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第1部   科学技術発展の展望
第6章  科学技術の効率的振興
3  科学技術の効率的振興
(1)  研究開発の推進


研究開発面での国の役割は,国自らが行なう研究開発活動の推進,民間企業等で行なう研究開発の促進などが考えられる。


(1) 政府自らが行なう研究開発

科学技術会議が昭和41年に発表した「科学技術振興の総合的基本方策に関する意見書」では,研究活動の総合的組織的推進の必要性を説いている。これによると,1)主として学術上の要請に基づいて行なわれる研究のうち,総合的組織的な見地からその育成のための計画(育成型計画)を策定し,実施するものとして,宇宙科学,生物科学,情報科学等13課題をあげ,2)主として国家的社会的諸要請に基づいて行なわれる研究のうち,国が一定の目標を設定し,総合的組織的な見地からその促進のための計画(促進型計画)を策定し,実施するものとして宇宙開発技術,原子力開発利用技術,公害の影響調査技術と防止技術等102課題をあげている。この意見書では,これら課題の具体的な計画,明確な研究の目標が示されていないが,これについては,科学技術振興において基本となる法律の制定とあいまつて策定されることが要請されている。

第1-70図 国立試験研究機関における研究費の 配分状況(昭和43年度)

したがつて,山積している課題を早急に解決するには,科学技術振興における国の基本的方針を明らかにした法律の整備と現代の社会・経済からの要請および科学技術自体からの期待にこたえた総合的な新計画を策定し,その効率的推進を図ることが緊急な要件といえよう。

ちなみに,国立試験研究機関で実施している研究課題別の研究費の配分を示したのが 第1-70図 であるが,このうち上述の意見書の課題に該当するものは,2,270件(国立試験研究機関の全課題の30.4%)となつている。


(a) 国が主体となつて推進すべきプロジェクトの選定

最近,主要国における新しい動きとして,経済,社会の発展計画など国家の総合的な将来計画に科学技術計画をくみ込み,科学技術の振興を重要な政策課題としてかかげていることが多い (第1-41表参照) 。そして,このような計画のなかに技術開発の重点分野あるいは課題が選定されていることである。これは最近のように技術開発のための費用,人員,設備などが,大規模化すると,一つの国が技術開発のすべての分野にわたつて,一流の水準を維持することが困難になり,とりわけヨーロツパ諸国やカナダの場合,アメリカに対抗するために,限られた技術開発能力を多くの分野に分散させて研究開発を行なうよりも,その国がとくに重要と認める分野の研究開発を重点的に行なう方が効率的であると判断したからであろう。そして,フランス,西ドイツ,イギリスなどの国は,重点主義の方針をかなりはつきりさせている。もちろん,重点的に研究を遂行するからといつて重点課題以外は研究をしないというのではなく,重点的課題の選定は,課題間の優先度を示していることに留意する必要があろう。

たとえば,イギリスの原子力,電子計算機,オートメーションなど,フランスの原子力,宇宙,海洋,電子計算機,都市計画など,西ドイツの原子力,宇宙,海洋,環境工学,情報処理などがそれである。これらの重点項目の選定基準は,確立しているわけではないようであるが,個々の項目の選定理由として,その技術の波及効果の大きさのほかに,国家の安全,国家の経済発展に占める重要性,将来の発展の可能性などがあげられている。

また最近の傾向として,大きな経済的技術的波及効果をもつと予想される部門において,社会開発関係の技術開発の大規模なプロジェクトを推進する傾向が諸外国においてあらわれ始めている。たとえば,OECDやEECにおいては,このようなプロジェクトの例として,情報処理,交通輸送の合理

第1-41表 諸外国における科学技術計画


化,都市化対策,公害対策などに関するプロジェクトを提案しているし,西ドイツ,フランスなどでも公共投資の性格をもつ社会的課題に対する研究開発を,国家が推進することの重要性を指摘している。また,アメリカにおいても,宇宙開発に代わるプロジェクトとして,社会開発に関するものが検討されている。

以上のような諸外国の動き,第3〜5章において明らかにされた多数の国家的課題を考慮すると,わが国は,現在,社会開発の推進,経済の効率的発展および新分野の開拓と科学技術水準の向上を目標に,わが国の国情に合つた研究分野あるいは研究課題を選定するとともに,具体的な研究開発目標を定め,国の総力を結集して科学技術を効率的に振興すべき重要な時期に到達しているといえよう。


