ここからサイトの主なメニューです
前(節)へ  次(節)へ
  序説 新たな要請とそれへの対応

(科学技術活動の現状)

科学技術の進歩発展は,未知の世界をきり開き,人類の夢の実現と活動領域の拡大を可能にしてきた。すなわち,生産技術の改良,新製品の創出,新しい資源の開発を通じて,産業の発展と消費生活の高度化に寄与し,交通・通信,情報の伝達・処理の手段を進歩させ,社会・経済の広域化,国際化を促進させるとともに,医療・衛生の進歩,改善を促し,国民生活の向上,人類の福祉に大きく貢献してきた。

科学技術活動が,このような社会・経済の発展を先導する原動力としてきわめて重要な役割を果たすものであることは,わが国においてつとに認められてきているところである。この科学技術活動の基盤となる研究活動についてみると,昭和45年度における研究投資は,1兆1,953億円となり,その国民所得に対する比率は,2.02%となり,2%の大台にのるに至つた。すなわち,わが国の研究投資は,対国民所得比においては,未だ欧米先進国に及ばないものの,絶対額では西欧先進国の水準を凌駕したものと推測される。さらに,この研究投資額の対前年度伸び率が,過去最高の伸び率を示した昭和36年度についで28%と大幅な増加であつたことは,研究活動を今後ますます進展させていかなければならないわが国の立場からみて,きわめて意義あるものと考えられる。

また,技術貿易についても,昭和45年度には技術導入に伴う対価支払願が,1,559億円,技術輸出に伴う受取額が212億円となり,いずれも前年に対しかなりの伸びを示し,技術の国際交流も活発化している。

一方,昭和46年度におけるわが国の科学技術関係予算は,3,055億円となり,この10年間で,4.8倍に増加している。政府における科学技術活動は,社会・経済などの要請に応え,国民生活の向上,社会・経済基盤の整備と環境保全,経済の効率的発展などをめざして,各般にわたつて積極的に推進されている。とくに,環境,都市,災害等の社会開発関連分野の研究開発が意欲的に取り組まれており,たとえば,公害,安全,防災に関する46年度の研究開発予算は,前年度に比べて29%増加している。また,動力炉,人工衛星,海中居住基地(シートピア)の開発等の重要研究開発課題を含む原子力,宇宙,海洋など巨大科学技術分野についてみると,前年度対比で18.6%の増加をみせており,政府以外に期待できない先導的,基盤的研究開発の推進に努力している。

(今後の科学技術活動の課題)

近年,社会資本の相対的不足,都市の過密化現象などの各種の要因がからみあつて,環境問題,都市問題にみられるような複雑かつ深刻な諸問題が発生しており,また変化が激しく,複雑な社会環境の中ではストレスや疎外感など精神面のあつれきも深まりをみせている。このような情勢の中で国民はこれら懸案となつている問題を早急に解決することによつて,きれいな水,青い空のもとにおけるうるおいにみちた生きがいのある豊かな生活を希求している。

一方,最近における国際情勢は,中華人民共和国の国連加盟により多極化の方向に大きく動き出すとともに欧州共同体の拡大,米国の新経済政策の展開等の背景もあつて,わが国が国際社会において果たすべき役割の重要性が強く認識され始めた。これに伴い科学技術においてもすでに米国についで西欧先進国と比肩しうる力をもつているわが国としては,科学技術面で先進国との対等の立場における相互協力の強化,開発途上国に対する多面的な協力,さらに,環境問題など全地球的問題に対する協力などが内外から強く要請されている。

以上のような内外の新たな要請に応えていくためには,1970年代の科学技術活動は,わが国の高密度化や資源の大幅な海外依存などの特殊な社会的,経済的条件を考慮した独創性の高い科学技術の研究開発を基調として,従来から重点的に進められてきた分野を進めるとともに,次のような課題を強力に推進していく必要がある。

まず第1に,研究開発にあたつて経済的要因のみならず,社会的要因をより一層重視することである。

第2に,科学技術が社会・経済に適用され広範に普及伝播されていく過程で発生する副次的負の影響を事前に予測し,対策を講ずるために,科学技術が人間・自然に与える影響を広く,深く検討するいわゆるテクノロジー・アセスメントを必要な問題に対して適切に実施しうるようにすることである。

第3に,近年深刻の度を増している環境問題,都市問題を解決するための環境科学技術,社会・経済事象を科学的・総合的に分析解明するソフトサイエンスおよび生命現象や生物機能の解明,応用を通じて今後の社会・経済に多大の貢献が期待されるライフサイエンスなどの新しい科学技術分野を開拓することである。

