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第1部   希望にみちた社会をめざす科学技術
第3章  資源の有効利用に取り組む科学技術
第2節  資源の現状と技術開発の動向
3  水資源



(1) 現状と問題点

水は典型的な循環資源であるが,場所的,時間的に大きく変動する特性を持つている。

水は,降水から地下水,河川水と循環の過程でさまざまな態様で存在しているが,水資源の賦存量という場合,水の循環する速度が問題であり,同時に循環の過程を重視しなくてはならない。

わが国の水資源は,地域によつてかなり異なつた特色を持つている。それは主として,降水の地域的,季節的な特性によるものであるが,地形,地質等の要素も河川流出の特性に影響を与えている。年間降水量は,地域によつて600mmから4,600mmにわたつており,年間で7,000億m2 程度である。

水資源に対する需要を用途別にみると,農業用水は,その利用量を正確に把握することは困難であるが,夏期かんがい期間中(約100日間)の需要量は,全国で約500億m3 強とみられている。今後の農業用水需要量は,土地利用の変化等により水需要の減少が見込まれる側面もあるが,畑地かんがい,ほ場整備の進展等による用水需要の増大が見込まれるので,全体では漸増するものとみられている。

生活用水は,水道の普及,生活水準の向上に伴つて増大しており,とくに人口集中の激しい大都市およびその周辺では,急増する需要に供給が十分応じきれない事態も発生している。水道(上水道,簡易水道,専用水道)の年間給水量は,昭和30年には29億m3 であつたものが45年には101億m3 と急激に伸びており,上水道の1人1日当り平均給水量も昭和30年の24llから45年には35llと増大している。生活用水の今後の需要の動向は,水洗化,暖冷房,洗車,散水等,生活水準の向上に伴う需要増が見込まれ,建設省では昭和60年には201億m3 と45年の倍の需要があるものと推定している。

工業用水(淡水)の使用量は,製造業出荷額の伸びに伴つて増加している。

昭和28年には85億m3 であつたものが45年には310億m3 と急増しているが,他1方,技術の進歩による用水原単位(製品単位当りあるいは出荷額単位当り水使用量)の減少,回収率の向上等,水を有効に利用する努力も行なわれ,回収率は昭和28年の20.6%から45年には51.7%に上昇しているので,需要量は67億m3 から160億m3 となつている。工業用水は製造業種により使用量に大きな差があり,パルプ工業,化学工業,鉄鋼業がきわ立つて多く,この3業種で全使用量の約70%を使つている。

工業用水の利用内容をみると,冷却用が61.5%に達し,洗浄用水が24.9%,ボイラー用水2.4%,原料用水0.6%となつており,冷却用が多いため,回収率もかなり高くなつている。通商産業省は昭和60年の工業用水需要量を347億m3 と推定しており,これは45年の2.2倍である。

しかし,水資源には限度があり,以上のような水の需要を賄うためには,下水や工場排水の再生利用,海水の淡水化などを図る必要があるので,その実用化のため新たな機構の設立準備が進められている。


(2) 技術開発の動向

(1) 水資源管理技術

水資源の量的・質的な管理は,これまで各水利用分野ごとあるいは個々の施設ごとに行なわれてきたが,水資源開発の進展に伴い,また水利用分野間あるいは上,下流の施設問の関連性が高まるに従つて,より広い総合的な水資源管理の必要性が育まつてきている。

水資源管理技術の主要な課題は,水情報システムと管理の方法を決めるソフトウェアの開発である。

水情報システムには,データの入手,伝送,処理,解析に関するハードおよびソフトな技術を必要とされるが,これらは,最近のコンピュータを中核とするエレクトロニクス技術やリモート・センシング技術を適用することによつて,飛躍的な発展が期待されている。しかし,複雑な自然現象の把握には,技術上種々の問題が残されている。とくに人手のかかる観測測定の自動化,迅速化に関する技術の開発が急がれており,レーダーによる降水量の測定法,超音波による流速の測定法などが開発されつつあり,また水質の自動採水分析についてもその可能性が追求されている。

水資源の管理方法を決めるためのソフトウェアの目的は,要求される水需要や水域の水質に応じて,自然から供給される水資源を水資源管理施設によつて,いかに制御するかを決定することにあり,このためのシミュレーションモデルの開発が急がれている。

(2) 水資源開発技術

(イ) ダムの築造および湖沼の利用

大量の貯水を目的としてダムの築造および湖沼の利用技術の開発が進められている。これまでのダムの築造は,基礎岩盤の良好なダムサイトを中心に主として重力式,中空重力式,アーチ式のダムによつて行なわれてきたが,えん最近ではロックフィル・ダムの技術が確立し,かなり地盤の悪い所でも高堰堤が建設されるようになつた。

