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第1部   希望にみちた社会をめざす科学技術
第2章  国民生活に密着した課題に取り組む科学技術
第3節  社会基盤の強化
2  交通輸送の高度化


(1) 現状と問題点

交通・輸送部門は社会・経済の大動脈として大きな役割を果たしてきた。 第1-14表 に示すとおり昭和35年以降10年間の国内における輸送量は航空,陸上,海上輸送とも倍増以上の伸びを示しており,とくに,航空輸送の伸びが著しい。

第1-14表 国内における輸送量の伸び

航空輸送については,国内線を中心に毎年大幅に伸び続け空の大衆化時代などといわれるようになつている。航空機も一段と大型化しており,1機150人程度であつた乗客定員は,ジャンボジェット機の出現により大幅に増え350人になつている。

陸上輸送をみると,道路は昭和39年の東京オリンピックを契機に都市を中心に自動車専用の高速道路網の建設が行なわれ,わが国も本格的な自動車専用道路の時代にはいつた。その後,名神高速道路をはじめとする都市間の高速自動車道が建設されるようになり,今や全国の主要都市は,高速道路で結ばれようとしている。

鉄道については,新幹線の輸送人員が毎年大幅に伸び続け,新幹線も輸送能力の限界に達しようとしており,第2東海道新幹線の建設計画が検討されるようになつている。

海上輸送では,タンカー,鉱石専用船など自動化技術を大幅に取り入れた船舶が続々建造されている。なかでも,タンカーの大型化がめざましく,現在では37万2千トンのタンカーが就航しており,47万トンのものも建造中である。

また,流通機構の近代化のために登場したコンテナ船は,急速に整備されつつあり,大型のコンテナ船も就航している。

このように,交通輸送の高度化は,大型化,高速化,自動化に向つて進められてきたといえよう。

しかし,急速な輸送需要に対応して交通輸送体制の整備拡充が必ずしも十分に行なわれなかつたため,以下に述べるようなさまざまな問題を引き起こしている。

まず第1に,大都市における通勤の混雑と自動車による道路の渋滞である。

鉄道については線区の複々線化,編成車両数の増大,地下鉄の建設と陸上の鉄道との相互乗入れなど数々の対策がなされてきたが,通勤時等における混雑は緩和されておらず,新興の住宅地域などでは混雑度が増したところさえある。

一方,都市における道路交通の渋滞,都市間を結ぶ高速道路の混雑は依然として解消していない。

第2に,交通事情の悪化,交通諸設備の不備などから交通事故が多いことである。自動車の保有台数が急速に伸びてきた昭和40年頃から自動車による交通事故が大幅に増加し,大きな社会問題となつた。国をあげての対策の結果ようやくその増加傾向は頭打ちになつたものの,依然として年間1万6干人もの死者がでている。これを諸外国と比べてみると (第1-15表) ,自動車の台数当りの交通事故は日本がかなり高い状況にある。

また,近年,航空輸送の増加に伴つて航空機による事故も多発している。

これは航空需要の大幅な増加に対し,航空機や飛行場諸設備の整備拡充や,乗務員の教育訓練が十分でなかつたことも一因となつている。

海上交通は,船舶の大型化,高速化,フェリーの大幅な伸長,水中翼船やホーバークラフトなどの超高速船の出現により一層ふくそうし,安全確保が問題になつており,とくに東京湾や瀬戸内海ではこの傾向が著しい。

第1-15表 自動車千台当りの死亡数

第3に,交通機関による公害問題が発生していることである。まず,自動車の排気ガスによる大気汚染については,全国の主要道路の沿線で排気ガスによる汚染が進行しており,住民に健康被害が出ている地域もある。また,光化学スモッグも自動車の排気ガスがその一因といわれている。

次に,交通機関による騒音と振動の問題については,交通機関が高速化,大量化するにつれて,クローズアップされ,飛行場,幹線道路の周辺や新幹線の沿線で大きな問題となつている。

さらに,タンカーなどによる海洋の油汚染の問題がある。とくに巨大なタンカーによる流出油事故はいつたん発生すると,広い海域を汚染し,各方面に甚大な被害を及ぼす危険性がある。

第4に,異なる輸送手段の相互連絡が欠如していることである。たとえば航空機は非常に高速になり,主要都市間をきわめて短時間で結ぶことができるが,飛行場と都心とを結ぶ交通機関が十分に整備されていないため,航空機の高速性が十分に生かされているとはいえない。貨物についていえば,海上輸送,港湾の荷役設備,陸上輸送の連けいや鉄道輸送と自動車輸送との連けいが問題となつている。

(2) 技術開発の動向

このように交通輸送は国民生活にきわめて重要であるにもかかわらず,さまざまな問題をかかえているため,政府もその解決に積極的に取り組んでいる。交通輸送に対する社会的需要は,近年ますます多様化,複雑化しているので,そのための技術開発も総合的に行なうことが要請されている。

