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第1部   希望にみちた社会をめざす科学技術
第3章  資源の有効利用に取り組む科学技術
第2節  資源の現状と技術開発の動向
4  食糧資源



(1) 現状と問題点

経済の高度成長とともに,わが国の食生活は著しく向上し,それとともに日本人の栄養水準はおおむね好ましい状態に近づいてきている。

わが国の食糧需給をみると,需要面では,食糧消費の多様化,平準化が進み,食糧に対する消費者の選択の幅も拡大している。すなわち,米の消費が減少し,畜産物,果実,野菜の消費の増加がみられ,し好追求による質の向上,加工度の高いものへの欲求もみられる。供給面では,国内で生産される食糧と海外からの輸入食糧とによつて充足されているものの,米,野菜,果物,水産物を除いては,輸入食糧に対する依存度が高まつている。このため,食糧の需給関係は,現在のところ必ずしも満足すべきものではなく,米の供給過剰による作付制限や野菜の需給アンバランスによる価格の変動など,いくつかの問題点を抱えている。また,農業生産環境をみると,労働力の高令化や女性化,土地基盤整備の不足,都市近郊農地のスプロール化および食糧としての安全性問題のほか,わが国の農産物は国際的にみて割高で農産物の輸入自由化や関税率引下げ圧力の強まりへの対応が困難であるなど各種の問題を抱えている。

また,水産資源については,毎年着実に生産量を伸ばしているが,その魚種は,すけとうだら,さば,いかを中心とするもので,多様化している需要に必ずしも応じていない。加えて,沿岸海域の汚染等により漁業活動の主体が沿岸から遠洋へと移行しているが,北洋漁業に対する規制問題や国連人間環境会議の捕鯨禁止決議などに象徴されるように漁業をとりまく状況はきわめて厳しくなつている。

一方,世界に目を転ずると,世界の食糧資源の生産と消費の間には地域的に大きなアンバランスがある。すなわち,アジア,アフリカを中心とする開発途上国は慢性的食糧不足に悩まされているが,アメリカ,カナダなど先進国の農産物生産力には余裕がある。したがつて,カロリー摂取量は,平均して先進国では必要量を上回つているのに対し,開発途上国では逆にかなり下回つている。また,たん白質も,先進国では必要量またはそれ以上の1日70〜90gを摂取しているのに対し,開発途上国では必要量に達しておらず,なかでも,南アジアでは40g程度にとどまつている。

このため,開発途上国は農地の拡大,農業技術の改善,品種の改良などを行ない食糧の増産につとめているものの,これらの開発途上国では,いずれも人口増加率が高く,依然として食糧不足から解放されていない。

1970年6月の第2回世界食糧会議においては,最近の農業技術の革新が先進国のみならず,開発途上国にも“緑の革命″をもたらし,食糧危機は回避されたと述べられた。しかし,現実には解決に向つているとはいいがたく,むしろカンボジアのようにかつての米の輸出国で現在はほとんど輸出できない国さえ出てきている。

水産物も,近年貴重なたん白質食糧として各国で再認識されはじめている。開発途上国においては予想される急激な人口増加に対するたん白質食糧として,また,先進諸国にあつては畜産業の発展のための飼料として水産物資源の利用が大きく期待されている。


(2) 技術開発の動向

このように食糧資源の現状と問題点をみてくると,食糧資源に関して,国内的にも世界的にも多くの問題が指摘されるが,国内的な問題に対処する技術開発が世界的問題の解決にも寄与するという観点から,わが国の技術開発の動向を述べる。

(1) 生産性向上技術

食糧生産における生産性向上には,土地生産性を向上させる方向と労働生産性を向上させる方向とがあるが,現在わが国は,労働生産性の向上に力を注いでいる。

は農産物の生産については,農用トラクタの改良,肥料・農薬の散布機,播種移植機,収穫調製機等の各種作業機の開発改良など機械化のための研究,育苗施設,生産物調製加工施設,園芸施設などに関する装置化のための研究,さらには農業のシステム化のための研究などが行なわれ,多大の成果をあげてきた。

さらに,このような機械化,装置化,システム化の推進を支えるものとして,土地基盤の整備,新しい栽培管理手法の導入,農作業の安全確保などの施策が講じられ,着実に労働生産性が向上してきている。また,土地生産性の向上に関しても,品種改良,肥料・農薬の開発・改良,肥培管理技術の改良など地道な努力が続けられている。

