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第1部   希望にみちた社会をめざす科学技術
第4章  明日を担う科学技術
1  原子力開発


社会・経済の健全な発展を図り,国民福祉の向上をもたらすためには,安定,豊富かつ低廉なエネルギーの供給を確保することが不可欠である。これまでわが国のエネルギー供給の主力を担つてきた在来化石燃料については,近年,大気汚染,原油の国際価格上昇,枯渇の心配等の問題が発生し,将来とも全面的に化石燃料に依存することに不安がある。これらの面で比較的問題の少ない原子力は,資源の輸送,備蓄が容易であるなどの特長とも相まつて,わが国における将来のエネルギー供給の安定化を図る上に大きく貢献しうるものである。また,原子力は今後の研究開発により在来エネルギー源に比してコストを低減させる期待が大きく,同時に生活環境の保全を図る上に必要なきれいなエネルギーを供給する可能性を有している。

一方,放射線の利用は,原子力の動力利用とならんで国民福祉の向上に大きく貢献するものであり,がんの診断および治療,放射線育種,食品照射,放射線化学,非破壊検査等産業経済と国民生活の広範な分野にわたつて重要な役割を果たすものと期待されている。

さらに,原子力の研究開発は,わが国の科学技術水準の向上に寄与するだけでなく,産業構造の高度化等に大きく貢献することが期待される。

(1) 技術進歩の状況

(1) 原子炉開発

現在,わが国で稼動中の商業用発電炉は5基,合計電気出力は182万KWであるが,昭和55年度末には3,200万KW,60年度末には6,000万KWに達すると見込まれている。

一方,世界各国でも積極的な原子力発電の開発が行なわれており,昭和47年6月末現在,116基総電気出力3,038万KWが運転中である。

これらの発電設備を炉型別にみると,軽水炉が約60%とその大部分を占め,ついでガス冷却炉が約21%を占めている。

軽水炉を中心とする開発利用は今後も進むと考えられ,47年6月末現在100万KW以上の軽水炉は64基の建設が計画されている。軽水炉は,このように世界的に最もよく使用され,経済性のすぐれた原子炉であるが,核燃料の有効利用という面で限度がある。一方,高速増殖炉は消費された以上の核燃料を生成する画期的なものであり,ウランの持つエネルギーを最高限度に利用しうる理想的な原子炉である。このため,各国とも高速増殖炉の研究開発を積極的に推進している (第1-36図) 。しかし,高速増殖炉の実用化までには長期にわたる研究開発が必要であり,わが国ではそれまでの過渡的段階として早期の実用化が期待され,かつ軽水炉と違つて天然ウランが利用できる新型転換炉の開発を行なつている。

第1-36図 各国の高速増殖炉開発状況

なお,わが国としては,当分の間は軽水炉が主流であり,これに必要な濃縮ウランを確保することの重要性から,米国からの供給確保,国際濃縮共同事業への参加の検討とともに,昭和60年までに国際競争力のある国産ウラン濃縮工場を稼動させることを目標として,遠心分離法による製法について研究開発を進めている。

(2) 原子力船

原子力エネルギーの動力利用には,発電のほか,原子力船として利用する方法がある。原子力船は,少量の核燃料で長期間にわたつて高速運航を行なうことができ,また大量の燃料油の積載が不要であるなど,在来船にはないすぐれた特性を有している。

したがつて,海運,造船国としてのわが国は,世界の原子力船開発の動向に対応してその開発に努めることが必要である。このため,日本原子力船開発事業団を設立し,一貫した責任体制のもとに原子力第1船「むつ」の開発を行なつている。

これまでに世界で建造された平和目的の原子力船は,ソ連の砕氷船レーニン号,アメリカの貨物船サバンナ号,西ドイツの鉱石運搬船オットー・ハーン号の3隻であるが,これらは,わが国の原子力船「むつ」を含めていずれも実験船的色彩が強く,在来船と経済的に競合できるものではない。これに対処するためには,一体型加圧水炉等進歩した舶用炉の開発を行なう必要があるので,47年6月原子力委員会の決定した原子力開発利用長期計画に沿つて舶用炉に関する研究開発を積極的に推進することとしている。

(3) 放射線利用

放射線は,早くから医療に利用されていたのみならず,物理学,化学,生物学等各分野における研究手段として利用されてきたが,最近では原子炉の中で各種の人工放射性物質が多量にしかも安くつくられるようになり,また,強力な放射線を発生する粒子加速器などの発達も加わつて,放射線利用の分野は急速に拡大してきた。

医学利用については,新しい核種,放射性医薬品,照射治療装置の普及と医用加速装置の実用化と相まつて,今日,放射線はがんの診療をはじめ各種疾病の診断・治療のために不可欠な手段となるまでにいたつている。がんの治療では,Co-60による照射やリニア・アクセラレーター,ベータトロン等の加速器による電子線照射等が行なわれている。

農業利用については,放射線育種,食品照射等の研究が行なわれている。

農林省の放射線育種場(ガンマ・フィールド)では,自然条件のもとで生育している作物にCo-60のガンマ線を照射して人為的に突然変異を引き起こし,作物の品種改良を行なつている。食品照射については,発芽・腐敗防止のため,ばれいしよ,玉ねぎ,米,小麦,みかん,水産ねり製品,ウインナ・ソーセージの7品目について研究が行なわれている。

工業面における利用としては,非破壊検査やラジオアイソトープを用いた厚さ計,密度計,液面計等各種測定器があり,品質管理,工程管理に役立つている。また,ポリエチレン,塩化ビニールなどの高分子物質に放射線をあてて,耐熱性の向上や繊維の染色性の向上を図る放射線化学や水資源の調査,公害の追跡調査等に利用されている。

