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第1部   技術革新の歩みと新たな展開
第1章  わが国の技術革新の特徴と進展要因
1  技術革新の特徴


戦後のわが国の技術革新を回顧すると,時代の変遷とともにその展開にさまざまな変化がみられる。

昭和20年代の前半は戦前に蓄積した技術をもとに国内資源に立脚した研究活動が進められ,その後の技術革新を達成していく際の基盤が築かれた時代であつた。

すなわち,国内炭だけによる高炉操業実験,二段乾溜法による弱粘結炭からのコークスの製造技術,石炭を原料とする塩化ビニル樹脂やナイロンの製造技術などの各種の研究開発が行なわれた。

昭和20年代の後半から30年代の前半にかけては先進諸国との技術格差を縮めるために広範な分野にわたつて海外から技術が導入され,これらの技術を中心に技術革新が展開されていつた時代であつた。

鉄鋼,非鉄,石油,合成繊維などの産業で顕著な技術革新が起こり,また,電子工業,石油化学工業など過去になかつた産業が登場し,これら産業のその後の発展の基盤が築かれた時代でもあつた。

昭和30年代後半からは,国民生活の高度化,労働力不足,経済の国際化など,内外の情勢の変化に対応して,わが国の科学技術の動きにはいくつかの大きな変化が指摘できる。すなわち労働力不足,品質の向上などに対処して省力技術,オートメーション技術が開発され,各産業分野の生産現場における自動化,省力化が促進された。

また,貿易の自由化,資本の自由化にみられるようにわが国経済の国際化に対処して自主技術開発への気運が高まりつつある。

さらに,この時代には情報産業,原子力産業などの新しい産業が芽ばえ,将来に大きな期待が寄せられている。

以上,戦後のわが国の技術革新を回顧してみたが,わが国の技術革新にはいくつかの特徴がみられる。

第1に,技術革新を推進してきた主体者は民間企業であつたということである。民間企業は経済性の追求のもとに,海外の技術を積極的に導入し,それを吸収し,改良し,常に技術革新の先導者として大きな役割を果たしてきた。また,技術革新を進展させていくうえで欠かせない研究開発活動を研究投資の面からみると,わが国の民間企業の研究投資は,過去10数年間にわたつて全研究投資の60〜70%を占め,技術開発において民間主導的であつた( 第1-1図 参照)。これは,アメリカ,イギリス,フランスなどのように政府の研究投資が50%以上を占め,政府が技術の進歩に大きな影響を与えてきた欧米諸国と大きく異なつている。

一方,特許出願比率の面からみても 第1-2図 のように,民間企業が大きな比率を占め,民間企業が技術革新の推進者として中心的存在であつたといえよう。

今後,社会・経済が複雑化するにつれて,科学技術はより総合化される必要性が高まり,このため,広範な技術分野の知識の結集が必要となろう。さらに,民間企業では負担できないような巨額の研究投資を必要とする課題が増加しつつあること,公害,都市問題など政府が関与しなければ解決できないような社会問題が多くなつており,この面で科学技術に期待されるところが大きいことなどを考えると,政府が科学技術活動に果たすべき役割は,今後ますます増大すると思われるので,政府の支出する研究投資はより一層の充実が図られる必要があろう。

第1-1図 主要国における全研究投資に対する民間企業の負担比率

第1-2図 わが国における特許出願の出願人 別構成

第2にわが国の技術革新は,欧米の先進国とくに米国からの技術を消化,吸収することによつて達成した,自主技術の少ない技術革新であつたということである。技術革新の代表的なものといわれているエレクトロニクス,石油化学をはじめ,各分野にわたつて,積極的に海外から技術が導入されてきた。すなわち,外資法が制定された昭和25年から昭和44年度末までに,導入された技術(契約が1年以上にわたる技術援助契約に基づく技術,いわゆる甲種の技術)の数は,6,994件の多きに達している。

第1-3図 は,わが国における主要製品の自主技術比率を示したものであるが,この図からもわが国がいかに外国の技術に依存しつつ,技術革新を達成してきたかがうかがえる。

第1-3図 主要製品技術の対外依存度

このように,わが国の技術革新が海外の技術を中心に押し進められたことは,戦後の科学技術水準の海外との格差を是正するため有効かつ適切な手段であつたといえようが,その反面,研究開発力の強化という面からみれば問題を残す結果となつた。

一方,公害防止,都市交通の改善,医療保健の充実など国民福祉の向上や社会開発をはかるためにも,また経済の国際化の進展とともに一層激化しつつある国際間の技術競争に対処してくためにも,技術開発がますます重要となつてきている。

このような時期にあつて,わが国の科学技術水準の向上とともに,世界から学ぶ技術が少なくなつていること,近年の技術導入条件が厳しくなつていることなどを考えると,今後は従来のような模倣的な態度でなく,自ら進んで創造的な自主技術開発を行なつていく必要があろう。

