ここからサイトの主なメニューです
前(節)へ  次(節)へ
第1部   希望にみちた社会をめざす科学技術
第2章  国民生活に密着した課題に取り組む科学技術
第2節  環境汚染と災害の防止
1  環境汚染防止


(1) 現状と問題点

われわれをとりまく生活環境や自然環境の汚染は現代社会の大きな問題となつている。たとえば,昭和47年度に科学技術庁資源調査会が行なつた「高密度社会における資源利用と環境保全の調和に関する勧告」では,東京・目黒の自然教育園における主要樹木の生存率は 第1-19図 に示すように過去21年間を通して減少しており,この傾向が続くならば今後50年以内にこの地域のほとんどの樹木が残存し得なくなる可能性があると推定している。

環境汚染問題は汚染の要因や態様において複雑多岐となつており,現実に,日常生活の中で環境に対する意識が急速に盛り上がつている。こうしたことは 第1-20図 に示すように,地方公共団体における公害関係苦情受理件数のここ数年の著しい伸びをみてもうかがうことができる。

第1-19図 主要樹種の生存率(目黒自然教育園)

第1-20図 公害の苦情受理件数の推移 (41年度=100)

現在,環境汚染問題は多様化,複雑化しているが,その形態別にみた汚染源と物質は, 第1-9表 に示すとおりである。

第1-9表 環境汚染の形態別にみた汚染源と物質

これら環境汚染の現状をみると,汚染防止技術の開発,公害防止設備投資の拡大等によつて,汚染物質によつては漸減あるいは横ばい傾向にあるものがみられるものの,全体的にはまだ進行しているものとみられている。これを汚染形態別にみると,大気汚染では窒素酸化物の増大,光化学スモッグの発生等が,水質汚濁では主要河川の汚濁の進行,瀬戸内海における赤潮の発生等が,振動・騒音では交通機関によるものがそれぞれ国民の日常生活に大きな影響を与えている。

このほか,悪臭,地盤沈下などについても問題になつているが,最近ではPCBのような自然界に存在しない新しい汚染物質が複雑な汚染経路をへて人間の体内に蓄積したりするなど新しい形態の環境汚染問題が生じている。

(2) 技術開発の動向

こうした諸問題に対して,政府においては,環境汚染防止技術の開発を年々拡充してきており,大型プロジェクト制度による脱硫技術等の開発が推し進められている。また,大気汚染監視網のように標準的なテレメーターシステムを導入した監視体制の整備が可能となつてきている。

一方,民間における開発状況も,近年の環境問題に対する認識の高まりを反映して活発化している。そこで,以下,種々の環境問題を解決するための技術を,環境基準設定のための技術,環境汚染防止技術,監視システム技術に分け,当面開発が急がれている技術についてその動向を述べることにする。

(1) 環境基準設定のための技術人間の健康を保護し,生活環境を保全する上で維持されるべきである基準として現在設定されている環境基準は,汚染因子ごとに濃度レベルを設定する方法がとられている。 大気汚染にかかわる環境基準については,すでにいおう酸化物,一酸化炭素,浮遊粒子状物質の3物質が定められ,現在,窒素酸化物等(二酸化窒素および光化学オキシダント),鉛について環境基準の設定を進めている。このほか水質汚濁,騒音にかかわる環境基準が設定されている。 これら環境基準の設定は,公害防止のための各種行政対策の目標となると同時に,地域の汚染度について評価の基準を与えるものである。 環境基準の設定には,人の健康および動植物に及ぼす影響をとらえる技術,原因を究明する技術,各種の分析測定技術,それらを標準化する技術などの進歩が大いに役立つている。なかでも,汚染の現象が複雑で原因が未解決のまま被害が広域化,深刻化している光化学スモッグ,赤潮,PCBに対しては,それぞれ発生機序を解明するための調査研究,汚染の実態を把握する分析・測定技術汚染因子の発生を防除する技術の開発が進められている。 なお,今後の環境基準を設定するにあたつては,現在のように人の健康や生活環境への影響を防止するために汚染因子ごとに濃度条件を設定するという考え方にとどまらず,広範な環境の質を考慮に入れていくことが望まれ,このため,魚類や樹木などの生物指標を用いた生態学的なアプローチに立脚した技術の開発が期待  注) されている。
(2)環境汚染防止技術環境汚染防止技術は,技術の形態別に大別してみると,1)生産過程から発生する汚染因子を地域外または工場外に出さないクローズド・システム技術,2)従来の機構・原理を転換し,汚染因子を装置外へ出さないクローズド・プロセス技術,3)既存の機構方法を改良し,汚染因子の排出を少なくする技術,4)物理的,化学的,生物的に汚染物質を処理する技術である。 環境汚染防止技術に対する研究開発は,政府,民間の各研究機関で鋭意進められているが,政府においては,汚染因子の発生者による研究開発だけでは大きな効果が期待できないものや緊急性の高い防止技術などの開発に重点を量いて研究開発が行なわれている。また,民間企業の技術開発の状況をアンケート調査(昭和47年10月)よりみると,約78%が公害防止に関する研究開発を実施しており,重点をおいて開発を進めている技術の形態別の推移を5年前,現在,5年後についてみると,公害防止の抜本的対策であるクローズド・システム技術やクローズド・プロセス技術の割合が増加する傾向にある (第1-10表)
第1-10表 技術開発の形態別割合の推移


