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第1部   科学技術発展の展望
第6章  科学技術の効率的振興
3  科学技術の効率的振興
(2)  科学技術振興基盤の整備


国は,国全体の研究開発,技術の普及などが円滑に,かつ効率的に行なわれるように科学技術人材,科学技術情報,特許制度,規格等の科学技術振興の基盤について整備,拡充することが必要となつている。


(1) 科学技術者の養成,確保

わが国の科学技術の発展を支えてきたのは,高く,均質な教育水準,優秀な科学技術者の確保とその旺盛な意欲にあつたといつても過言ではない。したがつて,今後,わが国の科学技術の飛躍的な進歩,発展を期すためには,研究費の増大とあわせ,優秀な科学技術者の養成,確保が重要な鍵を握つているものといえよう。

わが国においては,科学技術者の計画的養成が昭和30年以降の経済計画および科学技術会議の答申等に基づく理工学系学生の増募計画等が効果的に実施された結果,理工学系高等教育機関の卒業者数は,年々増加している。

この状況を昭和35年度を基準にして大学学部卒業者数についてみると,昭和40年度は,基準年の1.5倍,昭和43年度は約2倍となつている。しかし,このような大幅な増員は大学の大衆化現象を招き,一方では大学卒業者の資質の低下が憂慮されている。昭和43年9月,東京商工会議所が企業に対して行なつた「最近の大学卒業者に対する企業の評価と大学教育のあり方に関する意見調査」の結果をみても,理工学系大学卒業者の学力が低下していることが認められている。

このような大学卒業者の資質の低下を補う意味もあろうが,最近の科学技術の高度化および研究開発の活発化を反映して,産業界では,従来にもまして資質の高い科学技術者を多く求め,このことによつて,大学院終了者に対する期待が高まりつつある。その養成状況は,大学学部と同様に年々急激に増加し (第1-42表参照) ,昭和35年度を基準にすると,大学院終了者数(修士課程+博士課程)は,昭和40年度は,基準年度の2.6倍,昭和43年度は4.7倍と増大している。

高等教育機関における理科系卒業者の増加傾向は,大学学部,大学院に限らず,高等専門学校,短期大学においても同様である。科学技術者の供給源である高等教育機関の理科系分野の学生数は,最近もなお増員が行なわれているため,今後なお卒業者数は増加することが予想され,科学技術者の量的問題はマクロ的には確保されつつあるが,最近の原子力,宇宙,情報,海洋,生化学などの新しい科学技術分野の進展および産業構造などの近代化もあつて,科学技術者に対する要請も多様となり,需要と供給が必ずしも一致しないような状態となつている。

したがつて,将来における科学技術の発展,産業構造の変化などを勘案し,社会が要請する科学技術者の需要を的確に把握し,これに基づいた科学技術者の養成方針を検討する必要がある。

第1-42表 自然科学系高等教育卒業者数の推移

一方,社会の各方面で活躍する科学技術者が,加速度的に進歩発展する今日の科学技術に即応して自己のもつ知識,技術の陳腐化を防ぎ,能力の維持向上を図るためには,最新の科学技術に関する知識,技術を常に習得しておくことが重要である。

第1-43表 再教育の実施の傾向(最近5年間)

科学技術庁が昭和44年9月に実施した「企業における科学技術者の再教育等に関する調査」の結果によれば,昭和43年度中に再教育を実施したと回答した企業は,回答企業の65%であつた。また,ここ5年間程度の再教育の実施状況については, 第1-43表 のとおり,「年々増加傾向にある」と回答した企業は42%であるが,資本金100億円以上の大企業では59%で,大企業での比率はかなり高くなつている。しかしながら,現状における科学技術者に対する再教育の体制は十分整つていないことから,産業界では,再教育に関しての専門機関の設立あるいは,大学,大学院および国立試験研究機関の活用などを強く要望している。現在,文部省中央教育審議会では,高等教育の改革について審議中であるが,そのなかに大学を社会人に対する教育の場として開放するなどの問題が含まれており,科学技術者が,進歩する科学技術に絶えず順応できるための方策を早急に検討することが望まれる。

以上は,科学技術者の養成確保の問題であるが,これとともに重要なことは,技能者の養成確保である。とくに進学率の上昇などの影響によつて,若年労働力の不足と関連して,技能労働力の不足は深刻化している。しかも,進展する科学技術に即応するため,科学技術者と同様に常に新しい技術,技能取得が要求され,それに対処できる高能率的な教育訓練技術が要請されている。現在,わが国においても新しい教育訓練技術の研究開発が進み,プログラム学習およびティーチングマシンなども次第に実用の段階にはいつてきたので,こうした教育訓練技術を技能者の養成にとり入れることが望まれるが,このことは技能者ばかりでなく,科学技術者など人材全般に広く活用されることが望ましい。