第4に,科学技術面において国際協力を量的にも質的にも充実することである。

(課題への対応)

このような70年代の科学技術活動に要請される課題に対し,すでにいくつかのめだつた対応が現われている。

まず,社会的要因を重視する研究開発については,政府および民間において技術予測,研究評価など社会の要請をできるかぎり的確かつ客観的に把握しようとする努力がみられるとともに,社会的要請の強い公害,災害などの防止のための研究活動が活発化しつつある。また,それらを実施するうえで必要となる多分野の連携が進められている。

テクノロジー・アセスメントについては,政府においてはいくつかの技術分野についてケーススタディを行ない,テクノロジー・アセスメントの確立のための対象技術,実施手段,評価方式などの検討をはじめている。

また,新しい科学技術分野については,まず,環境科学技術の研究では,その研究企画,立案,調整のための行政機能が強化されるとともに,総合研究機関として国立公害研究所の設置が決定し,研究開発体制が着々と整備されつつある。研究開発活動も政府および民間企業において活発化し,その内容も単なる公害防止技術の研究開発だけでなく生態学的あるいはシステム的な取り組がなされつつある。また,ソフトサイエンスの研究では,とくに政府において最近多分野の人材の協力による総合的な調査研究,研究企画調整者の養成および総合的な調査研究のための機構に関する調査が鋭意進められつつある。さらに,ライフサイエンスの研究では,国立試験研究機関,大学などにおいて,がん研究,生体情報処理機能の解明,生体機能の工学的応用の研究など活発な活動が進められつつある。

科学技術の国際協力に関しては,先進諸国との協力分野で,従来の情報や技術を受け取るだけの立場から,今後は積極的に相互協力の方向に脱皮しようとする動きが日米天然資源会議の活発化,日仏・日豪の原子力協定の調印,カナダの科学技術調査団の来日などとして現われており,また,開発途上国とは,わが国の国際的責務の逐行という方向で開発途上国の自助努力と結びつけた科学技術人材の養成,アジア医療機関構想による協力などの社会基盤分野の協力,開発途上国の科学技術の芽を育成するためのフィリピンとのコレラ等医療に関する研究協力,インドネシアとの食用作物主要病害に関する研究協力などにみられるような研究協力が展開され始め.ている。このほか,全地球的問題に対する協力として,国連人間環境会議の準備のへの参加,ユネスコの「人間および生物圏」事業計画への参加など環境問題が意欲的に取り組まれている。

以上,述べてきた科学技術に対する新しい要請と対応は,ひとりわが国のみの現象ではない。

国内外における新しい進展と脱皮を模索し,努力を続けているアメリカにおいては国民生活に直結する科学技術分野の振興を図ることを当面の科学技術政策の最重点において,1973年度における安全無公害輸送,災害防止関係の予算を,72年度に比べ4割強増加させることなどによつて,社会開発関連研究開発費の大幅増額を計画するとともに,原子力,宇宙開発によつてもたらされる技術を国民生活関連の科学技術分野に積極的に転用することなどを進めようとしている。また,OECDにおける科学政策委員会の討論にみられるように,欧州先進国は,一様に都市開発,環境汚染防止などに関する社会開発関連の科学技術活動の強化にのりだしている。

70年代の科学技術に対する対応は,まさに始まつたばかりであるが,今後ともこの方向での科学技術活動を鋭意推進していく必要があり,とりわけこれらは政府が担うべき性質の分野が多いことに留意しつつ,世界にさきがけて新しい要請に対して的確に対応していくことこそわれわれに課せられた責務であろう。

(本書の構成)

本書は3部から構成されている。

第1部においては,70年代の科学技術に寄せられている国内外からの要請を分析し,それらの要請に対応するための科学技術活動の課題を明らかにする。

次に,この70年代の課題すなわち社会的要因を重視する研究開発,テクノロジー・アセスメントの確立,新しい科学技術分野(環境科学技術,ライフサイエンス,ソフトサイエンス)の開拓および国際協力の推進をどのように進めようとしているか,それぞれその動向を概観するとともに今後さらにその推進を図るために留意すべき点を示唆する。

第2部においては,わが国の科学技術活動の動向について研究投資および人材,科学技術情報活動,技術交流および特許出願の面から分析し,さらに,欧米主要国の科学技術政策の動向を概観する。

第3部においては,わが国の科学技術の振興を図るために実施している政府の諸施策について,科学技術関係予算,政府機関等における研究活動,民間等に対する助成,委託および科学技術振興基盤の強化の面から,昭和46年度を中心に述べる。


前(節)へ  次(節)へ

ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