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第1部   希望にみちた社会をめざす科学技術
第4章  明日を担う科学技術
3  海洋開発


海洋は地球表面積の70%を占め,貴重な自然環境を形成するとともに,鉱物資源,生物資源,海水およびエネルギー資源,スペース等多種多様な資源を豊富に包蔵している。

人類は古くから,海洋より多大の恩恵に浴してきたが,海洋のもつ広範な開発可能性からみれば,そのごく一部を利用してきたにすぎなかつた。これは激しい波浪,高い水圧,海水による腐触など海洋における厳しい自然条件がその多目的な開発利用を制約してきたからである。しかし,最近の科学技術の急速かつ広範な進歩は,これを克服してその開発利用の可能性を高めつつある。とくにわが国は陸上資源に乏しく,狭小な国土に高密度の社会・経済を営んでいるため,今後需要の増大が見込まれる資源の長期的な確保と生活空間の拡大に果たす海洋の役割はきわめて重要である。

海洋開発の本格的な展開のためには,海洋の実態調査の研究や各分野にわたる技術開発を行なうなど広範多岐にわたる科学技術を総合的に駆使することが必要である。しかも,海洋が人間にとつて厳しい条件をもつ新しい環境であるため,個々の専門分野における技術開発とともに,それらを総合化したシステム技術および各分野にわたる共通的技術の開発を行なうことも必要である。

(1) 技術進歩の状況

(1) 海洋の調査研究

海洋に関する学術的調査研究については,大学が中心となつて行なつている。これまでに水産・航行および海象・気象の分野で活発な調査研究が進められており,世界のトップレベルにあるものもある。

一般的基礎的調査については国が行なつており,その内容は海底地形・地質調査および海象・気象調査に大別することができる。海底地形・地質調査については,42年度より,日本周辺大陸棚全域を対象として関係省庁の協力により,総合的調査研究が行なわれている。これに必要な調査用機器としては,音響地層探査機,エア・ガン探鉱機,サイド・スキャニング・ソナー等各種の新鋭機器が開発されている。また,47年度からは地質調査専用船の建造にも着手している。

海象・気象調査については,調査船による調査,一般船舶からの通報等従来からあるものに加えて,定点観測プイ,航空機,人工衛星等新しい調査機能を備えたものが整備されつつあり,観測用機器もART(航空機ふく射温度計),XBT(投げ捨て自動記録温度計),STDO(多要素海象資料測定記録装置)等が実用化されている。また,得られた情報の管理については,国際的情報交換通信系と連結したADESS(気象資料自動編集記録装置)を中心とするシステムの整備が急がれている。

(2) 海洋の開発利用

海洋開発は多くの分野にわたつているため,これに必要な技術も多種多様である。以下,海洋開発技術を開発分野に直接関連する技術,海洋環境保全技術および先行的共通的技術の3つに分類し,その研究開発の状況について述べる。

(イ) 開発分野に直接関連する技術

1) 海底鉱物資源開発

海底鉱床の探鉱技術については,磁力計,重力計,音波探査計等の物理探査技術の精度の向上が図られ,さらにデータ処理解析技術の開発および探査位置決定技術の精度の向上が進められている。試掘採掘技術は諸先進国に比し立ち遅れているが,最近水深200mにおいて移動可能な半潜水式掘削装置が開発され,さらに可削水深300m,掘削深度9,000mの大深度遠隔操作海底石油掘削装置の開発が行なわれている。また,深海底マンガン団塊の開発については,わが国で開発したロープ・ライン連続バケット式採鉱装置の改良を中心とし研究開発が進められている。

2) 海洋生物資源開発

この分野に関する技術には,資源培養型漁業技術,新漁場開発技術および基礎的技術がある。

資源培養型漁業のための技術は近年著しく向上し,沖合養殖施設,漁場環境改善技術などが確立し,なかでも瀬戸内海栽培漁業センターによるくるまえび等の人工種苗大量生産技術は世界的にも高く評価されている。また,新漁場開発技術については,官学民の協力により設置された海洋水産資源開発センターが中心となつて漁場探査企業化試験が行なわれている。

開発の基礎となる技術開発としては,全方向魚群探知機,中層曳網,深海用トロールなどが開発され,バイオ・テレメトリー装置,魚群計数器,人工流木,音響集魚機等の開発も進められている。

3) 海水およびエネルギー資源開発

海水淡水化技術は,小規模なものについてはすでに実用化され,輸出の実績もあるが,さらに大量かつ低コストの淡水化と海水溶存物質の回収利用を目的とする技術開発が行なわれている。

海洋エネルギー利用については,ブイ用として10〜100W程度の波力発電が実用化されており,海水揚水発電は実用化の検討の段階にある。潮汐発電,温度差発電は,わが国の立地条件等から実用化は困難とされている。

4) 海洋スペース利用

海洋スペース利用については,波浪,沿岸流,漂砂等沿岸環境条件の調査研究に基づき,海洋構造物の構造設計,耐震性等に関する技術研究,超軟弱地盤工法,岩盤しゅんせつ,掘削工法,各種海底作業機械等の開発が行なわれており,すでに本四連絡橋,人工島,沈埋トンネル,海中展望塔等のプロジェクトが進められている。さらに海中貯蔵施設,海上空港など種々の構造物について研究開発が進められている。

