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第1部   希望にみちた社会をめざす科学技術
第2章  国民生活に密着した課題に取り組む科学技術
第1節  生活基盤の改善
2  食住などの生活の高度化



(A) 食生活

(1) 現状と問題点

農産物,水産物等の生産技術の発展を背景として,食生活は年々改善されている。たとえば昭和46年度の食品摂取量を36年度と対比してみると,油脂類,肉類,果実,乳製品,調味し好品,牛乳については2倍以上に伸びている。また,昭和46年度における栄養摂取量についても,熱量,たん白質,脂肪,鉄およびビタミンCはすでに昭和50年を目途とした栄養基準に達している (第1-12図) 。さらに,食品群別の摂取状況をみても,穀類,いも類が減少し,動物性食品の大幅な増加がみられる。このように食生活は,量的に満たされるとともに質的にもかなりの向上を示している。

しかしながら,残留農薬,その他有害物質等によつて食品が汚染されたり,食糧事情の好転に伴つて栄養の過剰摂取など新たな事態が発生してきている。こうした背景により近年の問題点をあげてみると,第1に,食品の安全性に関する問題が表面化していることである。

近年,食品添加物の不正使用,微生物による食品の変質,PCB,重金属,農薬などによる食品の汚染などが表面化しており,これへの対応が急がれている。

このような食品の安全性問題については,国民生活センターにおける相談件数のうち,食品関係が3割近くを占め,しかもそれのほとんどが食品の安全性に集中していることからも,国民がこの問題に大きな関心を寄せていることがうかがえる。

第1-12図 昭和50年を目途とした栄養基準量の達成状況(栄養基準量=100)

第2に,食品の処理・加工技術のもたらす功罪に関する問題である。

加工食品は安価に入手でき,調理が簡便であるなど多くの利点をもつ反面,処理・加工による味覚の単調化,画一化が進行し,生鮮食品のもつ自然味が失なわれ自然食品本来の味覚を味わえないという現象が起こつている。

第3に,成人病などのような慢性疾患,肥満児の増加が現われていることである。

最近,栄養の過剰摂取などにより,肥満児が年々増加しているとともに,高血圧,糖尿病等栄養摂取と関係が深いと思われる疾患が増える傾向を示している。

(2) 技術開発の動向

以上述べてきた食生活上の問題を解決するためには,食生活関連の科学技術の進歩が必要であり,国立試験研究機関を中心に各種の研究機関で研究開発活動が鋭意展開されている。

(1) 食品の安全性に関する技術食品の安全性問題に対して国は食品衛生法を改正し,安全性に懸念のある食品等の規制,検査制度の充実,表示制度の改善等を図つてきているが,このような行政施策を支えるものとして,次のような調査研究が行なわれている。 食品添加物については,昭和37年頃より従来から使用されてきたものの再点検が行なわれてきたが,さらに昭和45年度からは催奇形性,代謝性等を含めた精密な安全性の総点検が行なわれている。また,2種以上の物質による相乗毒性の研究が行なわれている。 微生物等による食中毒については,現在の病原微生物の検出方法は時間,経費などを多く要し,迅速・適確な防止対策がとれない状況にあるため,検査を簡便に行ないうるような検査技術の開発が緊急の課題として取り組まれている。また,製造過程で汚染されやすい食品について製造過程での汚染防止技術の開発も進められている。 残留農薬による食品の汚染については,従来から設定してきた許容基準をさらに広範適確なものにするため,2種以上の残留農薬の相互作用,食品への残留の実態について調査が進められている。 また,PCB対策については,食品中のPCBの暫定許容基準が定められているが,さらに汚染の実態調査を進めるとともに,PCBの慢性毒性および類似物質との関係,人体への汚染経路等の究明を行ない,必要な食品全部について許容基準を早期に定めることが急がれている。 これらのほかに,水銀,カドミウムなど重金属による水産資源の汚染の実態調査および食品における許容基準の設定に関する研究が多くの分野で取り組まれている。
(2) 食品の保存加工技術今後,所得の増加に伴つて需要の大幅な増加が見込まれる冷凍食品に関する技術については,原料の産地近くで瞬間的に処理し,一層品質のよい製品を作る冷凍技術,輸送中あるいは小売店における保存技術などの開発が進められている。 放射線による食品保存は,ばれいしよの発芽抑制について実現し,他の作目への利用についても検討されている。これに関しては,有効適切な照射法,線量測定法,必要線量の低減,他の貯蔵法との併用法等の技術開発が当面の課題となつている。
(3) 特別用途の食品技術特別用途の食品としては,特殊成分を含む自然食品,ビタミンなどを強化した強化食品,健康管理あるいは病気治療を主目的とする特殊用途食品があるが,これらのうち低カロリー食品,糖尿病用食品,調整脂肪食品,低たん白食品,高たん白食品など特殊用途食品の質の一層の向上と規格化が必要となつている。 質の向上については,豊かな食生活にふさわしい味の確保,栄養バランスの確保などが必要であり,たとえば低カロリー食品については甘味の強い果糖の利用や甘味がすぐれ全く栄養とならないマルチトールの使用が進められているように,食品の素材,調味料,食品製造技術について研究開発が進められている。 規格化については,明確な使用目的とそれにふさわしい有効成分量の確保などについて,食生活における健康阻害要因を究明し,適切な規格化を進めるべく,現在国立試験研究機関において調査検討が行なわれている。

