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第1部   技術革新の歩みと新たな展開
第2章  社会・経済に対する技術革新の影響と近年の動き
2  環境汚染問題に対する科学技術活動の現状
(3)  水質汚濁防止


工場排水,家庭下水,し尿,船舶廃油などの処理については,すでに示したように多くの方法が研究されており,なかには,実際に使用されているものもある。

工場排水においては,工場の業種,工程によつて,排水の性状,含有汚濁物質の種類,濃度が異なるため,それぞれに適した処理方法,操作方法が必要である。

2,3の産業について,その処理方法をみると次の通りである。アルコール蒸留廃液処理においては,メタン発酵法(汚泥を嫌気的に分解してガス化し分解する方法),活性汚泥法(微生物の生化学的作用によつて好気的に汚濁物質を凝集沈でん除去する方法)などがある。

パルプ廃液処理においては,凝集沈でん法(薬品によつて凝集沈でんさせる方法),活性汚泥法,散水炉床法(炉床の炉材間を汚水が通る間に通風され,好気性菌による酸化と有機汚濁物質の無機安定化により浄化する方法)などがある。しかし,パルプ廃液の処理は困難な場合が多く,とくに亜硫酸パルプ,セミケミカルパルプ廃液の処理は困難である。

鉱山排水中のカドミウム,亜鉛,銅などの重金属の処理においては,石灰中和法(遊離している酸を石灰石によつて中和,共沈させる方法)などがある。メッキ廃液の処理においては,シアンを含有する場合,通常は塩素酸化法(酸化によつて,シアンを分解し,非毒性化合物にする方法)によつて,シアン,カドミウムなどを除去している。

また,シアンを含有しない場合,還元中和法(6価のクロムを3価のクロムに還元し,水酸化クロムとして沈でんさせる方法)などがある。

一般に工湯排水処理技術は,実際の使用に当つては,広い用地を必要とすること,また,中小企業にとつては,防止設備の過大から,生産コストの上昇になるなど,まだ多くの問題がある。

今後さらに,個々の処理技術の高度化,廃液の性状,含有汚濁物質の種類,濃度に応じた個々の処理技術の組合せの方法や研究,経済性の向上および共同処理技術の開発などが重要な問題となつている。

家庭下水では,簡易処理法(スクリーン,沈砂池,普通沈でん池および消毒などの各方法の組合せ)と散水炉床法の組合せや簡易処理法と活性汚泥法との組合せで処理している。現在,この放流水を工業用として再利用するための研究が進められており,BOD10ppm以下,窒素分3ppm以下,リン3ppm以下を目標としている。

し尿については,嫌気性消化法(嫌気性の微生物の作用によつて,し尿を分解する方法),酸化法(好気性微生物の作用により処理する方法),湿式空気酸化法(し尿を高温高圧の下に空気と接触酸化させる方法)で処理されているが,窒素,リンの除去率が低いこと,また処理にあたつて大量の水で薄めなければならないという問題がある。

船舶廃油では,重力浮上法(水と油の比重差によつて油分を浮上させる方法),凝集法,活性汚泥法などの方法で処理されているが,今後これらの処理技術の一層の性能の向上,経済性の向上が重要となつている。

このほか,システム的なアプローチも進められており,例えば,システムズアナリシスによる矢作川の水質保全モデルがあげられる。

このモデルは,河川流水の水質基準や排水の水質基準を決定するに当つて種々の代替案を費用と効果の観点から評価できるパイロットモデルの開発,現行の水質調査,水質基準設定方法の改善に資することを目的としたものである。

このモデルは, 第1-23図 に示すような基本構造をもつており,その考え方が他の河川にも適用できるようになつている。

第1-23図 水質保全モデル基本構造


(3) 騒音,振動防止

自動車騒音防止技術では,エンジン部,排気管,走行部(タイヤ)の改良が進められている。エンジン部については,回転音を発する冷却ファンの改良,吸入音を発するクリーナの消音装置の開発が進められており,すでに一部で使用されている。排気管については,消音器の改良が行なわれており,その研究成果によつては10フォン程度の低減ができるものとみられている。

また走行部については,タイヤの改良に関する研究が進められており,3〜7フォン程度下げることができるものと期待されている。さらに,道路構造等の改良による騒音軽減に関する研究も進められている。

航空機騒音防止技術では,ジェットエンジンの騒音防止技術としてバイパスエンジンの研究が進められ,一部で使われている。また,ファン騒音防止技術として,ファン部の改良が行なわれつつあり,すでにこれも使用されている。

鉄道騒音防止技術では,車両関係,線路関係について技術開発が進められている。

車両関係では,空気バネ付高速台車の開発によりかなりの成果を得ている。新幹線に特有のパンタグラフの碍子からの騒音については,碍子形状の変更によりかなり低減できる見通しがついたので,一部で使用されている。

さらに,車両の側スカートの延伸,騒音発生源のボディ・マウント化の研究が進められている。軌道,橋梁関係では,ロングレールの採用,レールと枕木間にゴムパットの挿入,橋梁の鋼桁の有道床化,PC桁の採用などがあり,かなりの効果が収められている。このほか防音壁により5 〜10フォン程度の低滅が期待できるので,位置,高さ,材質の研究が進められ一部で使用されている。建設工事に伴う騒音,振動については,シールド工法,鉄筋コンクリート連続壁工法などの騒音の発生の少ない新工法の採用,無騒音杭打機など低騒音建設機械の開発などが行なわれており,一部で使用されている。