(b) 研究開発の効率的推進

研究開発を総合的効率的に推進するには(1)でも述べたように,研究分野,研究開発の目標を明らかにした計画を策定し,それを推進することがまず第1に必要であるとされており,科学技術会議等において強調されてきたが,必ずしも満足すべき状態にあるとはいえない。原子力開発,宇宙開発,大型プロジェクト等の特定プロジェクトについては,研究分野を明らかにした長期計画が策定されているが,国立試験研究機関を例にあげてみれば,一部の研究分野について長期計画を策定しているものも含めると,長期計画を策定しているところは全体の84%であるが,全体の研究について策定している機関は約半数で満足すべき状態にあるとはいいがたい。このことは,国全体の研究開発計画が明確になつていないことにも原因があると考えられるので,早急に国家の目標に沿い,国としてなすべき重要課題を示し,かつ,その目標を明らかにした科学技術の具体的,総合的な長期計画を策定することが重要であると考えられる。なお,この場合,技術予測,システム分析などを実施し,計画の適正化を図るとともに,いわゆる社会開発と経済発展との間のバランスをとることにも十分な配慮を払うことが肝要であろう。

第2に,研究開発の総合的,流動的な組織の確立と,集中的な資金配分を行なうことが必要となつていることである。わが国においては,各機関間の研究費の流れが少なく,研究費の負担者がそのまま研究の実施者になつている場合が多い。国の研究についてみると,最近,原子力開発,宇宙開発,大型プロジェクトなどの研究開発プロジェクトの充実によつて,民間企業等の力を活用するための費用はふえているが,なおこれらの費用の科学技術関係予算に占める割合は小さく,国の研究の実施にあたつて外部の能力を活用するという面ではまだ十分とはいいがたい状況にある。また,研究を総合的に調整するための予算およびその運用等についても強化すべき多くの問題が残されていることである。ちなみに,国立試験研究機関の研究を総合的に調整している予算は,昭和44年度で,国立試験研究機関の全経費(経常研究費と特別研究費の合計)の7.4%となつている。一方,研究組織をみると,ほとんどの機関は,伝統的な組織のもとに研究を行なつており,研究プロジェクトごとに流動的に研究チームが組織されているところは数機関にすぎず,流動的な研究組織の確立という面で満足すべき状態にあるとはいいがたい。

今後は,一定のプロジェクトが選定されたならば,それにふさわしい資金と人材とを集中的に投入し,研究委託制度の活用等を図り,そのプロジエクトに即した研究体制を設定し,プロジェクトが終了したときは解散する等,資金の集中的配分,流動的な研究組織の確立が必要と考えられる。

第3に,研究の評価体制を確立し,研究の管理評価を十分に行なうことが必要となつていることである。従来,国の研究開発においては,研究の管理,評価が必ずしも十分に行なわれているとはいえなかつた。この点に関し,昭和43年に科学技術会議は,「国として推進すべき研究に関する国公立試験研究機関,大学,産業界の連携方策に関する意見書」を提出したが,そのなかで「総合的組織的研究」の評価にあたつては,研究の進展について客観的な判断により総合的な研究評価を実施させるため,第三者による評価組織を設置することの必要性が強調されている。最近,原子力開発,宇宙開発,大型プロジェクト等の大規模プロジェクトについては,評価組織が確立されている。

しかし,国立試験研究機関においては,研究管理規定等研究の管理,評価に関する規定が整備されていないところがまだ残つていること,長期計画の策定等にあたつて行政機関,産業界,学界などの代表の意見を反映させる場をもつている機関は全体の4分の1程度にとどまつていること,また,研究課題選定にあたつての評価,研究進行状況のチェック,研究終了後の評価など研究評価について科学的評価法が確立されていないことなどもあつて十分実施されていないことなど,研究活動の効率化という面で必ずしも満足のいく状態ではないといえる。

したがつて,これらの点を考慮しつつ,望ましい評価体制の確立と評価方法の導入を図ることが重要な課題といえよう。

第4に研究活動の共同化である。

近年の研究開発の大規模化,細分化,深化に伴い,研究開発の共同化の必要性が科学技術会議等において強調されてきた。アメリカのプロジェクト開発は,国防プロジェクト,宇宙開発プロジェクトなどの例にみられるように,政府,産業界,大学の三者連合という新しい開発パターンを形成しており,これがビッグ・プロジェクトの効率的推進の必要条件となつている。

最近,わが国においても原子力開発,宇宙開発,大型プロジェクト等の開発にあたつて,産,官,学の共同研究が行なわれてきているが,全体としてはなお十分とはいえない状況にある。ちなみに国立試験研究機関(81機関)が昭和41〜43年度において行なつた委託研究は,28機関(全体の35%)で,その課題数は183課題(全課題の2.0%)であつた。共同研究は38機関(47%)で行なわれ,その課題数は320課題(4.3%)となつている。

また,国際共同研究については,基礎的な学術分野における研究,あるいは応用研究の分野などにおいて行なわれているが,活発であるとはいいがたい。ちなみに国立試験研究機関(81機関)における昭和43年度の研究課題のうち国際共同研究課題は,112課題(全体の1.5%)で,それを行なつている機関は26機関(全体の32%)となつている。