(B) 住生活

(1) 現状と問題点

人間生活の基礎となる住生活においては,科学技術の進歩に伴つて,建築物の耐震性,強度,不燃性,耐食性,断熱性,防湿性,換気性など各種の性能の向上が図られる一方,居住性能の面でも,室内装飾,色彩調和などのデザイン化,台所,便所,暖房など各種住宅設備機器類の充実が進展しており,われわれは,快適で機能的な住生活を享受できるようになりつつある。

近年,建設された住宅は,量の面での増大のみならず,質の面でも全体としてはかなりの高まりをみせており,建設された住宅の規模についてみると,41年の63m2 から46年の69m2 ヘ,住宅の不燃化率は41年の25%から46年の34%へ,中高層化率も,43年の17%から46年の23%へと高まつている。

この事例に示すように住宅事情は次第に改善されつつあるが,大都市地域への人口集中,核家族化等が急速に進行しているため国民の住宅事情はまだ十分とはいえない状況にある。

第1-13図 1人当りの畳数および1室当りの人員(昭和45年)

たとえば,大都市地域においては,郡部に比べ住宅取得の困難性が高く,狭少過密住宅地帯が存在していること (第1-13図) ,火災によつて大量の煙または有害ガスを発生し,人的・物的被害の増大を招いている新建材の安全性の問題が解決されていないこと,都市の急速な開発や諸産業の発展あるいは建築物の高層化に伴つて住宅環境として改善すべき点があること,水洗便所等居住設備が不足していることなど,さらに改善を要する問題が残されている。

このような住生活の問題解決のためには,住生活関連技術の開発を新たな視点にたつて強力に推進することが望まれている。

(2) 技術開発の動向

政府は,住宅生産の工業化技術および都市防災技術についての研究に重点を置き,良い住宅を豊富に安く供給するための設計,施工の合理化,都市における建築物を各種災害から守る安全性の向上および住生活を快適にする住居環境の改善に関する技術開発に取り組んでいる。

また,住宅産業界においても,人間工学的なアプローチを加味した住宅のあり方について生理学,心理学など関連学問の協力を得て総合的に検討を行なうとともに,建材の不燃化および軽量化,住宅建設ユニットの開発,施工機械,建築物解体技術等について技術開発の強化を図つている。

そこで,住生活の向上を実現するための技術を,高層化技術,安全化技術,標準化技術,快適化等の居住性技術に分け,当面解決が急がれている技術の開発について述べることにする。

