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第2部   科学技術活動の動向
第3章  ソフトサイエンスおよびテクノロジー・アセスメントの動向
2  テクノロジー・アセスメント


科学技術は,社会に適用された場合に好ましい効用をもたらすが,それと同時に好ましくない影響をももたらすことがありうる。

テクノロジー・アセスメントとは,この効用と好ましくない影響とを,技術的可能性及び経済性を含めて,社会的観点など多面的に事前に点検し,評価して,マイナス面があれば,それをできるだけ小さくし,科学技術を人間の福祉により役立てようという概念であり,科学技術が社会システムの中で健全に発達することを目標とするものである。

この様な概念は特に新しいものではなく,その一部分は,従来も存在していたといつてよい。

たとえば,食品や医薬品などの安全性に関する事前のチェックは,テクノロジー・アセスメントの概念を実際に適用している一つの例としてあげることができるであろう。

しかし,テクノロジー・アセスメントが意図していることは,ただ,安全性の問題の限定されているわけではなく,より広範な問題に関して,種々の観点から検討しようとするものである。

テクノロジー・アセスメントを現実の科学技術施策に生かすためには,手法の開発及び実施体制の確立が必要であり,また,国民の間に科学技術及びテクノロジー・アセスメントに対する正しい認識が生まれるとともに,科学技術の研究開発に携わる者の間にいわゆるTAマインどの定着する必要がある。さらには,正しい評価を行える人材やテクノロジー・アセスメントの手法に習熟した人材の養成,科学技術に関する基礎情報および社会状態の推移に関する情報の円滑な流通に資する情報サービス機関の整備などが必用である。

わが国におけるテクノロジー・アセスメント確立への動きは,すでにその緒についており,試験的実施の段階に入つている。

すなわち,テクノロジー・アセスメントを早急に科学技術施策に取り入れるべきであるという科学技術会議の5号答申が行われ,その手法開発に取り組んでいる。

科学技術庁では,昭和46年度に「農薬」,「高層建築」,「CAI(コンピューター利用教育)」をテーマ技術として取り上げ,事例研究を実施することによつて,手法の開発を行い,検討結果を47年6月に報告した。

引き続いて47年度には「VTOL(垂直離着陸機)」,「ニュータウンにおける技術システム(とくに集中冷暖房システム,総合情報通信システム,新交通システムを中心として)」についての事例研究を行なつている。

さらに,48年度には民間企業などにおけるテクノロジー・アセスメントの実施を容易ならしめるよう,テクノロジー・アセスメントの関する手順,手法などを解説した手引書を作成する予定である。

通商産業省では,46年度に「原子力利用製鉄」に関する検討を行ない,さらに47年度には,前記「原子力利用製鉄」のほかに「自動車総合管制システム」,「燃料電池」,「医用電子機器システム」などについての事例研究を行なつている。なお,工業技術協議会テクノロジー・アセスメント部会では,産業行政の中における「テクノロジー・アセスメントのありかた」について「政府は広く啓蒙・普及をするとともに手法の確立,人材の養成を図るべきであり,それに併行して政府が先導的にテクノロジー・アセスメントを実施すべきである」と報告(48年1月)しており,これをうけて48年度には,緊急性のある10技術課題についての実施,セミナーの開催などを予定している。

経済企画庁の経済審議会技術研究委員会では,昭和47年4月の報告で,今後の社会・経済の健全な発展を図るため,技術開発にあたつてテクノロジー・アセスメントの考えを取り入れる必要性のあることを指摘し,大型中核技術として,コンピュータ・システム,環境汚染防止システム,交通輸送システムの3つを取り上げ,社会・経済への波及的な効果をテクノロジー・アセスメントの考えを取り入れて,総合的に評価する手法の開発を試みている。

環境庁では,テクノロジー・アセスメントの発想を環境問題に適用し,地域開発等が環境に及ぼす影響を事前に把握し,環境面からその適否を判断するという環境アセスメントの手法開発を進めることとしている。

そのほか,厚生省,農林省,郵政省,建設省などでも,それぞれ所管する分やの技術についてテクノロジー・アセスメントを実施しようという動きがある。

また,民間企業等についてみると,研究開発を主要業務とするシンクタンクでは,手法開発に関する事例研究を行なつているところが多く,政府がこれの育成に努めていることなどから,近い将来,テクノロジー・アセスメントを総合的に実施する能力を有するものに成長することが期待されている。また,一般企業でも,近年テクノロジー・アセスメントに対する関心は非常に高まつており,手法の開発や実施体制の早期確立を望んでいる。このことを科学技術庁が47念10月に民間企業790社を大正に実施した「民間企業における研究開発の動向に関する調査」の結果よりみると,テクノロジー・アセスメントに関しては,5項目のアンケート調査が行われたが,他の質問と比較して非常に高い回答率を示しており,民間企業のテクノロジー・アセスメントに対する関心の高さがうかがえる。ここで,その内容をみてみると,次のとおりである。

アセスメントの導入についての検討状況の質問には342社が回答を寄せたが,このなかで「実施中」という企業が32社,「検討中」というものが15社,「資料・情報を収集中」というものが65社,「具体的な動きはないが,関心を持つている」というものが195社であり,「全く関心がない」という企業は35社であつた。すなわち,テクノロジー・アセスメントについて全く関心を持たない企業は10%にすぎず,民間企業においてもテクノロジー・アセスメントの実施について大きな関心を寄せている。次に,テクノロジー・アセスメントの実施体制については460社が回答を寄せているが,「シンクタンクなどに委託する」という回答は48社,「何らかの形で自社内で行なう」という回答は261社であり,テクノロジー・アセスメントの対象とすべき技術範囲および実施すべき機関については,307社が回答を寄せ,「国や民間はそれが独自でテクノロジー・アセスメントを行なうべきであり,必要ならば国は民間で開発している技術についても行なうべきである」という意見が264社で約86%を占めており,テクノロジー・アセスメントの民間企業での実施についても積極的な資性を示していることがうかがえる。

一方,外国におけるテクノロジー・アセスメント実施の動向についてみると,この分野における最先進国であるアメリカでは,1969年に国家環境政策法(NEPA)が成立し,環境についてのテクノロジー・アセスメントが義務づけられ,さらに1972年10月には,テクノロジーアセスメント法が成立し,議会の下部組織としてテクノロジー・アセスメント局が設置されるなどテクノロジー・アセスメントの実施体制が確立されつつある。

西欧諸国では,米国のような立法の動きはみられないが,アセスメントの作業は活発に実施されている。

国際機関では1971年秋にOECDの科学技術大臣会議が開催され,その共同コミュニケで,テクノロジー・アセスメントは,少くとも先進諸国においては70年代の科学技術政策の主要な柱の一つであることが指摘された。さらに,1973年1月には専門家会議が開催され,活発な論議がかわされた。

このようにテクノロジー・アセスメントは世界的に関心を集めるようになり,主要先進国および国際機関において,その実施体制の確立のための努力が続けられている。


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