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第1部   科学技術への新たな要請とそれへの対応
第2章  動き出した70年代の科学技術活動
3  新しい科学技術分野の開拓
(3)  ソフトサイエンス



(1) ソフトサイエンスの現状

各種の要因が複雑にからみあつた環境問題,都市問題などの政策課題を解明していくためには,従来のように縦割り機構の範囲内で,個別的に取り組むだけでは不十分であつて,広い視野に立ち,総合的,科学的に取り組むことが不可欠である。このような背影のもとに,最近情報科学,行動科学,システム工学などを基礎とした予測,計画,管理,評価などの新しい科学技術手法,いわゆるソフトサイエンスが登場してきたのである。

わが国においては,ソフトサイエンスの基礎となる情報科学,行動科学,システム工学などの水準が他分野に比べて低いため,現在ではソフトサイエンスを効果的に応用し得るに至つていない。また,わが国でもいわゆるシンクタンクと称する機関がいくつか設立され,現在では20機関をこえるまでになつてきたが,そのほとんどは企業コンサルタント的ないしはコンピューターのソフトウェア会社的性格のもので,ソフトサイエンスを駆使し,またはこれを総合的に研究開発しようとする機関は極めて少ない現状にある。

科学的技術庁の調査によれば,予測,評価,計画,管理等の部門でソフトサイエンスの手法を使用している企業が60%を超えており,またそのやリ方も 第1-31図 に示すように,自社内をはじめ外部の専門家を集めたチームによるもの,シンクタンク等へ委託しているものなど種々あり,これらのことはソフトサイエンスに対する民間企業の関心が高まつていることを示している。

また昭和46年12月,わが国のシンクタンク数機関が相つどい,相互の協力により事業の拡充を図り,研究者の資質の向上とソフトウェアに関する価値評価を確立することを目的として,日本シンクタンク協議会が発足したが,これはシンクタンクの事業の拡充等を通じてフソトサイエンスの研究開発が,ようやく民間のシンクタンクにおいて取り組まれようとしていることを示すものであろう。

一方,諸外国に目を転ずると,アメリカではランドコーポレーションをはじめとして,特定の課題に対してソフトサイエンスの研究開発およぴ適用を通じて解明をはかろうとするかなり多数の大規模な営利,非営利の研究機関が存在している。アメリカにおけるこのようなソフトサイエンスを指向する研究機関をみるとその特徴によつて大きく2つに分類することができる。その1つは特定の政府機関のみをスポンサーとして財政的に大きく依存しているグループで,その代表的なものはランドコーポレーションである。他の1つは民間企業との結びつきが強い独立契約的研究機関で,バッテル記念研究所,スタンフォード研究所,TEMPOなどがこれにあたり,ソフトサイエンスの研究開発において重要な役割を果たしているものである。これらアメリカの研究機関において,どのような研究開発課題を通じてソフトサイエンスが研究開発されているかをみると, 第1-7表 に示すように,安全保障関係に加えて,社会開発関連の研究開発課題が目立つようになつている。このことは,アメリカにおける現代の社会的問題の大きさと,これを解決するためのシステム的な取り組みの重要性を如実に物語つているといえよう。

第1-31図 民間企業におけるソフトサイエンス関連の活動方式

第1-7表 アメリカのソフトサイエンスを指向する 研究機関における主要な研究開発課題


ヨーロツパにおいても,イギリスのプログラムアナリシスユニット,西ドイツのシステム研究所および数理データ処理協会,スエーデンの国防研究所などソフトサイエンスを指向する研究機関がかなり存在し,それぞれ特色のある活動を通じて着実にその成果をあげている。

また天然資源の枯渇化,公害による環境汚染の進行,爆発的な人口増などによる人類の危機の接近に対し,その回避の道を専門家に依頼しソフトサイエンスを用いて解明しようとしているローマクラブ 注) の活動が注目される。


(2) ソフトサイエンス振興の方向とその動き

ソフトサイエンスは,環境,都市問題など公共的な課題の解明をはじめ,広く国民福祉の向上,国民経済の発展に不可欠な新しい科学技術であること,またソフトサイエンスの研究開発,人材養成には多額の資金と大規模な組織を必要とすることなどから国の強力な支援のもとに,その振興を図つていく必要がある。

そこで,このような意味から,今後推進すべき基本的施策について,わが国がこの分野で立ち遅れている原因を分析しつつ考察してみよう。

まず第1に,従来,わが国では複雑な問題をシステム的にあるいは未来的指向的にアプローチしなければならないとする認識に欠けていたこと,ソフトサイエンス関連の課題は多数部門にまたがるあるいは境界領域的な各種の問題を,プロジェクト化して解決していく必要があるにもかかわらず,そのような研究プロジェクトに取り組んでいける体制が不備であつたことなどから,わが国におけるソフトサイエンスの研究開発にはかなりの立ち遅れがみられる。したがつて,今後ソフトサイエンスの研究開発を推進していくためには,大学,国公立試験研究機関,民間研究機関などを通じて総合的研究開発ネットワークを形成し,研究体制をシステム化するなど総合的,組織的な研究体制の整備を図つていく必要がある。


注) ローマクラブは1970年3月民間組織の法人としてスイスに設置され,政治に関与しない各国の科学者,経済学者,プランナー,教育者などを構成メンバーとし,会員数は現在約70名である。わが国からも経済学者,科学者,経済人が参加している。

第2に,アメリカにおけるソフトサイエンスを指向する研究機関の大部分はその財政的基盤を政府の委託研究に依存し,成長を遂げてきたのに対して,わが国では政府が種々の政策的課題を民間の研究機関に委託して調査研究することが少なかつたことおよびアメリカのように研究開発に資金援助する財団等が少なかつたことが,ソフトサイエンスを指向する研究機関(シンクタンク)がわが国で最近まで育たなかつた一因になつている。そこで,今後はわが国においても,シンクタンクへの研究委託を増加させるよう努力し,それを通して,ソフトサイエンス水準の向上と人材の養成さらには契約制度の改善,頭脳的活動に対する適正な対価の確立等を図つていく必要がある。

第3にわが国では,システム分析,シミュレーションの専門家など,ソフトサイエンス関係人材の育成が不十分であり,また多数分野の専門家によつて構成される研究プロジェクト・チームの管理をするプロジェクト・リーダーの層がきわめてうすい状況にある。

そのうえわが国では,アメリカにみられるような大学,研究機関の相互間における人材交流や研究協力があまり活発でない現状にあり,これらは,多分野の人材を結集して研究を進めていく必要のあるソフトサイエンスがわが国で立遅れた原因ともなつている。

そこで,今後はこのような問題点を解決していくためには関係人材の養成と大学,研究機関の間における共同研究や人材交流を促進するような措置を講じていく必要がある。

第4に,従来十分でなかつた国立試験研究機関におけるソフトサイエンス関係の研究開発を積極的に推進するとともに民間の研究機関においてもこの種の研究の促進をはかつていく必要がある。

最近このような基本的施策について各方面で検討が進められてきた結果,多分野の人材の協力による特定課題に関する総合的な研究開発,研究企画調整者の養成,ならびに総合的な研究開発のための機構に関する調査などを行なう目的で,昭和46年度に(昭和44年度に発足したものもある。) 第1-8表 に示すように,経済企画庁,科学技術庁および通商産業省において総合研究開発調査が実施されており,わが国におけるソフトサイエンスの振興はようやくその第一歩を踏み出したところである。

今後,ソフトサイエンスの一そうの振興を図つていくためには,46年度に実施した施策を土台として,これを拡大強化していくことが期待される。

第1-8表 昭和46年度総合研究開発調査



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