以上のように国が現在行なつている研究については,国内,国外をとわず研究活動の共同化が十分に行なわれているとはいえない。研究開発の効率化という観点からこの種の研究活動の共同化が円滑に推進されるよう適切な対策が講じられることが望まれる。とくに,委託制度,研究成果の帰属問題等については,十分に検討する必要があると考えられる。なお,国際共同研究開発については,最近,ヨーロツパ諸国における共同研究においては経費の負担等で問題が生じ,必ずしも円滑に行なわれていない面もあるので,わが国としてはその限界を見極め慎重に対処することが肝要であろう。


(2) 民間企業等の研究開発の推進

わが国の研究開発は,前に述べたとおり,研究投資からみて,その70%が民間企業で行なわれているので,民間企業における研究を促進するための方策を充実させることが重要である。とくに経済の発展という面においては,民間の責任において実施すべきものが多く,また技術開発という面でみるかぎりにおいては,たとえ国家的課題であつても実用化という最終段階においてはその多くは民間企業の手にゆだねざるをえないので,民間企業の技術開発力の培養いかんが国全体の科学技術の振興に大きな影響を及ぼすことになるといえる。

わが国の企業は,前に述べたとおり,従来は導入技術の消化,吸収,改良といつた面を主体にして,水準を高めていたために,自主技術開発力という点ではなお欧米先進国とは格差があり,自主技術開発力の強化が重要な課題になつている。

この点に関して,科学技術会議等においてその必要性が強調され,昭和42年度には増加試験研究費の税額控除制度が創設される等,民間企業の研究開発が促進されてきた。そして,43年度には民間企業の研究費は5,000億円に達し,前年度対比で33%の著しい増加をみせている。しかし,まだ世界の主要企業に比べ自主技術開発力,あるいは研究努力水準 (第1-71図参照) という点ではなお見劣りがするので,政府は民間の研究が国全体として望ましい方向に発展するよう,研究開発補助金の重点的配分,民間における研究費の負担ないしは研究開発のリスクの軽減を図るため,税制上の優遇措置の強化,中小企業等の技術振興を促進するための国公立研究機関の整備,拡充などを図り,民間企業の研究開発を促進ないし誘導するとともに,国家的プロジェクトの研究開発に積極的な参加を求めることが必要であると考えられる。また,研究成果の実用化を促進するため融資制度等の拡充を図ることも肝要であろう。

第1-71図 主要国の研究費の対売上高比率


(3) 研究成果の実用化の促進

OECDの技術格差の論議においては,欧州および日本と米国との格差は,技術開発力の差,とくに研究開発の成果を実用化する力の差に本質的な問題があるとしている。わが国においては,研究成果が円滑に実用化され普及するように新技術の企業化融資,国有特許権の委託開発等の措置が講じられ,民間企業の研究成果は比較的円滑に実用化されるようになつてきている。科学技術庁調査「企業の研究活動に関する調査(43年度)」によると,保有特許権の38%が実用化されている。しかし,わが国企業は,従来,外国技術の導入には熱心であつたが,国内の優秀技術の有効活用あるいは未工業化技術の発掘という点では十分ではなかつたように思われる。最近,導入技術と国産技術とが競合する場合は昭和41年度の44%から43年度の69%と急増しており,国内にも優秀な技術が育成されていることを物語つているとみてもよいと思われるので,より一層国内技術の有効活用を図る必要があろう。

一方,公共部門の研究成果については,基礎的研究が多いこともあつて,その成果は必ずしも実用化されるとは限らないが,研究成果が実用化されない理由のなかには,技術の陳腐化,研究の不足など技術に関するものが多く含まれている。また,国立試験研究機関において研究が終了した研究課題のうちでその成果が直接行政部門あるいは民間企業等で活用されているものは,約50%となつている。

したがつて,社会・経済の要請を適確に把握し,研究開発を実施するとともに時機を失することなく研究成果を実用化に結びつける等,研究成果の活用率を高める努力を払うことが望まれる。とくに,民間企業の経済的ベースにのりがたいものが多い社会開発関連技術の実用化には,特別な配慮を払う必要があろう。

その方策としては,新技術企業化に対する融資制度,新技術の委託開発制度の拡充等が考えられる。

また,イギリスでは「新製品買上げ予約(Preproduction Order)制度」を設け,新製品開発にあたつて政府があらかじめ購入することを約束する上に,買い上げた製品を別の使用者に有利な条件で売り渡すか貸与して利用させ,その部門での新製品への関心を刺激するという方策をとつている。わが国においても,すでに,機械関係には,機械振興資金による新機械普及促進事業があるが,さらにこのような制度について検討を加えることが必要であろう。

最近,アメリカ,イギリスなどにおいて,注目すべきことは,新技術を社会に導入するにあたつて,あらかじめその新技術が社会の各方面に及ぼす影響を十分に評価し,社会への悪影響が予測される場合には,それを除去するために事前の対策を講じようとする動きがあることである。これについては,わが国においても評価方法,評価体制などを早急に検討することが重要であると考えられる。


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