(2) 科学技術情報流通体制の整備

戦後,急速な科学技術の発展とそれに伴う技術革新に対応し,先進諸外国では1960年代にはいると,科学技術情報活動を強力に推進するための体制整備にはいつた。これは,有限な資金と研究人材を有効に活用し,研究開発の効率化を図るという思想に基づいている。わが国でも,昭和35年に科学技術会議の行なつた1号答申のなかに,「科学技術情報活動の整備強化に関する方策」として,総合センターを中心とし,専門センター,データ・センターを設置するという構想とともに,情報活動のあり方と改善強化の方策が打ちだされた。しかし,その後の情勢変化等により,現状においては部分的には実効のあがつているものもあるが,科学技術情報活動全体として,有機的な関係が確立されず,バランスを失しているきらいがあり,その改善が要請されている。

たとえば,実効のあがつているものとして,一次文献の収集,二次情報の作成があり,一次文献の収集については,この答申では一流情報機関において,早急に年間5,000〜6,000種の収集量を達成することを目標にしていたが,約10年経過した現在,国会図書館では約10,000種(昭和41年),日本科学技術情報センターにおいては,約6,600種(昭和43年度)を収集しており,収集活動への努力の成果があらわれている。

また,二次情報の作成については,当初,目標にしていた諸外国並みの水準に達するに至つた (第1-44表参照)

しかし,収集から提供までの期間が長すぎるなどその内容とサービス面においては,なお種々の問題が残されている。また,わが国において国会図書館では,二次情報の作成などのサービス活動が活発でないため広汎な多教の情報需要者は,必ずしも十分活用しているとはいえない状況にある。

一方,科学技術の進歩のテンポは,ますます激しくなり,これに伴つて科学技術分野は,ますます専門化,細分化するとともに,他方では豊富となつた科学技術情報を総合的に利用する方向へ向つている。

第1-44表 世界の主要二次資料と日本の科学技術文献速報の収録件数の比較(1967年) (単位:件)

また,科学技術情報に対する需要者も,科学技術者をはじめとして,経営者,管理者,行政官,学生,市民にいたる広い範囲にわたつてきつつある。

このため,科学技術情報に対する需要の動向,性質,形態も急激に変化してきている。また,情報処理技術の進歩,すなわち電子計算機と通信技術の発達は,需要に適合した的確な情報を提供することを可能にしつつある。

これらの状況に加えて,この2〜3年国際的な科学技術情報流通システム確立への動きが活発化している。科学技術情報の流通は,本質的に国際的なものであり,国際的な協力のもとに積極的に情報流通活動を行なう必要性が強まつてきた。このような情勢にかんがみ,今後ますます増大するであろう情報量と情報需要の多様化および情報流通の国際化に十分に対抗するために,従来欠けていた情報流通活動の有機的な関連性を考慮し,システム的に考えた流通体制を整備強化することが要請されるに至つた。昭和44年10月,科学技術会議は,諮問第4号「科学技術情報の流通に関する基本的方策について」に対する答申を行なつた。本答申のなかで重要な位置を占めている科学技術情報の全国的流通システム(NIST)の構想は,各種情報機関および機能を個々に整備するだけでなく,これらを有機的に結合させ,効率のよい流通システムとなりうるように全国的なネットワークによつて結びつける考え方に立つている。

このNISTの構想全体を実現させるためには,多くの時間と費用を必要とするが,その具体化を効率的かつ確実に行なうために,この答申では,とくに次の点について十分配慮しなければならないことが指摘されている。

1) 国は,科学技術情報流通に関する長期的基本方策の策定,各種センターに対する育成,情報流通に関する制度上の整備等,多くの努力を払う必要がある。そのため,まず一元的に科学技術情報流通の促進を担当する行政機関を整備する必要がある。
2) NIST構想を実現するためには,政府関係機関はもとより,産業界,学会の緊密な協力が必要であり,この三者よりなる統一的な推進体制を整備し,必要な施策を強力に実施すべきである。また,構想の具体化に必要な種々の基礎資料の調査,分析を早急に実施しなければならない。
3) 一般に科学技術情報流通は,国際的協力のもとに行なわれるべきであるので,国際的情報流通システムとの十分な協力体制を整える必要がある。
4) 科学技術情報流通システムの主要な担い手となる高度な科学技術情報従事者の確保を図らなければならない。そのため,研修機能の充実,高等教育機関の整備,情報従事者に対する適正な処遇,地位の向上等の措置を図る必要がある。
5) NISTを効率的に運営するために必要な情報処理技術のうち,開発すべきテーマについて,重点的に研究開発すべきであり,そのための体制を早急に整える必要がある。