このほか,消音材,吸音材の研究が進められている。

騒音,振動防止技術は以上のように,一部ですでに使用されているが,まだ不十分であり,より一層の技術開発が必要である。


(4) 悪臭防止

悪臭防止技術は,多くの方法について技術開発が行なわれているが,人間の悪臭知覚限界は1/1000ppmオーダーであるため,技術的に困難な問題が多く,個々の技術の高度化をはじめ,経済性の向上など多くの研究課題が残つている。なお,現在使用されている2,3の悪臭防止処理方法をみると次の通りである。

へい獣処理場の乾燥機からの悪臭除去には,水洗法(水溶性臭気成分を水に溶解,排除する方法),湿式電極法(電気集じんを湿式で行ない,水と一緒に悪臭成分を収集する方法),オゾン酸化法(オゾンの酸化力によつて,悪臭成分を破壊する方法),酸,アルカリ洗浄法(酸性溶液,アルカリ溶液で悪臭成分を除去する方法),燃焼法(燃焼によつて悪臭成分を除去する方法で,燃焼脱臭前に,悪臭中の水蒸気を除去することがある。),吸着法(活性炭,ゼオライト,活性白土などの吸着剤で悪臭成分を吸着除去する方法)などがある。

鶏糞乾燥機からの悪臭除去には,水洗法,土壌フィルダー法(水洗後,土壤層を通過させ,土壤によつて悪臭成分の吸着および土中微生物によつて悪臭成分を分解させる方法)があり,クラフトパルプ廃液の悪臭除去には,オゾン酸化法,塩素添加法(塩素の酸化力により悪臭成分を破壊する方法),燃焼法がある。


(5) 固形廃棄物の処理

不燃物,粗大ゴミに対する処理として,圧縮処理,破砕処理などが行なわれている。しかし,圧縮処理については圧縮力,破砕処理については破砕物の最大径に限度があり,十分とはいえない現状にある。

可燃物の焼却処理法として,バッチ燃焼方式,機械化バッチ燃焼方式および連続燃焼方式がある。現在の焼却炉は,炉材の耐久性などから燃焼温度1,000°C以下で運転されている。そのため,燃えがら中に占める未燃焼分(熱灼減量)は10〜15%程度,火格子の面積1m2当り1時間の焼却量(焼却率)は150〜200kg以下となつている。

最近,ゴミの中に混入する合成高分子廃棄物が多くなるにつれて,発熱量の増大による炉体の損傷や,黒煙,有害ガスの発生が問題となつている。これら混合ゴミの焼却処理を行なうためには,ゴミの発熱量2,000〜5,000Kcal/kgに耐える焼却炉の開発が必要であり,とくに炉材質,炉構造に関する研究が重要となつている。さらに,ゴミを合成高分子廃棄物,その他の可燃物,不燃物に分けるゴミの選別技術の開発,合成高分子廃棄物の専焼炉の開発,排出ガスの有害ガス除去技術,余熱利用技術の開発が重要である。

また,合成高分子に対して,天然高分子と同様な自然への還元性をもつた分解型プラスチックの研究開発がなされており,その成果が期待される。このほか単に処理,処分するというだけでなく,廃棄されたプラスチックを新たに資源として利用するための再利用技術とそのシステムの確立のための研究が進められている。

産業系廃棄物として主要なものには,スラッジ類があるが,この処理には濃縮脱水,乾燥,焼却などの技術が必要である。これらの技術の単位操作は,ほとんど完成に近づいているが,さらに高能率のものの開発およびスラッジ中の微量有毒,有害物質の除去技術の開発が急がれる。


(6) 農薬による環境汚染の防止

農薬開発は生物系などの自然の平衡を保持すること,農薬の残留毒性および蓄積性のないことなどを目的として,低毒性農薬の開発,新しい型の薬剤の開発の方向に進められている。低毒性農薬の開発では,従来使用されてきたパラチオン,水銀剤,DDT,BHCに代つて殺虫剤の分野では,カーバメイト系殺虫剤,低毒性の有機リン剤,天然物から出発したパダンなどがあり,殺菌剤の分野では,低毒性の有機リン剤,ジチオカーバメイト剤,抗生物質などが開発されている。また除草剤の分野では,PCPなどの塩素フェーノール系除草剤に代つて低毒性のものが開発され,これらは,いずれもすでに実際に使用されている。

新しい型の薬剤として,性フェロモン,変態ホルモン,幼若ホルモン,細胞壁合成阻害剤,天敵を利用する生物農薬などが研究段階にある。

性フェロモンはこれによつて昆虫の雄を1箇所に誘引して,殺虫剤で殺そうとするもので,農作物に直接薬剤が接触しなくてすむ。変態ホルモン,幼若ホルモンは,昆虫が幼虫から蛹,成虫へと変態することを抑えるため,蛹化が起らず,正常な変態を阻害するものである。

また,細胞壁合成阻害剤は,選択的に細菌の細胞壁のみを阻害するものであり,ペニシリン,ポリオキシンなどがある。

生物農薬は,天敵を利用して,生物的防除を行なうものである。例えば,リンゴ,ナシの害虫であるクワコナカイガラムシの寄生蜂であるクワコナカイガラヤドリバチの蛹の大量生産方式が確立し,実用化に及んでいる。

以上,環境汚染防止技術の動向をみてきたが,現在のところ,機構,方法の改良や,物理的,化学的,生物的処理技術が主体となつており,今後は,機構,原理の転換や,システム的なアプローチの方向の追求も必要である。


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