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第1部   科学技術への新たな要請とそれへの対応
第2章  動き出した70年代の科学技術活動
1  社会的要因を重視する研究開発への動き
(2)  社会的要請を重視した研究開発への努力


社会的要請を重視した研究開発への努力を,研究開発に対するとり組み方の変化ならびに社会から現在強く要請されている環境保全,自然災害防止および交通安全,産業安全,食品の安全性の確保などの安全対策に関する科学技術分野への研究投資の変化からみることにする。

研究開発に対するとり組み方の変化をみると,従来のように,主として経済的視点から研究開発を実施していくというだけでなく,研究成果としての技術が,社会にどのような影響を与えていくかを把握し,社会環境や人間と調和ある技術の発展を図つていくという観点から,技術開発および普及に関し,誘導を行なつていこうとする動きが胎動しつつある。政府におけるこのような動きの中の代表的なものとして,テクノロジー・アセスメント確立への努力があげられる。これについては項を改めて詳述するが,テクノロジー・アセスメントは,技術がもたらす好ましい影響とともに,好ましくない影響についてもまえもつて予測し,重大な悪影響が予測される場合には,それに対する措置を講じていこうとするもので,科学技術庁,通商産業省などにおいて調査研究が進められている。現在,科学技術庁においては,C.A.I(Computer Assisted Instruction),農薬および高層建築について,通商産業省においては,原子力利用製鉄について,それぞれケーススタディを行なつている。

また,このようなテクノロジー・アセスメントのほかに,技術そのものを本質的に安全化,無公害化していこうとする動きがある。現在の公害,安全問題の本質的原因は,生産技術が自然の循環系に有害物質を放出するオープンシステムの体系をとつていることおよび現在の安全対策がなお人間の注意力に依存する面が大きいことにかんがみ,生産技術のクローズドシステム化,本質的安全化をめざそうとしている。例えば,通商産業省では,非水銀系高純度電解力性ソーダ製造技術,無公害紙・パルプ製造技術および重質油のガス化技術の開発に着手しようとしている。労働省においては,労働災害を防止するため,機械設備そのものの本質的安全化をめざして車輛系安全建設機械,機械式トラッククレーン用モーメントリミッターなどの開発を進めている。また,職業病の治療のみならず,予防,診断までを含めた職業病の一貫した研究を展開しようとしている。

さらに,生産技術の革新の成果が十分に社会開発部門にとり入れられていないということから最も進歩の著しい生産技術を,長期的かつ総合的観点から積極的に社会開発に適用し,社会的要請に対応しようとする動きがみられる。経済企画庁や通商産業省において,これについての方策が検討されており,通商産業省では47年度から資源再利用技術システム開発の調査に着手することになつている。

次に,民間企様における研究開発に対するとり組み方の変化についてみよう。

第1-6図 主要業界団体における公害,交通安全,産業安全対策の検討状況

業界団体においては,公害,交通安全,産業安全対策など社会的要請の強い技術開発について,各企業共通の問題として,種々の面から検討を重ねており, 第1-6図 に示すように技術開発に関する検討事項の中で,公害,交通安全,産業安全対策に関する事項は,40年ごろから急増し,現在では,これらの問題は,業界における最大の関心事になつているといつても過言ではない。

また,個々の企業においても,生産活動に伴う公害問題,地域住民への安全性の問題,製品の安全性確保の問題などについて,事前に調査し,対策を講じておこうとする動きが高まり始めている。 第1-7図 は企業の生産活動や製品による社会への副次的負の影響をどのような姿勢で調査しようとしているかを示したものである。

これによると,35年ごろには副次的負の影響を調査していない企業と問題が起つてから調査する企業を合わせると約半数に達しており,企業の社会的責任についての認識は,必ずしも高いとはいえなかつた。

しかし,現在では,副次的負の影響を調査していないとか事後調査するといつた消極的な対処の仕方をとつている企業は,1割にも満たなくなり,ほとんどの企業が何らかの形で事前調査を行なうようになつており,前向きに対処しようとする姿勢がうかがわれる。

第1-7図 生産販売活動における技術の副次的負の影響の調査段階

このように,企業の社会的責任の認識が高揚するに伴つて,研究開発を実施するに際しても,成果としての技術の社会的影響を評価しよらとする方向に変化してきている。

第1-8図 研究開発にあたつて技術の副次的負の影響を評価する評価基準の有無

研究開発に当たつて,技術の副次的負の影響を評価するための評価基準あるいはこれに準ずるものが存在しているかどうかについてみると, 第1-8図 に示すとおりである。35年ごろには,このような基準を設定している企業は,2割強程度にすぎなかつたが,40年ごろには,4割弱と増加し,現在では7割弱に達している。さらに,現在,基準を設けていない企業でも,約半数が近い将来,基準もしくはこれに準ずるものを設定したいとしている。また,企業規模別にみると,従来,大企業ほどこのような評価基準を設けている場合が多かつたが,現在では,企業規模間の差異は減少し,将来の希望という面からは,ほとんど差異がみられない。