政府では,新都市交通システム,電気自動車など各種の技術開発を推進している。一方,民間でも低公害エンジンの開発など活発な研究を進めている。そこで,以下技術開発の動向を概観する。

(1) 都市交通機能維持のための技術現在の都市における交通まひを解決するためには,道路を整備するだけでは解決できないところまできている。そこで自動車に代わるべき新しい交通手段として考えられているものに,新都市交通システムがあり,これは,交通混雑や交通災害などを解決する画期的な交通手段で,各方面から大きな期待が寄せられている。 このシステムは,大別すると次の4つのシステムに分類される。第1は連続輸送システムと呼ばれるもので,ベルトコンベアなどを使つて動く歩道式に連続的に運ぶ方式,第2は軌道輸送システムと名づけられているもので,都市内に網の目のように張られた専用軌道上を小型の車がコンピュータに制御されて自在に動くことができる方式,第3は無軌道輸送システムといわれるもので,小型の自動車を使つて乗客の要求に応じて,自由に動く自動車運行方式,第4は複合輸送システムと呼ばれるもので,上記3つを適宜組み合わせたものである。世界各地で各種の方法で実験・試作が行なわれており,一部実用化しているものもある。 また,モノレールも再び脚光を浴びてきている。ポイント操作の迅速性や車体の振動などいくつかの技術的問題点のため発展が遅れていたが,地下鉄の建設が困難になるにつれて,道路上空の空間を利用できるモノレールに関する改良,開発が研究課題として取り組まれている。
(2) 安全対策のための技術自動車については自動車走行に関する安全性の問題を,人間と自動車の関係としてシステム的にとらえ,自動車の人間工学的解析や衝突時の安全性確保のための部品設計などに関する研究が行なわれている。 鉄道については,列車運転の全自動化をめざした研究開発が行なわれている。 船舶については,タンカーや鉱石船などの大型専用船の海難防止に関する研究開発や航行安全性の確保と省力化のための超自動化船に関する研究開発が行なわれている。 一方,航空については,人工衛星を利用した航空システム,管制システムの性能向上および乗務員の教育訓練に関するシミュレーションなどの研究開発が行なわれている。
(3) 公害防止のための技術大気汚染防止のための排気ガス中における一酸化炭素,窒素酸化物等のきわめて少ないエンジンの開発,四エチル鉛を含まない高性能ガソリンの開発などが進められている。また,排気ガスを全く出さない自動車として電気自動車に関する技術開発も進められており,近年では高性能蓄電池の開発,制御技術の進歩などにより,大きく性能が向上してきている。 騒音,振動の防止については,騒音の少ないジェットエンジン,レールからまくら木へ振動を伝えないような弾性締結装置あるいは地下鉄車両用のゴムタイヤ車輪などに関する技術開発が行なわれている。 また,タンカー事故などによる海洋汚染の防止については,強風波浪下においても使用できるオイルフェンスの開発,無毒性で処理能力のすぐれた油処理剤の開発などの研究が進められている。
(4) 最適交通輸送のための技術今後ますます多様化・大量化する交通需要に対して,交通機関の果たす役割も変化していくものと思われる。その要求を満たすため多種の交通機関の有機的な連けいにより,交通輸送の効率化を図る効率的な推進が強く望まれている。このことから交通機関の最適化,交通諸施設の最適配置システムなど各種の交通機関の特色を十分に生かした交通体系の確立をめざして,新都市交通システム,新貨物輸送システムなどコンピュータを駆使したシステムについて各種の技術開発がなされている。 新都市交通システムについては前述したが,新貨物輸送システムは,経済活動の広域化で地域間の貨物輸送が急増する一方,大都市の小口貨物の集配送も,既存の輸送手段の拡充だけでは近い将来行き詰まることが予想されるため,物流情報システムと組み合わせた高能率の新しい貨物輸送システムとして開発されているものである。 また,短距離で離着陸ができるため,大きな空港を必要としないSTOL機(短距離離着陸機)は離着陸の安全性,低公害性等のすぐれた性能を有しかつ小型で大量の輸送力を有するなど,国土の狭いわが国に適した航空機であるので,機体の開発,航空機用ジェットエンジンの開発が急がれているとともに,円滑かつ効率的な輸送システムの確立のため,運航技術,空港システム等について研究開発が進められている。さらに,ヘリコプターのように垂直に離着陸でき,しかもジェット機のように高速で飛行できるVTOL機の研究開発も行なわれている。 このほか,大量高速輸送手段として,超高速鉄道の開発が進められている。これは,従来の車輪による駆動方式とは全く異なるリニア・モータによつて走行するものである。まだ技術的に解明しなければならない点も多いが,これによれば,東京,大阪間が時速500km,1時間半で結ばれることになる。

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