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第1部   科学技術への新たな要請とそれへの対応
第2章  動き出した70年代の科学技術活動
1  社会的要因を重視する研究開発への動き
(1)  要請把握への努力


政府においてはもちろん,民間企業においても,社会・経済の要請を把握することが重要となつてきている。

たとえば, 第1-4図 は,研究開発課題を決定する際に,要請の把握の重要性が,5〜6年前に比べて現在ではどうであるかを示したものであるが,それによれば,ほとんどの企業が,その重要性が増してきていることを指摘している。

第1-4図 研究開発にあたつての要請把握の重要性(民間企業)

このような新たな情勢を反映して,政府および民間企業において,新しい科学技術を開発する際の社会・経済の要請の把握方法に変化がみられる。政府においては,最近,多くの専門家,研究者などからできる限り直接的かつ客観的に社会・経済の要請をとり出そうと努力しはじめている。

この代表的な事例として,昭和45年から46年にかけて行なわれた科学技術庁の技術予測調査や通商産業省の研究開発の定量的評価に関する調査などがあげられよう。

科学技術庁の技術予測は,将来の社会・経済の要請を調査し,これらに応える科学技術課題やその課題の重要性などを探るために実施されたものである。この調査は,デルファイ法を用い,3回に分けて行なわれたが,第1回調査では,技術予測のための課題が,未来の社会・経済あるいは科学技術を予想するに当たつて適切なものでなければならないという観点から,産,官,学など各界から広い見識を有する約1,500名の対象者を選び,広範囲な分野の要請を調査した。続いて第2回および第3回アンケート調査を行ない,第1回アンケート対象者に研究者,技術者を中心とする専門家2,500名を加えて第1回アンケート調査の結果から慎重に設定された約650課題について,重要性の評価や実現時期の予測を行なつた。

また,通商産業省の研究開発の定量的評価に関する調査は,予想される将来の社会的要請を探り出し,その中から研究課題を導き出そうという目的で行なわれた。まず最初に,社会的要請の中で技術と関係の深い要請をとり出して,その要請をもとに,約360課題の新技術を誘導した。この調査では,これらの中から120課題を選び,産,官,学などの各界約1,100名に対し,労働および社会環境の整備,生活の高度化,生産性向上,商品の国際化,資源の拡大,技術水準の向上という効果の面と開発の容易さ,企業化の容易さ,国家的要請という各条件の側面について採点を依頼し,これによつて研究課題をできる限り客観的かつ定量的に評価しようとしている。

従来の研究開発は,どちらかといえば専門研究者の関心から出発することが多かつたが,科学技術に対する要請が多様化しつつある情勢からも,また限られた研究開発資源を効率的に活用していくためにも,今後は,社会的要請の大きなものを一層重視して,研究開発を行なつていく必要がある。そのためには,要請の把握が組織的に行なわれなければならない。将来の社会的要請をより正確に予測し,国民の理解を得る方向へと科学技術の役割を誘導していくためにも,上述のような国全体に立つた組織的かつ客観的な調査をより一層充実していく必要がある。

一方,民間企業においても,研究開発課題の決定に当たつて重要な要因となるユーザーや社会の要請の把握の仕方に変化がみられ,より直接的に要請を把握しようとする動きがみられる。

その動きを科学技術庁で行なつた調査結果をもとにみてみよう。一般消費者向けの製品,サービス等に関する技術の研究開発の場合,どのような情報を重要視して研究開発課題を定めているかを示したのが 第1-5図 である。この図から明らかなように日常経済活動(例えば顧客との接触)から得た情報を重要視している企業が,どの時期においても最も多く,全体の約4〜5割を占めている。この調査結果で注目すべきことは,海外ならびに国内の一般的情報(例えば新聞,テレビ,雑誌などのマスメディアによる情報)といつた漠然とした情報をもとにする比率が減少しているのに対して,外部の専門の調査機関に依頼した調査結果および社内の調査機関によるユーザーに対するアンケート調査(モニターも含む)結果といつた直接的に要請を把握しようとする比率が増加していることである。また,将来の希望はこれらの面を重要視していきたいという希望をもつ企業が非常に増加している。

第1-5図 要請の把握の仕方(一般消費者向けの製品,サービス等に関する技術の研究開発の場合)

これは,国民生活水準の向上に伴つて,国民の要請が多様化し,さらに価値観が変化しつつあるため,どちらかといえば,生産者側から与えられた製品やサービスに満足していた時代,いいかえると,作れば売れるという時代は去り,高度選択時代といわれる今日では,民間企業は技術開発に際して,広く国民の要請をより直接的にとらえていかなければならなくなつており,すでにその方向への転換が始まつているといえよう。

以上みてきたように,70年代に入つて,政府および民間企業において,それぞれの立場から社会・経済の要請をより積極的に把握しようとする努力がうかがわれる。さらに,将来の要請を予測し,これに対応する研究開発目標を設定するために,現在,種々の科学的手法の開発が進められているが,対象の違いによつて手法も異なつてくるという極めて困難な問題もあり,今後これらの手法の開発に一層の努力を払つていくことが重要である。


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