第1-9図 研究開発にあたつて技術の副次的負の影響を評価する段階

第1-10図 技術の副次的負の影響を是正する研究テーマ

次に,技術の副次的負の影響を評価する場合,どの段階で実施しているかをみると, 第1-9図 のとおりである。

35年ごろには,評価時期は,研究開発着手時,研究開発の途中および実用化時というのがそれぞれ3割強で,ほとんど同程度であつたが,その後徐々に,研究開発着手持に評価する企業が増加し,現在では,半数以上に達している。また,同時に,実用化時に評価するものが激減している。

さらに,このような評価を実施した結果,新たに技術の副次的負の影響を是正する研究テーマを設定したかどうかをみると, 第1-10図 に示すように,35年ごろには,研究テーマを設定したものは35%に過ぎなかつたが,現在では 73%に増加している。

第1-11図 公害防止対策研究の予算額

なお,研究テーマの設定段階も 実用化段階から研究開発着手時へと変つてきている。つぎに,現在 社会的要請の強い公害防止,自然災害防止,交通安全,産業安全, 食品の安全性の確保などの安全対策に対する政府および民間企業の 研究開発努力を研究投資からみることにする。

政府の公害防止のための研究費は, 第1-11図 に示すように,45年度の14億円から46年度には24.4億円へと大幅に増加している。また,行政の需要に応じ緊急に実施する必要がある研究で,期間を定めて計画的に行なわれる特別研究の内訳をみると, 第1-12図 に示すように,公害防止研究費は40年度の1.7億円から年々着実に増加し,46年度にはこれの約4倍にあたる7.1億円に,交通安全,産業安全,食品の安全性など安全対策研究費は40年度の0.7億円から46年度には3.6億円に,また,自然災害防止研究費は0.4億円から2.9億円へとそれぞれ増大している。これらの3分野の研究費が特別研究費総額に占める割合をみても,年々増加している。

このように,政府は,自ら行なう研究開発の中で,公害防止,安全対策,自然災害防止に関する研究開発に努力を傾注していることがうかがわれる。

第1-12図 特別研究費のうちわけ

また,民間企業の研究開発の推進に重要な役割を果たしている補助金のうちで最も大きい重要技術研究開発補助金の公害防止および産業安全技術への交付状況をみると, 第1-13図 のとおりである。

43年度における公害防止および産業安全に関する研究開発に交付された補助金は5,900万円であつたが,46年度には4億1,400万円に達し,全補助金交付額の20.7%を占めるに至つた。これは46年度から,とくに緊急に開発する必要がある公害防止技術開発について,特別枠2億円が新たに設けられ,公害防止研究に対する補助金が拡充されたためである。

このほか,融資面においても,公害防止事業団,日本開発銀行,中小企業金融公庫などで,種々の優遇措置がとられている。

第1-13図 公害防止および産業安全技術研究開発補助金の交付額ならびに全交付額に対する比率の推移

第1-2表 民間企業の公害防止研究費

次に,民間企業の公害防止研究費をみよう。

民間企業の公害防止研究費は,昭和44年には,115億円(対象会社数287社),45年には207億円(同,374社),46年には331億円(同,374社)となつており大幅に増大している( 第1-2表 参照)。

これを全研究費に占める割合でみると,44年には,4.5%であつたものが45年には5.9%へと増加し,公害防止研究への努力が高まつている。

また 第1-14図 に示すように,公害防止研究を実施していない企業が,昭和35年に7割,40年に6割を占めていたが,45年にはなくなり,ほとんどの企業が公害防止の研究を行なうようになつてきている。さらに,研究費総額に占める公害防止研究費の比率が高くなつている企業が著しく増大している。

第1-14図 公害防止研究費の全研究費に占める比率の増大状況

以上のように,研究開発のとり組み方の変化では,社会的要請を重視する方向に転換しており,とくに,民間企業においては,技術の副次的負の影響をできる限り早い段階で評価するとともに,重大な悪影響が予測される場合には,これに対処する研究開発を実施しておくことが多くなつている。このような望ましい方向をより一層強化していくためには,政府および民間企業の一体となつた努力が重要である。

また,社会的要請の強い分野への研究投資も着実に増加しているが,政府は自らが行なう研究開発を充実させていくとともに,民間企業のこの種の研究開発の育成強化を図つていくことが必要である。

なお,民間企業においては,自らの企業活動に起因する技術の副次的負の影響は,自らの研究開発によつて解決していくという態度が必要であることばもちろんである。


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