第3に,生産技術中心の技術革新であつたことである。

従来,産業部門の科学技術については,その社会への貢献は,科学の成果→技術の進歩→新製品・新プロセスの開発,既存製品の改良→企業の発展→経済の成長→国民総生産の増大→国民の所得水準の向上→国民の幸福といつた経路で説明され,広く国民の同意を得てきた。このように,科学技術の役割を経済的,物質的条件を向上させるという手段に求めたため,物を生産する科学技術は急速に進歩し,生産力の増大に大きく貢献してきた。

たとえば,石油化学,電力,鉄鋼などの設備にみられる大型化,大容量化,生産プロセスにみられる自動化,連続化の技術進歩はめざましいものがあつた。

一方,生産力の増大に大いに貢献してきた科学技術は,その膨大な生産力から生み出される生産物のあと処理や生産活動の過程において排出される廃棄物の処理といつた面では進歩が少なく,その他の一連の対策の遅れも相まつて生産の増大につれて近年の公害問題をはじめ,さまざまな社会の歪み現象が顕在化している( 第1-4図 参照)。

民間企業における産業廃棄物の処理,処分の実態をみると, 第1-5図 , 第1-6図 に示すように,焼却すると煙や有害ガスなどで問題になる廃棄物を焼却によつて処理している場合が最も多いこと,泥状・液状の不燃物の中の廃酸,廃アルカリなどが化学的処理(無毒化,安定化,中和など)でなく,単なる物理的処理(脱水,乾燥,圧縮など)によつてすまされていること,また,処分においては,埋立,投棄などが全体の7割を占め,資源として再使用している量が3割にも満たないことなど,その現状に多くの問題が残されている。

これは,民間企業の公害問題に対する努力と認識の不足もさることながら,生産活動によつて生ずる廃棄物の処理技術の進歩が遅れていることを物語つている。

第1-4図 生産と社会の歪みの増大指数(35年=100)

第1-5図 産業廃棄物の処理状況(昭和44年)

第1-6図 産業廃棄物の処分状況

このように,生産第一主義のもとに進められてきた経済活動に対して,社会からその是正が強く求められ,これに応えようとする動きが近年高まりつつある。 第1-7図 は民間企業における全設備投資に占める公害防止設備投資の比率の推移であるが,年々その比率が高まり,その努力がうかがえる。しかしながら,今後の生産力の増大,人口の集中などを考慮すれば,この方面の投資の充実と相まつて,公害防止技術開発のための研究投資を積極的に行ない,防止技術,さらには公害を起こさない生産技術を早急に開発する必要がある。

第1-7図 民間企業における全設備投資に占める公害防止関係設備投資の比率

第4に,わが国の技術革新は,その達成速度が非常に早かつたということである。

技術革新は新しい物を多量に世の中に生みだしてきた。テレビ,電気冷蔵庫,電気洗濯機,ステレオなどの耐久消費財をはじめ,合成繊維の衣服,プラスチック製品,各種インスタント食品など,科学技術の進歩によつて新しい製品が出現し,われわれ,日常生活に利用されており,その普及はめざましいものがある。

第1-8図 は耐久消費財の普及速度を西欧諸国と比較したものであるが,わが国の場合は,それらの国に比べて約2倍の速度をもつて普及している。

第1-8図 主要国における耐久消費財の普及の速さ

また,技術革新はあらゆる産業の生産性の向上に大きな役割を果たしてきたが,その生産性の向上という面からみても, 第1-9図 に示すように,欧米諸国に比べてその伸びが非常に高く,わが国の技術革新の達成速度が早かつたことがわかる。

第1-9図 主要国の付加価値労働生産性の推移(1958年=100)

このように,わが国の技術革新は非常に早い速度で達成され,生産活動が著しく拡大したため,社会・経済に急激な変化をひき起こしてきたが,その反面,公共投資や社会開発関連技術は社会・経済の変化に追いつけず,社会にアンバランスが生じ,近年の公害問題など社会の歪み現象を一段と顕在化させる結果となつた。

今後とも技術革新の進展とともに,大きく変化していくてあろう社会・経済に対応できるよう,公共投資の面においても,技術開発の面においても十分に配慮していく必要がある。

以上,わが国の技術革新の特徴を眺めてきた。

これまでの科学技術は,生産の面では大きな進歩を示してきたが,それに比較して社会開発関連の面での進歩は十分でなく,バランスの欠けたものであつたといえよう。さらに,近年の社会・経済は急速に変化しつつあり,科学技術に対する要請もそれに応じて変化しており,今後の科学技術活動の推進にあたつては,新しい考え方を加えていく必要がある。


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