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第1部   希望にみちた社会をめざす科学技術
第4章  明日を担う科学技術
7  極限技術


外的環境-とくに温度と圧力-の変化が物質に与える影響は大きい。ことに極端条件下では連続的な変化に加えて常温,常圧ではみられない興味ある現象を伴う不連続な変化もあらわれ,その応用範囲は非常に広い。

このような極端条件を現出させる極限技術は,周辺技術の進歩と相まつて近年向上が著しいものがある。

最近の極限技術に共通する技術的な問題としては,単により厳しい極限状態をめざす尺度の延長よりは,その持続時間,容量の拡大にある。何千万度という温度,何百キロバールという圧力が人工的につくり得たとしても,その時間が1万分の1秒あるいはその空間が10-3 cm3 であつたとしたら,その応用範囲はきわめて限られたものとなるからである。

(1)超高温

超高温技術は,一般に核融合反応に必要な数億度の温度領域に関する技術と高融点物質の溶解等に必要な数千度付近の温度領域に関する技術とに分けられる。

超高温状態では原子がばらばらになり,原子核と電子の混合ガス状態であるプラズマが得られる。人類が究極のエネルギー源としてめざしている核融合反応は数億度という想像を絶する超高温状態においてはじめて達成できるものである。現在この超高温状態をいかにして長時間安定に維持するかが問題となつており,このためマイクロ波加熱,断熱磁気圧縮等の加熱法のほか,超高磁場の発生技術,超電導材料等について研究開発が積極的に行なわれている。

一方,このように飛躍的に数億度への挑戦が試みられているほかに,2千度ないし数万度の温度領域における技術,すなわち,高融点物質の溶解・焼結,耐熱金属の特殊加工,高温ガス反応等に必要な温度の発生,測定,制御等の技術についても研究開発が進められている。

第1の超高温の発生法については,近年磁場圧縮法,イメージ法,量子効果(レーザー)法,熱ピンチ効果法,衝撃波法,ビーム加熱法等の各種の方式が開発されている。なかでも,レーザーによる方法は温度の選択範囲が広く,利用の分野も材料の加工,溶解,精錬等広範囲にわたつているため,非常に将来性のあるものといえる。

また,第2の超高温の測定法については,抵抗温度計,熱電対等が使用できず,原理を異にする測定法が必要である。すなわち,固・液体ではふく射温度計(3,000〜5,000°C)が,ガスおよびプラズマ状態ではスペクトル法が用いられる。後者については近年進歩が著しく,とくに電子温度測定においてすぐれたものが出現してきている。

第3に超高温の制御である。人間は古くから山火事,噴火,落雷等自然現象を通じて数千度を超える温度に接してきたが,それにもかかわらず超高温を制御し,利用しうるようになつたのは近年のことである。このことがいかに困難であるかは,人為的に発生しうる温度が数千万度に達した今日でも,制御しうる温度が5万度を超えていないことからも明らかであろう (第1-40図)

第1-40図 超高温の創出状況

このように,2千度ないし数万度の温度領域における超高温技術の将来の問題は任意の温度を自由に取り扱うことを可能とすることにあり,これを達成するため,今後は自然界に存在する超高温発生の機構を解明し,大出力化,信頼性の向上等に努力を払う必要があろう。

(2)極低温

ヘリウムの液化温度付近(4.2K)になると物質を構成する原子の動きはほぼ凍結状態になり,常温ではみられなかつた特異な現象-たとえば金属の超電導性,完全反磁性,超流動性-が現われる。なかでも,超電導といわれる金属の電気抵抗がある温度を境に零になる現象は数々の可能性を秘め他の科学技術への応用範囲も広いため,世界が競つて研究に取り組んでいる。

超電導の応用には,電磁石としての利用と電気抵抗が零である利用とがある。

電磁石としての利用としては,非常に高い磁界の発生が要求されるプラズマ装置,MHD発電装置,磁気浮上高速列車等が効果的である。従来の方法でこれらに必要な10万エルステッドにも及ぶ高い磁界をつくろうとすれば膨大な装置と多量の冷却水さらに数千KWの電力を必要とするが,超電導磁石は比較的小型の冷却装置とヘリウムの冷却に必要な数KWの電力でこれを遂行できる。このために,高性能な冷却装置,優れた超電導材料,その他周辺装置等の開発が行なわれており,冷却装置については,通商産業省のMHD発電プロジェクトの一環として進められてきた大型超電導電磁石の冷却を目的とする大容量ヘリウム液化装置が昨年完成し,一段と進歩をとげている。

また,電気抵抗が零である性質はケーブルに利用された場合効果が大きい。この応用技術としては,今後ますます需要地から遠ざかり,かつ大規模化する発電所からの電力輸送,在来のケーブルでは急増する情報量に対処できない通信ケーブル等が考えられる。これらが経済的に成立するためには,高性能の液化器,断熱材等が必要であり,断熱材については1kmあたりの潜入熱量100W以下を目標に有機材料を中心とした研究開発が行なわれている。

このほか,超電導は計測器にも革命をおこし,10-17 V,10-12 Aのような微小な電圧,電流を測定することを可能としている。これによつて月の重力の精密測定,パルサー星からの微弱な電波の測定などが行なわれるようになつている。

