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第2部   科学技術活動の動向
第2章  科学技術情報活動の動向
1  研究活動における情報活動


研究開発を成功に導くには,単に資金と人材の投入だけでは不十分である。

一つの技術革新が行なわれるためには,まず膨大な情報を基礎として,長期間にわたる創造的研究活動の結果,ようやくすぐれた技術に結晶するのである。 第2-19表 は,アメリカの国立科学財団(NSF)の行なつた調査で,近年行なわれた技術革新のなかから任意抽出した例について遡及調査を行ない,技術革新を導くに重要な役割を果たした発明,発見等を含む論文数を示したものである。これを純粋基礎研究,目的基礎研究および応用開発に分けると,純粋基礎研究は1800年代までさかのぼるものがあつた。目的基礎研究,応用開発は革新の行なわれる前約10年間に分布していた。これでみると,一つの重要な技術の開発のためには,およそ50〜60の主要な情報を必要とするようであるが,実はそれらの一つ一つが多くの情報群に取り巻かれているのである。

第2-77図 は,レーザーに関する文献数の年次推移を表わしたものであるが,1958年フィジカルレビュー誌にA.L.シャウロウ,C.H.タウンズのレーザー発振の原理の発見が初めて紹介されて以来,約5年間は指数関数的にレーザーを扱つた論文が増加している。やがてその原理の多方面への応用が進み,現在ではレーザーに関する文献で基礎的な領域を扱つたものは,ほぼ平衡状態に達した。

第2-19表 技術開発を導いた主要情報数

第2-77図 レーザーに関する文献数の年次推移

このように一つの発明,発見が行なわれると,それに関連した膨大な情報が発生する。

従来,科学技術情報活動は,研究者が研究活動の一環として行なつてきたものであるが,時代が進むにつれ,図書館活動や,ドキュメンテーション活動として次第に研究者の活動の外部に組織化されるようになつた。したがつて,研究活動は,研究者がみずから行なわなくてはならぬ部分と研究者の活動の外部に組織化される部分とから成ると考えられ,後者がどこまで組織化されうるかということが情報活動の基本的問題である。

第2-20表 は,研究過程における情報利用をモデル化したものであり,各段階の数字はある基礎的研究を中心とする研究所における情報利用の割合を示した例である。もちろん,この数字は,研究の種類によつて大きな差があり,ほぼ全過程を通じて情報利用の必要性があることを示すにすぎない。テーマ選定の段階では,主として体系的な知識を必要とする。これは本来研究者のなかに蓄積されているものであるが,近年のように研究サイクルが短縮されてくると,各研究者が自己の知識ファイルを最も新しいものに更新してゆくことが困難になる。また,研究方向を見出すためには多方面にアイデアを求める必要もあり,研究者は,専門外の分野の動向にも目を通さなければならない。こうした要件をみたすものとして,大別すると研究者向きと一般向きのレビューがあげられる。さらに,研究者の行なう情報交換で見逃すことのできない形態として,口頭の情報交換がある。これには,個人的なものからセミフォーマルな研究会,学会等さまざまなものがあるが,これらも可能な限り印刷物として通常の情報流通機構に入れることにより,一層広範な流通を図る必要がある。実際に研究を行なう段階では,数値データ類を使用する場合が多く,これらの整備とともにつねにデータファイルを更新していくことが不可欠である。また,科学計算,データ処理等に関するプログラムの流通の必要性も見逃がせない問題である。研究のまとめの段階は,それまでに外部から得た情報と自身で作成した情報を選択的に利用するものであつて,情報活動の面からみる限り,この段階での問題は少ない。

第2-20表 研究過程における情報利用モデルと各段階における情報利用の割合

このように,研究活動における情報活動は,外部に組織化することが効果的なものが多く,しかも研究者の協力を得てはじめて外部への組織化が可能となるものが多くみられる。

すなわち,各種レビューの作成,科学技術データの整理のように,一部の研究者の協力をうることによつて,より多くの研究者が共通的に利用可能となるものをあげることができる。また,流通する論文を評価することによつて,一部を流通機構の外に取りだしてしまうスクリーニングや,既存のデータを組み合わせて新しいデータを作成するシミュレーションなども今後さらに重要となろう。

こうして,従来研究者が個々に行なつていた活動を組織化することにより,研究開発の効率を高めるためのシステム化のなかに情報活動は位置づけられるのである。

第2-21表 から 22表 は,ケミカル・アブストラクツとフィジックス・アブストラクツに収録された論文の産出国別の割合と順位を示したものである。わが国の科学技術関係論文の産出量は,全体としては,年間約10万件で,米,ソについで世界第3位と推定されるが,有名抄録誌に採択されるものでみる限り,その順位はかなり下がる。化学の場合,順位の下降は別問題としても,わが国の論文が占める割合が減少していることに注目しなければならない。物理は,2か年についてのデータしかないが,産出量第3位の国にふさわしくない結果である。このように,国内の論文産出量に比して,国際的な流通システムに乗るものが比較的少ないのは,種々の原因が考えられるが,言語の問題,論文発表における評価システムの問題,国際的な流通システムに乗せるための翻訳,抄録作製などの体制の問題にも原因があると思われる。

第2-21表 ケミカル・アブストラクツに収録された論文の国別割合と順位

第2-22表 フィジックス・アブストラクツに収録された論文の国別割合と順位


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