湖沼の利用としては,琵琶湖,霞ケ浦などの開発があげられるが,水位変動による治水,利水および漁業,観光等への影響に対処する技術が要求されている。

(ロ) 河口せきおよび河口湖の利用

いずれも河川の最下流部で取水するため,水質の面で問題はあるが,水利権の競合が少なく,河川を最大限に利用できる利点がある。河口せきは,河川への塩水の遡上を防止し塩害を防ぐとともに,河道を掘削して洪水時の通水断面を拡張し,さらに河道の貯溜効果を利用して新規の水資源を得ようとするものである。利根川ではすでに完成しており,今後多数の河川に建設が計画されている。

河口湖は,臨海地帯を埋め立てることによつて貯水池を確保できる利点があるが,塩水混入の防止,淡水と海水の境界に発生するプランクトンの繁殖抑制など,水質管理の面で難しい問題が残つている。わが国では農業干拓の場合を除いてまだ実現していない。

(ハ) 海水の淡水化利用

海水の淡水化技術には,原理的にいえば蒸発法,冷凍法,逆浸透圧法,電気透析法などの技術があるが,現在のところ比較的安価に大量の淡水を得られるものとしては多段フラッシュ蒸発法があり,この方法に関する研究開発が行なわれている。

この蒸発法は大量のエネルギーを必要とするため,造水の経済性を確保するには安価なエネルギーをうる必要があり,火力発電の廃熱利用が考えられている。将来,原子力発電が発展すれば,その可能性は高まるものと期待されている。現在わが国では,造水機の熱効率の向上,設備費低減のための装置材料および濃縮海水から得られる食塩,塩素,か性ソーダ,か性カリ等の副産物利用を中心に研究開発が進められている。

(3) 水の再利用技術

将来の水需要の増大に対処するためには,種々の方策による水資源の開発とともに,水利用の合理化,高度化が必要である。

工業用水において回収水の割合が年々高まつていることは,水利用の合理化が着実に進展していることを示している。しかしながら,工業用水の用途別割合をみると,冷却用水が約60%,洗浄用水が約25%となつており,さらに回収割合を向上させる可能性がある。冷却塔による冷却水の循環利用のほか,工程別排水分離など生産工程の再検討によつて用水量の減少とともに廃水処理が容易となつた例もあり,今後一層水利用の合理化への努力が望まれている。

また,最近では,下水の再利用が注目されるようになつた。下水の再利用はすでに東京,川崎などで一部実用化されており,工業用水等に利用されているが,まだ水質が不十分であるので引き続き高次処理技術の開発が進められている。さらに生活用水への再利用も研究されている。

下水の処理水準によつて利用範囲が異なることなどから,処理技術の開発とともに,処理水準とコストおよび利用限度との関係,運転管理の難易など技術的可能性,経済性の検討も行なわれている。

一方,農業においても,パイプかんがいシステムの採用,河川末端取水,調整池の利用等水管理の近代化,水利用の高度化が進められている。

(4) 水の処理

水の処理は,環境保全の面からだけでなく,水利用の高度化を進める上にも不可欠の手段であるので,汚濁物質の種類,濃度,水量などによつて物理的,化学的あるいは生物化学的な単位処理操作が選択,組み合わされて行なわれている。

わが国の公共下水道の終末処理には活性汚泥法が多く採用されている。この方法は1917年にアメリカで実用化されて以来世界的に多くの都市で採用されており,ばつ気方式の改良などによりいくつかの変法が開発され,効率化が図られている。最近,アメリカで純酸素エアレーション方式が開発された。この純酸素エアレーション法は高負荷に耐え,余剰汚泥の脱水性がよいといつた利点があり,今後,広く利用されるものとみられている。

水需要の増大とともに水質汚濁問題も多様化しており,生物化学的酸素要求量負荷物質,固体浮遊物質だけでなく,窒素,リンなどの栄養塩類,重金属および有機塩素剤等の除去も必要となり,高次処理技術の開発が急務となつてきている。

この高次処理技術については,欧米では早くから研究が行なわれ,すでに実用規模プラントが稼働しているが,わが国ではようやく大型実験装置による研究が行なわれるようになつた段階である。 第1-21表 は高次処理技術の主な単位処理プロセスを示したものであるが,水の単位処理プロセスには,おのおの処理特性があり,選択的に汚濁物質を除去する。したがつて,実際の高次処理システムとしては,原水水質,処理水準および規模によつてプロセスを選択し適切に組み合わせなければならない。

第1-21表 除去物質と高次処理プロセス


次に,汚泥処理は水処理の最終段階として重要な過程である。下水汚泥は一般に濃縮,消化,脱水して埋立て等により処分されているが,一部では焼却後処分されている。汚泥処理では効率的な脱水および脱水さいの処理が重要な過程であり,おのおのの単位処理過程における改良が加えられている。

今後確実に増大する汚泥を従来どおりに処分することは,投棄空間地の確保難あるいは環境保全の面から問題があり,有効な処分法の確立が要請されている。科学技術庁は下水汚泥の有効利用の方策として,シラスとの混合による建材への利用についての研究を行ない,その成果を発表している。また農業用土壌改良剤としての利用も検討されている。


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