注) 資源の開発利用に伴う汚染の防止技術については第3章においても記述している。
以下,技術の形態別に技術開発の動向をみると,まず1)については,多種多様な産業廃棄物を単に工場単位でなく地域範囲でとらえ,過密工業地域やコンビナート地域全体で最適に処理するシステムに関する技術開発が進められている。 これは,業種間で排出する廃棄物の収集,運搬,資源化,処理処分を一連のプロセスとして取り扱う一種のコンビナート形式の再利用システムを確立しようとするものである。 2)については,まず,大気汚染防止の分野からみると,いおう酸化物を排出しない重質油ガス化脱硫技術および金属精錬技術,汚染物質を発生しない電気自動車などの開発が急がれている。また,水質汚濁防止の分野では,汚濁因子の発生がない生産プロセスの開発という面から非水染色加工技術,無公害化紙パルプ製造技術,非水銀系か性ソーダ製造技術などの開発が行なわれている。 固体廃棄物の分野では,自然への還元性をもつ分解型プラスチックの開発が進められている。騒音・振動の分野では,超音波破壊機等のような建設工事に騒音,振動の少ない機械,工法の開発が進められている。そのほか,農薬汚染の分野では,食品等の安全確保,自然環境の保護をめざして,生物農薬,性フェロモン,変態ホルモンを利用した新たな農薬の開発が進められている。 3)については,大気汚染の分野からみると,燃焼炉,燃焼方法の改良あるいはエンジンの改良によるばいじん,窒素酸化物,一酸化炭素などの汚染物質の排出を減少させる技術の開発などに力が注がれている。 このほか,建設工事における騒音,振動を防止するため無騒音杭打機,消音装置などの技術の開発が進められている。 4)については,大気汚染,水質汚濁,廃棄物をはじめとするすべての分野において物理的,化学的,生物的処理が広範に進められており,汚染物質の処理能力を高める方向に技術開発がなされている。このほか,放射性廃棄物や焼却できない重金属,固形物等について汚染因子を自然へ無害に還元するための技術開発が進んでいる。
(3) 監視システム技術現在,国および地方公共団体においては,汚染物質の監視・予報・予測対策を強化していく上で重要な役割を有する監視体制の整備が進められている。その一環として,監視システム技術の開発が積極的に行なわれており,測定,分析手法を精度と確度が高く普及性のあるものにするための種々の標準化技術,分析技術,測定技術,計測システムなどの開発が国立試験研究機関を主体に進められている。これら個々の技術を総合化して,大気汚染,水質汚濁などの公害発生源をコントロールする監視システムについては,東京都,大阪府等においてすでに一部実用化され,年々その測定対象等を拡充している。 また,(財)機械振興協会新機械システムセンターでは,コンピュータを活用して大気汚染を予測し,制御する新しい監視システムを開発しようとしている。 これらのほかに,異常の事態が生じた場合の緊急時の措置等を広域的に講ずるために,テレメーター方式等による情報システムの開発が急がれている。

前(節)へ  次(節)へ

ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