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  序説 技術革新への新たな要請

(科学技術をめぐる最近の動向)現代は科学技術の時代である。科学技術は,社会の発展を先導する重要な原動力となつている一方,社会も科学技術を自らの重要な要素として認識し,その進歩を促進するなど,社会と科学技術は互いに大きな影響を与えあいながら発展しつづけている。このような意味において,現代は科学技術を望ましい方向に進歩発展させることなしには,社会の繁栄を期することができない時代であるといえよう。

わが国の科学技術は,60年代においてめざましい進歩を遂げ,宇宙,原子力などの新たな分野は別として,多くの分野で欧米先進国の水準に近づき,なかには鉄鋼技術,高速鉄道技術などのようにこれを凌駕するものも現われている。このような科学技術水準の向上をもたらしたものは,研究活動の拡大と海外からの積極的な技術導入であつた。

わが国の研究活動をみると,研究投資は昭和44年度に9,332億円に達し,この10年間で約6.2倍に増加している。この伸びは欧米先進国よりも大きく,その結果,わが国の研究投資規模の西欧主要国との格差はかなり縮少されつつある。また,政府の科学技術関係予算も,昭和45年度には,2,634億円となり,この10年間に約5.2倍に増大している。

一方,海外からの技術導入をみると昭和44年度における導入件数は約1,600件,対価支払額は1,325億円であり,昭和25年度から昭和44年度までの累計は導入件数約13,000件,対価支払額は7,735億円に達した。

今日まで科学技術は,わが国の驚異的な経済成長とこれをもととする国民の生活水準向上の原動力の1つとして,きわめて重要な役割を果たしてきた。すなわち,新しい製品を生み,生産工程を改革するなどして,産業の著しい発展と消費生活の高度化をもたらしてきた。それのみにとどまらず,科学技術は,情報の処理・伝達,通信,輸送などを進歩させ,時間や距離に対する観念を変えるなど,われわれの思考と生活の様式に著しい変化をひき起こし,情報化社会への移行という社会変革をも促進している。

近年,わが国の社会・経済の情勢は,著しく変化しようとしている。対外的には,経済の国際化,国内的には,国民生活の向上に伴う要請の多様化,環境問題,労働力不足の深刻化などが進みつつある。

このような中で,わが国の社会・経済は,産業の高度加工化,技術集約化の進展,情報産業などの新産業の台頭など,より豊かな人間生活の実現をめざして大きく,しかもいままで以上に急速に変化しようとしており,科学技術に対する期待は従来にもまして一層大きくなつている。

(技術革新の新展開)他面において,科学技術をめぐる諸情勢の変化に伴い,公害,交通事故,人間疎外など好ましくない現象が顕在化している。これら現代社会に生じている諸問題を解決し,社会・経済の一層の発展を図るためには,70年代の技術革新は,過去の経験を生かしながら新たな視点に立つて展開していく必要がある。

すなわち,過去の技術革新のように,例えば一連の生産工程という狭い領域をとらえて,その最適化を図るようなアプローチではなく,システムズアプローチの対象領域を自然・人間・技術の全体システムまで広げ,この中で最適化を図ることによつて,従来の技術革新の展開において配慮が十分でなかつた自然との調和,人間との調和を図ることが不可欠である。このような技術革新の新たな展開のために,今後の科学技術活動は次のような視点に立つて進められる必要がある。

まず第1に,独自の技術を開発していく必要がある。社会・経済の発展に果たすべき科学技術の役割は今後ますます増大する一方,優れた科学技術を武器とする国際競争は一層激化することが予想されること,わが国の社会・経済の諸事情に合致した独自の技術体系確立の必要性が増大していること,さらに,環境汚染防止に関する科学技術は世界的にみても開発の緒についたばかりであることなどを考えれば,もはや従来のように海外の技術開発に追随していくのではなく,積極的に独創性の高い技術を自ら開発していくことが重要である。

第2に,社会的要因を重視した態度で技術開発を行なう必要がある。社会・経済は今後急速に変貌しようとしており,これらの諸変化に対応していくためには,従来のような技術的要因や経済的要因に重きを置いた技術開発では十分とはいえない。したがつて,人間や社会に与える影響などの社会的要因も重視し,国民の価値観の変化,要請の多様化に十分応えられるような態度で技術開発を行なうことが重要である。

第3に,技術を社会に適用するにあたつて,テクノロジーアセスメントを取り入れることが必要である。例えば,環境問題の例にみられるように科学技術の社会への適用に伴つて,多方面に予知せざる副次的な影響が生じており,問題発生後に行なわれる対策では十分な解決が望めなくなつている。このような経験にかんがみ,技術の適用にあたつては自然や人間に与える影響を分析評価し,あらかじめ,その対策を講ずることが重要である。

(本書の構成)本書は3部から構成されている。

第1部においては,戦後から今日までのわが国の技術革新の特徴を述べるとともに,技術革新がどのように達成されてきたかを技術革新の進展要因である技術進歩と社会・経済の要請の両面から分析する。

次に,技術革新の社会への副次的負の影響に焦点をおき,技術革新が展開されていく過程で社会にさまざまな歪み現象が生じていることを指摘し,そのような問題について科学技術活動の面ではどのように対処しようとしているかをながめる。最後に,豊かな社会を実現していくために,今後の技術革新は新たな視点に立つて展開していく必要があることを指摘するとともに,科学技術活動の新たな方向を示唆する。

第2部においては,わが国の科学技術活動の動向について研究投資および人材,科学技術情報活動,国際交流,技術交流ならびに特許出願の面から分析する。

第3部においては,わが国の科学技術の振興を図るために実施している政府の諸施策について,科学技術関係予算,政府機関等における研究活動,民間等に対する助成委託および科学技術振興基盤の強化の面から,昭和45年度を中心にして述べる。


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