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第1部   希望にみちた社会をめざす科学技術
第4章  明日を担う科学技術
5  材料技術


材料技術の向上が最近の技術開発に決定的な役割を果たしている場合が多い。たとえば,トランジスタのようなまつたく新しい素子をつくり出すことに成功したことが,今日のエレクトロニクスの隆盛をもたらし,ポリエステルが繊維状になることの発見が,つぎつぎと新しい合成繊維を生み出し繊維材料に革命をもたらしてきた。さらに,以前は経験の積み重ねと試行錯誤の繰返しによつて行なわれてきた新材料の開発は,近年の基礎科学の進歩により得た原子,分子の構造や原子間力に関する知識により理論的に行なえるようになつた。

このように革新的な新技術の芽を多く内包している材料技術は,われわれの生活を豊かにする可能性をもつ共通的基盤的な技術分野である。

(1)合成高分子材料

材料のなかでは比較的歴史の浅い合成高分子は,その優れた諸性能,安価な価格などのために衣,住など人間生活に直接密着した用途での材料はもちろん,工業材料,車輌材料をはじめ極めて広範囲に用途を拡大している。進歩の過程をわが国におけるプラスチック生産量を例にとれば,昭和45年までに毎年20%の増加率で増産を続け,その生産量は512万トンに達している。

このように発展した技術的な背景として第1にあげられることは,合成高分子の原料が石油化学の生産技術体系に支えられ,安価・大量に供給されていることである。第2には,高分子の合成手法に高分子化学の手法がとり入れられ,とくに立体触媒の発達により高品位の製品が工業的に生産されるようになつたことである。第3には,最初は天然材料を指向しデザインされた高分子が,天然材料では得られないすぐれた性能が活用されて広範囲の利用分野が開拓されたことである。しかしながら,その使用量が増大し,また使い捨てにつながる用途分野が拡大するとともに,合成高分子材料の耐腐食性という特性がかえつて災いし,廃棄物による環境汚染が公害問題としてクローズアップされてきており,また易燃焼性とある種の高分子材料において発生する燃焼時における有毒ガスは,火災時に人命に対し危険性を有することが問題となつている。また,技術進歩の面でもチーグラー,ナッタ等の立体特異性触媒によるポリオレフィンの製造以来めざましい革新的な展開がないのが現状である。

このような状況において合成高分子技術の将来における展開の方向としては,以下に述べる4つがあると考えられる。

第1は,合成高分子を他の材料と複合化することにより性能の相乗的な効果を発揮する技術の開発である((4)複合材料の項参照)。

第2は,当面する廃棄物公害を未然に防止するための光分解性プラスチックー最終的には微生物により分解されるプラスチックの開発である。

第3は,従来の高分子材料が担体としての特質が利用されて構造材料,包装材料,衣料材料等に使用されて量的拡大がなされてきたのに対し,化学反応性,光反応性,帯電性,導電性等の機能を有する材料の開発とその応用による質的向上である。たとえば,光により分子間架橋する性質を応用した新たな印刷技術およびIC,LSIなどのフォトレジストレーションへの応用技術や音響素子,光集束性高分子繊維,人工腎臓用材料,イオン変換膜,海水淡水化用逆滲透圧膜等がある。

第4は革新的な技術的展開である。この分野は高分子化学に源をもつ高分子の未踏分野,あるいは高分子化学分野の科学と他の科学,とくにライフサイエンスとの境界領域の分野である。前者に関する研究開発としては極限構造高分子材料の開発(たとえば,タイモレキュールの関与によつて高分子結晶間の結合が強められた結晶性高分子からなる超高強力材料)があり,また後者の例としては生体高分子材料の開発がある。

(2)無機材料

材料としては最も古い歴史を有する無機材料は近年までは耐火物,陶磁器,ガラス,セメントなどに主として用いられていた。すなわち,無機材料には,耐熱性,耐磨耗性,耐食性,電気絶縁性等の点で金属材料等他の材料に求め得ないすぐれた性質があり,とれがわれわれの生活,とくに住生活にいかされてきたのである。

しかしながら,近年における固体物理学に基づく材料科学の発達と電子顕微鏡,X線回折装置等の観察,測定技術の飛躍的な発展は,原子力,宇宙,電子技術等の諸分野からの新材料開発の強い要請と相まつて,従来の材料の性質のほかに半導体性,電磁気性,光学性等の新しい性質をもつ材料を次々と出現させてきた。

この結果,電子材料,光学材料等のファインセラミックス(精密窯業)が新たに起り,またわれわれの生活に関連の深い製品,とくにテレビジョン等家庭電化製品の部品あるいは耐熱食器,ガス自動点火装置等生活用品の性能向上も進められてきた。無機材料を構成元素からみると,従来はシリカ(Si O2 ),アルミナ(Al2 O3 )で代表されるように酸化物が多く用いられている。しかし,最近は超耐熱性,超硬性等の特性を備え,あるいは電子材料,光学材料としては集積化,超小型化に応ずることが要請されてきており,これらに対処するため,非酸化物系化合物,たとえば炭化物,ほう化物,窒化物,硫化物が多く取り扱われるようになつてきた。

また,新しい材質特性を求めるために,高純度材質の創製とこれを基礎に種々の添加物の効果についての研究が盛んであり,材質特性の再現性を図るためにその物質の組成と構造を明らかにするキャラクタリゼーション(特性づけ)が重要視されてきた。

