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第1部   技術革新の歩みと新たな展開
第1章  わが国の技術革新の特徴と進展要因
2  進展要因からみた技術革新
(1)  技術革新と技術進歩


技術革新を技術進歩の側面からみると,次の2つの形態にわけることができよう。

第1の形態としては,既存製品,既存プロセスの改良など,技術進歩の側面としては,もつぱら過去のトレンドを延長したいわば代謝的な技術進歩であるが,産業活動の拡大,個人所得の増大などに伴う需要拡大の要因が強く作用して,技術革新を実現してきたものがある。これには,鉄鋼業,自動車工業における技術,家庭用電気製品の生産技術などがあげられる。これらはいずれも,基本的には,戦前にすでに確立していた技術であつたといつて過言ではなく,需要の著しい拡大に伴い,大型化,自動化,量産化が進展したものである。

第2の形態は,高度かつ革新性の高い新技術,すなわち革新的技術の開発によつて驚異的な技術革新を出現したものである。これには,電子工業,高分子化学工業における技術,オートメーション技術などがあり,これらの技術によつてつくられた製品は,トランジスタ,プラスチック,合成繊維,トランスファーマシンなどがあげられよう。これらの分野における技術は,過去の技術進歩の経路をたどらない不連続な技術進歩すなわち変身的技術進歩が主体であり,第1の形態と異なつて,鉄鋼,自動車,造船工業などの既存産業の大型化,量産化,自動化の基礎となり,それらの生産技術体系すらを一変させた。また一方では,数多くの新製品を生むと同時に,新しい需要を創出し,国民生活のみならず,生活意識までを大幅に変革した。

一方,このようなめざましい技術進歩は,技術開発とその基礎をなす科学研究によつて実現できたものである。


(1) 技術進歩と技術開発

わが国の技術進歩は,技術導入と技術開発によつて達成されてきたので,技術進歩を技術導入や技術開発との関連で概観するとともに,技術開発遂行上の問題点を述べよう。

技術進歩と技術導入・技術開発との関連について業種別に形態をわけると,まず第1の形態として,外国技術導入依存によつて技術進歩を達成してきたものがあげられる。

これには,石油化学工業,合成繊維工業,鉄鋼業,電子工業などが属する。

石油化学工業と合成繊維工業においては,PNC法によるカプロラクタムの製造技術,直接酸化法によるエチレンオキサイドの製造技術,オキシクロリネーション法による塩化ビニルモノマーの製造技術などのような優れた国産技術も開発されているが,エチレン製造技術,ポリエチレン,ポリスチレン,ポリプロピレンなどの主要合成樹脂の製造技術,ナイロン,ポリエステル,アクリル繊維などの主要合成繊維の製造技術など多くの技術を外国に依存してきた。

しかし,最近では,このような先進技術の消化,吸収,改良研究を通じて優れた国産技術の開発も行なわれるに至つている。

鉄鋼業においては,製銑,製鋼,圧延技術の重要な部分の少なからぬものを,欧米諸国からの技術導入に依存してきた。例えば,高炉高圧操業技術,LD転炉技術,ストリップ圧延技術などは,いずれも外国からの導入技術であるが,これらを改良し,大型化をいち早く実現するなど国産技術に負うところも大きい。

最近,これらの製造設備の国産化も進み,世界最高水準のものもすでに稼動している。

また,操業技術においてはすでに外国技術を凌駕し,国産技術として確立している。例えば,自溶性焼結技術,LD転炉ガス回収技術,ティンフリースチール技術などの誇るべき国産技術が開発され,逆に欧米諸国に技術輸出されている。

また,電子工業においては,通信機器,電子部品,電子計算機などの主要な技術は,ほとんどアメリカからの導入に依存してきた。

しかし,一方では,トンネルダイオード,パルスモーター,PCMセラミック素子,ワイヤメモリ,フェライトコアメモリ,小型電子計算機などの世界に誇るべき技術が生れている。

第2の形態として,国産技術と外国技術の結合によつて技術進歩を達成してきたものがあげられる。これには,自動車工業,造船工業,カメラ光学工業,時計工業などが属する。

これらの工業における技術は,第二次大戦中の軍用機技術,造艦技術などの蓄積があつたために全面的な外国技術の導入に依存しなくともよかつたものである。

自動車工業においては,エンジン部品,駆動・伝導部品,走行制動部品,操縦懸架部品などの完成部品の分野では,外国技術に依存するところが大きいが,量産組立技術,ボディースタイル技術などの分野では,国産技術が確立している。完成部品などの分野でも高速回転エンジン,ロータリーエンジンなどに関する優秀な技術が開発されている。

造船工業においては,推進機関,関連舶用補機器などは,オリジナルは外国技術に依存していたが,国産化できるところまでに至つている。また,生産技術全般にわたつて,独自の研究開発が進み,経済船型,溶接建造,生産管理などの面においては,優秀な技術が生れ,世界をリードしてきた。

以上のように,わが国の技術進歩は外国技術の導入に依存するところが大きかつたが,これらの技術は第二次大戦前後から欧米先進国でいつせいに開花したものが多い。当時のわが国の技術は,航空機,造艦技術などに限られ,軍事技術以外ではあまり進展しなかつた。このため,わが国と欧米先進国の技術格差は顕著なものとなり,外国技術の導入による技術進歩を余儀なくされたのである。

第1-1表 主要国産技術一覧表

しかしながら,近年,わが国の技術水準は,着実に向上し,徐々に技術開発力を培養して,すでにのべたような個々の産業における国産技術,新幹線,耐震構造の超高層ビルなどを生み出すに至つている( 第1-1表 参照)。新幹線の開発は,戦前から水準の高かつた鉄道技術の蓄積を基に,高速軌道,大電力供給方式,高速車両,列車運転制御装置などの開発およびこれらの諸技術をシステム化することによつて,新しい機能,成果を生み出したもので,新しい技術開発の方向として,注目されている。