第1-41図 極低温の創出状況

超電導以外の極低温技術の利用には,このほかにもロケットの液体燃料,宇宙通信用低雑音増幅器等があり,その応用分野は広い。

(3)超高圧

最近,超高圧(約20kb〔キロバール〕以上)発生法の発達により,種々の分野で超高圧技術が利用されるようになつてきた。

一般に物質は高圧下では原子間距離が縮まり,結晶構造,半導性,光物性,磁性,機械的性質に著しい変化が起り,また圧縮されることによつて相当なエネルギーを内部に貯えることになる。

超高圧技術の進歩の結果,これまでに100kbまでの結晶構造,磁性,電子状態等の変化に対する知見を得,また,ダイヤモンド合成等の成果が得られるまで達している。

現在はこれらの成果をもとにさらに高度な研究開発利用に発展されるべき時期にあるものといえよう。この方向は大別して次の3つに分けられる。

1) メガバール領域までの超高圧の発生とその圧力下での物質状態の研究
2) これまで実験室的に得られてきた100kbまでの圧力領域の工学的スケールアップ
3) 超高圧領域での物質変化を利用した新プロセスの開発

このうち,1)はこれまでの技術開発の考え方をそのまま延長したものである。より高い圧力を発生させるためには発生空間がますます小さくなり,それにもかかわらず装置全体の大きさは巨大化していく。これに伴つて,巨大装置の設計,材料,建造費等が大きな技術的問題となつてきている。ソ連では最近5万トンプレスを建造し,三段圧縮式の超高圧装置を開発してメガバール領域の圧力発生を試みている。

2)は主として工学的理由に基づくものである。近年,直径数ミリメートル程度の大きさのダイヤモンドの良質結晶を製造する技術やダイヤモンドと同等以上の切削性能を有する立方型窒化ボロン粉末を焼結する技術が開発された。今後はこれをさらに高能率,大容量でかつ経済性のある装量およびシステムを開発し,発展させる方向にある。

3)はその内容がきわめて多方面にわたつている。たとえば,脆性金属の超高静水圧加工については,これまでの研究の成果から脆性金属も相当な圧力によつて塑性が著しく増すことが認められている。10kb以上の圧力中に閉じ込めた材料を押し出し加工すればダイスとの間に摩擦がないため均質で寸法精度のよい製品が冷間加工できる。また,高圧下の物質に貯えられたエネルギーを利用した例として20kb程度の高圧水流をトンネルさく岩に用いる方法もある。

このような研究開発が進められた結果,将来実現が予測されるものには,たとえばエネルギー源としての圧力の利用,超硬質材料,半導体材料等を中心とする新物質合成,地球内部の超高圧状態を模擬した実験に基づく地震予知への寄与,低温下での化学反応によるプロセスの無公害化等がある。

(4)超高真空

電球,魔法びん等でわれわれになじみの深い真空も極限技術の1つである。最近真空技術が急速に進み,超高真空(10-8 〜10-10 torr以下,,1torr=1mmHg)が比較的容易に得られるようになつた。このため,真空技術の応用分野も拡大しつつある。

真空をつくるには,ポンプ,コールドトラップ等からなる真空排気系により真空容器内の気体を排気しなければならないが,なかでも真空ポンプはその系の良否をきめる鍵となつている。これまで油拡散ポンプは最も一般的な高真空ポンプとして使用されてきたが,これによりつくられた真空には限界(最高真空度 10-8 torr)があり,またできた空間に異物が混入するなど問題があつた。そのため,これに代るものとして気体の吸着作用,凝縮作用等原理を全く異にするスパッタイオンポンプ,クライオポンプあるいは機械的分子ポンプの極度にリファインされたターボモレキュラーポンプ等の開発が進められ,近年実用化された。これらの手段により現在工業的には十分な真空といえる10-10 torrが可能となり,また学術研究の対象となるそれ以上の真空もポンプに関する限りは可能となつている。

真空の他の技術分野への利用の形態は原理によつて3つに大別される。すなわち,1)酸化または窒化されやすい金属の溶融,高温では品質劣化をきたすような材料の低温乾燥などにおけるような化学作用・反応を阻止,減少させる目的の物理化学的な面での利用,2)真空管,電子顕微鏡など電子等の作動粒子にとつての自由空間としての利用および3)プラスチックの真空成形,真空チャック等の圧力差の利用である。この中でもはじめの2つの原理によるものは真空でなければ達成できない技術である場合が多く,近年開発される技術はこれによるものが多い。

真空の利用技術として最近注目されているものは,金属の薄膜生成技術で,半導体素子,薄膜回路素子等の電子材料,一般表面処理等に利用されている。これには従来からの真空蒸着のほか,最近では,付着性,制御性等にすぐれたスパッタリングが実用化されてきている。

真空冶金は,真空の大きな利用分野の1つであり,最近は規模の大型化,高性能化が進んでいる。高周波真空溶解炉の溶解量はこの10年間に1トンから30トンに増加し,同様にアーク炉と類似のESR炉では数トンから50トンに増加している。また,金属の精錬過程において焼鈍から焼き入れまでを含む一貫した熱処理を真空中で連続的に行なうことが可能となり,材質の性能向上に役立つている。

これらのほか真空の新しい応用分野としては,極微少の漏れも自動的に検出できる漏れ探し装置,物質の表面現象の観察が可能となつた低速電子線回折装置,オージェー電子分析装置等が開発され,産業,学術の面に貢献している。

このように真空技術の応用分野は,きわめて多岐にわたるが,今後も無公害の乾式メッキを行なうイオンプレーティング,各種材料の超微粉の製造,耐食・耐熱材料の開発などに可能性があるといわれ,これらの多様化する利用技術に対応して真空技術も一層の進歩,改良が行なわれることであろう。


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