最近における無機材料に対する要請は,科学技術庁が行なつた「新材料技術の将来方向に関するアンケート調査」の結果からもわかるように,ファインセラミックスのような付加価値の高い機能的な材料に向けられている。たとえば,小さい空間にきわめて高密度に電気エネルギーを蓄えられる材料,書換え可能な光メモリー用感光材料等電気,電子機能をもつ材料の開発に期待が寄せられている。また無機材料が直面している課題はダクタイル(脆くない)な耐熱材料,靭性をもつ材料,不燃性塗料等の開発である。,とくにエネルギー資源に関しては太陽エネルギーの利用を図り,また,エネルギー発生のさい廃ガスを伴わないセラミック半導体(太陽電池,燃料電池),固体電解質(化学蓄電池)の開発が急がれている。

(3)金属材料

金属は,古くから構造材として,また,近年は電磁材料など機能材として材料分野での重要な位置を占めている。

45年度において生産高が9,300万トンに達した鉄鋼は,長い技術開発の歴史を背景として製法,製品ともに大きく改善されてきている。今後の技術的問題としては,1)新しいニーズに応える技術の開発と2)製造過程の改良をあげることができよう。

1)については,高張力鋼,ステンレス鋼などの改良がある。高張力鋼は長大橋,高圧力容器などの要請から80〜100kg/mm2 級のものが実用化されており,さらにロケットのモーターケースなどに使用する超強力鋼としては200kg/mm2 級のものが使用され現在はさらに250〜300kg/mm2 級を目標に研究開発が行なわれている。また,ステンレス鋼は従来化学工業等に広く使用されてきたが,今後は海洋開発や公害防止機器等にその用途が拡大するものと考えられる。このような材料の高力化利用および海洋などの腐食性環境での利用の拡大は,材料の靭性や耐食性をさらに厳しく要求するのでこれらの要求に応え安全に使用しうる鉄鋼材料の研究開発が行なわれている。

2)の製造過程の改良については,現在のバッチ(回分)操作から連続操作への変換,さらには直接製鉄,原子力製鉄を実現して,省力化,無公害化を進めることが目標とされている。

非鉄金属の構造用材料としては,従来のアルミニウム合金や銅合金とならんでチタン等新金属が今後有望な材料として期待される。チタンは比強度や耐食性の面できわめてすぐれた性質をもちながら,現在なおその生産量が鉄鋼の0.01%程度にとどまり,特殊用途に限られているのは,精錬から加工にいたるまでコストを含めて現在なお問題が残されているためである。今日のチタン精錬はクロール法が主流であるが,これは不連続操業であるためコスト低下には限度があり,これを連続式とするなど新しい技術開発によつてコストダウンを図り,利用分野の拡大を図ることが期待されている。このほか,極限条件下で使用される構造材料としては,ニオブ,タンタル,モリブデン,タングステン,バナジウム等は融点がきわめて高く特殊の使用環境に対する特性をもつているが,なお,今後研究開発を要する問題点も残されている。たとえば,高融点金属は高温下での酸化防止に問題があり,これを解決すれば超耐熱材として実用化されることとなろう。

機能材としては半導体材料のゲルマニウム,シリコンが著名であるが,今後はマイクロ波素子,光素子,論理演算素子等として特性を示すガリウムーひ素などの3族-V族化合物やそれらの固溶3元半導体,磁性をもった半導体としてのカルコゲンクロマイト等の新しい素子の研究が注目されている。

そのほかいわゆる超電導材料としてエネルギー損失がほとんどなく,また使用可能温度や発生可能磁界の高い高性能の超電導材料の開発も行なわれている。

(4)複合材料

人間はこれまでにも,たとえばコンクリート,バイメタル等のように,2種以上の材料を組み合わせて素材が本来有する性質のほかに新たに特殊な性質を付与された複合材料を開発してきた。とくに近年は科学技術の進歩,人間生活の多様化等によつて各種の用途に応じた性質を有する材料を必要とし,これらの要請に応えることのできる複合材料の重要性が高まつている。

複合材料は素材の組合せによつて無数に存するが,最近の傾向としては苛酷な環境条件下で使用でき,しかも多くの物理的,化学的性質を備えたものが要求されるようになつてきている。

こうした要求を満足する複合材料には,クラッド金属,サーメット系材料等いくつかあるが,なかでも今後大いに発展する可能性を有するものと考えられるものは繊維強化材料であろう。

繊維強化材料は,素地にプラスチックや金属を用い,強度の大きい繊維状の物質で材質を強化したもので,強度,重量,耐食性等にすぐれた性質を有している,現在使用されているその代表的なものは,ガラス繊維強化プラスチック(FRP)で,輸送機械,スポーツ用品,生活用品等各種の用途に用いられている。しかし,FRPは耐熱性と弾性が不十分であり,これらの特性が要求される原子力,冶金等特殊な分野ではまだ金属の代替材料となり得ていない。

そこで最近は耐熱性を増し比強度や弾性,剛性を高めるため,繊維としてセラミックや金属を用いたもの,素地を金属としたもの(FRM)等が新たに開発されつつある。

たとえば, FRPとしてはボロン繊維で補強したエポキシ樹脂が航空機の翼やヘリコプターのローターに,また,炭素繊維で補強したプラスチックがジェットエンジン部品に利用されている。FRMとしては,ボロン繊維で強化したチタン板の超音速機への利用がある。

さらには,繊維として結晶にほとんど欠陥がなく理論強度に近い強さをもつウイスカーを使用することも考えられており,これが完成すればきわめて強力な複合材料が得られることになる。複合材料は無機,有機の材料分野を問わずこれらの性能向上に大きく貢献する。このように,それぞれの分野での新しい材料の誕生は,新しい複合材料の実現を導き,科学技術の進歩に伴つて要請される種々の条件下での最適材料としてその役目を果たすことが期待されている。


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