(ロ) 海洋環境保全技術

最近,瀬戸内海,東京湾等で海洋の汚染が進行しており,これに伴つて海洋環境保全・改善技術が注目されてきている。現在水質汚濁等の実態調査,汚染と自浄機構の調査研究および調査手法の研究とともに,瀬戸内海大型水理模型の建造が進められている。また,油濁処理技術については流出油捕収船,オイルフェンス,乳化剤等が開発されているが,まだ十分とはいえず,汚泥処理技術の開発もようやくその緒についたところであり,今後の実用化が期待されている。

(ハ) 先行的共通的科学技術

海洋開発の効率的推進のためには,以上のような各分野における研究開発とならんで,海洋開発の種々の局面で利用される先行的科学技術あるいは共通的科学技術を確立する必要がある。現在進められている研究開発には次のようなものがある。

1) シートピア計画

海中における作業能力,作業範囲,作業方法を究明し高圧環境下における生理学的心理学的研究を行なうため,国は水深100mの海底に基地を設置し,4人のアクアノートが一定期間居住し海中作業を行なうことを目的とするシートピア計画を進めており,47年8月,この第1段階として,30m海底での居住実験に成功した (第1-25表)

第1-25表 各国における主な海中居住実験

2) 潜水調査船

一般海洋調査,水産海洋調査,海底地形地質調査等には,潜水調査船がきわめて有効であり,またこれを建造することは材料,動力,情報伝達等多くの面で先行的共通的技術の向上をもたらすことになる。このため,国は昭和43年に深度600mの潜水調査船を建造・運航しており,さらに48年度から深度6,000mの潜水調査船の調査研究に着手することとしている(第1-26表)。

第1-26表 各国の潜水調査船(潜航深度4,000m以上)

3) 潜水シミュレーター

潜水技術者の養成訓練,潜水時の安全基準作成,潜水医学の解明のため,国は46年度から水深500mまでの海中環境を再現でき,8人を収容できる潜水シミュレーターの開発に着手している。

4) 高圧実験水槽等

深海における調査開発機器の開発テスト等のため,深海底の状況を再現する必要があり,国は高圧実験水槽の設計製作に着手している。

このほか国が中心となつて,潜水技術,情報伝達技術,材料,動力源等の先行的共通的技術の開発を進めている。なお,海洋科学技術の総合的推進を図るため,その中核的機関として,46年10月海洋科学技術センターが設立された。

(2) 将来実現が予測される技術

以上のように海洋開発は多くの分野において活発化しているが,今後は海洋に対する経済的・社会的要請がたかまり,技術開発が進むと予想されるところからおおよそ次のような段階を経て新しい海洋開発が展開されよう。

まず,海洋開発に当面要請されている課題の解決を図るための既存技術の拡大を中心とした沿岸部および大陸棚の総合的開発である。現在強力に進められている多くの技術開発プロジェクトの進展により大陸棚における石油,天然ガス等の資源の開発,栽培漁業,海水淡水化が本格化し,さらには海洋レクリエーション施設,広域公園の整備等生活空間の拡大と海峡連絡通路,沈埋トンネル等産業,交通のための海洋スペース利用が活発に行なわれるものと考えられる。また,この時期は将来の本格的海洋開発のために定点観測ブイ,漂流ブイ,資源衛星等の調査システムが整備され,情報収集が行なわれる準備期間でもある。

次は,総合的海洋開発産業を中心に海洋の本格的開発利用が行なわれる時期である。電子技術の応用を中心とした調査観測技術の進展により詳細な海洋情報が得られ,精度の高い予測が可能となる。これとともに海底石油開発は遠隔操作掘削装置,海底パイプライン,海底貯油タンク等一連のシステムによつて,また深海底マンガン団塊採掘は専用探鉱精錬船によつて行なわれ,いずれも商業的採取が可能となろう。

多くの種類の高級魚介類は音波囲網,気泡防波柵等を使つた海洋牧場で生産され,各海域には人工藻場,人工畝等による稚仔哺育場が設置される。

また,沈設,浮体構造物の建設技術が確立し,海上空港,海中貯蔵施設,海上コンビナート等が有機的に設置された新しい産業地帯が生まれよう。

海洋汚染の防止のため,廃棄物は構造の簡単な化合物に分解されて再生利用され,また有機物の多い廃水も適度に分解され大洋域の栄養源として施肥するシステムの実現が可能となろう。

これらの開発により,海洋は陸上と同様に生活産業の場として利用され,豊かな生活をもたらすことが可能となる。

さらに,将来を展望すれば,海上都市,海中高速道路,海底原子力発電所等超大型構造物の建設技術が開発され,また地球的規模で数年にわたる長期の気象予報が可能となり,海流制御による台風等気候のコントロールが可能となろう。さらに,原子力湧流装置によつて海中の炭酸同化作用を促進し新漁場を開発するなど,大規模な技術が開発されるであろう。


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