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第1部   技術革新の歩みと新たな展開
第2章  社会・経済に対する技術革新の影響と近年の動き
3  技術革新の新たな展開
(2)  技術革新の新たな展開の方向


以上のような社会・経済の変化に対応し,豊かな社会を実現していくに当つて,今後も技術革新に寄せられる期待は極めて大きく,より一層技術革新を進展させていくことが重要である。しかしながら,従来のように生産性のみを重視し,副次的影響に対する配慮が十分でないまま技術革新を展開していけば,社会・経済の変化に対応できないばかりでなく,自然は破壊され,人間は疎外され,社会のさまざまな面で緊張が増大し,問題はさらに深刻なものとなり,技術革新への期待は裏切られることになろう。

したがつて,今後の技術革新は,明日への発展のために,自然・人間・技術の全体をシステム的にとらえ,その中において最適化を図ることを念頭において展開する必要がある。

すなわち,過去の技術革新においては,システムズアプローチの対象領域を,例えば,一連の生産工程という狭い領域でとらえ,その中で最適化を図るといつたやり方が進められてきたが,このような狭い領域を対象としたアプローチが,自然の浄化能力以外の排出物を排出する技術革新を展開させ,また,人間に不安や緊張感を与える技術革新を起こす原因を提供してきた。

今後はシステムズアプローチの対象領域を,自然・人間・技術のシステムまで拡大し,自然と人間の能力との調和を図りながら,積極的に人間福祉のために技術革新を展開していく必要があろう。以下,自然・人間・技術のシステムについて便宜上,(1)自然・技術系と(2)人間・技術系に分けて述べることとする。


(1) 自然・技術系の最適化

われわれは,大気,水,土壤などの無生物や植物,動物,微生物などの生物で構成されている複雑な自然環境の中で生きている。これら環境の特性は,それらの中で絶え間なく起こる物質の循環であり,なかでも物質やエネルギーを交換する能力をもつ生物の役割は大きい。これら生物に限らず大気,大洋,大地なども互いに密接にからみあつて絶えまなく破壊(分解)と生産(合成)を繰り返している。このように生物と無生物はそれぞれの立場で物質,エネルギーなどの交換をおこない物質の再生産を維持している。例えば,食物連鎖という面からみても微生物や植物は,無機物から有機物を合成する有機物の生産者として,人類も含めて動物は有機物の消費者として,微生物は有機物の分解者としてそれぞれの役割を果たしている。われわれは,このような物質の自然循環(地理的,化学的,生物学的)のなかで特定の物質を資源として取り出し,道具をつくり,蓄積されたエネルギーを使い,生産→加工→流通→消費という形態の人工的環境をつくり出し,その中で生活している。

とくに科学技術の進歩は,資源利用の過程において,自然環境に対して物質の投入速度を加速してきた。さらに,自然においては分解が困難な高分子系製品や各種薬剤といつた天然に存在していなかつた人工的物質を大量につくり,自然における物質の分解速度を停滞させてきた。

このような活動によつて,自然環境における物質循環速度が変調をきたし,人類の活動の跡には廃棄物質の滞留が目立ちはじめている。また,薬剤の散布などによる生物の滅失,排出物による大気汚染,水質汚濁,土壤汚染,熱汚染,固形廃棄物汚染なども,自然環境゛における物質循環に変調を与え,次第に自然環境のもつ資源の再生産能力が損なわれようとしている。近年,公害や自然環境の破壊問題が顕在化するにつれ,いろいろな対策が進められているが,これらは人間と他の生物集団の両方をアプローチの対象領域としていないものが多い。現実の自然界は,上述したように無生物環境と生物環境からなつており,それらが相互に密接なつながりをもつて活動し,その中で人間は生活している。人間がつくり出すものが,人間以外の生物集団を通じてしばしば増幅され,あるいは濃縮されて,人間に対してより強く影響しているなどの例をみれば,,人間の活動が自然界と切りはなしては考えられないことが理解できよう。

このような意味で,今後の技術革新は,これまでのように新しい製品をつくりだし,いかに大量に安く生産を行なうかだけでなく,生産物あるいは廃棄物の処理をも含めた形で進め,自然環境のもつ再生産の能力を損なわないよう配慮し,達成するべきであろう。

このためには,生産活動において,その生産系から自然を破壊するような廃棄物ができるだけ出ないような生産技術や出てくる廃棄物を人間が再び使用できるような資源化技術の確立が望まれる。さらに,自然環境における物質循環のメカニズムとその再生産能力を国際間の協力のもとで全地球的立場に立つて究明することが緊要である。


(2) 人間・技術系の最適化

人間・技術系を考える場合,人間のもつ性質として,感情を有すること,錯覚,錯誤を行ないやすく,その面では信頼性が低いこと,連続的稼動に耐え難く,疲労性をもつていること,割合定まつた生理的リズムをもつていること,刺激から反応までに,必ずある時間を要することなどをあげることができる。また,人間を社会的な立場でみた場合,性別をはじめ,能力の個人差,支配欲,闘争心などの性質をもつている。

これらの性質を十分考慮しない人間・技術系は,事故,疾病,ノイローゼなどの原因となり,総じて,技術に対する不信感を増大させることになりかねない。例えば,オートメーションの普及は,過酷な条件下における労働から人間を解放した反面,逆に,人間が機械に使われるという主体性の転倒がみられはじめている。

したがつて,今後の人間・技術系の方向として,人間主体性の尊重,人間に対する安全性の向上,人間の弱点の補完,マンマシンインターフェイスの簡易化などを目差すことが望まれる。そのためには,従来のようなハードな技術を主体としたアプローチだけでなく,人間工学,社会工学,システム工学,生体工学など従来の自然科学の領城とは異なつた新しい境界領城の科学を駆使した広範囲なアプローチが不可欠であろう。


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