今後,わが国が,さらに自主的に技術開発を行なつていくには,まだ多くの問題点が残されている。

ここでは, 第1-1表 に掲げた国産技術開発の実態について科学技術庁で行なつた調査を通じて,今後問題となるであろう2,3の事項を指摘しておこう。

まず第1には,需要者側の要請を直接的に把握することが少なかつたこと,外国に先んじて,開発研究に着手したものが少なかつたことなどがあげられる。技術開発前において需要者側の要請を把握するに当つて,マーケット・リサーチなどの直接的な手段を用いたものはわずかであり,ほとんど社内での分析,検討によつている( 第1-10図 参照)。今後,需要者側の要請は,一層多様化するものと思われ,その的確な把握が重要となろう。

第1-10図 需要者側の要請の把握の方法

第1-11図 開発研究着手前の外国における技術開発の状況

また技術開発に際して,外国に先んじて,開発研究に着手したものは20%弱で,約半数は,外国において類似技術が存在していたものである( 第1一11図 参照)。今後創造的な技術開発を行なつていくためには,外国技術の模倣から脱して,基礎研究から掘り起こしていくことが重要であろう。

第2には,国際的にみて,中核技術と思われる分野の技術が少ないことがあげられる。

第1-1表 に示した国産技術をみると技術の基本的要素というべき動力,材料,機械,システムなどに関する技術が少ないことが,その特色としてあげられる。すなわち,原子力,プラスチック,半導体,工作機械,電子計算機などについての技術のように,他技術分野への波及効果の大きい技術が少ない。

さらにまた,国産技術の開発による基本的特許を外国に出願していないものや,技術輸出していないものが多く( 第1-12図 ),国際的にみて魅力の少ない技術が多かつたといえよう。ますます激化すると思われる技術競争に対処していくためには,今後,国際的にみて魅力のある技術を積極的に開発していくことが重要であろう。

第1-12図 国産技術の開発によつて得られた技術の基本的特許の対外国出願件数および技術輸出件数

第3には,産官学の連携によつて開発された技術が少ないことがあげられる。単独研究によつたものと,共同研究あるいは委託研究を一部行なつたものとはほぼ同数になつている( 第1-13図 , 第1-14図 参照)。しかし,共同研究,委託研究の相手先をみると,約半数以上が関連業種であり大学,国公立試験研究機関のウェイトは低い。今後,技術開発の総合化がより一層進展するものと思われ,これに対処していくためにも,それぞれの研究機関の特性を効果的に発揮させることを目途としつつ,産官学の連携体制を強めて,技術開発の効率化を図つていくことが重要であろう。

第1-13図 研究開発方式

第1-14図 共同研究,委託研究の相手先


(2) 技術進歩と科学研究

科学技術は,真理の探求,自然現象の解明という側面と,物質,プロセス,システムの創造など社会・経済の要請に応え,その発展のための手段を提供するという側面とが,互いに影響しつつ進歩してきた。例えば,電子技術の進歩においては,量子力学の完成が基礎となり,トランジスタのような画期的技術が誕生し,その発展の過程で半導体表面現象の解明に大きなインパクトを与えた。また,高分子技術の進歩においては,高分子構造の解明が契機となり,つぎつぎに高分子材料が合成されるようになつたが,他方では,これらの新物質は,科学研究の対象領域を広げ,高分子化学の進歩に大きく寄与した。

科学と技術は必ずしも明確に区別できるものではないが,このように科学が現象を整理し,技術的可能性としての見通しを与え,また逆に技術進歩が科学研究の手段を拡大したり,対象領域を広げたりしているといえよう。

しかしながら,わが国における技術進歩は,技術導入を中心として,その消化,吸収,改良の形で行なわれたため,技術開発の過程で直面する問題の解決にあたつて,科学側への要請が薄弱となり,科学研究の面においても,先端的,核心的問題に接近できないまま,欧米の後を追いかけざるを得ない結果となつた。

一方,江崎効果などのように,わが国独自の発見も,わが国の中で,十分利用されず,むしろアメリカで評価され,速い素子としての開発が徹底的に行なわれた後,再びわが国で注目されるなど,技術側も,科学の成果をくみ上げて,発展させるポテンシャルに乏しい面もあつた。

これらのことは,別の見方をすれば,国内においては科学と技術が結合する場が乏しく,国外での結合の場を通じて,両者が関係しあう形態が多かつたといえよう。

技術進歩の過程において,科学は技術的に行き詰まつている壁を突破するような際に,有効な役割を果たす可能性があることなどを考慮すると,国内における科学と技術の結合がより緊密化されないかぎり,国際的な技術競争やわが国特有の技術課題に対処していくことが困難になるであろう。

さらに,近年,科学の成果はいち早く技術開発に応用されるばかりでなく,技術的な立場から,科学の領城の拡大や質的転換を要請するような状況が生じている。

例えば,電子技術の進歩の頂点ともいえるコンピューターは,すでに高速性,記憶の大容量化の方向では解決の困難なパターン認識,連想記憶,言語処理などの基礎となる新たな科学進歩を要請している。

このように,今後は科学と技術が相互作用をより強めつつ,かつ,その速度を早めながら,両者が車の両輪として協力し合うような形で問題解決に向うことが重要になつてきている。こうした新しい条件も考慮すると,科学と技術の緊密化を一層強化することが望まれるのである。


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