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第1部   希望にみちた社会をめざす科学技術
第4章  明日を担う科学技術
8  標準計測技術


(1)標準

現代の科学技術はすべて計測を基盤として成り立つており,これに普遍性を与えるのが物理的諸量の基準を示す標準である。最近の科学技術水準の向上は,より精密,高度な標準を求めており,これに対応して標準の分野でも最近以下に述べるような動きがみられる。

標準の単位は,国際的に定められた長さ,質量,時間,温度等7つの基本単位とこれらの組合せからなる面積,密度等の誘導単位で構成される。基本単位の最近の傾向は,その標準が原器のようなハード的なものから原子構造に理論的根拠をおくソフトなものに移行しつつあることである。これは要求される精度が原器等の「もの」では追随できなくなつたことのほかに,時間的変動がなくかつ再現性のある原子標準の使用が技術的に可能になつたことによるものである。これによつて,たとえば,長さではメートル原器で10-7 の精度でしかなかつたものがKr-86の標準波長におきかえることによつて10-8 となり,将来はレーザーの利用によつて10-11 にまで達すると予測されている。また,時間についても,従来の天体運動を基本としたものからCs-133による原子振動に基づくものに移行し,10-10 から10-12 のオーダーにまで精度が向上した (第1-42図) 。昨年から始まつた「うるう秒」はこれらの調整が行なわれた結果のあらわれで,これによつて全世界の時刻が原子秒を積算した国際原子時に基づくものに統一された。将来は時間標準としてレーザーの活用で10-14 に達すると予測されている。このほか,電流および化学当量(モル)についても,原子標準を採用しうる理論的根拠を有しており,遠からずこれにおきかわるものとして期待されている。

第1-42図 Cs原子周波数標準の進歩

温度については,最近2つの大きな改訂が行なわれた。その1つは低温領域での温度範囲を90Kから13.8Kまで拡大したことであり,また1つは目盛の定点の位置を変更(従来と比較し,1,000Kで約3Kの差を生じる。)したことである。いずれも温度測定技術,定点装置技術等の進展によつて可能となつたものである。

(2) 測定技術

各種の量の測定には,(1)に述べた標準を基としていくつかの副原器を経たのちの汎用測定器が使用されるが,近年これらの測定器にも目的に応じて新材料,新技術を駆使した画期的なものがあらわれている。これらの測定技術は精度を向上したもの,従来測れなかつたものを測れるようにしたもの,より測りやすくしたもの,測定能率を向上したもの,対象物の巨大化や微細化に対応できるようにしたものなど便利性等を一層向上したものが多い。

これらの個々の測定技術は加工,組立と結合しシステム化された上,化学工業をはじめとする各種の産業の製造プロセスのなかに組み込まれている。

今後は高温,高圧下等苛酷な条件のもとでも測定できるようにするなど,ますます複雑,高度化する要請に応えてこの方面の技術もさらに向上することが期待されている。

(3) 分析技術

近年の公害の多発と工業の急速な発展は,より高精度な,より高感度な,より迅速な分析方法の開発を強く要請し,分析技術はこれに応えて急速な進展をみせている。

分析方法を特長によつて分類すると,

1) 定性分析に適する方法
2) 状態分析に適する方法
3) 定量分析に適する方法

に分けられる。

1)に属する方法としては,赤外スペクトル法,ラマンスペクトル法,NMRスペクトル法等があり,また,2)に属する方法としては,X線回折法等がある。

公害分析に必要とされるものは3)に属する方法で,ガスクロマトグラフ法(検知限界10-11 〜10-13 g),質量分析法(10-11 g),原子吸光法(10-11 g)等が最近にわかに需要を増しつつある。

また,一般的に迅速性という点では,従来のいわゆる化学分析法よりは機器分析法の方がはるかにすぐれており,このため,迅速性,即時性の要求される現代では機器分析の利用がさかんとなつている。

最近の分析技術の高度化は,製造工業を背景としてよりは公害防止を背景として推進されているのが実情であり,その内容はレーザー,電子計算機等の進歩に伴う新分析法の開発や従来の分析法の高精度化,迅速化,自動化の推進であるといえよう。

このように,現在ある分析法は,感度,精度,迅速性の面で次第に改良が加えられ,確実に進歩を重ねつつある。しかしながら,徐々にその物理的限度に達しつつあり,飛躍的な発展を図るには原理を全く異にする新しい分析法の出現が待ち望まれる。これを示唆するものとして2つの顕著な方向が見い出される。第1は,各種分析機器を結合してそれぞれの特長を生かし総合的な分析を一挙に行なおうとするもので,対象となる物質系がますます複雑となる傾向に即応するためのものである。その具体的な例としては,ガスクロマトグラフと質量分析計の結合があげられる。これはガスクロマトグラフの高度の定量性と分離能を質量分析計の高い定性性と結合させたもので10-10 g程度の微量物の定量と同定を同時に行なうことができ,最近実用の域に達している。将来は,ガスクロマトグラフと赤外分光,液体クロマトグラフと紫外分光等の結合が考えられている。

第2は,電子計算機と分析機器との結合である。電子計算機はすでに分析データの解析等省力化のために導入されているが,将来は,直接分析機器の自動制御も行なわれ,無人分析室が実現することとなろう。

以上国民生活に密着した課題,資源の不足と枯渇に対処する課題,新領域の開拓をめざす課題について,これに取り組む科学技術の動向をみてきたが,希望にみちた社会の実現に至る道は厳しく,多くの困難が横たわつているであろう。

われわれは,洞察と英知によつて優れた科学技術を生みだし,障害を克服し,それの実現に向つて着実に前進し続けていかなければならない。


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