畜産物の生産については,上述と同様な飼料作物の生産性の向上のほかに,家畜飼養関係の技術として,大型畜舎に関する研究,飼料給与関連機械設備,搾乳機器,糞尿処理施設などに関する研究が進められた結果,経営の大型化が可能となり,家畜の資質の向上,飼養管理技術の向上と相まちt,生産性が大幅に向上してきている。

水産資源については,従来の漁船漁業の分野では,資源の調査技術の開発を図り,対象生物に関する適確な知識を獲得し,資源の有効利用を図るとともに,生産の安定的拡大を図るために魚群探査技術をはじめ,漁労技術の開発,改善等もなされつつある。また,今までのとる漁業ではなく,つくる漁業として,人工的に環境の制御,改善あるいは種苗の放流を行ない,自然の生産力を利用して有用種の生産を増大,助長する技術の開発が進められており,今後,大きな発展が期待されている。

(2) 流通近代化技術

資源の有効利用の立場からみた流通近代化技術としては,生鮮食料品,加工食品,貯蔵食品等について消費需要に対応した合理的な商品形態および流通(貯蔵を含む)形態の開発,すなわちコールド・チェーンの普及,安全な食品添加物の利用,放射線照射による貯蔵性の向上,コンテナ輸送,フェリー輸送の普及,各種包装技術の改良などが図られている。しかし最近,廃棄物の処分難から食料品の包装についても新たな問題が発生しており,過剰包装の防止と使用後の包装資材(とくに,プラスチック製品,かん類)の回収,分別,資源化技術の開発の必要性が高まつてきている。

水産物の流通についても,漁場の遠隔化に伴い高性能な冷凍技術の導入が図られている。すなわち,遠洋底びき網漁業,かつお,まぐろ漁業などにおいて,単に漁獲直後の魚を冷凍するだけでなく,フィーレ(3枚おろしの肉片)等にして船内で急速冷凍し,それを保蔵する技術が開発され,また,たらをすり身にして低温貯蔵する新しい技術が開発されている。

このほか,未利用水産資源を食糧として流通させる加工技術としては,多獲性魚類,あるいは有用魚の漁獲に付随してとれる低級魚等を用いて魚類たん白濃縮物(FPC)を生産する研究が進められており,今後の発展が期待されている。また,南氷洋の沖アミ等を有効に利用する加工利用技術を開発する必要性が指摘されている。

(3) 人工物質での代替技術

人工物質での代替として最近注目されているものに,石油系炭化水素を栄養源として繁殖した微生物の菌体を利用したいわゆる石油たん白がある。すでに,これを家畜等の飼料にする製造技術が開発されているが,これの企業化には安全性の確認が重要となつている。

また,重金属等安全性阻害物質を含まない廃水を微生物で処理することによつて,スラッジ,光合成細菌等を飼料として利用する技術の開発も行なわれている。

(4) 環境対策技術

糞尿処理は畜産の振興上重大な問題となつている。

糞尿処理技術には,1)土壌還元,2)乾燥,焼却,3)処理(酸化池法,散水ろ床法,活性汚泥法および土壌浸透蒸散処理法等)があり,家畜の種類およびその立地に即応した技術の開発と処理体制の整備が推進されつつある。これらのうち,とくに土壌還元技術は,有機質肥料による地力の増進という見地から望ましいものであり,農業団地との有機的連けいを配慮した畜産団地の立地計画がたてられている。このほか,水を大量に使用する食品工業の汚廃水についても,有効な処理技術の開発が進められている。

農薬の散布は,散布者等の直接的な被害のほかに,土地,水,大気等の環境の汚染や農薬が食品中に残留することによる人体への悪影響などの問題を引き起こしてきた。このため,農薬の生産,流通,使用の各面にわたる規制監視組織の整備等を行なうとともに,低毒性・低残留性農薬の開発,農薬の分解・代謝過程の解明,微量分析技術の高度化等多面的に研究開発を強化してきており,多大の成果をあげている。今後も新農薬の創製,生物的防除法の開発,環境および生物に対する影響の解明等を主題に研究開発が進められようが,このうち新農薬の創製では,アミノ豪農薬,天敵や微生物を害虫防除に利用する生物農薬,農薬用抗生物質等の開発が注目されている。


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