(1) 高層化技術近年,土地の高度利用と職住近接の観点から,都市においては,低廉で大量供給の可能な中高層住宅の建設が緊急の課題となつている。このため,住宅生産の工業化に必要な新材料,新工法の開発,住宅構成部材の性能向上,住宅生産方式の工業化,住宅産業のシステム化等について研究が進められている。 また,最近では,建築設計技術の進歩により,空間利用の高度化と構成部材のユニット化が進められており,設備のユニット化は,構造材ばかりでなく給排水管,配線といつた関連設備を組み込んだ壁や天井材にまで及んでいる。さらに,高層建築向けのプレハブ部材の開発や外装資材として高強度の軽量鉄骨の開発が行なわれている。 このほか,市街地における高層建築物をめぐつて日照権問題などの対策が望まれており,空間を豊富にとつた都市づくりのための技術開発が大いに注目されている。
(2) 安全化技術建築物の防災性向上については,各種建築物の振動性状,耐力,変形性状,地震時に被害の大きい短柱の崩壊防止,免震構法等主として耐震構造技術の開発を中心に研究が進められており,とくに高層量産住宅については,構造物に作用する風圧性状や地震応答の測定・解析などが行なわれ安全性の確保のための研究が推進されている。 さらに,震災のほか,火災,風水害など各種災害に対しても安全な構造技術の開発が行なわれている。なかでも煙災害に関連しては不燃性で有害ガスを発生しない建材および新しい住宅構成材の開発や火災感知器設計技術の改良が行なわれるとともに,地下街,高層建築物等における煙の量,煙の伝播・拡散などの煙挙動を解析し,煙を制御できるような防煙設計技術の開発が進められている。
(3) 標準化技術の開発標準化技術は住宅を構成する材料,設備などの工場生産の前提となり,大量生産による住宅建設コストの低減,品質性能面での充実,労働力不足の解消,資材の有効利用,ユニット化の促進のためにその開発が進められている。 現在は,各種骨材およびコンクリートの品質規準,プラスチック・コンクリート,コンクリートの発現強度,建築材料の耐久性試験ならびに耐久設計基準,建築材料の合理的な選定方式などに関する研究が進められている。 また,昭和44年度から通商産業省工業技術院の取り組んでいる標準化推進計画では, 第1-4表 に示すように居室関係のパネル,設備ユニット,集合住宅用付帯設備など各種の住宅資材の標準化作業を行なつている。
(4) 快適化等の居住性技術新しい時代の住まいを追求し,住生活の改善を図るため,居住性を一層快適化するなどの居住性技術の開発が望まれている。
第1-4表 住宅資材の標準化推進計画

防寒,防暑,防湿,換気,日照,採光,遮音など自然的要因の調節による住生活の快適性をはじめとして,建築デザイン,色彩調和,形態調和,室内装飾などの向上をめざす居住性技術の開発に関しては,人間の生理・心理・行動からみた建設環境設計,温熱・視環境における快適性等について研究が進められている。 住環境は従来,空気,音,熱,光等の面から物理的な居住水準の向上に力が注がれていたが,最近では人の生理・心理・行動面にも視野を拡げ,総合的に環境要因を相互調整していく方向へと進んでいる。 地域集中冷暖房は居住空間を拡大する可能性や便利性,安全性など各種の利点から,快適な住生活に寄与するものとして認識されるようになつており,技術開発の面では,冷凍機,ボイラー,放熱器,熱量計の高度化を図るとともに,設備およびシステム全体の保安に関する技術基準の確立などが進められている。

(C) 消費財の安全性

消費財には,一般消費者が通常,生活の用に供する繊維品,食品,薬品,合成樹脂加工品,電気・ガス機械器具,自動車,自転車,玩具,家庭用化学品等が含まれるが,ここでは,食品,薬品以外の消費財の安全性について述べることにする。

(1) 現状と問題点

近年の技術革新の進展は,次々と便利な新製品を生み出し,合理的な消費生活が可能となつている。これを衣料の面でみると,量的には,第1-14図に示すとおり,消費量が国民所得の増大に伴い年々増加するとともに,質的には,最近のファッション化傾向を反映し,高級化,多様化が進展しており,消費者の選択性の向上をもたらしている。

また,衣料以外の面でも,第1-5表に示すとおり,さまざまな消費財の普及は著しいものがあり,われわれは便利性の向上,余暇時間の向上等の恩恵に浴している。

第1-14図 1人当り繊維消費量と国民所得の推移

このように消費生活が多様化,高度化している反面,これら消費財の欠陥による事故や安全性に関する問題がみられるようになつている。たとえば,通商産業省で受け付けた消費者の苦情件数の推移をみても 第1-15図 に示すとおり,消費財の安全性に関連した苦情の割合が増加傾向をたどつている。

第1-5表 耐久消費財の普及率の推移

このように増加傾向をたどる理由としては,量や種類の面で,一般消費者が複雑かつ多様な消費財に接触する機会が多くなつたこと,消費者の消費財の危険性に対する評価能力が向上し,従来見のがされていたものが危険であると判断するようになつたことなど種々の要因が考えられる。

これら消費財の危険な態様は,多種多様であり,大別すれば,毒性,刺激性,腐食性,爆発・破裂,可燃性,構造,火災,感電などに分けられる (第1-6表)

この危険の態様別に,その苦情件数をみると, 第1-16図 において示す内訳になつている。

第1-15図 通商産業省で受け付けた苦情件数および安全性に 係る苦情件数の推移

第1-6表 危険の態様別消費財の例


このような消費財の安全問題をめぐつて,近年,廃棄されたエアゾール製品の焼却時の爆発問題,廃棄したアイスボックスの中での子供の窒息死事件等の例にみられるように廃棄された後の安全性も問題になりはじめている。