(3) 特許制度の整備

開放経済体制への本格的な移行に伴い,技術開発の成果を保護する工業所有権制度の役割は,重要度を増している。とくに近年における技術開発の進展の速度の著しい増大からみて,発明等が工業所有権制度により適正かつ迅速に保護されなければならない必要性は,国民経済的な立場からますます高まりつつある。

一方,最近における出願の激増とその内容の高度化,複雑化によつて未処理案件が累積し(昭和42年度末特許27万件,実用新案33万件,計60万件,昭和43年度末特許31万件,実用新案37万件,計68万件),要処理期間も拡大しており(昭和42年度末4年7か月,昭和43年度末4年8か月),しかも審査が終了して公表されるまでは発明等の内容は秘密にされているので,企業活動に幾多の不安と研究開発の重複,研究投資の無駄が生じる(ある研究課題について企業がかける期間は,平均2年程度なので,審査の要処理期間が4年を越えるということは,研究内容と同種の特許についてみれば,審査中に研究が終了することになる。)等制度の機能を著しく減殺している。

このような審査の処理の遅延と,未処理滞貨の累積は,審査主義をとる諸外国においても共通の悩みとなつており,多くの国において出願の早期公開および審査請求制度の制定等制度の改正が行なわれている。わが国においても,政府は,このような事態を改善し,工業所有権制度を新しい時代に適応したものにするために,制度の抜本的改正と特許行政の充実の方向で法改正が検討されている。

また,国の特許管理について国立試験研究機関の実態を通じてみると,多くの機関ではその必要性を認めながらも,特許管理体制はきわめて弱体であり,専任あるいは併任の特許係をおいている機関は全体の32%(調査対象81機関中26機関)であり,しかも発明考案の発掘およびその効果的権利化を円滑に推進するための有能な特許専門家の必要性を認めながらも,そのような者が存在する機関はわずか8機関にすぎず,研究者が申請書類の作成等の権利化までの事務のほとんどを行なつている機関が相当数あり,研究活動の障害となつている。国立試験研究機関の研究管理体制についてその充実の必要性が増大している折から,特許管理体制の強化についてもあわせ検討する必要があろう。


(4) 標準化の推進

標準化は,製品に関する技術的事項について基準を定め,これを統一または単純化することにより,生産能率の増進,品質の向上,互換性の向上,資材の節約等生産,流通,消費の合理化を図ることを目的としており,国民経済を健全に発展させ新技術の円滑な普及と技術水準の向上を図る上で欠かすことのできない基礎的条件といえる。

標準化事業は,工業標準化法および農林物資規格法に基づいて規格の制定(日本工業規格JIS,日本農林規格JAS)とJIS,JASマーク表示制度の運用を中心にその推進が図られ,JISについては,昭和43年度末までに約8,000規格,JASについては,約500規格が制定され,新技術の普及,技術水準の向上などに寄与してきた。とくに分析,計測技術に関する規格は,研究開発の効率化に大きく寄与してきた。

しかし,最近における全般的技術水準の向上と技術の多様化,新産業の発展,国民生活向上と生活環境改善への欲求の高まり,経済の国際化の進展等の環境変化は標準化事業の進め方について新たな課題を投げかけてきている。すなわち,急速な技術の進歩は,多様な新製品を生みだしているなかにあつて,国民生活の一層の充実を図るためには,多様化に応じた規格の整備や,JIS,JASマーク表示制度等による消費者保護の徹底等が要請されている。また,経済活動の国際化は,産業の国際競争力の一層の強化,海外市場の拡大等の必要性を増大させており,これらに資するため,JIS,JASの国際規格との調整を図るべきことが強く叫ばれている。

かかる情勢に対処して,基礎的調査研究を拡充強化して規格の制定,改正を一段と強化するとともに,国際標準化活動に積極的に参加し,わが国の規格の国際性を確保することが望まれる。

以上のように,社会,経済の飛躍的発展を図るため,科学技術の振興は最も重要な要件になつており,多くの重要な課題が山積しているが,これらの課題について,国の総力を結集して解決にあたるならば真に豊かな社会を創造することも可能であろう。


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