を海外に依存している。これらの資源についても,資源を保有する開発途上国のナショナリズムの高揚及び資源政策の変化,世界人口の増加,更には先進国間の資源獲得競争の激化などの世界的動向の中にあつて,我が国は,あるものについては価格の大幅引上げに直面し,あるものについては安定確保の困難な事態に遭遇する可能性もある。

今や資源・エネルギー問題の解決は,世界的課題であり,特に我が国においては問題の重要性は一段と大きく,これらを解決するため国際協力に十分配慮しつつあらゆる努力を傾注する必要がある。科学技術は,資源・エネルギーの高度利用ないしは循環利用,代替資源・未利用資源・新資源の開発,資源の開発利用にさいしての環境保全等の面で大きく貢献し得るものであり,積極的にこれを推進していくことが肝要である。

なかんずくエネルギー問題は,上述のエネルギー危機の経験に照らして見ても緊急に解決を要するものであり,その合理的利用,エネルギー源の多様化を図ることが要請されているが,なかでも原子力の開発利用の推進は最も重要な課題となつている。

また一つは,国民生活に密接に関連する諸問題である。

近年の我が国の経済成長は,国民生活の消費面で物的な豊かさをもたらしたが,一方では産業活動の急激な拡大,人口の大都市地域への集中などに対し生活環境の整備等が立ち遅れ,環境汚染,交通事故,ストレスの増大など好ましくない様々な問題が表面化してきている。したがつて,今や我が国は量的成長から質的成長への転換を図り,国民生活の質的充実に取り組むべき時期に達しているといえよう。このため,科学技術の果たすべき役割は一段と重要となつており,環境メカニズムの解明,生産工程のクローズドシステム化,安全な人間一機械系の確立,新しい医療,交通技術などの研究開発を推進する必要がある。更に,将来における豊かで健康な人間生活の実現のため,生命現象や生物機能の解明とその応用,環境監視や国土利用への宇宙技術の応用など新たな科学技術領域を開拓していく必要がある。

(科学技術振興の方向)

現在,資源・エネルギー問題への対処及び国民生活の向上をはじめとして,科学技術に解決が期待されている課題は,数多くあり,この解決に国が果たすべき役割は,ますます大きくなつているといえるが,この推進に当たつては,以下の3点に留意する必要がある。

第1に,自主技術開発の推進である。

前述した諸問題は,世界の先進諸国に共通する一面を有するが,我が国においては,資源に乏しく,高密度社会を形成しているなど固有の事情により特に厳しいものがあり,我が国に適した科学技術を確立するため可能な限り自主的な科学技術の研究開発を行わなければならない。

また,諸外国との国際協力を促進し,他の先進諸国と対等の立場で技術交流を行つていくためには,自らの技術開発力の一層の向上を図る必要がある。

このような努力は,我が国のみならず広く世界の各国に対しても貢献し得るものである。

こうした観点から,自主技術開発を進めることは極めて重要となつており,研究活動を従来にも増して活発化する必要がある。

このため,研究開発投資の充実及び創造性豊かな研究人材並びに高い識見と広い視野を持ち優れた管理能力を備えた研究管理者の確保,育成を図ることが不可欠である。また,これら研究関係者が能力を十分に発揮できるよう,研究環境の整備,研究活動の効率化などを総合的に展開していく必要がある。

特に,研究開発投資については,昭和47年度において1兆5,867億円と世界でも米,ソに次ぐ地位を占めてはいるものの国民所得に対する比率,あるいは研究者1人当たりの研究費で見ると主要先進国との間に相当な隔たりがあり,これを一層充実する必要がある。

第2は,科学技術の国際協力の促進である。

我が国科学技術の振興のためには,前述の自主技術開発の推進とともに国際協力が不可欠である。

近年,研究分野の拡大や研究規模の大型化などに伴い,研究開発の実施に当たつて国際的な協力を必要とする課題が多くなつてきており,また資源・エネルギー,環境等の重要な問題もグローバルな観点からの解決が求められるようになつている。更に,開発途上国における社会・経済の発展にとつて欠くことのできない科学技術を中心とした協カプロジェクトの推進等,我が国の国際的地位にふさわしい科学技術協力を今後活発に進めることも要請されている。

このため,諸外国との協同研究,分担研究を通じ,あるいは情報の交換,人材の交流を行うなどにより,今後積極的に国際協力を促進していく必要がある。

第3は,今後の科学技術活動の実施に当たり,自然,人間,社会の調和が図られるよう努力することである。

科学技術の著しい進歩発展は,今日の社会・経済の発展と生活水準の向上に大きく貢献してきたが,一方では,その不適切な適用が公害の多発,特定資源の枯渇,人為的災害や人間疎外の増大など様々な好ましくない問題の発生の一因ともなつている。

これは,かつての科学技術の適用が直接的な効果にのみ重点を置きがちであつたことによるものと考えられる。したがつて,これからの科学技術活動は,自然,人間,社会の間の調和が保たれるよう進めることが必要であり,このため,広い視野に立つて社会における問題発生の諸要因とその相互関連を明確にし総合的体系的な解決策を樹立するソフトサイエンスの研究開発とその成果の適用を推進するとともに,科学技術の影響の多面的な把握とその対策を講じていくことが必要である。

(本書の構成)

本書は,3部から構成されている。

第1部においては,社会の発展のため解決すべき重要な問題として資源・エネルギー問題及び国民生活に密接に関連する問題があることを述べ,これらの解決のための科学技術の課題として,1)資源・エネルギーの安定確保と有効利用を図り,社会の資源・エネルギー基盤を強化すること,2)資源・エネルギーの供給拡大と国民生活の質の向上に大きな可能性を秘めた原子力,宇宙,海洋という新領域を開拓すること,及び3)健康で安全な人間環境の確立を図るとともに医療,交通等の社会システムの充実を図り社会開発の基盤を強化すること,の三つがあることを述べる。更に,科学技術の社会・経済に及ぼす影響が大きいものとなつていることにかんがみ,今後科学技術活動を進めるに当たつては,自然,人間,社会の調和を確保するよ,う留意すべきであることを指摘する。次いで,このような観点から進められている科学技術について,その動向を述べる。

第2部においては,我が国の科学技術活動について,研究投資及び人材,科学技術情報活動,技術貿易及び特許出願並びに国際交流の各方面から分析し,その動向を明らかにする。また,主要国の科学技術政策についても,エネルギー開発,ライフサイエンス等に関する施策,研究投資,行政機構等の面から紹介する。

第3部においては,我が国の科学技術振興のため,政府が実施している諸施策について,科学技術関係予算,政府機関等における研究活動,民間等に対す助成等及び科学技術興基盤の強化の各面から昭和48年度を中心に述べる。


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