また,消費財による事故は,その消費財の構造的欠陥による事故のほかに,取扱説明書,表示等により注意を喚起しても性能,機能の複雑化につれて一般消費者の誤使用による事故も起こつている。

近年,このような消費者の誤使用による事故に対して,消費財を生産・販売するにあたつては,消費者が誤まつて使用しても安全な製品を本来設計すべきであるという考え方,すなわち正しい使用状態でなければ,その消費財が作動しない,あるいは誰が使用しても正しい使用状態で使用できるという考え方(フール・プルーフ)を消費財の安全性確保のために取り入れるべきであるという意見も高まりはじめている。

第1-16図 昭和46年度における製品(除食品,薬品)の安全性に関する苦情件数

(2) 技術開発の動向

このような情勢に対処して,政府においては,従来からも電気用品取締法,ガス事業法,食品衛生法等の取締法令の改正またば運用の強化あるいは試買テスト,比較テスト等の各種の行政措置を図つてきており,さらに安全性の向上を促進するため新たな立法措置や機構の設立の準備を進めている。

一方,安全性に対する技術開発は政府,民間を問わず広く推進されているが,以下その動向について述べることにする。

(1) 安全基準を確立するための技術種々の危険の態様に応じた安全基準を確立するため,第1-7表に示すような研究活動が国立試験研究機関を中心に行なわれており,昭和47年度においては,電気部品と火災の関係等電気用品に関する調査研究,合成洗剤の安全基準の確立に関する調査研究等が行なわれている。 また,安全基準が確立されるためには,試験機器,分析法,測定法等の開発が肝要であり,この面についても各種の試験研究機関で取り組まれている。 さらに,衣料処理剤による皮ふ障害の問題については,厚生省,通商産業省の研究機関で,樹脂加工,防虫加工などの加工による人体への影響の解明に取り組んでいる。
第1-7表 主要な試験研究機関等の主たる研究内容

以上のような安全基準を作成するについては,製品についての知識が豊富な民間の能力を十分活用することが望まれている。
(2) 安全な製品を創出するための技術安全な製品を創出するための研究開発については,現在,民間企業を中心に推進されつつある。国においても問題の重要性,緊急性にかんがみ,自動車,建材,染料等に関する基礎的研究が行なわれている。 安全な製品が生産・販売されるためには,民間企業の設計,品質管理時の安全マインドを向上することが強く要請されている。たとえば,消費財を設計,品質管理するにあたつては,法令等で定められている基準に安全サイドから相当余裕を持たせることが望まれている。 このような点について民間企業の意識の変化をみると, 第1-8表 に示すとおり,法令で定めている基準よりはるかに高い基準によつている企業の割合が5年前には26%であつたものが現在28%であり,5年後には39%になろうとしている。また,法令で定めている基準にある程度余裕を持たせている基準によつている企業の割合が5年前33%であつたものが現在約42%へと増加している。
第1-8表 法令で定められている基準と民間企業の基準との関連状況

さらに,消費財を市場に出すに際して,前述の消費者の誤使用にも対応できるフール・プルーフという考え方をあらかじめ設計に取り入れているかどうかについては, 第1-17図 に示すとおり,このような考え方を全製品に取り入れている企業の割合が5年前35%,現在50%,5年後65%と順次増加しつつある。
(3) 監視技術 安全な消費財が市場に供給されるように,現在,国で行なわれている監視制度としては,実際に市場に出回つている商品を試験検査し,その結果を行政に反映させる商品試買テスト制度をはじめとし,その他にも苦情処理テスト制度,消費生活改善監視員制度がある。これらの制度は,たとえば, 第1-18図 に示す商品試買テスト予算の推移にみられるように年々拡充,強化されているが,一般消費者が安全で,かつ,合理的な消費生活を送つていくために,今後とも,総合的,有機的に推進される必要があろう。 このため,欠陥商品が発見された場合の欠陥原因究明技術の確立,複雑かつ多様な商品を簡易,正確に検査することができる試験機器の開発,効率的な試験法,分析法,測定法等の確立などが進められている。
第1-17図 フール・プルーフの導入状況

第1-18図 通商産業省の試買検査経費の推移

さらに,従来の対策が事後的になつている状況にかんがみ,事故のデータを収集し,その原因,内容,改善の方法などをシステム的に分析するデータ・システムの開発,安全性確保のための法的規制方法の確立に関ずる研究,より組織的,有機的な監視システムの研究等の推進が望まれている。

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