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第1部   希望にみちた社会をめざす科学技術
第4章  明日を担う科学技術
6  電子技術


電子技術は将来の日本の産業発展を主導する知識集約産業の中核的存在であるばかりでなく,広範な技術分野において人間の頭脳,中枢神経ともたとえられる情報の獲得,伝達,記憶,計算,判断,指令,操作等の重要な役割を演ずることが約束されている。

最近の電子技術のめざましい発展は,トランジスタに代表される固体物理学を中心として電子材料,新しい機能と高度の性能を求めて開発された集積回路等の電子部品,機能,特性の精密な測定を可能とした電子計測技術等が相互に刺激しあつた結果の所産である。また,通信,情報処理等各種利用分野からの高速度処理,大容量化等高性能化の要請があつたことも電子技術の向上を促がした重要な要因である。

このようにして電子技術は,今後もますますその範囲を拡大し発展を続けるものと考えられる。しかしながら将来における人間社会の進展に対応するためには,単に現在の技術発展の延長線上に目標を置くのではなく,特定の物性現象に着目した機能素子の開発あるいはバイオニクスやオプトエレクトロニクス等のような境界領域的技術の発展による質的革新が行なわれることが期待されている。

(1)新素子の開発

今日の電子技術に課せられた最大の問題は,いかにして多量の情報を迅速に処理するかということである。

トランジスタの発見に端を発した半導体を中心とする基礎的な研究は,次々と新しい物性を発見し,多くの素子を生み出してきた。この結果,真空管では全く不可能であつたエレクトロニクス・システムが可能となり,年々その巨大化が図られてきた。約20年の間に1つの電子装置がもつ素子の数は10万倍にも増加し,米国のベル研究所が開発した電子交換機第1号のように100万個の部品で組み立てられたものまで現われている。

限りない高性能化の要求は,さらに装置の巨大化を招くこととなり,いわゆる「数の障壁」という厚い壁に挑戦することとなつた。集積回路(IC),大規模集積回路(LSI)の開発は,当面の間この速度を和らげることに役立ったとしても,本質的な解決を与えるものでない。単一の物質がLSIと同じ程度の機能を果たすもの一機能素子一は,このような必要性にせまられて開発がはじめられたものである。

このような新しい概念に基づく素子を開発するためには,新しい原理に基づく物性現象の発見がますます重要になつてくる。このため現在主として2つの角度から研究が進められている。第1は,種々の素励起状態やその相互作用を調べること,すなわち電子,光子,音子,局在磁気モーメント等が及ぼし合う影響を電気伝導測定や光物性,マイクロ超音波技術・磁気測定等を通じて研究を行なうことである。また,第2は極端条件下,たとえば,1K付近の極低温,数百kbの高圧力,数十キロガウスの強磁界,10-10 torr付近の超高真空における研究を進めることである。

以上のような新物性とそれに関連した新技術の芽こそ長期的にみて新しい電子技術の基礎確立に大きな寄与をするものと考えられる。

(2)電子計測

これまでの計測技術がエレクトロニクスに支えられアポロ計画に代表される科学技術のための精密計測技術の揺らん期というならば,これからの計測技術は各種技術のシステム化による人間のための精密計測技術の開花期と考えられる。

ICをはじめとする回路素子やデジタル技術の急速な発達は計測技術にも大きな影響を与えており,逆にこれらの革新的技術を利用した計測法が科学技術へ測りしれない成果をもたらしている。卑近な例をあげると,10年前電圧を精密に測定するには0.5級のメーターの内部抵抗を考慮して注意深く行なうか,または標準電池を用いた電位差計で慎重に行なわなければならなかつた。しかし今日では高入カインピーダンスのデジタル電圧計を用いて0.001%の精度でだれでも容易に測定することができる。また相関法などの信号処理手法もデジタル技術の応用ですぐれた機能を持つ測定器が製品化されており,電子計算機によるデータ処理技術とともに新しい計測技術が開発され,雑音に埋もれた信号の検出も簡単にできる。さらにレーザーを用いて月までの距離を測定したり,ジョセフソン・ジャンクションを利用した高感度磁気検出器を用いて人体の磁気分布を測定するなど,エレクトロニクスを利用した革新的計測法が新しい応用分野を開拓しつつある。

また,電子計測は,近時注目されている環境計測技術,医療計測技術等においても高感度検出器,データ処理技術等多くの面で寄与することが期待されており,人間のための革新的技術開発として必要欠くべからざる部門の1つとなつている。

(3)情報処理技術

近年における情報処理技術の進歩には著しいものがあり,今や社会のほとんどあらゆる分野に影響を与えようとしている。その中核となるのはコンピュータ技術で,その発展の方向は量的なものと質的なものとに分けて考えることができる。量的なものとしては,演算速度の向上,記憶の大規模化,省スペース化(小型化),省エネルギー化(必要電力消費量の減少)および低価格化があり,質的なものとしては応用範囲の拡大および使いやすさの向上がある。この2つは車の両輪であつて相互に関連しあつて進んでいる。

量的な追求の結果,演算速度が大となり,現在の超高性能コンピュータでは,加減算を50X10-9 秒で行なう。これは,光が約15m進む時間である。また,大容量記憶装置では,日本語の百科辞典全巻(図を除外する)を50種類分記憶する容量を持つ磁気ディスクから約0.05秒で任意の内容を読みとることができるほどのものがある。

一方,質的な進歩としては,ハードウェアを効率よく活用し使いやすくすることを目的として,ソフトウェアの研究開発が進んでいる。効率向上という目的ではバッチ(一括)処理システムが,また,使いやすさという目的ではタイムシェアリング(同時共同,利用)システムが開発された。また,プログラミングのための人工言語も次第に高度化し,FORTRAN等人間にわかりやすいものになつてきている。最近では,コンピュータに推論を行なわせるための推論用言語(例PLANNER)が開発されつつあり,情報処理技術の新しい局面を開くものとして注目されている。

一方,人間は得意であるがコンピュータは不得意である問題の1つにパターン認識がある。このなかには,文字認識や音声認識などが含まれるが,現在のところパターンに対する条件が厳しく十分とはいえない。パターン認識能力が人間に近づくことを目標に研究開発が行なわれている。

また,情報処理研究の新段階への移行のため,知能を持つロボット・システムの研究も行なわれている。これは,コンピュータに目,耳などのパターン認識機能と手足などの運動機能を付与させたシステムで,現時点では初歩的な段階にとどまつているが,将来の進展が期待されている。

これら個々のコンピュータの進歩とは別に,多数のコンピュータを通信線で結合したコンピュータネットワークの開発も進んでいる。米国のARPAネットワークがその代表例であり,ほとんど全米にわたつて散在する20台のコンピュータが高速度通信線で結合されている。これは各所のコンピュータ・システムがハードウェアはもちろん,そこで開発されたソフトウェアも有効に利用して効果をあげることを目的としており,このネットワークがどう利用され,またどの程度有効なものであるかが注目されている。

このように情報処理技術が進んだ結果,現在求められているのはその理論的裏付け,体系化である。これはとくに大規模化したソフトウェアの部門で急務とされ,このため,パターン認識理論やプログラム理論の研究が積極的に行なわれている。たとえば,わが国では,文字読取装置ASPET-71等の理論によつて裏打ちされた具体的成果がすでに得られている。


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