(4) 安全性の確保

原子力開発利用は,放射能を安全に管理することによつてはじめてその正しい発展が可能となるものである。したがつて,原子力開発利用を進めるにあたつては,安全性の確保が不可欠であり,国は従来から必要な法的措置およびこれに基づく厳重な規制や所要の諸施策を実施するとともに,安全性のより一層の向上を図るためにこれに関する研究を積極的に推進している。

この研究の主なものとしては,軽水炉冷却材喪失事故試験装置(ROSA)を用いて冷却材喪失事故時における現象の解明に関するものあるいは反応度事故実験装置(NSRR)を建設して,原子炉の異常出力上昇時における炉内燃料の挙動,エネルギー放出と圧力の伝播に関するものなどがある。

また,原子力施設設置者は,放射性物質の放出を減少させるため,活性炭式希ガスホールドアップ装置の追加設置,廃液処理系の改良を行なうなど,極力放出を抑える努力を払つている。

(2) 将来実現が予測される技術

(1) 核融合

核融合動力炉は,これが実現された暁には埋蔵量に制約のある地下資源に依存することなく,半永久的にエネルギーの安定供給を可能とする。また,高い安全性が見込まれることから,立地上の制約も大幅に緩和されるとともに,放射性廃棄物の処理処分問題も軽減されることが期待されている。したがつて,核融合動力炉は,人類の未来を担う究極のエネルギー供給源としてその実現が強く期待されており,近年ようやくその実現について明るい見通しが得られつつある。

核融合の研究開発は過去10年以上の間,高温プラズマを安定に閉じ込め得る磁気容器の探索にその重点が置かれていた。しかし,現在,世界のすう勢は昭和44年頃から新しい局面を迎え,とくにトカマク型を中心とする低ベータ・トーラス系装置は,今後プラズマ加熱法の技術開発やベータ値を高めるなどの改良,発展により臨界炉心プラズマの達成までつなげうるとの見通しが得られる段階にまで到達している。このトカマク型トーラス装置は当初ソ連で開発されてきたものであり,外部磁場のみでなく,内部にプラズマ電流を流すことによつて得られる内部磁場をも利用して閉じ込めようとする型で,現在アメリカおよびソ連で大型実験装置の建設計画が進められている。

これが成功すれば,昭和50年代前半には臨界炉心プラズマの実現が期待され,その延長として今世紀末には核融合動力炉の実用化が見込まれている。

科学技術庁が46年度に行なつた技術予測でも1990年代の前半に連続制御が可能な核融合炉の実験炉が完成すると予測されている。

わが国では,将来の核融合動力炉をめざして計画的に研究開発を推進しており,日本原子力研究所は中間ベータ値トーラス磁場装置(JFT-2)を47年度はじめに完成した。JFT-2は,現在使用中の諸外国のトカマク型装置と比較して生成されるがプラズマが太いこと,ダイナミック・リミターを組み込んだことなどいくつかの特徴を備えている。本装置により最近閉じ込め時間等について相当の成果をあげ,わが国の核融合研究は世界の第一線の研究開発と比肩しうる地位を得た。今後同装置は磁場の増強等が予定されており,さらに核融合の実現をめざす発展への基礎を確立する重要な資料が得られるものと期待されている。

(2) 原子炉の多目的利用

原子力エネルギーをプロセスガス,プロセスヒートおよびプロセス蒸気の形で製鉄,化学工業等のエネルギー多消費産業および海水淡水化,地域暖房等の多くの分野に直接利用することも有効である。

このような原子炉の多目的利用は必要温度によつて2つに大別され,在来型炉の低温蒸気(100〜200°C)でも十分に利用可能な海水淡水化,地域暖房等と高温ガス炉による製鉄,化学工業等高温熱エネルギー利用とがある (第1-37図)

第1-37図 各種産業の必要温度領域

その第1段階として電力生産と同時に,その低温蒸気を活用する海水淡水化,都市の集中暖房等が実用化するものと考えられる。

海水淡水化を行なう本格的な二重目的原子炉の第1号炉は,昭和47年1月に建設を完了したソ連の高速増殖原型炉BN-350で,35万KWの電力が得られる容量を持つている。このうち15万KWを発電に使い,残りの熱で1日当り12万トンの水をつくるように設計されている。

世界初の原子力利用の地域暖房は,スウェーデンのオーゲスタ原子力発電所(電気出力1万KWe,暖房用熱出力5万5000KWt)で,ここでは,発電所から約4kmはなれたファルスタ団地へ蒸気を供給している。

また,第2段階として冷却材出口温度1,000°C以上の高温ガス炉が完成すれば,原子力製鉄の道が開かれ (第1-38図) ,さらに化学工業部門でも水素製造,石油精製,石炭,石油のガス化等各種の利用が可能となる。高温ガス炉によるこのような利用が確立された場合には,中心となる高温ガス炉からの高温熱エネルギーの利用を原子力製鉄,高温利用の化学部門,プロセス蒸気,海水淡水化さらに地域暖房等カスケード的に組み上げる原子力コンビナートも考えられる。しかし,これには1,000°Cという高温に耐えられるすぐれた耐熱材料,被覆粒子燃料の開発など多くの技術的課題が残されている。

第1-38図 原子力製鉄の基本方式

現在,わが国では,このような高温ガス炉の技術的経済的見通しの検討を行なうに役立つ基礎的な研究として,日本原子力研究所で冷却材出口温度1,000゜Cを目標とするヘリウムガスループを建設し伝熱流動実験を行なう一方,耐熱材料,被覆粒子燃料の研究を行なつている。


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